清涼院流水先生座談会
当日は清涼院流水座談会と言う名目で人が集まったが、いきなりの清涼院氏の登場に一同驚きのあまり声も出ない。座談会と言うよりは質問会、プレ関ミス連の様相を示した。
A たいへん失礼なんですけれど、ご存じの通り、ぼくは(
清涼院さんの作品が)おおむね大好きなんですけれど、サークルの中に言わないだけで嫌いな人もたくさんいらっしゃる。
清涼院 いいですよ。ミス研だったら絶対に嫌いな人もいると思いますしねぇ。
A ところでぼくが聞くとマニアックになるんだけれど……
清涼院 数人で いいですよ
A 4回生のAです。初めまして。まずお聞きしたいのはいわゆる本格ミステリーじゃないですけれど、ミステリー全般が一般的にリアリティがないとか遊びにすぎないという批判があるという現実をどう思いますか?
清涼院 それは本格ミステリー全体としてですか? 『コズミック』を本格ミステリーとして……
A いや、あのう、一般論として……。
清涼院 それはですね、読む人が心のなかに何を描くかということだと思いますね。だから全然リアリティ無いような話でも読む人が個人的な体験とシンクロするようなところがあったりしたら「あっ、そうなんだよなぁ。これわかるんだよなぁ」とかね。だから森博嗣さんのミステリーなんかを「これ全然わからないよ」というひともいれば、理系の方とかで「そうそうこういう人いるんだよね」という反応の人もいますよね。そういうふうにやっぱり一人一人の読者に分かれると思うんですよ。
A それ、おっしゃってることよくわかるんですけれど、ボクミステリー大嫌いなんですよ(まわりブーイング)
B さすが本格ミステリーに破れただけはある。
A 書こうと思ってあまりにもつまらなくなってやめたんですけれど。いまおっしゃってることはミステリーを批判している人と、批判と論点がずれてる。それは、一般的な現実でいうと、結局ミステリーの主題は謎解きとされていて、あくまでそれが主題であって、人間のちょっとした感情の機微とかいわゆる人間が描けてないというそういう論点じゃなくて、主題は謎ときなんだから、そこは人間のちょっとした感情の機微とかをあわせるとギャップが、遊びと物語性、にギャップをみる。それについて。もちろん個人的にギャップをみないという人もいると思うんですけれど
清涼院 やっぱり個人差はあるでしょうし、それは読者だけじゃなくて作家の側でもあると思うんですよ。だからいわゆる人間を書くことなんかどうでもよくて俺はミステリーを書いてるから、謎解きを極めたから人間なんかが書けてなくても許してくれという人もいると思うんですけれど、いや、やっぱり俺はミステリーをメインにするけれど、人間を書くのも大事にしたいという作家もいると思うんですけれどね。だから作家によってもそれぞれのスタンスがあると思いますし、読者によってもどこに注目して読むかというのも分かれると思いますから、まさにその辺りは自由にとるという感じでね。
A そこでね、清涼院さんはつまりギャップを感じないんですね。
清涼院 そこら辺はやっぱりぼくがどうこう言ってもやばいというか、おまえがミステリーを語るなといわれちゃうとあれなんで。あくまでぼくの考えとして言うだけであって、それが絶対の正義というわけではないんですよ。
A それはもちろんなんですけれど、個人的に。
清涼院 ぼくとしては始めに物語ありというか、物語のうえに謎解きをもっていきたいなというのはありますね。でも、ぼくは絶対に謎解きを重視してるつもりというか、どんなジャンルの物語を書くにしてもね、謎解きは中心にしたいなぁと思うんですよ。最初に物語の土台があるとしたらそれぞれのジャンルのテクニックでですねデコレートしていくじゃないですか。その中心にある装飾は常にミステリーがいいなと思うんですよ。
A 例えばなんですけれど『十角館の殺人』、出典はあいまいなんですが、ある人が笠井潔がこの作品についてすばらしいと。何故かというと、現代の若者が描かれていると。
清涼院 『霧越邸殺人事件』の解説ですね。
A それが非常に的外れだと思うんですよ。あくまであの主題はトリックじゃないですか。誉めるところをそういうところにもっていっちゃってヤバイんですよ。感覚がずれてる。
