『幸せバカップル生活』(3-68氏)

『幸せバカップル生活』


「シェリルさん・・・」
「なぁに?ランカちゃん。」
少し悪戯っぽい笑みを浮かべるシェリルに、ランカは抗議の眼差しを向ける。
「ゴーって言ってくれました。」
また“ステイ”と言われて、むぅっと膨れっ面になるランカに笑みを零した。
そして、かわいらしい膨れっ面の両目じりにキスを落とす。
「だってランカちゃん、服も脱がせてくれそうにないんだもの。」
ランカの耳を擽るようにそう言うと、シェリルはランカのTシャツに手をかける。

「はい、ランカちゃん、バンザーイ。」
「へ?あ、はい。」

言われるままにバンザイをするランカ。
「いいコね、ランカちゃん。」
素直なランカにそう言って、シェリルはランカのTシャツを脱がせる。
「あら、ランカちゃん。今日は“これ”、つけてきてくれたの?」
Tシャツの下から露わになった白の豪華なレースのブラジャーを指してシェリルが笑みを浮かべて言う。
それは、ランカがシェリルに見立ててもらって買ったものだった。
「はい。その・・・勝負下着ですっ!!!」
赤くなりながらそんなことを力強く言うランカに、シェリルは一瞬きょとんとして、それから笑う。
「なぁに?ランカちゃん。最初からその気だったってこと?イケナイ娘ね。」
からかうような口調でそう言って、シェリルはランカの小さな胸の谷間に唇を寄せた。
「ん・・・」
少し強く吸われて、ランカの口から甘い声が漏れる。
「イケナイ娘にはおしおき。」
顔を上げたシェリルが艶やかに笑ってそう言い、視線を下に落とす。
それを辿ってランカも視線を落とすと、そこには赤い小さな花が咲いていた。
ランカは頬を赤く染めながらも嬉しそうに微笑み、愛しそうにその痕に指で触れる。
「えへへ~」
ただのキスマークなのに心底幸せそうに微笑んでいるランカの姿に、シェリルは苦笑をもらしてその喉元をソッとさすった。
「ふぇ・・・えへへ~・・・」
幸せそうに頬を緩ませて、気持ちよさそうにするランカの姿を楽しむと、シェリルはその手を止める。
ランカが“もっと”と訴える視線に笑みで応えて、シェリルはランカの頭をポンポンと叩いた。

「次は、ランカちゃんの番。」
「え?」


不思議そうな顔をするランカにシェリルは悪戯な笑みを浮かべた。
「なぁに?脱がせてくれないの?」
少し甘えた声の上目遣いなシェリルがランカに向かってそう言うと、ランカはあっと言う間に顔を赤くして、肯定か否定かどちらをあらわしているのかわからないが、首をブンブンと上下に振った。
そんな必死でかわいらしい姿に堪えきれず、シェリルは肩を震わせて笑い出す。
「ふふふ・・・ランカちゃん・・・それってどっちなの?」
笑いに瞳を潤ませてシェリルが尋ねると、ランカが力強く答えた。

「脱がせますっ!!!」

あまりにも力強い言葉に、シェリルは一瞬驚きに身を固め、それから小悪魔みたいに微笑んだ。
「そう、じゃあ、お願い。」
「は、はい。」
若干、興奮気味のランカの頬に手を触れ撫でると、その耳に囁きかける。

「痛くしないでね、ランカちゃん。」



余裕たっぷりに、でも少しウブなかわいらしさをこめて。
いつものことながら、ランカはその術中に見事に嵌ってしまう。
「ひゃ、ひゃい、シェリルさん・・・」
緑の髪の犬耳をピンと立てたまま、上ずった声でそう返事を返すと、
ランカは一度喉を鳴らしてシェリルのTシャツに手をかけた。
「あんっ・・・」
悪戯に、シェリルが甘い声を漏らすと、ランカはその身をビクッと揺らし、Tシャツから手を離す。
「ご、ごめんなさい・・・」
別になんら悪いことなどしていないのに思わず謝って、
見えないシッポをシュンとさせ、自分の様子をうかがうランカがかわいらしくて、
愛おしくてたまらなくなる。
「冗談よ、ランカちゃん。」
優しい声音でそう言って、ランカの頭を撫でると、シェリルにだけ視えるシッポが、
ゆっくりとご主人の様子をうかがうように左右に振れだした。
“もう、ふざけません”という意味を込めて、シェリルが両手を上げると、ランカの顔が輝き出す。

