戦いが終わって。
すれ違って、行き違って、間違って・・・
ほんとにいろんなことがあって・・・
そして、心を通わせあった私とシェリルさん。
悲しくてつらい日々を乗り越えて、結ばれた絆は確かなもので。
これは、そんなとある日の私とシェリルさんの出来事です。
『シェリルさんばっかりずるいです!!』
それは私が思わず口にしてしまった言葉。
シェリルさんはいつも私の主導権を握る。
惚れた弱みと言われればそれまでだけど、たとえペットだってたまにはご主人様に逆らいたくなる時だってあるのだ。
そんな思いが募って言ってしまった言葉。
だって、シェリルさんたら、いっつも私のことイジメて楽しんでるんだもん。
自分の弱いところなんて絶対見せようとしないくせに、私の弱いところは遠慮なく探し当てて、責めてくる。
この前なんて、泣くまで許してくれなかったんだよ!!!
『ちゃんと言わないとわからないわ、ランカちゃん。』
なんて言って微笑む姿は、まさに女王様だったんだから。
思わず私の脳裏に「ユニバーサル・バニー」が流れ出して。
黒ウサギシェリルさんの姿を思い出しちゃった。
そんな姿を思い出してしまったら、私が逆らうなんてことは絶対無理で・・・
結局はシェリルさんの言うとおりにしちゃったんだぁ。
『・・・シェリルさんが・・・ほしいです・・・もっと・・・かわいがって下さい・・・』
今、思い出しただけでも顔から火が出るくらい恥ずかしいよぉー・・・
でもね、それを聞いた時、シェリルさんの顔が一瞬、キョトンとしたの。
あの時のシェリルさんはすごくかわいらしかったなぁ。
見たこともないような可愛らしい顔だったんだよ!!!
きょとん・・・って!!!
あの顔は、絶対私しか知らないと思うんだ。
他の誰かが知ってたら、すごく嫌だなぁ・・・。
『・・・ランカちゃんてほんとにかわいいわよね・・・羨ましいわ・・・』
そう言って微笑んでくれたシェリルさんの笑顔がとても優しくて。
涙を流す私の両方の瞳にキスをくれると、そのまま耳元で囁いてくれたの。
『ちゃんと言えたから、ご褒美をあげないとね、ランカ。』
なんて、シェリルさんの少し低めの声で言われちゃったら、もうどうにかなるしかないよね?!
私、これでもかっていうくらいシェリルさんに抱きつこうとして・・・
そしたら、シェリルさんは余裕の笑みを浮かべたまま、私の触れて欲しかった部分に、触れてくれたの。
ずっと焦らされてたから、少し触れられただけで声が出ちゃって。
涙も溢れちゃって。
でも、シェリルさんが触れてくれたことが嬉しくって。
抑えられない声を上げて、シェリルさんに伸ばした手はそのままベッドに落ちて、変わりにシーツをこれでもかっていうくらいきつく握りしめてたんだ。
抑えようとしても漏れる声が恥ずかしくて、なんとかしようとして、口に腕をあてたら、やんわりとそれを、シェリルさんに止められて。
『声、別に出してもかまわないでしょう?2人だけなんだし。』
言われたことに、私が大きく首を横に振ったら、可愛らしく首を傾げられたんだ。
だから、私、必死で答えたんだよ。
“恥ずかしいから、嫌”って。
そしたらシェリルさん、クスッて笑って私のこと抱きしめてくれたの。
『あたしは聞きたいけどなぁ。ランカちゃんの歌声。でも、どうしても恥ずかしいなら・・・』
シェリルさんが髪を撫でながら、耳元で囁いてくれた言葉に、私、真っ赤になっちゃって・・・
『あたしの唇で塞いであげる。』
『ふぇ?』
情けない声を上げた私の唇に、シェリルさんの柔らかい唇が重なって・・・
唇に当てようとしてやんわりと払いのけられた手は、そのままシェリルさんの手に捕まって指を絡まされて、強く握られた。
シェリルさんのもう片方の手は私の弱い部分に触れていて・・・
私のもう片方の手は、ぎゅっとシーツを掴んだままで・・・
上がる声も、跳ねる体も押さえ込まれて・・・
そしたら、何がなんだかわからなくなって・・・
気づいたらいつも、シェリルさんが与えてくれる快感に溺れちゃってて・・・
『ランカちゃんかわいい。こんな姿、私の前でしか見せちゃダメよ。』
って言われるんだけど・・・
シェリルさん以外の前でなんて、こんな姿、絶対見せらんないよぉ。
絶対、そのことをわかっててそんなこと言うんだもん。
ほんとにシェリルさんて、意地悪なんだから!!!
