暁美ほむら、15歳の誕生日
ループの末、人並みの社交性を身に着けた彼女は、珍しく上機嫌ですっかり暗くなってしまった帰路を急いでいた

(誕生日プレゼントなんて、いつ以来だろう・・・まさか志筑さんたちに祝ってもらえるなんて)

小脇には可愛らしい柄の紙袋を抱えていた

(こんなものを持って行ったら、拗ねられそうね)

昨日の夜の魔獣退治が終わった後、マミがどこかぎこちない態度で明日の予定を聞いてきたのを思い出し、苦笑する
いつに無く晴れやかな気持ちでマミのマンションの入り口にたどり着いたその時、背後の街灯の影から小さな影が現れた

「やあほむら。久しぶりだね」
「キュゥべえ」
「キミの誕生日のお祝いに、ボクからもプレゼントを用意させてもらったんだけど。ちょっと一緒に来てくれないかな」
「!? いきなり変なことを言うのね。何かおかしなものでも拾って食べたのかしら?悪いけど、これから先約があるの」
「大丈夫、マミも一緒さ。南東にある廃ビルの屋上で待ってるよ。なるべく急いで欲しいな。用意したプレゼントが痛んでしまうといけないからね」
「な、ちょっと待ちなさい!」

キュゥべえは用件だけ言うと、文字通り消え去ってしまったのだった


(どうしてあんな場所に。それに巴さんまで・・・キュゥべえのやつ、一体何をたくらんでいるの)

急に雲行きが怪しくなり始めた空を見上げながら、指定された街外れの廃ビルまで辿り着く

(・・・最近、魔獣をほとんど見かけない。瘴気は感じられるのに、本当に居ないわね)

ビルの階段から見下ろす街は、何かが普段と違って見えたのだった




「着いたわよ。どこに居るのキュゥべえ!」
「やぁ。間に合って良かったよ」

屋上にたどり着いた彼女を待っていたのは、キュゥべえと・・・そして闇の中、地面に倒れ伏したマミの姿だった

「巴さん!?・・・キュゥべえ!お前、巴さんに一体何をしたの!」

白い生き物はしかし、質問には答えずマイペースに語り始める

「キミがいつか話してくれたことがあったよね。この世界は一人の魔法少女の願いによって書き換えられたものだって」
「? それが一体何の関係が・・・」
「魔獣は基本的に、捕まえた人間を殺してしまうんだけど。ごく稀に、自らの肉体に取り込んで怪物にしてしまうものも居るんだよ。
 そしてそんな魔獣に敗れて怪物へと変えられた魔法少女のソウルジェムが、別の何かに変質して、消滅してしまう間際に膨大なエネルギーを発生させたことがあるんだ」
「!?」
「他の子たちを使うことも考えたんだけどね。マミとほむらは『彼女』の大切な友達だったんだろう?
 それにキミたち二人は、友情以上の強い絆で結ばれているよね」

ようやくキュゥべえの本意を悟ったほむらは、変身して射殺そうと弓をつがえる
しかしその時には、討つべき邪悪はどこかへ消え去ってしまっていた

(遅いよ。出会った頃の鋭さを持ったキミなら、マミの様子がおかしい時点でボクの意図を察知出来たんじゃないかな)

「くっ!」

(ボクも会ってみたいんだ、『彼女』に。だから・・・死ね!!)

「待ちなさい!キュゥべえぇぇぇえ!!」

その言葉を最後に、近くから感じられたキュゥべえの気配も途絶えてしまったのだった

「私が・・・私があんなやつに、まどかのことを話したから・・・。くっ、インキュベーター!」

ほむらの悲しみに呼応するように、空からも大粒の雨が降り始めた

「大丈夫、巴さん?」
「暁美さん・・・?来てくれたのね」

駆け寄って抱き上げたマミの視力は既に失われ、左手首から先は異形の化け物のそれに成り果ててしまっていた

「熱い・・・キュゥべえに何かされてから・・・身体がおかしいの。まるで自分のものじゃ・・・ないみたい・・・」
「・・・ごめんなさい巴さん。私にはもうどうすることも出来ないの。最高の魔法少女だなんておだてられても、貴女一人を助けることも出来ない・・・っ!」

