『会えないとき』(2-775氏)

「今日のライブ・・・すごかったですねぇ、シェリルさん。」
放心状態のランカが、お風呂上がりのパジャマ姿で、窓の外を眺めながらそんなことを言うと、
シェリルは窓に映る自分に微笑みを映して返し、ベッドに腰掛けた。

シェリル&ランカの超銀河横断マクロスピードライブ、最終日最終公演。
そのせいもあってか、今日のライブは本当にすごかった。
異様な熱気と声の津波。
それに負けず劣らない、2人の歌姫たちの歌とパフォーマンス。
それに呼応するべくボルテージも最大限に上がっていき、今日のライブは後々、歴史に残るほどのライブだった。
歌い終え、挨拶や軽い打ち上げも済んで、ホテルの部屋に戻った頃には、とっくに次の日になっていて。
2人に用意されていたのは1つの部屋。
「デカルチャー!!!すみません、2人とも。部屋が手違いでダブルの1室になっちゃってまして・・・」
申し訳なさそうなエルモに対して、シェリルとランカは顔を見合わせ、嬉しそうに笑いあった。
もともと、別々の部屋だったならどちらかの部屋で一緒に過ごそうと思っていたから。
エルモには笑って気にしないように伝えて、キーカードを預かると、2人は仲良く部屋に向かった。
疲れきった体で、互いに体重を預け合うようにして部屋に入った2人は、そのまま豪華なソファに座り込む。
しばらく静かな時間が過ぎて、どちらともなく微笑み合うと、じゃれあうようにキスを交わす。
それが合図になって、シェリルとランカは心地いい疲れと一緒に浴室に向かう。
広めの浴室で一緒にお風呂タイムを過ごし、そして今現在の状況に至っていた。

「ずーっと・・・シェリルさんと一緒にライブできたら・・・いいのになぁ・・・」

ランカがポロリと零した願望に、シェリルは目を丸くする。
ランカは自分が何を言ったのか気づいてないようで、窓にコツンと頭をくっつけていた。

それぞれに仕事があるのは当たり前。
ランカとシェリルは銀河中の人気の歌姫だ。
それぞれに人気が高く、忙しい毎日に別に文句があるわけではないだろう。
それは自分の望んだ日々だから。
歌をみんなに届けたい。
その明確な意志を持って、ランカもこの大きなステージに上がってきた。
シェリルにだって、プロとしての心意気をその姿を持って教えてもらい、
ランカなりに公私は分けているつもりだ。
それはシェリルにもわかっている。
けれど、実際の本音が今の言葉なのだろう、そう思うとシェリルの顔に笑みが浮かぶ。

(ランカちゃんは、ほんとにかわいいわね。)

ちょうど、この銀河横断ツアーを共演することになったということが2人の耳に届いた時は、
すれ違いの毎日だったことを思い出すシェリル。
互いのオフは合わず、顔を合わせても挨拶と軽いキスだけで終わってしまい、
触れあうことすら叶わなかった。
収録が同じになったところで、シェリルとランカが仲良くイチャイチャできるはずもなく。
いつかの共演番組では、他の共演者の中のお調子者の男性歌手がシェリルに触れたりしながらしゃべるのを
出番を終えたランカがもの凄い形相で後ろの席から睨んでいたことを思い出す。

(ああ、あの時はおもしろかったわね。オンエアでも不機嫌なのが少しわかるくらいだったもの。)

クスッと笑ったシェリルに気づいたランカが振り返って、小首を傾げる。
そんなランカに、笑みだけ返して、何でもないと視線で告げると、ふにゃっと笑ったランカは、
再び視線を窓の外に移して、「一緒がいいなぁ」と呟いていた。


(そうそう、その収録の時・・・)

出番を終えて、座ったのはランカの隣。
たぶん、ディレクターの2大歌姫共演の売りも考慮しての配置だろう。
「ランカちゃん・・・顔。」
カメラが向けられているのがわかっているシェリルは、仲睦まじい姿を見せるべく、
ランカを誘惑するような素振りで耳元に囁く。
「へ?」
慌てたランカのかわいらしさも計算してのシェリルの行動だった。
「顔、変な顔になってるわよ。」
「だって・・・」
不服そうに俯くも、その目はだけはいまだに男を睨んでいる。
その姿に苦笑を漏らすシェリル。
プロなんだからと言いながらも、ランカのその気持ちが嬉しいのは確か。
だがしかし、その嬉しい感情を表に出さないのはシェリルのプロとしての意識。
どうしようかと思っていたシェリルの手に温かな感触が触れる。
一瞬、何かと思ったが、それがランカの手だとわかると、シェリルはその手をつなぎ、
そしてカメラの死角で指を絡めた。
それが嬉しかったのか、シュンとしていたランカの緑の髪が立ち上がる。
わかりやすいその感情に、シェリルは堪らなくなって俯いて笑った。
そして、ランカは小さく、本当に小さくシェリルにだけ届く声で囁いた。

「シェリルさんは・・・私のなんです。」

自分の顔が熱くなって行くのがわかるシェリル。
緩み出そうとする頬をなんとか抑えて、そのままいつもと変わらぬシェリルの表情を保ちながら、
絡めた指に力をこめた。

そんなことを思い出しながら、ランカの背を見つめていたシェリルは、
目を閉じて口元に笑みを浮かべると歌いはじめた。


『会えないときこれを聴いて わたしだけのものって歌わせて』

ランカがその声にハッとして振り返る。
口ずさんでいるだけなのに、それはとても綺麗な歌声で。
ライブと何ら変わりないその歌声と、こちらを見て微笑んでくれたシェリルに、真っ赤になるランカ。
そんなランカを招くように、自分の腰掛けたベッドの隣をポンポンと叩きながら、歌を続けるシェリル。

