25-906b

○選択肢

まどかに唇を重ねる

「―――んむっ…!?」
「………」

突然のさやかの行為にまどかは大きく眼を見開いていた。
さやかがせめてまどかにしてあげられる事は何かを考えた結果の行動だ。
抱き締めて、撫でて、それ以上を伝える為の親愛のキス。

「…んっ……ぁ………」

勿論まどかも驚いたが、何故か親友のそれに自然と高揚感を覚えていた。
触れる温もりに甘えたくて、まどかは自分からも唇を突き出すのだった。

数秒間だけ交わした浅いキスは名残惜しく終わりを迎える。
すると、少しだけまどかのソウルジェムの輝きが戻っていたのだ。

「…!?」
「あっ…わたしの…ソウルジェムが…」

さやかは思い出した。負の感情が高ぶり過ぎるとソウルジェムの浄化を妨げる事を。
それでもまだ浄化出来たのはほんの僅かだ。もっとまどかの心を落ち着かせてあげたい。
物欲しそうな眼で自分を見上げるまどかに言い聞かせる為、さやかは一度まどかの両肩に手を置いた。

「いいまどか? 落ち着いてあたしを見て?」
「うん…?」
「怒りとか悲しみで、心が濁ったままだとソウルジェムが上手く浄化できないんだ。
 まどかはあたしを救ってくれたよね。だから…今度はあたしがあんたを助ける番。」

自分が本当にまどかの力になれる事、今親友として成すべき事をするだけだ。
右手をまどかの腰に回し、左手を顎に添えて二度目のキスへと誘う。
舌先でまどかの歯をコンコンとノックすると、気付いたまどかは少しだけ隙間を空ける。
さやかは不慣れながらもまどかの咥内へ自らを挿し入れ、まどかの同じ部分を絡め取った。

「…ちゅっ……んっ……」
「………んむ……ちゅぱっ……」

キスと共にグリーフシードを当てる度にソウルジェムは少しずつ桃色の輝きを取り戻す。
唾液を貪り取られ咥内を支配されるがままのまどか。さやかにそうされる事で自分が満たされてゆく感じがした。
さやかがキスを終えようとすれば、まだ物足りないよと舌を追いかけてせがむのだ。



「………ぷはぁっ!」
「…はぁっ…はぁっ…はぁっ…。まどか…ごめん…ちょっと…やり過ぎた…。」

口元からだらしなく零れ落ちる唾液。二人は本来の目的も忘れかけて行為に浸っていた。
それでもグリーフシードを触れたソウルジェムには半分程の輝きが蘇っている。

「ねぇさやかちゃん…。さっき言ってくれた"大好き"って…ホント…?」

さやかがキスを決意する前にくれた言葉。
―だから今なら言えるよ。心から"ありがとう"って。"大好き"だって。―

「…それは…まどかの気持ち次第かな。」
「ふぇ…?」
「こうしてキスして喜んでくれたまどかが、あたしをどう思ってくれてるかは理解んないけど…。
 どんな形でもいいから、あたしはちゃんとまどかの気持ちを受け止めたいんだ。
 あたし馬鹿だからさ…これから先もずっと、心の何処かで後悔し続けると思う。
 でもね、こうして一緒にいれば…嬉しい事も嫌な事も理解り合える筈だから。」

さやかはもう無理に造る必要の無い、自然な笑顔でもう軽く唇を落とした。

「ホントはね、わたしもよく…理解らないの。
 さやかちゃんは大切な親友だから…それにわたし達女の子同士だし…。」
「今はそれでもいいじゃん。いつかはちゃんと好きな人が見つかるかもしれないよ。
 それが別の男の子かもしれないし、もしかしたら女の子だったりあたし達かもしれない。
 それでも何があってもあたしとまどかは親友。今までも、これからもそれだけは変わらないよ。」
「えへへ…さやかちゃんは、わたしの最高の親友だよ…♪」

まどかは自分を受け止めてくれたさやかが、さやかは自分の下に戻ってくれたまどかが愛おしかった。
もう二度と二人の心が違えぬ様に、離れ離れにならない様にと願い抱き合った。



「まどかさん!さやかさん!」
「良かった…間に合ったんだな…。」

暫くして駆け付けた二人は、まずまどかのソウルジェムが輝きを残している事に安堵した。
身体を離してまずまどかは杏子に謝罪すべく向き直る。
ツインテールが随分と垂れて見えるのはしょげているからだろうか。
それを見かねたさやかはまどかの手を取り、自分も一緒に背負うからと共に頭を下げた。

「杏子ちゃん…ごめんなさい…。わたし…杏子ちゃんにも酷い事言って…。」
「あたしからも謝るよ。ゴメンね杏子…。」
「気にすんな、それよりまどかが無事に助かって良かったよ。
 もしアタシに詫びたいって思うんならまた前みたいにイチャついて見せな。それでチャラにしてやるよ。」
「えっ!? ちょっ…イチャついてなんて…!」

にししと余裕の笑みで悪戯っぽく笑う杏子。
まどかとさやか、二人の振り撒く笑顔は周りにとっても心温まるものなのだろう。
この幼馴染が仲良くやってくれれば元気を分けてもらえる、概ねそんな感じだ。

「まぁ…やっぱりお二人はそういう関係ですのね♪」
「えへへ♪ やっぱりそうなのかなぁ…///」
「何でまどかまで照れてんのよ…うう~…///」

今はまだこの絆が友情なのか、はたまた幼い恋心なのかは定かではない。
それでも月の光を受けてこの闇に輝く桜が、春の香りが、絆を取り戻した事を祝福していた。

「お花見…やっぱりみんなで行きたいなぁ…。」
「………。わたくし、その日の都合は何とかしてみますわ。」
「じゃぁアタシも行くか。飯は大勢で食った方が上手いもんな。」