B 笠井潔はまたねぇ別の所か同じ所か知らないけれど『十角館の殺人』を社会派だと言ってるんですよ。動機の一気飲み急性アルコール中毒というのがむっちゃ社会派だといってるんですよ。それ、ちゃうと思いません? 日常茶飯事やん。社会派ちゃうやん
清涼院 やっぱりね、お年を召された評論家とかがよく若手新本格派作品とか人間が書けてないとか言うじゃないですか。それはおじさんからみて若者中心の物語が理解できないというのがあると思うんですね。だから若者だったら共感できることでもおじさんたちからみたらこういう若者の心理はリアリティがないからそこで人間が描けてないということになるんですね。だからぼくとかもね、読者としておじさんたちが書いたって失礼な言い方ですけれど、本を読んだりするとね、おじさんが書く若者というのにすごい違和感があって、そこにおじさんが書く若者に人間が書けてないんじゃないか、と思いたくなるときがあるんですよ。そんな訳で世代間の隔たりがあると思いまして、それで笠井さんにとって『十角館の殺人』は社会派にとれたというのがあると思いますよね。そのずれがうまいこと機能して笠井さんにとって『十角館の殺人』が社会派になっちゃったというか、綾 さんはそのつもりが無かったとしてもたまたまそういう時代性というか、綾 さんはそういう時代の人ですから体質からにじみ出るものがたまたま作品の表面にでてしまってそれを深読みした笠井さんがたまたま社会派だと納得したという感じだと思うんですよね。
A それはそうとして、評論家としてミステリーを取り上げるうえで、あくまでトリックを取り上げ、それがいかに新しいか、評論するならそれを取り上げないと……。ぼくはミステリーが嫌いなんで。
B じゃあ何故ここにいる。
A 清涼院さんの作品は物語が無いってところが面白い
B 身も蓋もない言い方をしますね。
A それはつまりたとえば『コズミック』にしろ最後にあれがある。ああいう犯人がでてくる。あんなことをしたら物語も糞もないじゃないですか(笑)。言葉遊びじゃないですか。もちろんあそこだけ切り取るとそうなるんですが。そうやって小説を壊すとそれまでが無駄になる。そこが面白かったんです。ミステリーは結局トリックだから物語性なんか無いんだ。まったく無駄なんだということを如実に示してることがすごくよかった。で、『ジョーカー』でもそうなんですね。そういうスタンスがあるんだ。ぼくはこういうふうに解釈したんですよ。その点はだいぶ意識されてるんですか?
清涼院 そうですね、ちょっとずれると思うんですけれど、やはり作者というのは、次の「メフィスト」にだす「読者探偵II」というのがそうなんですけれど、作者というのは読者の前ですごい無力な存在だと思うんですよ。本当に読み方を読者にお任せしますというか、なんでおまえここ読んでくれへんの? というのができないんですね。たいていなら作家の人というのは批判に対する答えというのを作品の中に用意してると思うんですよね。だからここを読んでくれたらこんな反論でるわけないじゃないかというのをできるんですけれど、読者に押しつけることができないというか、たとえば読者が今日はしんどいから流し読みしようと思ってですねすごい大事なところを見落としてそれで批判したとしても作者は破れるしかないんですよ。でも最後にああいう仕掛けを作ることによって作者の側で読者を操るというか読者に参加させざるをえない、いや、参加せざるをえない情況を作り出すというか。要するに『コズミック』も『ジョーカー』も『19ボックス』もなんですけれど、読者が参加しないと最後の答えが解らないようになってるんですよ。そういうことをやってみたいなとずっと思ってまして。で、『ジョーカー』の原型を書いたのは四年ぐらい前で。それ以来ぼくが書いた奴は全部ああいう仕掛けがあるんですよ。だからそういうことをやってみたいなと思いまして。そこらへんを次、十二月に出す四作品目でもあるんですけれど、さっき(机のうえに)たまごっちがありましたけれど、こんどは「つくもっち」というのが出てきましてね(笑)。そういうのでふざけてると思われてもいいからとりあえず読者に参加してほしいなというのがありまして。
B (笑いながら)「つくもっち」で何を聞こうとしたか忘れちまったよ。ああ、西之森創嗣って……。
清涼院 ああ。もちろん西之園萌絵と森博嗣と犀川創平とを足したんですけれど。
B え、そんなんしていいの?
