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「しぶといわね、何か良い方法はないかしら。大技使っちゃだめなのよね?」

白く明るいドーム状の結界の中で、影の魔女・エルザマリアと対峙したマミと、それを見守るほむら。

かれこれ10分近く、無数の触手のような攻撃を避けながら一方的に銃撃を加え続けていたが、本体を守る太い木の幹のようなものに阻まれて

有効なダメージを与えられずにいた。

(以前戦った時もそこそこしぶとかったけど、ここまでとはね。三人がかりだったからか・・・。銃とは相性が良くない?・・・木の幹か)

「少しだけ待ってください、考えがあります」

「わかったわ。でもなるべく急いで頂戴」

触手を避け続けるために動き回るのを余儀なくされていたマミは、息が上がり始めていた。

ほむらは盾の中をまさぐって手製のパイプ爆弾を取り出し、ばらして火薬を抜き出そうとする。

「しまった!きゃぁ!」

「巴さん!?」

パイプ爆弾を分解し終えたほむらが声の方へ振り向くと、触手の一本に空中で足を捕まれたマミがバランスを崩し、地面に叩きつけられようとしていた。

とっさに時間を停止させたほむらは魔女に近づくと、本体とそれを守る木の幹に火薬をふりかけ、マミを掴んだ触手の根元を取り出した刀で切断、

空中から落下するであろう着地地点に回りこんだ。

「!? 暁美さん!・・・ありがとう、助かったわ」

足を掴んだ触手が突如断ち切られ、背中から落ちようとしていたところを抱きとめられるマミ。

「話は後で!あれをもう一度撃ってください」

「了解!」

地面に下ろされて攻撃を避ける為に散開した後、再び魔女を撃ち抜くと、浴びせられた火薬に引火して瞬く間に幹と本体が燃え上がる。

「すごい、これなら・・・」

「木みたいなだけあって、よく燃えますね。止めを」

パチパチと音を立てながら炎に包まれて苦しみ続ける魔女。その触手はまるで溺れて助けを求めているかのように、四方にうねって攻撃の手は止んでいた。

「あなた、なかなか手強かったわ。でも相手が悪かったわね。私と暁美さんのコンビは無敵よ」

不敵に微笑んだマミが右手をかざすと、背後の空中に無数のマスケットが並び、振り下ろすと一斉にそれらが火を噴いた。

放たれた弾丸は一瞬にして盾になっていた幹をズタズタに引き裂き、そしてまるで両手で頭を抱えるような格好で燃え上がっていた魔女の本体を、穴だらけに撃ち抜いた。

それに連動するように周囲を覆っていた結界が崩れはじめ、白く光っていたシャンデリアのようなものがガラスの割れる音と共に周囲を揺らし、

夜の建設中のビルが姿を現す。


「何もあそこまで派手にやらなくても。幹の無い角度に回り込んで数発撃てば充分だったのでは」

指摘に自覚はあったのか、悪戯っぽく舌を出したマミは軽くおどけてみせる。

「避けてばかりであんまりダメージを与えられてなかったから、つい。ごめんなさい」

変身を解いて魔女の残したグリーフシードを拾い上げると、かすかにくすんだオレンジに輝く宝石を浄化する。

「余った分は巴さんがもらってください。私は見ていただけですから」

「だめよそんなの。暁美さんもちゃんと浄化して?そんなことを言ったら、私のピンチを救ってくれたのも、魔女を倒したのも暁美さんよ?」

「それでも・・・私は巴さんに危険を押し付けていた。それを使う権利はありません」

負い目を隠せないほむらは、視線をそらして俯いていた。

そんな後輩の頑なな態度に苦笑を浮べたマミは、まだ変身を解いていなかったほむらの左手に腕を伸ばし、その甲に輝く宝石にグリーフシードを押し当てて有無を言わさず浄化してしまった。

