『あまあまQ&A』
(・・・キス・・・したいなぁ・・・)
唐突に。
ほんとに突然。
降って沸いたように。
思ってしまったことに。
びっくりしたのは自分自身で。
そんなことを考えてしまったことに。
びっくりしすぎて固まった。
(い、今・・・私・・・)
全身が熱くなっていくのがわかる。
思わずソファに置いてあった。
オオサンショウウオさんのクッションを手にして。
頭から被った。
恥ずかしくて。
バタバタと勝手に足が床を叩いて音を鳴らす。
それなのに。
顔がどんどん緩んでいくのがわかって。
頭から被ったクッションを。
今度は胸に抱きしめて。
顔を埋めた。
(・・・恥ずかしいよぉ・・・でも・・・)
ぎゅーっとクッションに顔を押しつけて。
やっぱり思ってしまった。
(キス・・・したいなぁ・・・)
そう思って。
そっと唇に手をあててなぞる。
いつも触れるその感触を思い出すと。
幸せな気分になってうっとりしてしまう。
しばらくそんな世界を彷徨っていると。
ドアが開く音がした。
「シェリルさんだっ!!!」
ドアを開けて。
真っ先に確認するのは靴。
私とは違うサイズの靴があることを確認すると。
笑みが勝手に零れた。
「ただいま。」
リビングの方からかけてくる足音に。
そう言って靴を脱ぎ。
顔をあげればそこに。
ご主人様の帰りを待ちに待った。
かわいらしい小犬みたいな彼女が。
私にしか見えないシッポを振って立っている。
「お帰りなさいっ!!!」
今にも飛びついてきそうな勢いに。
笑みを零して、手を伸ばせば。
彼女が自ら差し出してくる頭を。
よしよしと撫でる。
撫でるのをやめて。
ポンポンと頭を叩けば。
顔をあげてくれる彼女。
少しだけ見つめ合って。
それから、微笑んで。
2度目のやりとり。
「ただいま。」
「お帰りなさい。」
それが合図。
彼女は満面の笑みを浮かべると。
私の胸に飛び込んでくる。
腰に回った手がぎゅっと私を抱きしめて。
決して離そうとしない。
そんな彼女の頭を撫でれば。
ぐりぐりと胸元に顔を擦りつけてきてくれる。
(ほんとに・・・小犬みたいよね・・・)
いつも思うことに笑みを零して。
そのまま頭を撫でていると。
いつもと違って。
少しそわそわした様子の彼女が。
チラチラとこちらを見てくる。
(珍しい。どうかしたのかしら?)
いつもなら、撫でられている間中。
顔を埋めて甘えてくるのに。
どうかしたのかと。
小さく首を傾げてみれば。
真っ赤になって俯く彼女。
緑の髪の犬耳をぴくぴくと動かして。
しばらくしたら。
またチラチラとこちらを見る。
その視線がどこを見ているのか。
わかった私の口端が。
おもしろそうに斜めに歪む。
「どうかした?」
「な、なんでも・・・」
「そう?ならいいけど。」
何でもないようにそう言って。
頭を撫でるのをやめた手で。
背中を2回、やんわり叩く。
それが離れる合図。
名残惜しそうに離れようとする、その時。
「ランカちゃん。」
計ったように名前を呼べば。
名前を呼んだだけだというのに。
その頬を嬉しそうに緩ませて。
顔をあげる彼女。
「はい、シェリルさん。」
返事をしてくれた時には。
鼻と鼻がぶつかる位置で。
驚いた表情の小犬みたいな彼女に。
ただ微笑んで。
その唇を重ねた。
その感触に。
驚いて大きく目を開く。
触れた唇は。
少ししたら離れていって。
呆然としている私に。
シェリルさんが悪戯っ子みたいな笑みをくれた。
「アタリ?」
「え?」
尋ねられたことに尋ね返して。
「キス、じゃないの?」
「えっと・・・」
「欲しかったもの。」
「あの・・・」
「ハズレ?」
意地悪な笑みを浮かべて。
そんなことを言ってくる。
私はといえば。
ただ情けなく。
何度か口をパクパクさせて。
居たたまれなくなって。
俯いた。
「ねぇ、ハズレ?」
わかってるくせに。
シェリルさんの意地悪。
ほんとに意地悪。
答えるまで絶対聞き続ける気だ。
「ハズレなの?ランカちゃん。」
ほら。
やっぱり。
逃げだそうにも。
シェリルさん腕は。
いつの間にか私の腰に回っていて。
動くことを許さない。
こうなったら観念するしかない。
「・・・あ・・・あたりです・・・」
「え?何?」
わざとらしく聞き返してきた声に。
思わず顔をあげてしまう。
そこには。
ものすごく。
ものすごく。
ものすごく、楽しそうなシェリルさんがいた。
「聞こえなかったの。もう一回。」
うぅ・・・
シェリルさんの意地悪・・・
「アタリですっ!!!」
涙目になってそう言えば。
シェリルさんは勝ち誇ったように頷いて。
それから、満足そうに微笑んで。
私を解放してくれた。
恥ずかしい。
ほんとに恥ずかしい。
そりゃあ・・・
キスしたいって思ってたのは・・・
ほんとなんだけど・・・
リビングに向かうシェリルさんの背中をみながら。
うーうー唸って、動けない私。
そんな私を振り返るシェリルさん。
「何してるの?」
「だって・・・」
なんだか嬉しいんだけど、悔しくて。
悔しいんだけど、わかってくれたのは嬉しいから。
この状態は、この複雑な気持ちの現れに違いない。
「じゃあ、今度は私からね。」
「え?」
シェリルさんがそう言って、私に微笑む。
「あの・・・シェリルさん?」
呼びかけても返事はなくて。
ただ、微笑んで私を見ているだけのシェリルさん。
その意味を理解するのに数秒。
体中がまた熱くなった。
(これって・・・これって・・・これってっ!!!)
