無題(3-476氏)

自分で言うのもなんですが。
私は、とてもいい位置にいると思うんです。

「だからね?ナナちゃんっ!!!お願いっ!!!」

そう言って、ランカさんが私の前で両手を合わせて頭を下げています。
私は苦笑を浮かべて、ランカさんに顔を上げるように言います。
「そんなにお願いされなくても大丈夫ですよ、ランカさん。お友達じゃないですか。」
「ナナちゃん・・・ありがとうっ!!!」
瞳をキラキラさせたランカさんが私に抱きついてきます。
それをしっかりと受けとめて。
私も、ここぞとばかりにランカさんを抱きしめたのです。

それが、1月の終わりのこと。
仕事が立て込んでいるランカさんが、一緒にシェリルさん宛のチョコを選んで欲しいと。
急にお願いしてきて、話を聞けば。
バレンタイン当日は、CDお渡し会。
つけくわえて、この日を除けば、ランカさんの予定は真っ黒で。
その手帳と睨めっこしながら、いつチョコを作るかと画策していたところ。
シェリルさんにスケジュールを知られてしまって。
徹夜してでも作る気であろう、ランカさんの行動を先読みしたシェリルさんが。
『手作りチョコ禁止令』を、ランカさんに言い渡したらしく。
なんとか抵抗はしてみたものの、ランカさんがシェリルさんに勝てるはずもなく。
それでも、チョコは絶対にあげたいということで。
まだまだ、早いこの時期に。
ランカさんと2人で街へとくり出しました。
気になる所を何件も回って。
最終的に気に入るものを見つけたランカさん。
けれど、賞味期限が短い生チョコだったので。
お渡し会の日に私が届に行くから買っておきます、と伝えたら。
ランカさんは、嬉しそうに微笑んで。
また、私に抱きついてきてくれました。

「ありがとうっ!!!ナナちゃんっ!!!やっぱり、ナナちゃんは優しいねっ!!!」
向けられた感謝の気持ちと笑顔が嬉しくって、微笑んで。
私は抱きついてきたランカさんを、ぎゅっと抱きしめ返しました。




そして、2月に入ってすぐのこと。

「だから、チョコを作るんだったら、付き合ってあげてもいいって、そう言ってるのっ!!!」

ランカさんにお願いされたのと同じ場所で、シェリルさんにそう言われます。
これは、たぶん、シェリルさんなりのお願いです。
だから、私は微笑んで頷きます。
「ちょうど、13日に作ろうと思ってたんです。」
「ほんとにっ!? ・・・・・・そう、だったら、この私が付きあってあげるわ、ナナセ。」
シェリルさんが一瞬、本当に嬉しそうな顔をして。
それから、慌てていつものシェリルさんに戻る姿が。
なんだか、おかしくて、かわいくて。
「付きあってもらえて嬉しいです、シェリルさん。」
そう伝えたら、シェリルさんが少し驚いたような顔をして。
それから、いつもの笑みを浮かべて言います。

「感謝しなさい、こんなサービスめったにしないんだからね!!!」

目の前で、その言葉を聞けるようになった関係に嬉しくなってしまって。
ニッコリ微笑んだら。
シェリルさんが少し恥ずかしそうに瞳を彷徨わせた後。
ニッコリと笑い返してくれたことに、私の方が真っ赤になってしまいました。
ごめんなさい、ランカさん。
私はあなたの1番のファンで、ファンクラブもNo.1の番号を持っているのですか。
最近。
シェリルさんにも、心を奪われてしまっています。




そして、バレンタイン前日の2月13日。
ランカさんの選んだチョコを買いに行って。
手作りチョコの材料も多目に揃えて。
家に帰って準備を始める。
そう言えば、部屋に招待するのは、ランカさん以外は初めてなことに気づいて。
なんだかちょっと、くすぐったくなってしまいました。

約束の時間を30分過ぎてもやって来ないシェリルさん。
道に迷ったのかと心配になっていたら、携帯の着信音が部屋に響いて。
シェリルさんように設定した着信音に、慌てて携帯に出れば。
不機嫌そうなシェリルさんの声。