「あ・・・すみません」

「どうして謝るの?暁美さんはパートナーでしょ?まだ使えるし、これは預かっておくから、これから手に入れたグリーフシードは二人で共有しましょう」

「でも・・・私が協力してもらっている立場ですから、持っていってくれてかまわないのに」

「そんなに気にする事ないわ。今の役割分担を提案したのは私なのよ?」

自分で武器を生成できず、その代わり盾の中に色々蓄えることが出来る。しかしそれにも限りがあるので、なるべくワルプルギスの夜に備えて温存したい。

そんなほむらの説明を聞いて、後方支援の役割を提案したのはマミだった。

「まぁ・・・暁美さんから見たら私の戦い方は頼りなくて危なっかしいんでしょうけど」

「そんなことないです!・・・巴さんが協力してくれて、とても助かっていますし、頼りにもしています」

勝負に勝って私に命令できるのは貴女の方なのに・・・と続けようとしたマミだったが、効果がなさそうだと思い直してほむらの手を引いた。

「ん。それじゃあ今夜も私の部屋に泊まっていって?暁美さんとはまだまだ親睦を深める必要があるみたいだし」

悪戯っぽく笑うマミは、あの寂しい部屋に一人で帰らなくて済む・・・なんて単純なことが、本当に嬉しく思えたのだった。




「さって、どんなヤツが出てくるのか楽しみっすね」

「もう、そんな風に言うなら今からでも帰ってもらうわよ?」

「えへ、すみません。でも孵化しかかってたコイツを見つけたのは私とまどかなんだから、最後まで見届けさせてくださいよ」

「正確には私だけどね。さやかちゃん、遊びじゃないんだから茶化すようなことを言っちゃだめだよ?」

「だから反省してるって。百戦錬磨のマミさんと時を止めるなんてインチキ技が使えるこいつが一緒なんだから、どんな魔女が出てきたって余裕っしょ」

(確かに今の私と巴さんなら、よっぽどの相手じゃなければこの子たちを守りながらでもなんとかなるけど・・・)



下校中のさやかとまどかが、河川敷の橋の近くで孵化しかかったグリーフシードを見つけたと連絡してきて、すぐさま合流したマミとほむら。

その場の勢いで、二人も魔女対峙に同行することになってしまっていた。

「それにしても鹿目さんたち、最近よく魔女や使い魔に巻き込まれるわね」

「契約していないとは言え、まどかの才能はかなりの物だからね。そういう類のものを感じやすくなってるんじゃないかな?」

そしてもう一匹、下校中の二人に付きまとっていたキュゥべえもそのまま魔女退治に同行しようとしていた。

「はぁ、アンタよくマミさんの前に顔を出せるよね。厚かましいって言うか・・・」

「穢れを溜め込みすぎたグリーフシードを処理できるのはボクだけなんだし、キミたちだってボクが一緒の方が何かと便利なはずだろう?
 目の前でマミやほむらが魔女に殺されかかったら、契約してでも助けられた方が良いじゃないか」

「黙りなさい。・・・そんなこと、ありえない」

二人が同行する事に渋い顔をしていたほむらも、未だに契約を諦めていないその言いざまに思わず口を開く。

「キュゥべえ?もしグリーフシードの処理を頼みたくなったら、その時は呼ぶから。・・・あんまり変な事を言うようなら、魔女のエサにしちゃうわよ?」

穏やかな口調ながらも目は笑っていないマミが、子猫にするようにキュゥべえの首の裏を掴んで持ち上げながら諌める。

「わかったよ。大人しく見てるから、野蛮な事をするのは止めて欲しいな」

マミの手から放されてまどかに擦り寄ろうとするが、ほむらに睨まれて渋々少し離れたうしろを歩く。

「あはは・・・でも、どんな魔女が出てくるんだろうね。ほむらちゃんの格好良いところが見たいなぁ、なんて」

険悪な雰囲気に耐えかねたまどかが、乾いた声で思わず軽口を並べてしまう。

「何度も言うように、遊びじゃないんだから・・・」

「これは・・・」

「なんじゃこりゃ!?」

ほむらがまどかの軽口を諌めようとしたその時、先頭を歩いていたマミが立ち止まり、続いてさやかが驚きの声を上げる。

頭上を暗く覆っていた橋の下を抜けると、そこには高く広がる青空に幾重もの学生服が干されたロープが張られていて、

そのはるか上方にセーラー服をまとった六本足の魔女が、蜘蛛のように張り付いていた。委員長の魔女である。

「シュールね・・・」

「ちょっと可愛いかも」

「制服のデザインが古臭いわ」


各々がそれぞれ感想を口にしていると、魔女のスカートの中から無数の木とパイプで出来た昔ながらの勉強机や椅子が、4人にめがけて降り注ぐ。

「美樹さん鹿目さん、下がって!」

マスケットを取り出したマミがそれらを撃ち落そうとするものの、あまりの数に捌ききれるはずもなく、たまらず飛びのく。

「きゃーっ!」

さやかとまどかはほむらに庇われてなんとかそれらから退避する。

「まずいわね、あの高さじゃこっちの攻撃は届かない。・・・暁美さんは二人をお願い!あれは私がなんとかするわ」

斜めに傾いて数本の異常な長さの電柱が伸びているが、それらよりも更に高い場所に陣取っていることが、魔女の居る位置の高さを物語っていた。

「待って、巴さん一人じゃ・・・」

「おっ!」

リボンを伸ばして手近なロープを手繰り寄せ、それを魔法少女の身体能力で文字通り綱渡りで駆け上がるマミ。

そこに先ほどの机や椅子よりもはるかに高速で、無数のセーラー服姿のスケートを履いた使い魔の群が降り注ぐ。

「くっ!」

「マミさん!」

(やっぱり・・・この子たちを庇ったまま今まで通り戦っても、アイツには勝てない)