マミの頬に雨とは違う熱い水滴が滴り落ちる

「暁美さん・・・私を殺して頂戴。このままじゃ・・・私は・・・」

左手の異変に気づき、自らの末路を察したマミがうめくように懇願する

「できるわけないでしょう?貴女は私が一番好きな人なんですもの・・・」

ほむらの脳裏に、過去の悪夢が甦る

(またあんな思いをするくらいなら・・・。もうやり直すことは出来ないんだから)




廃ビルから離れた工事現場のクレーンの上から、二人の少女の絶望を観察していたインキュベーターが
天に向かって語りかける

「全ての魔法少女のソウルジェムは書き換えさせてもらったよ。キミの願いは無効化された」
「感じるんだろう?邪悪な波動を。聞こえるんだろう?ほむらの気が狂わんばかりの慟哭が」
「キミに対してこれ以上の冒涜はないんじゃないかな。早く来ておくれよ・・・『まどか』!」



「どうして・・・どうしてこんなことに。ぐ・・・目を覚まして・・・」

激しく降り始めた雨の中、雷鳴が轟き二人を照らす
そこには既にマミの姿はなく、巨大な悪魔がほむらの細い首を両手で締め上げていた
その足元には、誕生日プレゼントらしき可愛らしくラッピングされた箱が転がっていた・・・


魔獣を遥かに凌駕する凄まじい怪力が、華奢な少女の身体を襲う
世界改変をただ一人乗り越えた、魔法少女暁美ほむらがその気になれば、振りほどいて倒すことも可能だったが・・・

(もう・・・大切な人に置いていかれるのはごめんだわ・・・)

「愛してるわ・・・巴・・・さん」

再び雷鳴が大地を照らす中、かつてマミだった悪魔の右腕がほむらの胸を貫く
マミのソウルジェムはどす黒い別の何かに変わり果て、愛するものの血を浴びて少しすると消滅し、
それと同時に空間を捻じ曲げるほどの膨大な熱量が辺りを覆う


「凄い、想像以上だよ。マミとほむら二人の絶望だけじゃなく、周囲の瘴気まで巻き込んでエネルギーに変換されている。
 これならもうグリーフシードを集める必要なんてないね」

二人の死をきっかけに発生した力場から、インキュベーターがエネルギー回収を終えたその時、
一際眩しいピンクの光が悪魔の身体を包み込んだかと思うと、
一人の小柄な少女のシルエットが現れ、手にした杖で一閃、巨大な頭部を跳ね飛ばす



(希望を抱くのが間違いだなんて言われたら、私、そんなのは違うって、何度でもそう言い返せます。きっといつまでも言い張れます)

かつての鹿目まどかは『契約』することを正義だと信じた・・・だが・・・

「インキュベーター・・・絶対許さないよ。よくもほむらちゃんを・・・マミさんを」

少女が一撃の下に首を斬り飛ばした、かつてマミだった悪魔に軽く手を触れると、
その巨体は光の粒となり、瞬く間に消え去った
それと同時に崩れ落ちる、ズタボロに引き裂かれたほむらの亡骸を静かに受け止める

「吐き気をもよおす『邪悪』とはッ!何も知らない無知なる者を利用することだ・・・・・・!!
 自分の利益だけのために利用することだ・・・淫獣が何も知らぬ『魔法少女』を!!てめーの都合だけでッ!!」

概念としての役割を無かったことにされ、再び現世に降り立ったまどかの両眼からは血の涙が流れ、ピンクの柔らかな髪は
あまりの仕打ちに怒髪天を衝く
その目の前に、まるで何事もなかったかのようにキュゥべえが現れる

「やぁ。初めましてかな。キミがまどかだね」
「キュゥべえぇえええええ!!!」


果たして、少女たちと世界の運命は・・・

「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ」2012年秋公開予定、乞うご期待!

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最終更新:2012年04月16日 18:48