仁美は自分の予定を蹴ってまで仲間を優先したのは、絆の大切さを改めて実感したからだろうか。
そんな中、彼女は前向きに皆を先導する先輩の涙に最初に気が付いたようだ。

「杏子先輩…泣いてらっしゃるのですか…?」
「………グスッ…へへ…。たまにはさ、こうやって愛と勇気が勝つ話があってもいいじゃんか。」

今更意地を張って誤魔化すのは馬鹿らしいのでやめておいた。
長く孤独だった杏子にとって、この四人で無事仲良くやって行ける事が何より嬉しいのだ。

唯今の時刻は丁度夜の1時を回った所。
さやかの両親は本日留守、まどかはさやか宅へお世話になると連絡を入れていた。
夕方に"帰宅が遅くなる"と電話したきりの仁美は、携帯を見てげんなりとした様子だ。

「…うっ…お母様からの着信が56件ですわ…。」
「仁美ちゃん、せめてメールだけでも返しておこうよ。」
「そうですわね…。でも今帰宅するともの凄く怒られそうですし…」
「お嬢様だってたまには友達の家に外泊してもいいんじゃね?」
「そんじゃ、このさやかちゃんが軽く夜食でも作っちゃいますか!」

一同は休息と空腹を満たす為に一路さやかの家へと向かった。しかしその夜は結局ゲーム大会が始まった。
次の朝三人は超寝不足で登校、杏子はそのままさやか宅で爆睡していたのはまた別の話である。

………………………………………………♭♭♭………………………………………………

魔女退治を終えた日の夕方。
見滝原の高台で杏子と仁美が辿り着いた魔法少女の真実を話していた。

「魔法少女が魔女になる…か…。」
「たぶんだけどな。だからって何も今すぐそうなる訳じゃないし。
 少なくとも、人間が普通に生きる時間くらいは足掻いてやろうって話さ。」
「さやかちゃん…わたし…。」
「人間じゃなくてもまどかはまどかだよ。傍にいるのはあたしの可愛い嫁、鹿目まどかだ。」
「さやかちゃん…!」

残酷な真実にも、今更まどかとさやかが動じる事は無い。
だからこそ杏子は決意した。

「それじゃ、明日からこの街はアンタらに任せるよ。」
「えっ…!?」
「杏子ちゃん!?」
「杏子先輩…?」

契約直後は頼りなかった仁美も今ではすっかりまどかの前衛をこなせる様になった。
まどかも自分の魔力を制御して戦い、ソウルジェムを穢し過ぎる事も無くなって来た。

「ホントは新人二人が危なっかしくてつい付き添わせて貰ってたんだけどさ。
 今のアンタら三人なら、もうアタシが口出ししなくても上手くやって行けそうだからな。
 アタシもそろそろ自分の街に戻らせて貰おうかなと思って。」

元々杏子は隣街の魔法少女だった。
事ある毎に見滝原へ顔を出していたが、やはり彼女には本来守るべきテリトリーがあるのだ。

「ねぇ杏子、三人って…あたしも入ってんのかな…?」
「今更何言ってんだ。さやかだって一緒に戦ってんじゃん。
 仁美が前衛でまどかが後衛。さやかは二人が安心して戦える様に、心休める様にサポートする。
 三人でフォローし合ってて、アタシは良いトリオだと思うぞ?」

何も魔女と戦うだけが仲間じゃない。魔女と戦う魔法少女を支える事だって立派な仲間の役割なのだ。

「杏子先輩…やっぱり風見野に戻られてしまうのですか?
 もう身内もいないとお聞きしましたし、わたくしの手回しでこちらに住居を構えていただいても…。」
「サンキュ仁美、気持ちだけ受け取っとくよ。家族は失ったけど、やっぱ風見野はアタシの生まれた街なんだ。
 それに隣街だし何かあったら呼びな。すっ飛んで駆けつけてやるよ。」

力強く微笑む杏子。何も会えなくなる訳ではない。ただ自分の本当の居場所に戻るだけだ。
たまには遊びに行くだろうし、まどか達の方から出向くのも良いかもしれない。

「杏子、またご飯食べに来いよ。」
「杏子ちゃん…。また一緒に遊ぼうね。」
「そうだな。また飯食いに遊びに来れる様に、精一杯生き延びてみせるさ!」

四人は手を重ね再会を誓って杏子を見送った。
戦い続ける宿命を背負ったまどかと仁美。さやかは二人の帰る場所であり続ける事を選んだ。

「あたし達のホントの戦いはこれから始まるんだ。これなら負ける気がしないよ。」
「魔法少女になって良かったって思えるように、わたくしは精一杯生き続けてみせますわ。」
「さやかちゃん…大好きだよ!」
「ちょっ…まどか! 一応これ最後なんだから真面目に決めてよ!」
「あらあら。まどかさんの決め台詞は愛に満ち溢れていますわね♪」

[春めく貴女へ]

おしまい。

―あとがき―
一応まどポ準拠という事で完全な百合展開にはしない…つもりだったのですが解決方法がキスとかもうね(殴
仁美ちゃんをメインキャラに加えたのは勿論ただの趣味です。
まどポ自体で生かされなかった「親友」という設定をテーマにした結果がこれですよ!

ちなみに仁美ちゃんのイメージは馬に乗って空飛ぶヴァルキリーな感じ。
でっかい斧槍を持って空間を飛び越えちゃいます。お嬢様=優雅=神話って事で。

最後まで長文にお付き合い頂いた方ありがとうございます。でわわ。

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最終更新:2012年04月12日 01:34
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