無題(3-439氏)

まだ夜も明けきらない時間に、ふっと目が覚めた。
なんだか少し寒く感じて。
温もりを求めて、隣にいるはずの存在に擦りよろうとしたけれど。
そこに求めていた温もりはなくて。
あるんだけれど、その人はいなくて。
とりあえず、その温もりの残る場所に頬をつけて、目を閉じれば。
ほんのりと残る、大好きな人の香りに笑みが零れた。
包まれるような温もりと香りに。
幸せな気分になってしまって。
また、眠れるような気がしたけれど。
やっぱり、もの足りなくて、寂しくて。
目を開けて、体を起こす。

「・・・シェリルさん・・・?」

少しだけ眠い目を擦って、見回せば。
すぐに見つかるその存在。
ドレッサーの前で、鏡とにらめっこするのではなく。
ペンを片手に紙とにらめっこ。
片膝をイスの上に乗せて、ペンを走らせるその姿は。
様になっていて、かっこいい。
思わず見惚れてしまうけれど。
その格好に気づいてしまえば、赤くなって視線を逸らしてしまう。

(いくら温度調節されてるからって・・・真冬なのに・・・)

チラリと見やったその姿に、やっぱり顔が熱くなる。
シェリルさんときたら、思いついたらすぐに始めてしまうから。
服とか、羽織るものとか、ぜんぜん気にしてなくて。
その・・・だから・・・今も下着だけの姿で・・・
かっこいいシルエットなんだけど、目のやり場には困るっていうか・・・
でも。
今日は下着をつけてるから、まだいい方かも。
前に同じような現場に出くわした時は、裸のままだったから。




『シェ、シェリルさんっ!!!???ダメですよっ!!!ダメですっ!!!』
あまりに驚いて、思わず大きな声をあげちゃって。
自分がくるまっていたシーツを頭から被せて。
シェリルさん、驚かせちゃったんだよね。

『な、なに?急にランカちゃん?』
『ダメです、シェリルさん!!!裸はダメですっ!!!』
『?・・・ああ、そう言えば、着てなかったわね。』
『お、落ち着いてる場合じゃないです!!!は、裸で作詞活動はいけませんっ!!!女の子なんですからっ!!!』

真っ赤になって注意をする私。
だって、ダメだよね。
女の子が・・・その・・・裸で・・・とか。
なのに。

『今さら、そんな驚くようなこと?私の体なんて知りつくしてるでしょう?』

当の本人は、なんら気にした様子もなくて。
そんなことをサラッと言われてしまって。
一瞬、何を言われたかわからなかったんだけど。
その意味を理解したら、もう真っ赤になるしかなくて。
俯くことさえできなくて。
シェリルさんの顔を見たまま動けないで固まっていたら。
その口元が悪戯を思いついたみたいに、歪むのがわかった。
その笑みを浮かべたシェリルさんに、私は勝てたことがない。

『もちろん、私はランカちゃんの体を知りつくしてるわよ。なんなら・・・』
『ふぇ・・・?』
『もう一度、実践してあげましょうか?ランカちゃん。』

なんて、耳元で低く囁いて、耳たぶをやんわりと唇で噛まれて。
ふぅ~って息を吹き込まれて。
追いつかない思考と感情に、どうにかしようと思って。
顔をあげて、シェリルさんに待ったをかけようとした私に。
悪戯っぽく微笑んで、私の頬をなぞるみたいにやんわりと親指で撫でてきたんだよっ!!!
そんな攻撃をされたら・・・
そんなのっ!!!そんなのっ!!!




(勝てるわけないよねっ!!!絶対っ!!!)

誰にともなく胸中で語りかけて、その時のことを思い出したら。
やっぱり真っ赤になるしかなくて。
浮かんだ映像を消すみたいに、両手を頭の上でめちゃくちゃに振る。
それで少し落ち着いたから。
熱くなった頬に手を当てて。
ちらりとまた、シェリルさんを見た。
そして、ふっとあることを思いつく。

(そういえば・・・)

そうだ。
あれから、何度かこんなシーンに出会ったけど。
シェリルさんが裸だったことがないことに気づいた。
たいてい、Tシャツを着てたり。
今みたいに下着姿だったり。

(もしかして・・・シェリルさん、私の言ったこと・・・)

気にかけてくれてる?
そう気づいたら、本人にちゃんと聞いたわけでもないのに。
勝手に嬉しくなって、頬が緩んでいくのがわかる。
最近、ちょっと浮かれ過ぎだとはわかってるんだけど。
シェリルさんが少しでも、自分のことを気にかけてくれてると思うと。
嬉しくて、嬉しくて、たまらなくなっちゃう自分がいて。
思わずその背に抱きつこうとする自分を。
自分で自分を抱きしめるようにして落ち着けて。
それに成功したことに、自分で自分を褒めるみたいに頷いた。