『もしもし、ナナセ?現場が押しててね。まったく・・・』
「よかった、迷子とかじゃないんですね?」
『違うわよっ!!と、ともかく、すぐに終わらせてそっちに行くから。もう少し待っててっ!!!』

それだけ言うと、電話は切れて。
結局、シェリルさんが部屋に来たのは。
予定していた夕方5時から2時間後の夜7時を過ぎた頃でした。
走ってきたのか、息の上がったシェリルさんにお水を手渡して。
それから、お腹を鳴らしたシェリルさんに微笑んで。
一緒に食べようと思って、準備しておいた材料でチャーハンを作って。
「おいしい」と言ってくれるシェリルさんにお礼を言って。
少し休憩をしたら、どうせまた出る洗い物は後にして。
当初の目的であるチョコ作りを開始しました。
シェリルさんは、その・・・なんというか、お菓子作りはやっぱりイマイチみたいで。
チョコレートやレシピ本に腹を立てて、文句を言って。
膨れた顔になりながらも、一生懸命なシェリルさん。
「お手伝いしましょうか?」
自分の分を作り終えた私の申し出に、シェリルさんは首を横に振って、
「大丈夫。自分で作らなきゃ意味がないから。」
チョコレートと向き合い、真剣にそう言ったシェリルさん。
少しだけ、その返事が寂しくもあったけど。
でも、そう返されることはわかっていましたから。
私は笑顔でシェリルさんを見守ることにしました。




多目に用意したはずの材料は、見事に姿を消して。
エプロンや顔にまでチョコレートをつけたシェリルさんの顔に満面の笑みが浮かぶ。

「できた。」

嬉しそうにそう言ったシェリルさんの前には。
かわいらしいハート形のチョコと、星形のチョコの姿。
それを見たら、なんだか私まで泣けるほど嬉しくなってきてしまって。
瞳を潤ませながら、シェリルさんに「おめでとう」を言わずにはいられませんでした。

「どうして、ナナセが泣きそうになってるのよ?」
「だ、だって・・・シェリルさん、あんなに頑張ってたから・・・」
「お、大げさねっ!!!私にかかれば、チョコレートなんて、敵じゃないわっ!!!」

恥ずかしそうに明後日の方向を見ながら、早口でそう言うシェリルさんが。
あまりにかわいくて、おかしかったから。
思わず声を上げて笑ってしまったら。
「ちょ・・・ナナセっ!!!どうして笑うのよっ!!!」
「ご、ごめんなさい、シェリルさん・・・だって、あんまりにかわいいから・・・」
素直にそう言ったら、真っ赤になったシェリルさんに怒られてしまって。
「ナーナーセー」
「いたっ・・・痛いです・・・シェリルさん・・・」
指で弾かれた額を押さえて、そう言えば。
シェリルさんは、ソッポを向いてしまって。
でも、ちらりとこちらを見たシェリルさんと視線が合ってしまったら。
また、おかしくなってしまって、笑い声が零れてしまいました。
なんとか止めようと思って、口に手を当てたんですけど。
同じように、シェリルさんも笑いはじめてくれたから。
そのまま2人して、声をあげて笑い合うことにしました。




そして、当日の朝。
「失敗・・・ちゃんと固まったのは、アルトとブレラ。」
「形になったのは、エルモに頼んで適当にスタッフに配ってもらって・・・」
ラッピングの前に、チョコレートをより分けるシェリルさん。
アルトくん、ブレラさん・・・ご愁傷様です。
苦笑を浮かべてそう心で呟かずにはいられません。
私はと言えば、お友達用のチョコを何個か用意して。
それから、自分で褒めたくなるほどに、ラッピングがうまくいった2つは。
ランカさんと・・・