清涼院 いいの? っていわれても……
B いいの? とか思ったんですけれどね。
清涼院 うーん、ダメといわれたら謝るしかないですね。
B でもこれ森ファン読んだら怒りまっせ。
清涼院 うーん、でも喜んでる人たくさんいますから。
B あと、全然関係ないですけれど知り合いが同じ名前で殺されてるんですよ。これ全然関係ないですよね。
清涼院 それ全然関係ないです。たまたまです。
B さっき言おうと思ったんだけれど、読者を参加させることで答えを導くというのは一種の本格ミステリー、ガチガチの推理ものの物理トリックだぜぇとかアリバイだぜぇといったああいうやつからの逃避のように見えるんですけれど。
清涼院 それはあるでしょうね。そうとられても仕方ないというのはありますし。ぼくもやっぱりガチガチの物理トリック重視のものを書いてみたいなというのもあるんですけれどいまはまだ興味が全然別の方向に向いてるというのがありまして。だから逃避ととられてもそうですというか、それでもいいんですよ。
B あと、メタ推理のメタという言葉の使い方が文中に説明されてるじゃないですか。でもね、あれはアンフェアすれすれちゃいます?今までの本格推理的に。最初読んだときにすごく思ったわけですよ。
清涼院 メタ推理に関してはですね、こういう言いかたしても無意味なんですけれど四作目に掘り下げて書いてまして。それはまあメタ推理って一体何なんだという質問がすごい多かったんですよ。それでぼくも作者の姿勢を明確に示さなければいけないなと思いましてそこらへんは四作目で明確に書いたつもりなんですけれど。
B メタっていう言葉を哲学の授業で学んだように言うと、論理的、形而上的ではあるんですよね。考察を経て最後に出てくるのがメタ? という感じにプラトンのイデアとかなんかやったんですけれど。
清涼院 メタという言葉は新本格の作家の先生がたはですねちゃんとした定義は誰も思いついていないというか、定義づけてない段階だと思うんですよ。だから一人一人の作家が、ぼくも御意見をうかがったことがあるんですけれど、やっぱり皆さん言うことがバラバラというか、メタという言葉についても全然違うんですよ。笠井潔さんなんかはかなり前からメタミステリーという言葉を使ってますけれど、それにしてもやっぱり笠井さん流の解釈であって、他の人が一〇〇パーセント賛同できるものじゃないんですよ。だからあれはあくまでぼくの作品の中でのメタであって一般的に通用するものとは思ってませんね。
C 『コズミック』なんですけれど、「メフィスト」の座談会でこれをモダンホラーとして書かれたということなんですが……
清涼院 ちょっとね、書き方は違うんですよ。モダンホラーにしようとは思ったんですけれど、モダンホラーの書き方はしていないと思うんですよ。そこらへんはちょっと上手く説明はできないんですけれど。書くときの作家の側ではスピリットというのがあると思うんですよ。モダンホラーのスピリットで本格ミステリーを書いたという感じなんですよ。文体とか話のもっていき方とかモダンホラーとちゃうやんけといわれたらすみませんというしかないんですが。
C あと、『コズミック』を含めたJDCシリーズをミステリーのパロディとして受け取ってるんですけれどそこらへんはどうなんでしょうか。
清涼院 そういう読み方をしてくれるとありがたいなというか、そういう面も確かにありますんで。『コズミック』のあとがきでぼくはミステリーに属するものだと思ってますといってるんだけれど、それは広義のミステリー、というかいわゆるエンターテイメント的な意味で用いたんですよ。だから本格ミステリーというと話は別で、自分でも完全に本格ミステリーに属してるとは思ってませんし、かすってるかなという感じなんですよ。広義のミステリーには入れてほしいなというのがあるんですよ。だからあそこでぼくがミステリーに属すると書いたことが、本格ミステリーに属すると書いてるととらえられることがおおいんですけれど、それは作者としては違いまして、それ以降は本格推理とミステリーと区別して書くことにしてるんですけれどね。
C 名探偵が多すぎて探偵のありがたみがなくなってるような……。
B それ私も思った
清涼院 それは今のミステリーバブルの時代では全体にも言えると思うんですよ。昔で言えばカリスマ的な探偵、日本国民全体に親しまれる探偵がいたとするじゃないですか。いまはもう作家さんがたくさんいてそれぞれが名探偵みたいなのを出してますんでミステリ界全体をみても名探偵の飽和状態だと思うんですよね。そういうのを茶化すというか、皮肉るというか、もう一度考え直しませんか? というようなところもあるんですけれどね。
B さっきのミステリーバブルというのは造語ですね?