まともに顔を見ることもできないけど。
シェリルさんが望んでいることは。
なんとなくわかって。
たぶん、それは正解で。
でも・・・・・・
グルグル考えていたら。
カウントダウンが聞こえてきた。
(あらあら、あんなにバタバタしちゃって。)
真っ赤になったランカちゃんが。
手足をバタバタさせている姿がおもしろくて。
少しだけ楽しんで。
でも。
そんなには待てないから。
「5・・・4・・・」
カウントをし始めた。
それを聞いたランカちゃんが、慌てて叫ぶ。
「ま、まって・・・まって下さい!!!」
「待たないわよ。」
「そんなぁ・・・シェリルさぁん・・・」
そんな甘えた声を出してもダメ。
クイズに制限時間はつきものなんだから。
「さ~~~ん・・・」
まぁ、でも、おまけして。
少しだけゆっくりにしてあげる。
こんなサービス・・・
ランカちゃんにはよくしてるわね。
ゆっくりになったカウントに。
バタバタと私の方に駆け寄ってくるランカちゃん。
私の前に来たのはいいものの。
そわそわするだけで。
まるで行動に移せない。
ほんとにかわいいんだから。
「に~~~~~い・・・」
「あ・・・えっと・・・」
ほら、その答えであってるから。
早くしないと。
ほんとに時間切れになっちゃうわよ。
ランカちゃん。
「い~~~・・・」
その時。
私の肩に手が置かれたかと思えば。
ランカちゃんの顔が近づいてくる。
その答えに。
小さく微笑んで。
ゆっくりと瞳を閉じた。
ソッと触れた。
柔らかく、暖かな感触は。
すぐに離れて。
ゆっくりと瞳を開けば。
真っ赤に染まったランカちゃんがいて。
そのかわいらしさに。
頭を撫でて、ポンポンと叩けば。
恥ずかしいのを隠すみたいに。
ぎゅーっと抱きついて。
私の肩口に顔を埋めたかと思えば、擦りつけてくる。
そんなランカちゃんを抱きしめ返して。
しばらく。
私の耳に聞こえてくる声。
「・・・あ・・・アタリ・・・ですか・・・?」
「ん~?何か言った?」
聞こえてるけど、聞こえないふり。
そうしたら。
かわいらしく頬を膨らませたランカちゃんが。
顔をあげて睨んできた。
「もー!!!シェリルさんっ!!!」
「なぁに?ランカちゃん。」
「いじわるですっ!!!」
だって、あなたがかわいいから。
いじめたくなっちゃうのよ。
だから、私が悪いんじゃなくて。
あなたが悪いのよ、ランカちゃん。
膨れる頬をひとさし指でつついて。
その身を抱きしめる。
「アタリ。」
「あ・・・」
「アタリよ。ランカちゃん。」
耳元でそう囁いて。
お詫びのキスを1つ。
そうすれば。
かわいい膨れっ面は、幸せそうな笑みにかわって。
それを確認して。
背中を2回、やんわり叩く。
一度ぎゅっと抱きついて、離れる体。
だけどかわりに、その手を繋ぐ。
「ねぇ、ランカちゃん。」
繋いだ手を前後に軽く振りながら。
そう広くはない廊下を並んで歩いてリビングへ。
「なんですか?シェリルさん。」
こっちを少し見上げる形のその顔は。
本当に嬉しそうで、楽しそうで。
緩みすぎだとは思うけれど。
それはきっと、私も一緒だから。
今回は見逃すことにしておいて。
2人で選んだお気に入りのソファに座る。
こっちを見るランカちゃんの頬や顎下を。
擽るみたいに撫でれば。
気持ちよさそうに目を細める。
そんなランカちゃんの耳元に唇を寄せて。
「今度は、何をして遊びましょうか?」
少し低めの艶めいた声で囁けば。
ちらりと見えた。
ランカちゃんの耳が真っ赤に染まっていて。
その反応に微笑んで。
ランカちゃんに身を預けるようして抱きつく。
「ランカちゃんは、何をして遊びたい?」
これは、さっきの続き。
さっきの答えは当たったけれど。
今回の答えも。
ランカちゃんは当てられるかしら?
くすくすと零れた笑いが耳を擽って。
肩を竦めるランカちゃんに。
大ヒントをプレゼントしてあげる。
「大好きよ、ランカ。」
ランカちゃんが出した答えは。
私の期待を越えるほどの。
大アタリだった。
おわり
最終更新:2011年06月26日 21:26