25-906a

○選択肢

まどかの頭を撫でる

さやかは子供をあやすようにまどかの頭を撫で撫でした。
まどかも小さい頃から変わらない反応で、小動物の様に頬擦りをして喜ぶ。
その様子を見てさやかは思わず頬が緩んでいた。

「えへ…さやかちゃんの笑顔~…♪
 こうやって、わたしを心配してくれたの…初めて出会ったあの日と同じだよね。」
「まどかってば、あの時はこんな夜中じゃなくて朝でしょ?」

転んだまどかを助け起こしてくれたあの日。
初めて見滝原でさやかに出会った忘れられない日を思い出していた。
空を見上げてみても残念ながら太陽は遥か彼方にある。
しかしそこには別の、二人の目を惹く美しい光景が広がっていた。

「見てまどか、桜が綺麗だよ。薄いピンクがまるでまどかみたい。」
「…桜…。…お花見…行きたかったなぁ…。」

闇に浮かぶ淡桃色の花弁。それはこの間見に行く約束をした桜だった。
さやかの腕の中で、徐々に薄れゆく意識に抗いながらまどかは呟く。

「へっへー…あたしは今まどかっていう花を存分に楽んじゃってますよ。」
「あうー…わたし…さやかちゃんのお花…。えへー、それも…いいかな…。」

このまま眠りに就いて、花になってさやかに看取られるなら…それでもいいと思った。

「わたし、さやかちゃんに許して貰ってもいいのかな…?」
「いいの。まどかが悪い事をしたんなら、あたしもそれを背負うよ。
 あたしとまどかはずっと一緒。ずっと親友なんだから。」

やっと繋がった二人の気持ち。しかしあと少し早ければ…。
まどかのソウルジェムを浄化して、二人でまた朝を迎えられたかもしれないのに。

「さやかちゃん…最期の…お願いだよ…。」
「…何かな、お姫様?」
「ずっと…ずっとね…ぎゅーっってしてて…欲しいな…って…。」
「畏まりました、まどかお嬢様…なんちって。」

精一杯微笑むまどかの頬を止め処なく涙が濡らしてゆく。
さやかはその雫をいとおしそうに唇で救い取ってあげた。

「…わたし…笑顔でいれてるかな…?」
「うん…桜みたいに…綺麗で…可愛い笑顔だよ…。」

さやかの声も震えを隠せなくなっていた。
一層まどかを強く抱き締めた。悲しみも痛みも誤魔化せるくらいに強く。

「…えへへ…さやか…ちゃん……。わたし…の…さいこ…の…しんゆ……。………、………。」

言葉に出来なかった最期の祈りは精一杯の"ありがとう"と断ち切れない"ごめんなさい"。
まどかの涙とさやかの涙が交差し、その一滴がソウルジェムに落ちる。
その瞬間…まどかを中心に満天の桜の花が空一杯に広がり始めた。

………………………………………………♭♭♭………………………………………………

まどかを探して夜の街を駆け回る中、突如として降り始めた雨。
雨程度で足を止めるつもりは無かったが、それ以上の光景に仁美と杏子は驚いていた。

「杏子先輩!そちらはどうでしたか?」
「駄目だ…結界の跡はあったんだが…って雨が振り出しやがった!」
「…あれは…雲が広がって…いえ、花ですの…!!???」

雨雲が広がってゆくのならごく自然な現象であるが、空に広がるそれはとても雲には見えない。
花弁を模った様な黒い雲…いや、よく見ればそれは黒い桜の花弁だった。

黒い桜の花は見滝原を中心に空一杯へ広がってゆく。
その異常な光景は明らかに人間の手によるものではない。
この星に対して結界を持たない魔女が起こした現象であろう。

「まさか魔女!! まどか…なのか…?」

降り注ぐ雨が普通の雨ではない事を魔法少女二人はその身に感じていた。
この雨は人々を、魔法少女すらも悲しみへと堕としてゆく涙の雨だ。

―…ゴメンナサイ…サヤカチャン………ゴメンナサイ……ゴメンナサイ…―

魔女の涙を通して伝わる、彼女の自分を咎める罪の意識と後悔の言葉。

「何だよこの雨…! なんでこんなに…悲しいんだよ……クッ…!」
「そんな…まどかさん…。わたくし…やっぱり…魔法少女になんて…。」

雨を受けた仁美のソウルジェムは瞬く間に黒く染まる。
手の施し様の無い程に穢れたそれはまるで灰の様で、一片の輝きすらも残してはいない。

「お、おい…アンタまで…! …アタシの……仲間…大事な…希望だったのに…。」

絶望の雨は杏子のソウルジェムさえも浸食し、一切の輝きを奪い尽くす。
軈て黒き桜は星の全ての空を支配し、あらゆる生命を悲しみで染めあげるのだろう。

「…っ………。まどか……まどか…まどか…」

桜の樹の中心には青い髪の少女が跪き、物言わぬ亡骸を抱き永遠の涙を流し続けている。
壊れた人形の様に、嘗て親友であったもの名前を無意味に繰り返すだけだ。

―黒桜の魔女―その性質は[自責]。
空一面に咲き誇る漆黒の桜は、涙の雨を降らし全ての生命を哀しみで穢し続ける。
太陽は遮られ、もう二度とこの星の大地に天の光が届く事は無いだろう。
この魔女を倒したくば、魔女の一番大切な人の笑顔を取り戻すしか無い。

降り止まない雨、永久に続く夜。悲しみのみを生み出す魔女によってこの星は眠り続ける。
如何なる手段を用いても、最強の魔法少女が変質した最悪の魔女を阻む事は出来ないだろう。
何故なら…その鍵は既に魔女の涙によって穢れているのだから。


[春めく貴女へ]

おしまい。

―あとがき―
正真正銘BADENDルートでございます。
魔女が降らせ続ける涙の雨に濡れた人々は悲しみに支配されてしまいます。
雨に打たれた仁美ちゃんと杏子ちゃんは魔女の雨により間も無く魔女となるでしょう。
また大切な人の笑顔、さやかちゃんも既に雨に打たれている為に笑顔は永遠に戻らない…。
まどっちが抱えるのは、たった一人の大切な笑顔を救えなかった事への自責の念。
あくまでお互いを想い合った上でのBADENDなのです。
救済の魔女とはまた違った最悪の結末を感じていただけたでしょうか。

それでは引き続きTRUEENDへの扉をお進みくださいませ。

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最終更新:2012年04月12日 01:29
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