清涼院 それはもちろんそうです。
B それはミステリーが氾濫してる世の中だからということですか。
清涼院 そうですね。
C 探偵の推理法とかありますよね。集中考疑とか理路乱歩とか。そういったものは特撮ものとかの影響とかはあるんですか。
清涼院 やっぱりあるでしょうね。子供の頃から「少年ジャンプ」とかすごい好きでしたしよく指摘されるんですけれど、少年ジャンプ系の漫画、北斗神拳とか。そこらへんの影響というのは無意識のうちに出ちゃうと思うんですよね。ぼくが二回生の時に書いた作品は一応JDCものの完結編みたいなものだったんですけれど、それを綾 さんに読んでいただいたときにその時は(推理の仕方の)名前がちゃんと決まってなかったんですよ。中途半端な形だったんで。その時に綾 さんに助言をいただきまして「君はきちんとこの路線を突き詰めてミステリ版「聖闘士・星矢」をやらないかといわれまして。そういうのがありましていっちょやってやるかと思いまして。
B その、JDC最後の事件というのは『謎極』ですよね。
清涼院 そうですね。最後じゃないんですけれど、一応最後と思われてる事件です。
B (DとEをみて)ところで君たち固まって座って怯えてない?(笑)
D 嬉しいなぁと思って(笑)
B 嬉しいんなら前に座れ前に。
F あ、『コズミック』読んでて一つ気に掛かった事があるんですよ。「彩紋家事件」というのがあるでしょう。あれはいつ出るんでしょうか?
清涼院 JDCではいま書いてる奴の次になるんですよ。時期的には講談社から今世紀中に完結させるようにいわれてるんですけれど。
B それはJDCシリーズは世紀末に咲いたあだ花にしたいと考えてるんですね。
F 『コズミック』のとき(「彩紋家事件」のこと)はほんまに引っ掛かりを感じたんですよ。
清涼院 ぼくも読みたいんですよ。
F えー!
B でも書く人は解るよ。はよ完結さして読みたいというのは。
清涼院 はよ完結さしてくれという要求が自分のなかにあるんですよ。
B 解るような気がする。
清涼院 もう一人自分がいたら尻を叩いてでもというのが。
B 解る解る(笑)。二人に分裂して私学校にいくからあんた書いときーとか。
清涼院 その時は二人ともさぼるでしょう。お前こそやれとか言って(笑)。
D 「メフィスト」の座談会の写真をみて友達がいいだしたんですけれど……。
B しょうもない話題か?
D やめましょうか?
B いやいいよ。
D (将棋の)羽生名人に似ていると……(一同爆笑)
清涼院 それいわれますよ。
B じゃあしょうもない質問第二弾。『コズミック』の裏の写真あるでしょう。髪切ったよね?
清涼院 髪は何度も切ってますよ。
B その長さになにかこだわりがあるんですか?
清涼院 いや、全然無いんですけれどねぇ。
B じゃあ肩より短くする気ない?
清涼院 ぼくはキムタクがロンゲブームを作る前からのばしてるんで肩より短くするとそれからのばした奴みたいで嫌だなぁと。あとはロンゲの清涼院みたいなイメージを作っておいて定着したらばっさり切っちゃおうかなとか。そういう話題作りの為においてあるというのもあるんですけれど。
B 今世紀が終わった切りましょう。
清涼院 わからないですねぇ。
C これもしょうもないんですけれど、『ジョーカー』の最後に原型が中編とかいていましたけれど……
清涼院 それは作風というか、作者の思い入れというか。これは自分勝手な理論なんですけれど原稿用紙一枚でも作者が長編だと思ったらそれは長編なんですよ。あの原型となる作品を中編のつもりで書いてたんで。それで中編という表現を使ったんですけれど。
C あれの方を読んだときに原型は並みの長編より長いぞと思ってたんで。
清涼院 原型の方は七〇〇枚なんでけど、呼んだ人の反応だと三五〇枚というのがあったんでじゃあ中編でいいかと。
B (『コズミック』を指して)このレベルで長編なんですよね?
清涼院 ぼくは本当のことを言うと、長編とか短編とかそういう言い方したくないなぁというのがありましてそれは今後ぼくの作品の中で追求していきたいなと思うんですよ。
B (『コズミック』を指して)でもこの厚さでも書いた本人が短編やと思ったら短編なんですね?
清涼院 それはまあそうですよ。ぼくの勝手な理論ですけれどね。反論してくれというわけじゃなくて、ぼくのスタンスとしてはそう言う感じなんですよ。
G ページの真ん中が全部白紙とか(笑)いって。そこまであるんやとかいって。
清涼院 だいぶ短くしたんで。
B えー!
