無題(3-586氏)

「どうかしたの?ランカちゃん。」
二人並んだベッドの上。
ジーッと、宙を見つめているランカに気づいて。
シェリルが声をかければ。
ランカはシェリルに笑いかけて、小さく首を横に振る。

「うそ。」

シェリルにそう指摘されて、ランカは苦笑を浮かべた。
その視線をまた宙にやり、手を伸ばす。

「歌が大好きで。みんなに歌を届けたくて…」
「でも、この世界は広くて。私はちっぽけで…」
「そんな私の歌がみんなに届くのかな…って、思っちゃって…」

不意に訪れた不安を口にして、ゆっくりとシェリルの方を向くランカ。

「なんて…こんなこと言ってたら、シェリルさんに叱られちゃいますね。」

伸ばしだ手をおろしかけたその時。
その手がとらえられる。
少しびっくりしたような表情のランカに、シェリルは微笑んで見せた。

「シェリルさん…?」
「バカね、ランカちゃんは。」

シェリルがランカの指に、ゆっくりと自らの指を絡めていく。


587 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2011/03/26(土) 11:56:06.92 ID:dxvF/xBh

「届かないなら、届けにいけばいいのよ。」
「あ…」
「私はそうしてきたし、これからもそうしていくわ。」
「シェリルさん…」
「たとえ小さくたって、歌(おもい)は届くのよ、ランカちゃん。それに…」

シェリルの優しくて真っすぐな瞳がランカを見つめる。

『You'll never walk alone』

歌うように告げられた言葉が、ランカの心に響く。

「ランカちゃんは、『ひとり』じゃないでしょう?」

ぎゅっ。
力強く握られる手と。
向けられた微笑みに。
ランカの頬は紅潮し、瞳にはうっすらと涙が浮かぶ。

「歌は魔法なんでしょ?届かないはずがないわ。」
シェリルが笑って言ってくれたことに。
ランカも瞳に涙を浮かべながら笑って返す。
「歌は祈命…はい、必ず届けます、シェリルさん。」
握られた手を握り返して、微笑みあう。

シェリルの肩に頬を寄せ。
祈るように繋がれた手はそのままに。
寄りそう温もりにひとりじゃないことを感じれば。
自然と二人の顔に笑みが浮かんだ。

「シェリルさん…」
「ランカちゃん…」

ただ名を呼びあって、瞳を閉じれば。
やって来た優しい睡魔に、二人して身を委ねた。




おわり

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最終更新:2011年06月26日 22:05
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