「ステイはおしまい。ランカちゃん、ゴー。」
笑ってシェリルがそう言うと、ランカは嬉しそうに微笑んで、その手をもう一度Tシャツにかけた。

「い、いきますよ、シェリルさん。」
「ええ。」
「じゃ、じゃあ、シェリルさん・・・バンザイしてください。」

どこかしら恥ずかしそうに。
でも、その実、もの凄く嬉しそうにそう言うランカに従って、
シェリルがバンザイすると、ゆっくりとTシャツを脱がされる。
その下からあらわれたのは、ランカも羨むバストを包みこむ、豪華なレースの黒のブラジャー。
そう、それはランカとお揃いでシェリルが買ったものだった。

「シェリルさん・・・」
「勝負下着よ。なにか文句ある?ランカちゃん。」

ランカの言葉を真似て、シェリルが楽しそうに笑ってそう言うと、ランカの頬がだらしなく緩む。
「シェリルさんだって悪い娘です。」
「言うわね、ランカちゃん。それで、そんな悪い娘にはどうしてくれるのかしら?」
くすくす笑いながら、シェリルがそう言い、ランカの頬に唇を寄せる。
くすぐったさに肩を竦めるランカの見えないシッポが、嬉しさに大きく揺れ出す。



「そういう悪い娘には、おしおきです。」

お姉さんぶるようにそう言ったランカはシェリルに微笑むと、
その唇を大きな胸の谷間に寄せ、自分もされたようにソッと口づけて、
それから少し強く吸ってみせた。
「ん・・・」
シェリルの口から甘い声がもれると嬉しそうに微笑んで、
白い肌に咲いた小さな赤い花をぺろりとその舌で舐めた。
「ん・・・こら、私、それはしてないわよ、ランカちゃん。」
「サービスです、シェリルさん。」
にこやかにそう言って、ランカはシェリルを見上げた。
その瞳が“もっとしてもいいですか?”と訴える。

「ダーメ。」

そんなランカに楽しそうにそう言うと、
ランカの見えないシッポがシュンと項垂れ、その瞳も悲しそうに揺れる。
何度目かの寸止めに泣きそうになっている姿を堪能すると、
シェリルは笑ってランカの頭を撫でた。
「なーんてね。いくらなんでも、そこまで意地悪はしないわ。
 あんまり意地悪すると、逆に噛まれちゃうかもしれないしね。」

 『あまり厳しくしすぎると、思わぬしっぺ返しをされることがありますので、
  適度にきちんと褒め、許してあげることも心がけましょう。』

特集記事に書いてあった一文を思い出して、シェリルがくすっと笑ってそう告げる。
よく分からないランカが小首を傾げる姿に微笑んで、シェリルはその額にキスを落とした。
「シェリルさん?」
不思議そうな声で名を呼ぶランカに、魅力的すぎる素敵な笑顔をプレゼントすると、シェリルはその耳に告げてやる。

「ランカちゃん、今度こそ、ゴー。」

艶めいた声がランカの耳に響くと、
緑の髪の犬耳を器用にピクピクと動かして、瞳を輝かせる。
「シェリルさんっ!!!」
今度こそ“ステイ”を解かれたランカは、
見えないシッポを千切れんばかりに左右に振り回すと、
シェリルの大きな胸の谷間に顔を埋めた。




手始めに、ランカはその憧れのバストに何度も口づけて、赤い花を散らせる。
お揃いの黒い下着をソッと脱がせると、一瞬落とそうとしたその手が止まり、
悩んだ末にフローリングの床にソッと形が崩れぬように丁寧に置かれた。
それを目にしたシェリルがクスッと笑う。