清涼院 「メフィスト」とかでもいったんですけれど、粗筋段階から絞り込んで捜査とかばんばんカットして。本当はもっと長い話なんですよ。いま書いてる六作目が無茶苦茶長い話で、編集者に『ジョーカー』より長くするなよといわれてまして、すごい苦労してるわけですね。
B というか文庫にならんよね。サイコロ文庫。
清涼院 文庫版のときは順番入れ替えたいと思ってまして。『コズミック』と『ジョーカー』をあわせて四つに分けまして順番を入れ替えたいなと思いまして。上下上下ということですけれど。タイトルを少し変える予定ですから。
B 版型によってタイトル変えられたら……。
清涼院 判るように変えるつもりですから。
B だまされて二冊買うよなあ。
清涼院 ぼくは騙すような事はしません。基本的に。納得したうえで買いたい人は買ってもらうというか。
B ある意味騙されてるよ。
清涼院 そういわれると仕方ないんですけれどね。
B (『コズミック』に)合理的密室の解決がなーい!
清涼院 それはメフィスト賞に出そうと思ったときに、言い訳じゃないんですけれど普通の本格ミステリーみたいにするのだけは絶対嫌だなぁと思いまして。「メフィスト」がわざわざ究極のエンターテイメントをもとむといいながら、今までの新本格みたいなのが集まったらまったく意味ないやんけと思いまして。それで書いてるときも、もうちょっと本格部分に力を入れたほうがいいやんけと思いながらもそこらへんはブレーキをかけてできるだけモダンホラースピリットをもたしてと考えたわけですよ。
B 本格部分ってあったけ? いや、まじで。
清涼院 それはまあ、一人一人の考えですから。
B ていうか、(『ジョーカー』の)トンネル効果密室はひどいよな。とか。
清涼院 そういう反論も結構あるんですよね。僕自身は、信じてもらえないかもしれないですけれど、新しい可能性を探りたいなと思うんですけれどね。まあいままでの物差しで測ったら絶対に許されないことをやってますんでそういう批判は受けようと思ってますよ。ただ、僕自身はいろんなことを考えてミステリーの新しいところを探ってるというのは事実なんですよ。あくまで本人の問題で他人からそんなんあるかといわれるとそれまでなんですけれど。
H やっぱりミステリーにこだわりますか?
清涼院 そこらへんは、さっきもちょっと言ってたんですけれど、ぼくにとっては物語を盛り上げるためのテクニックの一つの方法というか、それで一番重視したいジャンルなんですよね。
E ミーハーな質問でもいいですか(笑)
清涼院 どんな質問でも。
E 龍宮って彼女いるんですか?(一同爆笑)
清涼院 それはぼくも判らないんですよ(笑)
B いやぁどーっと体の力抜けたよ。
清涼院 実は龍宮は将来結婚する可能性が高いんですよ。
E え? 誰となんですか?
清涼院 それは秘密なんですよ。
E 作者としては九十九十九と龍宮とどっちが好きなんですか?
清涼院 ぼくは龍宮が好きというより九十九が嫌い。キャラクターは平等に愛したいんですけれど。でも九十九は嫌いって言う人結構いるんで九十九のせいで叩かれること多いんですよ。
E 批判されるから嫌いなんですか?
清涼院 そうですね。JDCはぼくは好きなんですけれど嫌だというのがありまして。自分自身愛着がないといえば嘘になるけれどメフィスト賞に出すときにJDC出したら絶対叩かれるなというのがわかってたんですよ。編集長じゃなくて一般読者にいま出したらJDCは絶対叩かれそうだな、くさいなって解ってたんですよ。でもJDCを好きになってくれる人もたくさんいますし、この『コズミック』という事件を描くならJDCを使いたいなと思ったんで。本当はJDC書くつもり無かったんですよ。でも、メフィスト賞できて『コズミック』出したいなと思ったんで。その時にJDCをもう一回やってみようかと思いまして。
E じゃあ『コズミック』は全然違う別の設定で?
清涼院 そうですね。JDC使わない別の設定あったんですよ。昔書いた原型となる作品はあるんですけれど、それはちゃんとJDC出てきたんですよ。でも、ぼくが考え直してたバージョンではJDC出てこないんですよ。
E じゃあ、一人の探偵で?
清涼院 いや、探偵すら出てこない。いわゆる探偵じゃなくてという感じでね。
E じゃあ解決しないということですか?
清涼院 そんなことないですよ(笑)
C 『コズミック』の犯人設定でJDCじゃないものをやると。
清涼院 そうですね。でもそれだとおかしいというか、できないんですよね。やっぱり。JDCというああいう一種無茶苦茶な設定があるからこそこういう話にもっていけるというか。
B 解決……ゆったらしてへんよな……解決してるかしてないか解らへんと。
G 言ったら机上の空論的にはしてるんだけれど。
B 大体、この犯人やったら自白は得られんやろ。
G Iは?
I いや、もういいよ。嫌いな奴誰や? とか
A 新本格とか、綾辻行人に代表される。古いですよね。
清涼院 古いですね。
B おー!
