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34 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/03/31(土) 04:16:53.64 ID:vh4qjCRt0
ふとした思いつきが形になってしまったので
臆病風に吹かれてチキンにならないいまのうちにロダにうpしてみるテスト
ただし無駄に長くなってしまった気がしないでもない


ちなみにおりマギ一年後という設定なので
閲覧するときはグリーフシードのストックをしっかり準備してから開いてください


「レガーレ・ヴァスタアリア!」

黄色い魔法少女のかけ声と共に、地面から飛び出した多数のリボンが、
結界内を飛び回っていた魔女を捕らえる。

「今よ、美樹さん!」
「はい! 任せてください!」

その少女のかけ声に元気よく応えながら、さやかは自身が持つ大盾から剣を引き抜き、

「これで、とどめだぁ~!」

一息で魔女に接近すると、勢いをそのままに巨大な体躯を一刀の元に切り裂いた――

主が死に絶え、結界が完全に崩壊たのを確認して、さやかは静かに息をつきながら肩の力を抜く。

「お疲れ様。美樹さん」

変身を解除して魔女の落としたグリーフシードを拾うさやかに、同じように変身を解除した先ほどの少女が労いの言葉を掛けた。

「マミさんこそ、おつかれさまです!」

その少女の名は巴マミ。
さやかと同じ元見滝原中学の三年であり、さやかにとって色々な意味で先輩と言える少女だ。

「ふふ、ありがとう。と言っても、殆ど美樹さんが相手してたようなものだけどね」
『おう、そっちもカタ着いたか』

おかげで楽させて貰ったわ。と冗談めかしてマミが言うのに割り込む形で、二人に少々粗暴な口調のテレパシーが届く。

『ええ、たった今ね。そっちはどうだったの? 佐倉さん』
『どうもこうも、使い魔ばっかで張り合いがねえってーの。あんなの5分も掛からないよ』

テレパシーを飛ばしてきた少女、佐倉杏子は、不機嫌さを隠そうともせずマミに向かって愚痴をこぼす。
どうやら、使い魔だけを相手にしていたのがお気に召さなかったらしい。

『ったく。なんであたしがこんなこと――』
『もーダメだよキョーコ。これもみんなを守るためなんだから!』

悪態をつく杏子を咎めるように、幼い少女の声が割り込んでくる。
千歳ゆま。杏子が面倒を見ている子供であり、杏子の妹分にあたるのだが――

『だー! もう、判ってるよんなことは! だからこうしてちゃんと使い魔も狩ってるだろうが!』
『でも、最近のキョーコは真面目にやってない! 今日も何回ゆまがフォローしたと思ってるの?』
『うっ……』

魔法少女として経験を積んだ賜か。
近頃は杏子を言い負かすことも多く、ダメな姉としっかりした妹にしか見えないと、さやかは密かに思っている。

『はいはい、そこまで』

そして、こういった時に二人を仲裁するのは、専らマミだった。

『佐倉さんもゆまちゃんも疲れたでしょ? 私達は少し遠くにいるから、先に部屋で待っててくれる?』
『うん、わかったー』
『へいへい。ま、あんたらに限って大丈夫だと思うけど、気をつけなよ』

二人の返事を聞き、満足そうに頷くマミ。その横顔を見ながら、この生活にも随分慣れたものだと、さやかは考える。
――あの日から、自分はどれだけ前に進めているんだろうか。

「さて……それじゃ、美樹さん。私達もいきましょうか」
「ういっす。お供します、マミさん!」

片隅でもたげた暗い考えを頭を振って追い出すと、マミと共に歩き出す。

「あ、そうだマミさん。明日のパトロールなんですけど――」


        「守りたかった、大切なもの――」


「ういーっす……って、ありゃ?」

翌日、いつものようにマミの部屋へ顔を出した杏子は、いつもと違う部屋の様子に首を傾げる。

「なんだよ。さやかの奴、まだ来てないのか?」

普段ならば、いの一番にこの部屋に来てマミ謹製のケーキを頬張っているか、もしくは持ち込んだゲームで時間を潰している青髪の少女の姿が見えなかった。

「あら、いらっしゃい。早かったのね」

珍しい状況を前に杏子が眉間に皺を寄せていると、ティーポットを片手にマミが顔を出した。

「ああ。……さやかはどうしたんだ?」
「美樹さんは……ね。ほら、今日でもう一年経つから――」

杏子の言葉に少しだけ微笑みを曇らせたマミは、どこか遠いところを見ながらそれだけを口にする。
 ――それだけで、納得がいった。
それはマミにとっても、杏子にとっても苦い記憶。