そう判断したほむらの行動は早かった。




「くっ!」

迎撃を諦めたマミが離れた別のロープに跳び移ろうとしたその時、耳をつんざく派手な銃撃音と共に、何も無い空中に突如弾幕が現れ、

迫り来る使い魔の群を塵へと消し去る。

魔女本体に向かってもばら撒かれていたそれは、光と共に瞬く間にセーラー服をズタズタに引き裂くと、続いて飛来した二発のロケット弾が

文字通り粉々に打ち砕いてしまった。

「な・・・」

事態が把握できずに立ち尽くすマミは、突如魔女が倒されてロープが消えたことにより、地上に引き戻されてストンと着地する。

「・・・びっくりしたぁ」

「けほけほ・・・アンタ一体何やったのよ!?」

余りの銃声に耳を覆ってへたりこむまどかと、凄まじい対空砲火でもたらされた硝煙に涙目で咳き込むさやか。

「私の魔法で魔女を倒したのよ・・・」

「魔法って・・・こんな火薬くさい魔法があるかー!」

「あら、そうでもないわよ?私の銃だって、実は大技の時は火薬臭かったりするし」

(暁美さんもさすがに重火器を撃つところをこの子たちに見られたくはないのね。・・・それにしても、あの盾の中には何がどれだけ入っているのかしら)

結界と共に消えていく、ほむらの足元の異常な大きさの大量の薬莢に気がつき、息を呑む。

(あんなお遊びの決闘なんてしなくても、彼女が本気を出せば私はひとたまりもなかったのね・・・あぁ、暁美さん)

「それにしたって、これじゃ連携もくそもないじゃん!マミさんの指示を無視してさ」

「そうね・・・私に貴女たちを守りつつ、巴さんを援護できるほどの力があれば良かったのだけど。ごめんなさい」

「美樹さん?守ってもらった身で私のパートナーを苛めないでくれないかしら?許可した私が言うのもなんだけど、貴女たちが一緒じゃなければもっと違う戦い方もできたはずだしね」

「あはは、そうっすよね。すみません」

「そうだよさやかちゃん。・・・それにほむらちゃん、なんだか火薬の似合う女って感じで、格好よかったなー、ははは」

何が起こったのか薄々察したまどかが、苦笑いを浮べながらフォローする。

「何よその無理矢理な誉め方?あんた、どんだけほむらの事が好きなのよ」

「そ、そんなんじゃないよ!もぉ何言ってるの!」

「ふふっ、そうね。確かに出合った頃の暁美さんは冷たくてそんな雰囲気だったけど。今はすっかり可愛らしくて、その表現は似合わないわね」

「と、巴さん」

「あの頃みたいにクールに『巴マミ!私が二人を連れて離脱する間、あれをなんとか引き付けなさい!』みたいに言われれば、
 軽くときめいちゃって、言われるままになっちゃいそうだわ」

(そっか、別に無理に二人を庇いながら戦う必要はないんだ・・・)

「そうですよね。私もほむらちゃんに怒られた時、怖いんだけどちょっとドキッってしちゃうかも」

「その時は私も『了解。でも、別に倒してしまってもかまわないんでしょ?』って返してあげるわ」

戸惑うほむらに向けてウインクしながら右手の親指を突き立てるマミ。

「マミさんカッコ良い!」

「でもそのセリフ、なんだか死亡フラグっぽくないですか?アニメや映画だと大抵、そういう事言って無理しちゃう人は助けがくる前にやられちゃうような・・・」

「こらまどかっ!」

「ふふ、そうね。でも冗談よ?そんな状況なら私も無理せず一旦撤退するわ。・・・さっきの魔女は、私が今まで戦ってきたのよりずっと厄介だった」

遙か上空から一方的に、それも広範囲に攻撃してきたさきほどの魔女を思い出し、思わず考え込んでしまう。

「確かに今の魔女は、ワルプルギスの夜以外で一人じゃ手強い数少ない相手ですね。もう一匹、更にやっかいなヤツが近い内に出るかもしれませんけど・・・」

繰り返した時間の中で、見滝原に現れた魔女たちを思い浮かべる。

「まるで見てきたように語るんだね、キミは」

後ろで沈黙を守っていたキュゥべえが口を開く。それと同時に、ほむらの表情も厳しいものに変化した。

「暁美さんはベテランで魔女に詳しい上に、少し先の未来が予知できるらしいのよ」

「・・・・・・」

「時間操作の魔術を使い、未来の出来事を語る。暁美ほむら、キミは・・・」

「とにかく!この街は私と巴さんが守る。・・・都合の悪い情報を隠して弱みに付け込むお前のやり方を認めたわけじゃない。予備の身体を無駄にしたくないなら、大人しくしていることねキュゥべえ」




