無題(3-327氏)

アーティストと関係者だけでやる。
野外フェスティバルの前夜祭。
通しリハーサルも兼ねたその現場でリハーサルを終えて。
出店の何を食べてもいいっていうのを聞いて。
真っ先に買いに行ったのは。
食べたくてしかたなかったアイス。
さっき少し遅めのお昼は食べたんだけど。
リハーサルをしてお腹が減ってたし。
ちょうどおやつの時間だし。
甘いものは別腹だって言い訳をして。
コーンの上には、ストロベリーとチョコミントの綺麗な彩りの雪だるま。
次の時間帯のリハーサルがシェリルさんなのはチェック済だから。
一番よく見えるいい席を陣取って。
アイスを片手にステージを見上げる。
正面から見るセットに感動しながら。
アイスに口をつけると、隣に誰かが座る気配。

「ねぇ、ランカちゃん。1口。」
「ふぇ?」

突然のことに。
変な声をだしてしまった私にかまうことなく。
隣に座った誰かであるシェリルさんが。
私のアイスに口をつけていた。

(今朝も見たけど・・・シェリルさんの顔って、ほんと綺麗・・・)

ボーっとそんなことを思っていたら。
口の端についたアイスをぺろっと舌で舐めとっていたシェリルさんが。
こっちを見て笑ってくれる。



「あ・・・」
「うん、甘くておいしいわね。ごちそうさま。」
「いえ・・・」
「はい、お代。」

シェリルさんの笑みが悪戯めいたものに変わって。
気づいたら唇に柔らかくて、少し冷たい感触。
すぐ離れたそのあとに。
アイスみたいな甘い匂いが鼻を擽る。

「シェリルさーん、スタンバイお願いします。」

スタッフさんからの声に手を上げて応えて。
シェリルさんは何事もなかったように。
悠々とした足取りでステージへと向かっていく。

その場においてけぼりの私は。
起きたことに気づいて。
周りを何回か高速で見やった。
誰もこっちに気づいてないことを確認して。
真っ赤になってるであろう熱い顔を隠すみたいに。
少し俯き加減で。
アイスを顔の真ん前に持ってきて食べる。

(お代って・・・全部、ただなのになぁ・・・)

大胆不敵なシェリルさんの行動に振り回されながらも。
それがなんだか嬉しくて。
ついつい緩む頬を止められず。
シェリルさんが食べてた場所に口をつけた。

「甘くて、おいしい。」

知らずに零れた言葉に。
恥ずかしくなって。
また、大きくアイスを口にする。

やっぱり。
甘くておいしかった。




おわり

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年06月26日 21:31
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。