「そっ……か。そうだよな。もう、あれから一年経ったんだよな……」

教職員、全生徒の実に九割方が行方不明となった、見滝原中学の大量失踪事件。
この事件を引き起こしたのが、美国織莉子と呉キリカという二人の魔法少女であることを知っているのは、この場の二人にゆまとさやかを含めた、四人だけである。

「ったく。胸糞悪いもん思い出しちまったよ……」
「あの後キュゥべぇから彼女たちの目的は聞かされたけれど――」

二人の目的は世界の救済。
世界を創りかえる程の素質を持った魔法少女を亡き者にするためだけに、あれだけ大それたことをしでかしたのだという。

「魔法少女はいずれ魔女となる。それが判っているといっても……正直、褒められたやり方だとは到底思えないわよね……」

多くの命の為に、一つの命を潰す。大衆的に見れば正しい判断と言えなくもないが、その二人は関係無い人々を大いに巻き込み過ぎた。
あんなモノは正義ではなくただの独善――少なくとも、マミはそう思っている。

「まあ、な。特に、巻き込まれて生き残っちまった奴らにしたら、たまったもんじゃ無いよな」

その咎は、彼女たちの命という形で払われた。だがそれは同時に、残された人々にとって悲しみをぶつける対象が居なくなってしまったとも言える。

「特に美樹さんは魔法少女の事を知ってしまったから、余計にでしょうね」
「…………」

俯くマミを天井を仰ぐ杏子。二人の脳裏には、ここには居ない、何処までも真っ直ぐで、何処か危うい印象を持たせる、青髪の後輩魔法少女の顔が浮かんでいた。


この日さやかは、学校が終わった後マミの部屋へは向かわずに、電車を乗り継いでとある場所にやってきていた。

「…………」

そこは県が管理している霊園。つまりは共同墓地だった。

――一年前のこの日。さやかは、一番の親友だと胸を張って言える一人の少女を、目の前で亡くしている。
その少女の名は鹿目まどか。少しだけ鈍くさいところもあったが、他人の為に涙を流せる、心優しい少女だった。

 後に、自分たちの身に降りかかった惨劇が、この鹿目まどかを狙って引き起こされたと知った時。さやかは自身の心が激しい憎悪に支配されたのを、昨日の事のように覚えていた。

「ほんと、我ながらあんな状態でよく復讐を考えなかったもんだよ」

さやかがそうしなかったのは恐らく、悲しみにくれていた自分に親身になってくれた巴マミや佐倉杏子に千歳ゆま。そして、あの事件以来音信不通となってしまった、暁美ほむらという、実は魔法少女だった友人の存在があったからだろう。

「……マミさん達には感謝しないとね」

そうこうしているうちにさやかは、目当ての場所、鹿目まどかの墓の近くまでやってきていた。そして――

「あ――」
「……ああ、さやかちゃんか」

そこには既に、三人の先客がいて。
その内の一人、黒いスーツに身を包んだ女性が、さやかの存在に気づき声を掛けてきた。

「はい、お久しぶりです。詢子さん」
「ああ、ほんとに久しぶりだね。いつ以来だったかな」

そこにいたのは、それぞれ鹿目詢子、鹿目知久、鹿目タツヤという。この墓で眠る鹿目まどかの、両親と弟だ。
三人とも丁度お参りを終えた所だったのだろう。道具の片付けをしている和久に会釈をしながら、さやかは彼らの側へと歩み寄る。

「わざわざ来てくれたのか。大変だったろ?」

そう言って笑みを浮かべる詢子だが、その表情に、暗い影が落ちているのが見て取れる。
それもそうか。と、さやかはいたたまれない気持ちになる。
全てを知った自分と違って、彼女たちにしてみれば、愛娘が突然居なくなってしまったのだ。あれから一年が過ぎたとはいえ、そう割り切れるものではないだろう。

「大丈夫ですよ。遠出には慣れてますし」
「そう、か。何にせよ、来てくれてありがとう。きっと、まどかも喜んでるよ」
「そんな――」

あたしには、そんなこと言って貰える資格無いです。のど元まで出かかった言葉を、辛うじて飲み込む。
それを言ってしまえば、この人たちがどう答えるかなんてわかりきっていることだったから。