清涼院 それはぼくは古いと思いますよ。
B おー! どうしよう!
清涼院 これは別に削除しなくてもいいですけれど。一読者として古いなと思ってますんで。でも、新本格といっても一括りにできないじゃないですか。単純に。いわゆる新本格と呼ばれる先生方もですねまあ言ってるところあるじゃないですか。新本格の「新」は温故知新の 「新」だと。だから本当の意味での「新」じゃないと思いますよ。
A 新本格というときに、ミステリーのジャンルが主題になったから失敗した。いや行き詰まったと。
B 新本格って行き詰まってるんですか?
A 行き詰まってるというか、出版数が減ってる。
G 最近新本格の中でこれええわぁとか最高というのがない。
A でも、京極さんにしろ、清涼院さんにしろ、ミステリーというものを利用してる。ジャンル形式を利用してる。そこがすごく現代的だなと。
清涼院 利用してるというと怒る人もたくさんいると思うんですけれど、一番それが的確な表現かなと思うんですよね。京極さんもインタビューなんかみてると明らかにそういう感じなんですよね。ご本人の意向は知りませんけれど。ぼくが受ける印象としてはそうですね。だから、京極夏彦の読者って新本格の読者と全然スケールが違うじゃないですか。そこらへんはやはりミステリーに拘泥しすぎなかったからだと思うんですよ。だから京極夏彦の読者の中にはミステリーとして読んでない人もたくさんいると思いますね。
A 俺もミステリーとして読んでないよ。
B 魂が抜けてしまった。
A ぼくは森博嗣さんの本が物凄くつまんないんですけれど。まあ処女作の理系的なところはすごく面白かったんですけれど。なぜ今更こんなことしてるの? というのが……。
B そもそも『すべてがFになる』は**が犯人やないと思いますけれど。
A あれは密室**********……
B *****。あれは*******************た。そうやろ? ***るだけやんていう。
清涼院 あれと同じネタが山田風太郎にあるらしいですね。編集者はトロイの木馬といってましたけれどね。
A 清涼院さんは森博嗣さんが好きなんですか。
清涼院 ぼくは好きですね。だからあれが大っ嫌いだとかミステリーとしてつまらんということやネタが見え見えやということもすごい判るんですけれども個人的に色々なところで好きだなと思ってますけれど。やっぱり創作家として情熱がある人が好きというか、全然情熱無いかもしれないですけけれど、かなり書いてるでしょう? 継続は力なりというか、それだけ書き続けられることはすごい才能だなと思いまして。そこをまず評価したいですね。だから西澤保彦さんなんかもあれだけ書いてる時点ですごいなと思いますね。
A 森さんとのギャップを感じません?
清涼院 森さんとぼくですか?
A ミステリーの扱い方について。
清涼院 それはあるでしょうね。ぼくはあると思います。
B いまミステリー右翼としての孤立感を感じた。
A 彼女、極右なんですよ(笑)。
J ミステリーの形式というか、そういうのを利用したいというのですか。
清涼院 そうですね。これも信じてもらえないと思うんですけれど、ぼくはミステリーというのをもうちょっと他の人に読んでもらいたいなというのがあるんですよ。自分なら読む分にはすごい純粋なミステリーが好きだというのもあるですが、他の人の意見を聞いてみるとミステリーだったら絶対に読みませんという人がいるんですよ。京極さんなんかそういう枠をとっぱらってかなり広げたと思うんですけれど、京極さん読んだから新本格全部読もうとかそういったところまではまだいってないと思うんですよ。ぼくが『ジョーカー』を書いたのももうちょっとミステリーに対する偏見を取り払ってほしいというか、いろんな人にさまざまな形でミステリーを楽しんでほしいなというのがありましたんで。それは原型を書いた四年前から思ってたんですけれど。
B でも、『ジョーカー』は逆に偏見が増えるかもしれない。
清涼院 まあそういう意見もあるでしょう。
A 思ったのは『19ボックス』にしても基本的に物語の扱い方が基本的には同じだと思ってるですよ。物語をどう扱うかということで基本的な意味は一緒でその方向性が違うとぼくは読んだんですけれど。
清涼院 そう読んでいただけるとぼくは有り難いですね。
A そう捉えると、基本的にじゃあいつまで続られるかというのがあるんですけれど、そこらへんはどうなんでしょうか。おおむねみんな気づいてないと思うんですけれど。
清涼院 でも、作品を出せば出すほどそういう読み方をしてくださる読者はいるわけで。着実に増えてますんで。だから続けていくのは大事かなと思いますけれど。
B 継続は力なり……
清涼院 それで『ジョーカー』の話にもどると『ジョーカー』読んでから綾辻さんの作品を読みはじめましたという読者が結構たくさんいらっしゃるんですよ。それでぼくは無駄じゃなかったなというか。ぼくの読者層は下がすごい低くて最近は小学生も珍しくなくて(一同どよめく)。
B (『コズミック』を指差して)これで読書感想文かかれたらいややろ?