「あ・・・くすぐったかったですか?」

自分の胸に気持ちよさそうに顔を埋めて顔を擦りつけていたランカが、
シェリルの笑い声に顔を上げて尋ねると、シェリルは首を横に振る。
「違うわ。ランカちゃんらしいなって思っただけ。」
「へ?何がですか?」
「なんでもなーい。それより、ランカちゃん・・・」
見下ろす形のランカに両手を伸ばすと、シェリルが艶やかに笑ってランカを誘う。

「つ・づ・き」

艶やかに色めいた声でそう言って、首に回した手でやんわりとランカを引き寄せた。
そんな色香にやられたランカは“プシュー”と音がしそうなぐらいに真っ赤になって、
引き寄せられるがままに、シェリルの肩に顔を埋める。
香る甘くていい匂いに、小犬よろしく鼻をくんくんさせて、しばらくその匂いを堪能するランカ。
「シェリルさんて・・・いっつもいい匂いですね・・・」
うっとりしたような声でランカはそう言うと、シェリルにぎゅっと抱きついて、顔を肩口に擦りつけた。
「そう?」
くすくすと笑いながらそう返して、ランカの髪を撫でるシェリル。
もう片方の手で、ランカのお尻辺りを撫で回す。

「・・・やっぱりないわね。」
「ふぇ?」




肩口から顔を上げて、大きなソファの上で横になったまま向かい合うと、ランカが不思議そうに小首を傾げた。
「シッポ。耳には触れるんだけど、シッポは視えても触れないわね。」
“耳”とされる髪を撫でながら、面白そうにそう言うシェリルに、ランカは頬を膨らませて見せる。
「もー、犬じゃないって言ってるのに。シェリルさんの意地悪。」
そんなことを言いながらも、ランカの顔はにこにこと微笑んでいて。
そんなランカにシェリルも微笑む。

「だって、ランカちゃん、小犬みたいでかわいいんですもの。」
「それって、褒められてるんですか?」
「最上級の褒め言葉よ。」
「絶対、からかってますよね?」

くすくす笑い合いながらそんな会話を交わして、残りの服と下着を脱がせっこしあう2人。
フローリングの床に散らばる衣服の数が、互いに一糸纏わぬ姿になったことを物語ると、
同じような甘い吐息を零しながら、ぎゅっと2人は抱き合う。

「シェリルさん・・・」
「ランカちゃん・・・」

名を呼びあい、額をくっつけて微笑み合うと、唇を重ねた。
啄むように交わしていた口づけは、いつしか深いものへと変わり、
ランカはシェリルを組み敷く形になる。
見下ろすランカにシェリルは微笑み、その頬に手をやる。
その手に頬を擦りつけるランカ。

「優しくしてね、ランカちゃん。」

余裕の笑みに、艶めく声。
けれど、潤んだ瞳はどこかしら“幼さ”を感じさせて。
大人の魅力の中にチラリとみせる幼さは、計算ずくなのか、それとも天然なのか。
どちらにしろ、シェリルの誘惑にランカは見えぬシッポを目一杯振ってみせ、

「わんっ♪」

と、そうかわいく吠えて返してみせる。
そのランカのかわいさに、一瞬シェリルは動きを止め、
それからこれ以上にないくらい幸せそうな笑みを浮かべた。




触れ合う肌に、交じり合う汗。
重なる肌に、零れる吐息は甘く艶めき。
触れる指に、艶めく声は色香に溢れ、喘ぎに変わる。


堪えるように隠すように。
零れる声は、せつないバラードに。
快感にうちふるえ獣のような本性を曝け出すように。
零れる声は、激しいロックに。
気持ちよさに身を委ね甘い痛みを楽しむように。
零れる声は、かわいらしいポップスに。
おとずれるしばしの波間にたゆたうように。
零れる声は、愛を伝える優しい歌に。

再び訪れる快感に焦がれるように。
零れる声は、情熱のバラードに。
のぼりつめる快楽に突き上げられるように。
零れる声は、激しいアッパーチューンに。
おとずれた絶頂に身を浸すように。
零れる声は、歓喜の歌に。
心地のいい疲れにつれさられるように。
零れる声は、癒しの歌に。