「詢子さん、こっちは終わったよ」
「ん、わかった。それじゃあ、さやかちゃん。私らはもう行くね」
「あ、はい。それじゃ、お元気で」
「さやかちゃんこそね。たまには、あたしらんとこにも顔出してくれよ?」
「あはは……」

――詢子の言葉に、答えることは出来なかった。


「久しぶり、まどか。そっちの暮らしはどう? なんて、あたしが言えた義理じゃないか……」

詢子たちが去ってから、さやかはまどかの墓の前でしゃがみ込み、持ってきた花を活けながら静かに語りかけ始めた。

「あたしは……元気でやってるよ。と言っても、学校じゃ一人で居ることが多いけどさ」

脳裏に浮かぶのは、過ぎ去った思い出の数々。

「信じらんないでしょ? 元気だけが取り柄みたいなもんだったあたしが、学校じゃずっと黙りなんだから」

鹿目まどかと過ごした小学生時代。志筑仁美が加わった中学一年と、暁美ほむらがやってきた中学二年。
そして――その幸せを喰らいつくした、惨劇。

「……ごめんね、まどか」

さやかの目尻から、涙が一筋、溢れ流れた。

「もっといろんな所に行って、いっぱい遊んで……もっと沢山、みんなと生きていたかったよね。なのにっ――」

嗚咽混じりの言葉は、まるで赦しを請う懺悔に似ていた。

「あたしのせいでっ――あたしが、あんたからそんなの全部、奪っちゃったんだよねっ……!」

あの日……。鹿目まどかを狙った襲撃事件において、さやかはまどかが命を落とした直接の原因を作ってしまった。
正確にはそんな単純な話では無かった事は頭で理解していても、少なくともさやかは、そう思わずにはいられなかった。

何故あの時、自分はあんなことを言ってしまったのだろう。
何故あの時、自分は無理矢理にでもまどかを連れて逃げようとしなかったのだろう。
何故あの日、死んでしまったのがまどかではなく、自分では無かったのだろう。

「まどか……まどかぁ…………」

それらは呪詛となってさやかの心の奥底に留まり、さやかの心を蝕み続けていた。
グリーフシードでも決して祓うことの出来ない、強大な穢れとして――


「なんか、みっともないとこ見せちゃったね」

しばらく嗚咽混じりに涙を流していたさやかだったが、それもようやく落ち着きを取り戻した。

「……あたしは多分、あんたと同じ所には逝けないと思う」

これはきっと罰なのだろう。守るべき親友を、愚かにも危険な場所へと連れて行った自分自身への。

「だってそうでしょ? 今のあたしは……あんたを狙った奴らと同じ、魔法少女なんだから」

今の自分は、赦されることの無い赦しを久遠に請い続ける、大罪人だ。
だからこそさやかは、自分たちの幸せを奪った者と同じ存在になり、自分たちのように、理不尽に幸せを奪われる人々を助けるため戦うと誓った。

そうしなければ、心が弱い自分は甘えてしまう。流されてしまう。
 ――自分で、自分を、赦してしまいそうになるから。
さやかは、命が尽きるまで戦い続ける。それ以外の方法は、思いつかなかった。


「……でもさ、こんなあたしだけど、それでも――」

あんたが安らかに眠っていられますようにって願うくらい、いいよね?

その想いは、天へと届いただろうか。
――きっと届かない方がいい。さやかはそう思う。

届けば恐らく、優しい彼女は心を痛めるだろう。そんなことは、させたくなかった。

「――そんじゃ、あたしはそろそろ行くね」

最後に短く手を合わせて、さやかは立ち上がる。
その手に握られているソウルジェムには、魔女の反応を示す光が灯っていた。

「まったく。いろんな人が眠ってる場所に出てくるなんて、サイテーな魔女もいたもんだよ」

そう愚痴をもらしながら、青い光に包まれたさやかは、魔法少女の姿へと変身する。
中世の騎士を思わせる衣装に身を包むさやかの右手。そこには自身の願い、『みんなの笑顔を護る力』がもたらした、巨大な盾が握られていた。

「よーし。ここにいるみんなの眠りは――」

その盾に収納された一振りの剣を引き抜くと、さやかはソウルジェムが反応する場所へ向けて駆けだす。

「この魔法少女さやかちゃんが、がんがん守っちゃいますからね!」

 ――――、――――っ!

魔女の結界に足を踏み入れる直前、さやかは誰かの声を聞いた気がした。

懐かしい、何よりも守りたかった少女の声で、

        「さやかちゃん、頑張ってっ!」と――

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最終更新:2012年04月02日 08:27
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