清涼院 弟の小学生が喜んで読んでますとか。たぶんわかってないと思いますけれど。僕自身は小学生が読めるとは思ってなかったんですよ。実際作者の危惧などどこふく風というか、三作とも読んでますというのがありますからね。
B そいつ無茶苦茶天才やろ。
清涼院 でも編集者はそれで呆れてるというか、小学生が許すようでは駄目だよとか言って。
A 既成の価値観がないぶん面白いんでしょうね。ミス研の連中はなかなか楽しめない。
B 一時これのせいで雰囲気無茶苦茶険悪じゃなかった?
J そうなんですか。
G Bさんが中心となってね。
清涼院 去年(「このミス」に)書いてましたね。ご迷惑おかけしました。
A ぼくが強権発動して「このミス」で一位にしました。
清涼院 ありがとうございます。
A 大ブーイングでOBもおしかりをうけました。
B しかも「このミス」のコメントになぜ選んだか書かれていないなとか。書きたくないですよ。強権発動のせいで一位だなんて……。
C 「なぜこれが一位か」とか書いてたし。
B そら書くわ
A おおむねミス研でなり評判よくないですね。聞いていらっしゃると思われますが関ミス連では無視されてる。非常に、ぼくとしては間違ってると思うんですけれど。
B でも間違ってるという割りにはAさんの場合それを気にしてるじゃないですか。清涼院先生を呼びたいといったら最初にいったときに「それはやめといたがいい」(笑)。
A それは全体としてどうかということが問題で個人的にはいいけれど……
B 個人的にはいいけれど、社会的には駄目と。
A ああいう社会だから。どうですか?
清涼院 ぼくは招かれたら行きますけれどね。ぼくのミステリーに対する思いとかが伝わってないんじゃないかなていうか、ミステリーに対する捉え方とかですね。だから「メフィスト」の座談会ではできるだけぼくのミステリーの姿勢を明確にしようと思ったんですよ。だからあそこを読んでたらわかるようなことでもやっぱりまだまだ反対意見というか、そういうところの誤解がありますから。だからあなたに色々聞きたいことがあるからきてくれといわれたら喜んでいきます。
B 全然関係ないけれど、入場料千二百円取るし。千二百円密室伝説……。さむー。
一同 さむー
J じゃあ他のミス研では清涼院さんは厳しい扱いを受けてるわけですね。たとえば京大とか。
清涼院 京大もね、やっぱり聞いてみたらピンからキリまであるというか、今でも若い人から清涼院さん会ってくださいといわれたり飲み会とかしてくれますしね。
B それで清涼院さん呼びたいんですけれどと知人にいったらそれはみんながボイコットしていかないか、それとも笑いにいくかどっちかだといわれたんですけれど。
清涼院 まあそれはそれでいいかなと思いますけれど。
B まあ笑い者にされたらされたでそれはほんまの『ジョーカー』やし。
清涼院 それは実際そうでね、『コズミック』を読んで最悪という読者でも最悪といい続けることでストレスの発散になったり。それだけ激怒するような作品だったら記憶に残るだろうから光栄かなと思ってますけれど。
C 『六枚のとんかつ』読まれましたか。
清涼院 ぼくは好きですけれどね
B やっぱり。
清涼院 でもミステリー界でたたかれてるという事は耳にしてますしね。
J ミステリーとしてというよりも小説としてどうかなと。
F ミステリー界って変に意固地なところがありますね。新しいものを入れずに心を開こうとしないというか。
J そういう意見やったら島田荘司とか綾辻行人の時も受けたんじゃないかなと思うんやけど。
清涼院 綾辻さんがデビューされたときは実際たたかれたと聞いてますしね。だから綾辻さんがでたときはそれまでの本格の人がこんなの本格じゃないとか言ってたたいてたし、今だにそういう人もいるみたいですから。
J 久米宏がいってたんですが、自分の事きらいや言う人と好きや言う人二人おってこそ本当に有名な人になれるということをいってたんですが、そしたら清涼院さんもそういうふうに有名になっていかれるんやろうなと思いまして。
清涼院 本当にきれいに反対意見と賛成意見がすっぱり別れるというのはありがたいなと思いまして。ぼく自身はまだまだ若いんで未熟者なんで、誉め殺しにされたら絶対につぶれちゃうんですよ。そこらへんは自分で解ってるんでそれが恐いなというか。だからぼくをつぶそうと思ったらとりあえず誉め殺し。やっぱり反対意見がでたらなに糞と思いますからね。こういう意見があるなら次はこういう手でいってやろうと。それが創作エネルギーに繋がっていくんですよ。
B これだけ是か非かで別れる作家もいないですよ。
清涼院 それは本当にありがたいと思いますよ。
J 今時めずらしいですよ。
F 後まで残るんちゃいますか。
清涼院 いつまで経っても認める認めないで。
B あ、これ初版やったっけ。とっとこか。初版やー。とか言って引っ越しの時捨てたりして(笑)。今の冗談やけど。
A 清涼院さんの作品は日本の大衆文学史上金字塔だと思うんですけれど。
一同 おー!