シェリルのステージに魅入り、恍惚の表情を浮かべるランカ。
シェリルの歌声は、ランカの全てを熱くさせ包みこむ。
“無我夢中”の中で、ランカにとってはシェリルが奏でる歌声と零れる表情が全て。
そしてそれは。シェリルも同じ。



「シェリルさん・・・」
初めて知った恋心を歌うように。
零れる声は、初々しく。
「シェリルさんっ!!シェリルさんっ!!」
募る思いに戸惑う心を歌うように。
零れる声は、せつなさに揺れ。
「・・・シェリルさん。」
受け入れられた思いを歌うように。
零れる声は、喜びを纏い。
「シェリルさぁん・・・」
通い合った心を歌うように。
零れる声は、静かに響く。

「シェリルさんっ」
再び訪れる火照りを歌うように。
零れる声は、少女ではなく女の熱を垣間見せ。
「シェリルさんっ!!!シェリルさんっ!!!」
溢れんばかりの想いを歌うように。
零れる声は、艶めいた色香に溢れ。
「シェリルさん。」
満ちたりた心を歌うように。
零れる声は、全てを包みこむように優しく。
「・・・シェリルさぁん♪」
愛しい想いを歌うように。
零れる声は、穏やかに甘く。

そんなランカのステージに、シェリルも酔いしれ、身を任す。
ランカの歌声も、シェリルの全てを熱くさせ包みこむ。
“夢見心地”の中で、シェリルにとってもランカが奏でる歌声と零れる表情が全て。


触れ合う肌に、交じり合う吐息。
重なる肌に、零れる笑みは甘く。
絡まる指に、じゃれあう声は喜びに溢れ、歌に変わる。

「シェリルさん・・・」
「ランカちゃん・・・」

確かな想いと愛を伝え合うように。
零れる声は、幸せを歌うデュエットに。

そして、幸せの中、静かにおとずれた睡魔に、2人は揃ってしばらくその身を預けた。





それから少したって、先に目を覚ましたのはランカ。
シェリルの寝顔を見つけて破願すると、起こさないようにゆっくりと身を起こして、
シェリルの体を上から下へと見やる。
胸と言わず、お腹と言わず、シェリルの肌にキスの雨を降らせたらしいランカ。
最中には気づきもしなかったが、シェリルの透き通るような白い肌に、
赤い花がアチコチに咲いているのを見て、ランカは顔を真っ赤にした。
恥ずかしさから1人でバタバタしながらも、その顔はやはり幸せそうに微笑んで。

「あとで・・・怒られるよねぇ・・・でも、今日からシェリルさん、3日間お仕事お休みだって言ってたし・・・」

ぶつぶつと独り言を言いながら、シェリルの肌に咲く花に指で触れる。
まだまだ加減がわかってないランカが強く吸いすぎたのか、
赤を通り越して紫っぽくなってしまっている痕を見て、シュンと項垂れる。
そして、“ごめんなさい”の意味を込めてかわいらしい舌で一舐め。

「・・・んっ・・・」

起きはしないが、その口から漏れる甘い声と、ぴくっと体が小さく跳ねるシェリルの姿に、
違う花も同じように舐めてみるランカ。
同じような反応を見せるシェリルに、パタパタと見えぬシッポを振ったランカは、
おもちゃを見つけた小犬よろしく、咲く花を見つけては楽しそうに舌でなぞる。
少し深い眠りについていたとはいえ、そんな行為を続けられてはシェリルの目も覚めてしまう。
最初は、クスクス笑って嗜めていたものの、なかなかやまない行為に、
シェリルの息づかいが熱いものへと変わっていく。

「も・・・こら、もう、いいってば・・・ランカちゃ・・・んっ!!!」




シェリルの抵抗の声の最後に響く、高く甘い声。
少し大きく跳ねた体が、グッタリとソファに沈むのを見て、一瞬きょとんとするランカ。
けれど、すぐにソレを理解したランカがうっとりした表情で微笑み、
上から覆い被さるようにシェリルに抱きついた。