『そばにいると言えないから』

誘われるように、ふらふらとした足取りでシェリルの元に行き、
叩かれたその場所にシェリルを見つめながら腰掛けるランカ。
そんなランカに微笑んだまま軽く口づけるシェリル。
それだけで、ランカの顔はさらに真っ赤に染まった。

『その甘いkissわたしのもの』

絶妙のタイミング。
ここしかないようなタイミングを計って、シェリルは歌を口ずさみ続ける。
ランカは触れられた唇に手を当てて、シェリルを熱に浮かされたような表情で見つめる。

『たいせつだから 時々イジワルをしたくなるの』

そんな歌詞を茶目っ気タップリに歌われてしまったら、誰だって敵わない。
シェリルのいつもとは違うかわいらしい一面。
それを、シェリルは今、ランカにだけ見せていた。
悪戯っぽい笑みに息をすることさえ忘れ、シェリルから目を離せないランカ。

『いろんなことして』
『いろんなとこ触って』

ランカの耳に口元を寄せて、囁くように歌うと、ランカの心臓はもう爆発寸前になる。
シェリルはランカのピョコピョコと動く髪を優しく撫でて、あいたもう片方の手で、ランカの頬や唇、
首筋、そして胸元辺りに柔らかく触れていく。
やがて髪を撫でていた手がランカの弱点の一つである背を撫で上げ、
もう片方の手でランカの手を取ると自ら自分の胸元に導く。
触れたその胸の柔らかさに、甘い吐息を漏らすランカ。
そんなランカを見て、悪戯な笑みをうかべたままのシェリルはその耳に息を吹きかけた。
体中がゾワゾワと震えるその感じに真っ赤になってシェリルから離れるランカ。
そんなランカにクスクス笑って見せ、シェリルはランカの頬に手を伸ばした。

『困るところ もっと見たいナ』

微笑んでそんなことを言われたら、いや、歌われてしまったら、もうランカにはどうすることもできない。
胸の内に湧き上がる想いに、どうしたらいいのかわからない。
何も考えられず、ただ気持ちが高揚するのを感じるランカ。
そこにあるのは、目の前にいるこの美しくて、かっこよくて、綺麗で、
そしてかわいいシェリルという存在が“大好き”だという、とてもとても強い気持ち。
ランカは頬に触れられた手に、愛しそうに頬を擦りつける。
そんなかわいらしいランカの姿に、シェリルもただ微笑んで、愛しい気持ちを歌にのせる。

『どうしよう離れたくなーーーい』

もう本当に堪らなくなったランカは、シェリルの腰に抱きついた。
歌は聴いていたいけれど、このままシェリルと触れあいたい。
そんなせめぎ合いの中で、ランカはシェリルのお腹辺りに顔を擦りつける。
そんなランカの頭を撫でながら、シェリルはランカの耳元に唇を寄せる。


『ランカちゃん アイシテル』

本当はすぐに言葉が続くのだけれど、シェリルはわざとそこで溜める。
自分の想いを伝えるように。
ランカの動きが止まり、ゆっくりと顔を上げたその表情は熱を帯びていて。
瞳が潤み、今にも涙が零れそうだ。
そんなランカに微笑んでシェリルは歌を続けた。

『って・・・・・・ もっと 言っとけばよかったナ』

額にキスを送り、ランカの脇に手を入れると、その体を起こそうとするシェリル。
それに逆らうことなどせずに、その身を起こすと、真正面からシェリルと向き合う形になるランカ。
ベッドに横座りして、二人して見つめ合う。
そして、シェリルは最後のフレーズをゆっくりと口ずさむ。

『大好きよ』

囁きかけるように言って、綺麗に微笑んでくれたシェリルに、ポーっと見惚れてしまうランカ。

『大好き・・・・・・ランカちゃん』

言われた時には、ランカはシェリルに飛びつき、押し倒していた。

「シェリルさん!!!シェリルさん!!!」
「感謝しなさい。こんなサービスめったに・・・ランカちゃんだけにしかしないんだから。」
胸に顔を擦りつけて名を呼ぶランカの髪を撫でながら、優しい笑みを浮かべてシェリルが言う。

やがて興奮が少し治まったランカが、シェリルの胸から顔をあげた。
視線が合うと互いに幸せそうに微笑み合う。
「シェリルさん・・・」
「なぁに?ランカちゃん。」
熱を帯びた声に呼ばれ笑顔でそう返すと、顔の横に両手をついてランカに見下ろされるシェリル。

「私も・・・私も、大好きです・・・シェリルさん・・・愛してます・・・」

恥ずかしそうに、でも幸せいっぱいな笑顔を浮かべて、そう言うランカ。
シェリルはそっとランカの頭に手をやると、その頭を引き寄せた。
引き寄せられるまま、ランカはシェリルの肩口に顔を埋める。

「知ってるわ、ランカちゃん。」

そう耳元に囁かれた声に幸せそうに微笑んで。
やっぱり嬉しくなったランカはシェリルの肩に顔を擦りつけた。
そんな犬みたいにかわいいランカの背を撫でながら、シェリルはその耳元に囁きかける。

「ねぇ、ランカちゃん。」

それは、悪戯天使の誘惑。

「いろんなことして。いろんなとこ触って。」

シェリルがわざと艶めいた声で甘くおねだりしてみせると、
ランカは真っ赤になりながらもそれに誘われるように、シェリルの唇に自らの唇を重ねていた。

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最終更新:2009年12月20日 15:10
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