A こんなに新しいものもないんで。でも個人的な話をすると嫌いなところたくさんあるんですけれど。
清涼院 でも、大衆文学史上最悪といってくださる人もいるんで。これでちょうどバランスがとれたかなと。
A それはその人が間違ってると思うんですけれど。
B でも最悪と傑作というのは紙一重であり、裏表であり結局たいして変わらんと思いますけれどね。
清涼院 だから出版した直後に講談社の愛読者カードというのが送ってくるんですけれどそれを読んでると本当におかしくなりそうなんですよ。これは生涯最高傑作であると書いてる次に駄作だと書いてあったり。これが丁度交互にくるんですよ。だから喜んだ後にがくっときますからね。
K 『コズミック』が少年探偵団のインスパイアであると指摘されたことはありますか。
清涼院 ないですけれどぼくはあるとおもってます。JDCを作ったのは今の時代を見回して丁度アニメとか戦隊ものとか流行ってましたし、アイドルもばら売りじゃなくまとめて売る時代ですから。やっぱり一人一人の需要が多様化してると思うんですよ。だから本当のカリスマというのがでにくくなってるんで。名探偵にしても一緒だと思うんですよ。すごいかっこいい奴でも嫌いという人もいますから。何人か数をそろえたらどれを好きになってくれるかなと思いまして。それでJDCを作ったというのもありますし。
K 設定じゃなくトリックなんですが……
清涼院 トリックの方もありますよ。やはり少年探偵団あたりになると誰でも影響は受けてるんじゃないですかね。無意識のうちに。だから深読みしていけばいくほど影響を受けてる部分が出てくると思うんですよ。
B なんですか? 少年探偵団読んでるんですけれど……
K 証言者の言うのが全部嘘やというのが『****』
B ああ。
J 基本的に江戸川乱歩の影響は強いですか。
清涼院 それはあまりないと思います。
B それより読書傾向教えてください。
清涼院 無茶苦茶ですね。よく読むのはベストセラーとか。あとタレント本好きなんですよ。というのはベストセラーとか流行る必然性とかありますし、そんなに多くの人の心をつかむのはなにかがあるからだと思いますんで。ベストセラーなんかできるだけチェックしたいなと思いまして。最近は資料なんかを読んでますね。『コズミック』なんかも挙げてる奴は少ないですけれどかなり読んでますよ。あんまり参考文献並べるのはかっこ悪いなと思いまして。
F でも参考文献なんかを並べると逆にそのことをまったく知らんということをさらしてしまうんじゃないでしょうかね。
清涼院 それはいいと思いますよ。やっぱりかっこつけても仕方がないだろうというのがありますし、知らないなら知らないでいいですから。忘れてたという可能性もありますしね。こういうのを抗議されたら仕方ないというか。
B でもかっこつけて本たくさん読んだのに書かないで、後でなんとかの丸写しやといわれるのはかっこ悪いですからね。
清涼院 それはないようにしますよ。無茶苦茶参考にしてる奴は書かないといけないと思ってますし。それを書かないと卑怯というか。問題が出てきますからね。
B 登場人物に〇△□という人がいるんですが本物に「お前〇△□やろ」といわれて無茶苦茶ショックでした。つらかった。
清涼院 〇△□にしても名前だけで本人のことは意識してないですし。でも作中の〇△□にもモデルがいるんですね。あなたが創ったんじゃないんですねと指摘されましてね。
この後はお互い清涼院氏の悪口を言っていたことの暴露合戦になりめでたく(?)幕を閉じる。
最終更新:2010年08月02日 11:50