「シェリルさんっ!!!」

触れあう肌に、甘く熱く深い吐息がシェリルの口から零れる。
そう、キスマークをかわいらしく舐められていただけで、
シェリルの敏感になってしまっていた体は、軽くイッてしまったのだ。
そんなシェリルの上で、ランカは見えないシッポをパタパタと振りまくり、緑の耳を上下に揺らす。

「シェリルさん、かわいい~、かわいいです、シェリルさん。」

かわいいものとおいしいものには目がない女の子よろしく、
ランカはシェリルにそう言って、ぎゅっと抱きつくように抱きしめる。
視線を少し上にやれば、あまりのことに自分でも驚いているシェリルの視線とぶつかった。
ランカのふやけまくった笑顔に、シェリルの瞳は恥ずかしさに潤み、直ぐさまソッポを向く。
そんな、いつものシェリルからは考えられないほどのかわいい姿に、
ますますランカは頬を緩ませ、甘えた声でシェリルの名を呼んだ。

「シェリルさぁ~ん♪」
「・・・う、うるさい・・・」
「こっち向いて下さいよぉ~♪」
「・・・い、いやよ・・・」

弱々しくも抵抗するシェリルの顔を覗き込むと、
シェリルの鼻のてっぺんに“ちゅ”と口づけるランカ。

「・・・ランカちゃんの・・・ば・・・か・・・」

少し瞳に涙を浮かべながら、非難をこめてシェリルはなんとかそれだけ言う。
そのくせ、シェリルの手が自分を抱きしめ返すように背に回ったのを感じて、
ランカの笑みはさらに深くなった。




「シェリルさん。」
「・・・まったく・・・ほんとに犬みたいに・・・舐めるんだから・・・」

最後の方はごにょごにょと、恥ずかしそうに言うシェリル。
あまりのかわいさに堪えきれず、ランカは肩を震わせ声を殺して笑う。
それに気づいたシェリルは、背に回していた手でランカのお尻を軽くつねる。
「いたっ・・・シェリルさん痛いです・・・」
と言いながらも、ニヤけた顔にシェリルは溜息を吐いて、
つねった手を額にやると、人指し指で少し強めに弾いてみせた。
「あいたっ、痛いって言ってるじゃないですか・・・もー、シェリルさんの意地悪・・・」
痛みに額をおさえながらも、その顔はやっぱりニヤけたままで。
あまりの幸せそうな表情に、シェリルは困ったようにまた溜息を吐いて笑みを浮かべた。

「うるさい・・・まったく・・・困った小犬なんだから・・・飼い主に噛みつくなんて・・・」
「シェリルさんたら・・・もー、だから、私、犬じゃないって言ってるのに。」

かっこだけ怒っているように、膨らましてみせる頬を撫でて、口づけるシェリル。
その口づけに、さらにだらしなく、ランカの笑みは深まった。

「えへへ~、シェリルさん大好きです。」

とけきった声音でそう言うランカに、苦笑をもらしてシェリルはランカの頭を撫でる。
「ほんとに・・・どこで、こんなイケナイコトを覚えてきたのかしらね?ランカちゃんは・・・」
シェリルの手に瞳を閉じて気持ちよさそうに撫でられながら、ランカはその問いに笑って答えた。

「シェリルさんですよ。」
「え?」
「ぜーんぶ、シェリルさんに教えてもらったんです。
 イケナイコトも。それが、イケナイコトじゃないっていうことも・・・」

その答えに、シェリルの手が止まった。
ゆっくりと開かれた瞳に、真っ直ぐにシェリルを映すと、ランカは綺麗に微笑む。
その微笑みに、頬を染めるシェリル。




「それだけじゃ・・・ないですよぉ・・・他にもいっぱい・・・シェリルさんが・・・教えてくれたんです・・・」

気持ちよさに誘われたのか、話を続けようとするランカに、急に優しい睡魔が襲ってくる。
それに、抗いながらも、抗えず、再び瞼を閉じると、シェリルを抱き枕にするように、
落ち着く場所を無意識に探すランカ。