『・・・はひ・・・シェリルしゃん・・・』
なんて、呂律の回らない口で答えたら、シェリルさんはその魅力的過ぎる笑みをくれて。
『約束ね。破ったら、きつい“おしおき”だからね、ランカ。』
なんて言うんだよ。
あんな笑顔で、そんなことを言われてしまったら、
約束は絶対破らないけど・・・
ついつい “おしおき”されちゃいたくなっちゃう自分がいて・・・
そのことわかっててやってるんだよね・・・シェリルさん・・・
ほんとに、たちが悪いんだから・・・
でも、そんなところも“大好き”なんだけど・・・
だけどね。
『たまには、私だってシェリルさんを気持ちよくしてあげたいですっ!!!』
って、突然言ったことに、シェリルさん目をパチクリさせて。
かわいかったなぁ。
鳩が豆鉄砲くらったような顔ってあんな感じなのかな?
そしたら、シェリルさんの笑顔が急に何かを思いついたみたいに楽しそうなものに変わって。
『じゃあ、今日はランカちゃんに甘えていいの?』
なんて、無邪気な笑顔の甘えた声でそんなことを言ってきたんだよ!!!
私の脳裏にまた「ユニバーサル・バニー」が流れ出して。
今度は白ウサギシェリルさんが現れたの!!!
いつもみたいな女王様なところなんてどこにもなくて。
ただ甘える子どもみたいなシェリルさんの破壊力といったらないよ!!!
アルトくんっ!!!
『じゃあ、遠慮なく甘えちゃおうかしら・・・ランカちゃん!!』
ぎゅっと抱きついてきてくれたシェリルさんをしっかりと抱きしめて。
そのふわふわの髪に顔を埋めて深く息を吸い込んだ。
同じシャンプーを使っているはずなのに、シェリルさんの方が断然いい匂いがする。
『シェリルさぁん・・・』
思わず漏れ出た私の甘えた声に、シェリルさんはクスッと笑って。
それから、私の控えめな胸に顔を埋めると、シェリルさんが上目遣いでこっちを見てきたの!!!
――― !!!!!???
わかるよね?
この時、私、死んでもいいってほんとに思ったよ!!!
シェリルさんの上目遣い、本当にかわいいんだから!!!
限界超えて昇天1000%だよ!!!
絶対、他の子になんて見せたくないけど、見て欲しい!!!
でも、絶対見せないけどっ!!!
『ランカちゃん、優しくしてね。』
なんて、甘えた声でシェリルさんがっ!!!
白ウサギシェリルさんがおねだりしてくるからッ!!!
そんなお願いされたら聞くしかないよねっ!!!
『シェリルさんっ!!!!!』
叫ぶようにその名を呼んで、気づいたらシェリルさんを押し倒してたの。
それからは、もう・・・
シェリルさんのかわいいおねだりに応えるべく、ランカ・リー頑張りました!!!
あんなかわいいシェリルさん見たことなくて・・・
ちょっと、シェリルさんが自分をイジメたくなる理由がわかった気がしたよ。
シェリルさん・・・すっごいかわいいのっ!!!
ほんとにかわいいんだからっ!!!!!
気持ちよくって泣いちゃったり、“もっと”ってその口で言わせてみたり・・・
ちょっと、何かに目覚めちゃって、シェリルさんのことだいぶイジメちゃいました。
ごめんなさい、シェリルさん。
でも、シェリルさんがかわい過ぎるのもいけないと思うんです。
うん、だからおあいこってことでいいですよね?
「ランカちゃんのバカ・・・優しくしてって言ったのに・・・」
って思ってたら、言われちゃいました。
こっちに背を向けて少し頬を膨らませた、ご機嫌斜めなシェリルさんに。
でも、そんな姿すらかわいくて。
思わず背中からぎゅっと抱きしめずにはいられなくて。
「そんなんじゃ誤魔化されないんだから・・・」
なんて、ぶつぶつ言いながらも、なんだかその声は嬉しそうで。
「ごめんなさぁい、シェリルさん。」
謝る私の声もぜんぜん悪いと思ってないような、嬉しそうな声になってしまって。
「絶対、許してあげない。」
なんて言うシェリルさんの声は笑っていたから、顔を覗き込んでみたら不意打ちでキスされちゃって。
真っ赤になった私に、シェリルさんは艶やかに微笑んでくれる。
「でも、今回だけは許してあげるわ。次やったら“おしおき”なんだからね。」
いつもの口調でそんなことを言って、そっぽを向くシェリルさん。
でも、髪からのぞく耳は赤くなっているのがわかった。
なんだかそんなやりとりがとても楽しくて、嬉しくて。
肩を揺らしてクスクスと笑っていたら、こっちを向いてくれたシェリルさんも同じように笑い出して。
視線が合うと二人して声を上げて笑いあった。
「シェリルさぁん・・・」
思わず呼んでしまったその声は、自分でもびっくりするような甘えた声で。
チラリと視線だけをシェリルさんに向けてみると、シェリルさんも驚いたように目を丸くしていた。
「ランカちゃん・・・誘ってるの?」
けど、直ぐさま悪戯な笑みを浮かべてそんなことを言われてしまって・・・
「ち、違いますっ!!!」
「違うの?」
可愛らしく小首を傾げて見せたその顔に、ちょっと残念そうな表情を浮かべるシェリルさん。
絶対、わかってやってる!!!