「ぷっ・・・」
「え・・・」
「あははははっ!!!」

そんな私の耳に聞こえてきたのは、シェリルさんの笑い声。
鏡の中のシェリルさんを見やれば、その瞳に涙をうっすらと浮かべて笑っていた。
何がそんなにおかしいのかわからなくて。
小首を傾げていたら、鏡の中の私と視線のあったシェリルさんがこっちを振り返って言う。





「ランカちゃんたら、1人で楽しそうなんだもの。」
「え?」
「こっち見てるなぁ・・・と思ったら、急に真っ赤になって俯いて。」
「あっ・・・」
「頬を膨らませてこっちをみたと思ったら、だらしない笑みを浮かべて。」
「いっ・・・」
「とろけた表情をしたと思ったら、頭の上で急に両手を振り出すし。」
「うっ・・・」
「その手を頬にあてたかと思ったら、こっちを熱い視線で見つめてくるし。」
「えっ・・・」
「かと思ったら、ゆるゆるの幸せそうな笑みを浮かべたり。」
「おっ・・・」
「最終的には、自分のこと抱きしめて、満足そうにうんうん頷いてるんだもの。」
「はぅ・・・」
「なかなかに、いいお芝居を見せてもらったわ、ランカちゃん。」

いつの間にか、ベッドの傍に立っていたシェリルさんが。
からかうみたいにそう言って、ウィンク1つ。
それに魅入っていたら。
ベッドが小さく軋む音がして。
気づいたら、シェリルさんの顔がすぐ傍にあって。
シェリルさんの手が私の前髪をかき上げると。
そこに、少し冷たい感触。

「お代よ、ランカちゃん。」

そう言って、目の前で微笑まれた。
額を両手で押さえて、キスされたことを理解して。
そしたら、体中が熱くなって。

「また、真っ赤になった。ほんとに、ランカちゃんはかわいいわね。」

言われてしまったことが、恥ずかしくて。
でも、嬉しくて。
俯いてしまった顔をゆっくりと上げれば。
そこには、シェリルさんの笑顔。





「ず、ずるいです・・・ずっと見てたんですか?」
「ずるくないわよ。鏡を見ていただけだもの。」
「む・・・声、かけてくれたらいいじゃないですか。」
「やーよ。かわいいランカちゃんの一人舞台を、邪魔するなんてまね、するわけないでしょう?」

私の拗ねた声に対して。
耳元でクスクス笑いながらそう言うシェリルさんの声。
拗ねているんだけれど、浮かぶのは笑みで。
でも、なんだかシェリルさんにやられっぱなしも嫌だから。
シェリルさんが私を抱きしめてくれる前に。
シェリルさんを抱きしめて引き寄せた。

「きゃっ・・・」

シェリルさんのかわいい悲鳴に笑みを浮かべて。
一緒に倒れたベッドの上、私の上に乗っかる形のシェリルさんをぎゅっと抱きしめる。

「ちょ、ちょっと・・・ランカちゃんっ!!」
「暴れないで下さいよぉ~シェリルさん。」
「だったら、離しなさい。」
「や、です。」
「や、じゃない。」
「や、です~。」
「や、じゃないの。」
「や、ですってば。」

ただの会話だけれど。
それも、シェリルさんと交わせば。
まるで歌を歌ってるみたいで。
別にそんなに楽しいことも、おもしろいことも言ってないのに。
浮かぶのは笑みで、零れるのは笑い声。
2人用に買ったベッドの上で。
子どもみたいにじゃれあって。
お互いの落ち着く場所を見つけたら。
そこで終わる、いつもの遊び。




「シェリルさん。」
「ランカちゃん。」

ベッドの中で笑いあって、名を呼んで、口づけて。
今日は私がシェリルさんに抱きついて。
目が覚めた時に求めていた温もりに。
嬉しくなって、その胸に顔を擦りつける。
シェリルさんが、「こ~ら」なんて甘い声で言いながら。
ぎゅっと抱きしめてくれるから。
嬉しくなって、ぎゅっと抱きつく。

「シェリルさん、大好きです。」

顔をあげてそう言って。
ベッドの中で背伸びするみたいにシェリルさんにキスをする。
少し驚いた表情のシェリルさんに、私の頬はこれ以上にないくらいに緩んだ。

「えへへ~」
「まったく・・・だらしない顔ね。」
「ナイショにしててくださいね。」
「どうしようかしらね、ランカちゃん。」
「意地悪ですね、シェリルさん。」

誰にも言うわけないのに。
そんなことを言い合って。
そんなやりとりがすごく幸せで。
やっぱり私は、言わずにはいられなかった。

「大好きです、シェリルさん。」







おわり

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最終更新:2011年06月26日 21:48
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