「・・・シェリルさんの・・・おかげで・・・私は・・・今・・・ここに・・・いられるんですからぁ・・・」
眠りに落ちる直前の、ほわほわとした口調でそう言うランカのかわいらしい姿に、
シェリルは笑みを零して、やんわりと頭を撫でてやる。
「ずいぶんと、大げさね・・・」
自分の胸元に落ち着く場所を見つけたらしいランカに、笑ってそう言うシェリル。
「えへへ~・・・そんな・・・こと・・・ないれす・・・よ・・・」
もう眠りに半分落ちているランカも笑ってそう返す。

「・・・わらしはぁ・・・シェリルさんで・・・できて・・・るん・・・ですからぁ・・・」

もはや、自分で何を言ってるかもわかっていないだろうことは確かだった。
そんなランカに、シェリルは笑みを零す。
「シェリルさん・・・だいすき・・・れすぅ・・・」
フニャフニャのヘニャヘニャの声でそれだけ言うと、完全に眠りに落ちてしまうランカ。
その顔に、ただ幸せそうな笑みが浮かんでいることに、シェリルの頬も緩む。

「まったく・・・なぁに?このだらしのない寝顔は・・・プロ失格ね、ランカちゃん。
 ファンが見たら泣くわよ。」
優しい口調でそう言うと、シェリルは眠るランカの額にソッと口づける。
「ほんと、うちの愛犬は困ったコね・・・」
言いながら、シェリルはランカの寝顔に笑みを浮かべる。
「あなたが私でできてるなんて、大げさもいいところだわ・・・」
くすっと笑って指でランカの輪郭をソッと撫でる。
その表情は、どこか嬉しそうで幸せそうで。
「あなたがここにいるのは、みんながいたから。私だけでできてるわけないじゃない。
 ランカちゃんは、ほんとにバカなんだから。」
抱き枕にされたシェリルも、ランカを抱き枕にするようにして、
やってきた優しい睡魔に身を委ねる。

「でも・・・そうね・・・」
ランカの寝顔を最後にチラリとみやり、ゆっくりと瞳を閉じるシェリル。
「あなたがそう言うなら・・・私だって・・・今の私はあなたでできてるわ・・・って思うくらいには・・・」
その柔らかな体を起こさない程度に“ぎゅ”っと抱きしめる。

「私も・・・バカなのかも・・・ね?・・・ランカちゃん・・・」

その顔に、ランカと同じような幸せな笑みを浮かべるシェリル。
「・・・わたしも・・・だいすき・・・よ・・・ランカ・・・ちゃん・・・」
腕の中のかわいくて大切な存在にそう告げて、シェリルも眠りに落ちていった。



数時間後の昼に近い朝―――

「腰が痛い。」
「今日は買い物に行くはずだったのに・・・」
「ランカちゃんのバカ。」
「ランカちゃんのシキジョウキョー。」
「ぜーんぶ、ランカちゃんのせいだからね。」

シェリルが目を覚ますなり、さんざんなことを言われるランカ。
それでも、愛犬ランカは、“ごめんなさい”と謝りながら、その頬を緩ませる。
なにせ、さんざんなことを言っているシェリルも、ランカと同じようなものだから。
そう、これは『バカップル』のやりとり。

お風呂場で。
リビングで。
寝室で。

至る所でそんな言葉のやりとりをしていた2人。
けれど、体がつらいのは本当なのか、シェリルは遅い朝食を早々に切り上げて、ベッドに潜り込み、
昼からCM撮りの仕事があるランカは、
シェリルの身を案じながらも、テキパキと出かける準備を進める。
今日のこの撮りさえ終われば、ランカも2日間のオフに入る。
そうすれば、シェリルの部屋でずっと一緒に過ごせるのだ。
そう思うと、自然と頬が緩むのを止めることはできなかった。


腰が痛い、体がだるい、と言いながらも、シェリルはランカが準備を整え出かける時間になると、
潜り込んだベッドの中からモゾモゾと起きあがる。
大きめのTシャツ1枚という姿から、惜しげもなくのぞかせる肌には、
ランカがつけた赤い花がアチコチに咲いていた。