「ち、違わないけど・・・違うんです!!!」
よくわからない返事を返す私を見ながら、心底楽しそうに微笑んでいるシェリルさん。
あれ?
今日の主導権は私にあったはずなのに・・・あれ?あれ?
「ランカちゃんて、本当にいつもかわいくておもしろいわね。見てて飽きないわ。」
私の頬に触れてシェリルさんがそう言ってくれる。
目の前には、さっきまでの悪戯な笑みじゃない、優しくて暖かくて、少し憂いを帯びたようなそんな笑みがあった。
そんな笑顔を見ると、私はいつも幸せなのに心配になる。
シェリルさんは胸の内をあまり明かさない人だから。
ヴァジュラとの戦いが終結したあと。
シェリルさんのことを何も気づけないで、独りきりにしてしまった・・・
あの日のことを思い出すから・・・
あの戦いが終わって。
私やアルトくんには家族がいて。
傍にはシェリルさんもいて、毎日笑ってたから気づけなかった。
シェリルさんが本当に独りきりだったこと。
あんなに傍にいたのに、それだけで。
帰るところがある私たちは、シェリルさんのことなんてちっとも考えてなかった。
ギャラクシーも、家族も、信頼していたただ1人の人も失って・・・
シェリルさんには、帰るところがなかったこと。
そして、気づけた時には随分と長い間、シェリルさんのことを独りきりにしていたから・・・
だから、そんな笑顔を見た時には、ギュッとシェリルさんを抱きしめる。
絶対に逃がさないように。
“ひとり”じゃないってわかってもらえるように。
できるだけの力でシェリルさんを包み込むの。
「なぁに?ランカちゃん。痛いわよ。」
クスクス笑いながら私の髪を撫でてそう言うシェリルさん。
“痛い”なんて言いながら、ぜんぜん引き離そうとしないのは、シェリルさんもこうして欲しいってことですよね?
「シェリルさんの傍にいます。」
不意に呟いた言葉にシェリルさんの体がびくっと反応した。
顔を上げてシェリルさんを見て微笑むと、シェリルさんも微笑んでくれる。
「・・・ほんとに?」
「ずっと、ずっと、傍にいますから。」
「仕事中は無理でしょう?」
「うっ・・・仕事以外ではずっと傍にいます!!!」
「ランカちゃんを独り占め?それは嬉しいわね。」
からかうような口調でシェリルさんが言葉を続ける。
「でも、ダメよ。ちゃんとお家に帰らないと。ランカちゃんには家族がいるんだ・・・」
優しい笑みを浮かべながら私を嗜めようとする唇を、自分の唇で塞ぐ。
シェリルさんが驚いて目を見開いているのが見える。
お互いに目を開けたままのキスなんて、ちょっとルール違反だけど・・・
「・・・ちょっと黙って下さい・・・シェリルさん・・・」
笑みを浮かべてそう言うと、頬を薄くピンクに染めて視線を逸らすシェリルさん。
「ランカちゃんのくせに・・・生意気ね・・・」
いつもみたいな強気な言葉じゃなくて、かわいらしいシェリルさんの言い方に、更に頬が緩んだ。
「生意気でいいです。シェリルさん・・・」
そう言って、シェリルさんを体全体で抱きしめる。
「もちろん、ちゃんと家にも帰ります。友達とだって遊びます。仕事だってちゃんとします。でも・・・私が帰ってくるのはここですから。シェリルさんのところですから・・・。」
恥ずかしいけれど、ちゃんとわかってほしくて言葉にする。
「だから、シェリルさんもちゃんと・・・ちゃんと私のところに帰って来て下さい。シェリルさんの帰る場所は・・・ここですから。」
そう言って、シェリルさんのふわふわの髪をソッと撫でた。
そしたら、腕の中のシェリルさんがおずおずと背に手を回して、顔を胸に擦りつけてその身を私に預けてくれる。
「・・・うん・・・ランカちゃん・・・」
子どもみたいなシェリルさんのしぐさと声。
ほんとに、ほんとに、大切にしたい人。
両親も信頼してた人も亡くしてしまったシェリルさんに、
自分が独りきりだなんて二度と思わせないように・・・
私は、私の全てをもって、シェリルさんを幸せにしてみせますから。
だから、大丈夫です、シェリルさん。
「シェリルさん・・・大好き・・・」
ギュッと抱きしめてその耳に囁くと、シェリルさんが擽ったそうに肩を竦めた。
それがかわいくて、軽く息を吹きかけてみたら、笑いながら怒られた。
「もう・・・ランカちゃん。」
「えへへ・・・」
零れる笑みが止まらない私を見たシェリルさんも笑ってくれる。
「ランカちゃん・・・」
ソッと名を呼ばれたかと思ったら、シェリルさんの顔が近づいてきた。
いつ見ても綺麗だなぁ、なんて思いながらゆっくりと目を閉じる。
「・・・ありがとう・・・大好きよ・・・ランカちゃん・・・」
そんな言葉が聞こえたかと思うと、唇に柔らかな温もりが訪れた。
おわり
最終更新:2010年02月28日 15:18