魔女を倒した直後の和やかな雰囲気も、キュゥべえとのやり取りで一気に険悪なものになってしまった。

それを拭いきれないまま家路についた四人は、まずは一番近かったまどかを送り届け、途中でマミが抜けた後、

さやかを送り届けようとするほむらが沈黙を守ったままトボトボと歩いていた。


「まどかはともかく、私まで送ってくれるんだね」

「貴女もまどかも庇護が必要なことには変わりがないもの」

「ふーん・・・ほんと、あんた良いヤツね」

「・・・そんなことないわ」

「あるよ。相変わらず憎まれ口叩く私にも、やさしくしてくれてるじゃん?」

通学鞄を持ち替え、空いた右手でほむらの左手を掴むさやか。

「魔法少女としての使命を果たしているだけよ」

「なによ、マミさんの前では大人しいし、前は屋上でボロボロ泣いたくせに」

無表情なまま、僅かに頬を染めるほむら。

「やっぱ無理してるだけで、あの時のが地なんでしょ?愛いヤツめ」

「何言ってるの、あれは少し疲れていただけよ・・・勘違いしないで、美樹さやか」

「それよそれ!『美樹さん』とか『美樹さやか』とか、もうちょっと何とかならんのかね、暁美さんは。私もまどかみたいに『ほむらちゃん♪』って呼ぶわよ?」

「やめて・・・」

「だったら私のことも、ちゃんと『さやか』って呼びなさいよ。・・・私はもう、ほむらのこと友達だって認めてるんだからね?」

「・・・何よそれ。どっちがツンデレなのよ」

あまりにベタな言い回しに、思わず苦笑してしまうほむら。

「へへっ、やっとちょっと笑ったね。あんた、やっぱり笑ってる方が可愛いよ」

「キザなセリフね・・・」

「うっさい、ほんとはちょっと照れくさいんだから!それくらいほむらには感謝してるのよ、言わせんな!」

再び頬を染めるほむらに、照れ隠しでその肩に抱きつくさやか。

しかし一転、真面目な表情を浮べて静かに語りかける。

「あのねほむら。私、どうしても叶えたい願いがあるんだ。石ころにされても、戦いの運命を受け入れてでも、助けたいヤツが居るの」

「!?・・・だめ、だめよ!」

「どうして?覚悟だって出来てるよ。それにあんたやマミさんの力にだってなれるかもしれない」

「貴女はまだ魔法少女がどういうものか、わかってない!」

さやかの覚悟が本物だと理解して、慎重に言葉を選びながら諭す。

「巴さんに憧れるのもわかるし、力になりたいって言ってくれるのも嬉しいわ。でも、違うの・・・魔法少女はそんな上等なものじゃない・・・」

ほむらの雰囲気が一転、悲壮なものになったのを感じ、言葉を失う。

「みんなを守りたいだとかそんなの関係なく、魔法少女になった者は魔女を狩るしかないの。グリーフシードを奪い取ってこの宝石の輝きを維持しないと、大変なことになるのよ」

指輪を宝石の形に変え、手のひらで掲げて見せる。

「ソウルジェムが濁りきると・・・どうなるっていうの?」

「それは・・・」

(やっぱり言えない・・・何かのきっかけで巴さんにまで知られてしまったら。アイツならなんて説明するだろう・・・)

「・・・二度と魔法が使えなくなって、人間としてだけでなく、魔法少女としても死を迎えるわ。だから魔法少女は、魔女を殺して喰らい続けるしかない。戦いたくなくても、魔法なんて必要なくても。
 その為には使い魔を放置して魔女に成長するまで待つ子だって居る」

「そんな!?そんなのって・・・」

「だから魔法少女同士で縄張り争いなんてものがあるんだし。・・・私だって、追い詰められてグリーフシードが一つしかなかったら、その時は巴さんだって犠牲にするかもしれない」

「ほむらは・・・あんたはそんなことしないよ!」

「・・・ありがとう美樹さん。そして、こうやって不安に苛まれたり、悩んだりするだけでもこの宝石の濁りは早くなる。・・・アイツいわく、大抵の魔法少女は戦いに慣れる前に殺されて命を落とすそうよ」

「・・・・・・」

「だからお願い、貴女まで魔法少女になろうだなんて思わないで?絶対に後悔することになるわ」

「そっか・・・たしかに変な幻想を抱いてたかも。魔法少女も楽じゃないんだね・・・もう一度考え直すよ。心配してくれてありがとう、ほむら」

わずかに俯いて諌めを聞き入れたさやかだったが、そのコブシは強く握りこまれていた。



To Be Continued

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最終更新:2011年12月02日 17:00