「あれ?シェリルさん、寝てていいんですよ?」
玄関で靴を履いていたランカが傍に来たシェリルの姿に笑って告げる。
「おみおくり。」
少し寝ぼけたような声でそう返すシェリルに、ランカは笑みを深くする。
靴を掃き終え、シェリルの方に振り返るとランカは笑って言った。
「いいですか、シェリルさん。その恰好で、外に出ちゃダメですよ。」
人指し指を立てて、楽しそうに笑いながらそう言うランカにシェリルも調子を合わせる。
「はーい。」
「はい、いいお返事です。」

そんなやりとりを交わしていたその時、迎えに来てくれたエルモからランカの携帯に連絡が入る。
“すぐに行きます”と返して電話を切ると、ランカはシェリルに微笑みかけた。

「いいコで待ってて下さいね。」
そう言ったランカにシェリルは思いもかけない返事を返す。

「わんっ♪」

かわいい鳴き声がした。
一瞬何が起きたのか、ランカには理解できなかった。
そんなランカに、シェリルは悪戯っぽい笑みを浮かべてもう一度吠えてみせる。
かわいらしくも艶やかに、甘えた声で。

「わんっ♪わんっ♪」

2回も。

固まってしまったランカに、シェリルは楽しそうに笑って告げる。
「ランカちゃん、時間。」
それにやっと我に返ったランカが、シェリルの悪戯な笑みに気づき、“う~”と唸った。
「早くしないと、遅刻しちゃうわよ。」
その原因をつくったのは自分だとわかっているくせに、
わざとらしくそう言うシェリルに、ランカは頬を膨らます。

「もー、シェリルさんの意地悪っ!!!」




そう言って踵を返し、扉に手をかけたランカの背に笑みを浮かべて手を振るシェリル。
ランカが恨みがましい目でこちらを振り返ったと思った、その瞬間。
シェリルの唇に触れる温かな感触。
呆然とするシェリルの首に回した腕に力をこめると、ランカは一度ぎゅっと抱きつき、
肺いっぱいにシェリルの匂いを吸い込む。
そして、シェリルから離れていく温もり。

「すぐに帰ってきますからっ!!!おぼえててくださいっ!!!」

まるで悪役の捨て台詞のように顔を真っ赤にしながらそう言って、今度こそ部屋を後にするランカ。
扉が閉まってもしばらくその場で呆然としていた、シェリルの口元に笑みが浮かぶ。

「おぼえててください・・・ですって?ランカちゃんのくせに生意気ね。」

触れた唇の感触を辿るように、右手の人さし指で自らの唇をソッと撫でてくすくすと笑うシェリル。
リビングによりテーブルに無造作においてあったケー鯛を手にして、寝室へ。
ベッドに腰を下ろすと、なれた手つきでメールを打って送信する。
その顔には、楽しそうな笑みが浮かぶ。
ケー鯛を枕元において、もう一度、自分もベッドに潜り込む。
横になってしばらくすると、ケー鯛が飛び跳ねだす。
それを捕まえて、シェリルは届いたメールを開き、その内容を確認すると、嬉しそうに微笑んだ。
しばらく眺めていると、ケー鯛がもう一度手の中で震えだす。
もう一度同じ操作をすると、同じ相手からもう一通メールが来ていた。
その内容に、さらにシェリルの笑みが深まる。
そして、ケー鯛を枕元に置きなおすと、おとずれたまどろみに瞳を閉じるシェリル。

「ランカちゃんたら・・・ほんとにバカなんだから。」

言ったシェリルの口元には、幸せそうな笑みが浮かんでいた。


“早く帰ってこないと忘れちゃうわよ。ランカちゃん、いってらっしゃい♪”

“すぐに帰りますから、絶対、忘れないでくださいね!!!いってきます!!!シェリルさん!!!”

“言い忘れてました。シェリルさん、大好きです!!! わんわんっ♪♪♪”






おわり

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最終更新:2010年05月14日 19:31
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