「シェリルさん。」
「ん?なに?ナナセ。」

こっちを見てくれたシェリルさんの前に、それを差し出します。
きょとんとしているシェリルさんに、ニッコリと微笑んで。

「ハッピーバレンタイン、シェリルさん。」

そう告げれば、シェリルさんは少し驚いて。
それから、少しだけ頬を染めて笑ってくれる。

「ありがとう、ナナセ。」
「え・・・」

素直にそんなことを言われてしまったら。
真っ赤になる以外、どうしようもなくて。
その笑顔と言葉に、なんだか恥ずかしくなってしまって。
思わず俯いてしまいます。

「ナナセ。」
「あ、は、はいっ!!!」

呼ばれて、慌てて顔を上げれば。
そこに、シェリルさんの笑顔。

「あーん。」
「え・・・」
「いいから、あーん。」

流されるように口を開けば。
私の口に何かが放り込まれて。
驚いて口を閉じれば、シェリルさんの指も食べてしまっていて。
「閉じるのが早いわよ。」
笑ってそう言うシェリルさんに謝ろうとして。
口に広がる甘さに気づく。
溶けて広がるその甘さは、とてもおいしくて。
シェリルさんを見やれば、手についたチョコを舐めとる姿に出会ってしまって。
なんとも言えないその姿が、魅力的すぎて。
なんだか気が動転してしまいそうな私に、シェリルさんが言ってくれたんです。

「一番最高のチョコは、ランカちゃん専用なの。」
「あ、はい・・・」
「そのかわり、1番にあなたに食べさせてあげたから、これでいいわよね?」
「え・・・あ・・・」
「ハッピーバレンタイン、ナナセ。」

ああ、ごめんなさい、ランカさん。
私、今、シェリルさんに惚れてしまいそうになりました。




授業を終えて、ランカさんのCDお渡し会会場へ、シェリルさんと一緒に向かいます。
その間、声をかけられること・・・数えるのを諦めてしまうくらい。
シェリル・ノームだということは、見事にばれていないんですが・・・
トイレに行ってる間に、人集りができてしまっている光景に、苦笑がもれます。
女の子たちの隙間から覗く、シェリルさんの張り付いた笑顔。
最初は楽しんでいるようだったんですが、いい加減飽きてきたらしくて。
どうやって近づこうかと思っていたら、シェリルさんが私に気づいてくれて。
よかったと思ったんですが、シェリルさんの微笑みがなんだか・・・

「ナナセ。」

人集りの中で、そう大きな声で呼ばれてしまって驚きます。
女の子の人集りから出てきたシェリルさんは、シェリルさんなんですが。
絶対に“シェリル・ノーム”であることがばれない変装を見つけたと自負していた通り。
美星学園の男子生徒となったシェリルさんは、ばれないけれどかっこよすぎて。
いわゆる、“イケメン”と呼ばれてしまう姿。
そんなシェリルさんが、私の傍に来たかと思ったら。
悪戯な笑みを浮かべて、私をぎゅっと抱きしめてきました。
「!!!!!?????」
「待ってたよ、ナナセ。」
耳元で囁かれる声は、男装ようにつくった低い声。
そんな行動に驚いたのは私の方で。
周りからも悲鳴なのか黄色い声なのかわからない声が上がる中。
私はシェリルさんの腕の中で卒倒してしまいました。

「ああいう、心臓に悪いことは止めて下さい。ランカさんに言いつけますよ。」

“彼女持ち”そういうことで、騒ぎがおさまったからいいじゃないかと。
楽しそうに笑ってみせるシェリルさんに、大きく溜息をついて。
もう始まっているであろう会場に向かおうとすると。
シェリルさんが、私の腕を掴みます。
少し視線を上げれば、そこにはシェリルさんの悪戯な笑顔。
「シェリルさん・・・」
悪い予感がして、震える声でその名を呼べば。
「ナナセ。」
男装ように作られた低い声がそう囁いて。

ああ、ランカさん、今わかりました。
シェリルさんは、とても悪戯好きの意地悪さんです。
私の嘆きに、脳内のランカさんが
『そうでしょう!!!ナナちゃん!!!』
と叫び声をあげました。




結局、会場まで腕を組んで行くことになってしまって。
当の本人であるシェリルさんは、もの凄く楽しそうなので。
なんだか、もういいかなって思ってしまって。
開き直って楽しむことにします。
こういうことがない限りは、シェリルさんと腕を組むなんてことないと思いますし。
それに、ランカさんの心配事を1つでも減らさなければなりません。
大丈夫ですよ、ランカさん。
シェリルさんは、私が他の女の子たちから守ってみせますから。
そんな思いを胸に、会場にたどり着けば、途中のやりとりが功を奏したのか。
お渡し会も終わりに近づいている所で。
「これって、私たちも並べば握手できるのかしら?」
「握手じゃありませんよ、お渡し会です。私たちはチケットを持ってないですからね。」
「チケット・・・」
何か考えていた様子のシェリルさんの瞳が、また何かを思いついたかのように光ります。

「頑張るランカちゃんにもサプライズが必要よね。」

ああ、ランカさん、ごめんなさい。
私には、シェリルさんを守ることはできても、止めることはできません。
エルモさんを見つけたシェリルさんが、驚くエルモさんに正体を明かし。
ちょっとしたやりとりがあったその後。
エルモさんが困ったような、でも少し楽しそうな顔をして。
スタッフさんたちによって、後片づけが始まったその会場で。
私たちは今、ランカさんの目の前にいます。




「あ、ナナちゃん、来てくれたんだ。」
「はい。」
「あれ、隣の人は・・・」
「あ、えっと・・・」

説明しようとしたら。
シェリルさんがラッピングされたチョコをランカさんに差し出します。
「いつも応援しています。」
向けられた微笑みに真っ赤になったランカさんは。
慌てて俯いて、そのチョコを受け取ります。
「あ、ありがとう・・・ございます・・・」
「これからも頑張って下さい。」
「は、はい・・・」
なんとか顔を上げて、微笑むランカさんのかわいさは異常なまでにかわいらしくて。
それを見て、微笑むシェリルさんも異常なまでに素敵で。
知らずに胸が高鳴り、興奮してしまっている自分がいました。
「あ、あの・・・」
何か言おうとしたランカさんに、シェリルさんは顔を寄せて。

「大好きだよ、ランカ。」

あの低い声がそう言って、その頬に口づけます。
その行動に驚いていた私以上に、驚いたらしいランカさん。
体中を真っ赤に染めて、その場にへなへなと座り込んでしまいます。
「ラ、ランカさんっ!!!」
慌てて駆け寄って、その身を支える私。
「大丈夫ですか?」
「シェリルさん・・・」
「え・・・」
「シェリルさんですよね?」
頬を押さえながら、ランカさんが上目遣いにそう言うので。
その視線を追うようにシェリルさんを見れば。
ぺろっと舌を出してみせるシェリルさんの姿。

「あーあ、ばれちゃった。やっぱり、キスは失敗だったかしら?」

ああ、ランカさん。
あなたは、大変な方と恋をしてるんですね。
その苦労が、今日、少しだけわかりました。
でも、ランカさん。
ランカさんがシェリルさんをわかった理由も・・・すごいと思います。




そうして、今。
今日は3人で私の家にお泊まりということになって。
私たちは並んで仲良く家路についています。
ランカさんとシェリルさんの手には、荷物の入ったバッグの他に。
互いの思いがこもったチョコレートの入った袋。
それと、もう一つ。
私がプレゼントしたチョコレートが入った袋も。
その光景がなんだかとても幸せで。
足を止めてその背を見つめていたら、思わず笑みが零れて。
そんな私を、振り向いたランカさんとシェリルさんが呼んでくれます。

「ナナちゃん、早く~」
いつものランカさんの声。
「ナナセ、置いていく・・・よ。」
まだ変装中だということに気づいて、変なしゃべり方になるシェリルさんの声。

その声に笑みで応えて。
私は2人に駆け寄って、真ん中に陣取ると。
2人と腕を組んで言いました。

「ハッピーバレンタイン。ランカさん、シェリルさん。」


自分で言うのもなんなんですけど。
私、すごくいい位置にいると思うんです。
だから、この位置をずっと譲らないでいようと思います。




おわり

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最終更新:2011年06月26日 21:52
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