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859 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/04/18(水) 23:21:48.42 ID:KlawlND0P [15/18]
避難所>>20から転載

「あれ? さやかちゃーん?」
 その日、ちょっと早めにお勤めを終えたわたしが家に帰ってみると、さやかちゃんの姿がありませんでした。いつもなら、さやか
ちゃんがお夕飯の準備や部屋のお掃除をしているくらいの時間なのに。「お買いものかも」とも思いましたが、玄関の鍵は開いて
いたし、居間の電気もつけっぱなしです。まど界でわたしとさやかちゃんの家に泥棒に入る人なんていないけど、さやかちゃんは
出かけるときには必ず鍵をかけるので、まだ家のどこかにいるようです。
 ふと思いついて、そーっと足を忍ばせてさやかちゃんの部屋に行ってみました。音をたてないようにドアを開けて中をのぞくと、
ベッドの上に人影が見えました。やっぱりです。さやかちゃんは、自分の部屋でお昼寝をしていたのです。わたしは、さやかちゃん
を起こさないように気を付けながら、ゆっくりベッドに近づきます。
 さやかちゃんはベッドの上で仰向けになり、軽く毛布を掛けただけの状態でおやすみ中でした。軽やかな寝息に合わせてわずかに
体が上下して、とても気持ちよさそうに眠っています。さらりと流れて軽く顔の上にかかっている柔らかな水色の髪の毛。カーテン
の隙間から差し込む光にきらめく長い睫。ちょっぴり開いた唇がとってもキュートなお口。
 ベッドの脇の椅子に腰かけて膝の上で両手で頬杖を突き、さやかちゃんの寝顔をじっと見つめていると、自然にふふっと笑みが
こぼれてきました。わたしの大切な親友にして、まど界で共に暮らしている恋人のさやかちゃん。そのさやかちゃんが、わたしの
目の前でぐっすりと眠っている姿は、わたしにとって幸福の象徴と言えました。
 思えば、さやかちゃんの寝顔をこんなにじっくりと見るのはとても久しぶりなことに感じます。それもそのはず、さやかちゃんは
今はわたしと寝床を分けて自分の部屋で寝ているからです。まど界に来た当初は、わたしのベッドで毎晩わたしをぎゅっと抱きしめ
ながら寝てくれたのですが、わたしと恋人どうしになってからというもの、さやかちゃんはそうはしてくれなくなりました。
 なぜなら、さやかちゃんはわたしに恋してくれているからです。現世で親友だったころは毎日おしゃべりしてじゃれあって、
お互い家族をのぞけば一番近い距離にいた人同士だったくせに可笑しいのですが、今のさやかちゃんはわたしの顔を見るのも恥ず
かしくて照れくさくてたまらないようなのです。わたしといるときはいつも顔を赤くしてもじもじしているし、目線を合わせても
すぐに逸らされてしまいます。手もつなげませんし、なでなでもぎゅーもしてもらえません。以前はわたしが赤面するほどだらし
ない恰好で家の中を歩いていたこともありましたが、今ではわたしの前では椅子に座った足をきゅっと閉じて一分の隙も見せない
ほどです。とてもじゃないけれど、いまのさやかちゃんがわたしと一緒のベッドなんかに入ったら、心臓が破裂してしまうかも
しれません。
 さやかちゃんがそんなありさまなので、一緒の家で暮らしているというのに今では以前に比べたらわたしがさやかちゃんに触れ
られる機会は格段に減ってしまいました。けれど、それでもわたしはそれほど気落ちはしていません。いつも格好良くて凛々しくて、
馬鹿な冗談を言ってわたしを笑わせてくれていたさやかちゃんですが、その一方で、一途に恋をするとても女の子らしい一面も
ありました。わたしはそんなさやかちゃんの乙女な顔もとても好きなので、それがいつでも見られること、そしてその相手が自分
であるということがとても新鮮で嬉しかったからです。
「んぅ……」
 さやかちゃんが寝返りを打ち、私の方に向いてくれました。幸せそうな寝顔がより近くなり、わたしもいっそう笑顔になって
しまいます。何の夢を見ているのでしょう、「むにゃ……」などとかすかな寝言も聞こえます。
 ふと見ると、さっきの寝返りのはずみでさやかちゃんの体にかかっていた毛布がはだけてしまっていました。わたしはそうっと
手を伸ばし、毛布の端をつまんでさやかちゃんの体にかけ直そうとしました。さやかちゃんはよく眠っていて、わたしはさやか
ちゃんが目覚めるまでずっと寝顔を見つめているつもりだったので、毛布の感触でうっかり起こさないように気を付けながら。
「きゃあっ!?」
 次の瞬間、わたしはさやかちゃんにぐいっと引っ張られてベッドに倒れこんでいました。突然のことに私が混乱していると、
さやかちゃんの腕がわたしの背中に伸び、わたしはすっかりさやかちゃんに抱きしめられていました。
「さっ、さやかちゃん……!?」



860 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/04/18(水) 23:22:50.43 ID:KlawlND0P [16/18]
 さやかちゃんは、寝たふりをしていたのでしょうか。わたしはさやかちゃんに抱きしめられながらさやかちゃんの名前を呼び
ました。ところが、いつまで待っても答えは返ってきません。いぶかしみながらさやかちゃんの胸にうずまっていた頭をどうにか
引き抜き、さやかちゃんの顔に向けると、さっきまでと何一つ変わらない幸せそうな寝顔がそこにありました。どうやら、さやか
ちゃんはまだ夢の中のようです。
 つまり、さやかちゃんは眠りながらまったくの無意識でわたしの腕を引っ張って抱きかかえたのです。現世では毎日のように
抱きつかれていましたし、お互いの家でのお泊りのときも必ずさやかちゃんはわたしを抱きしめて寝てくれていました。だからか、
無意識下にその動作が染みついていて、さやかちゃんの乙女心が眠っている今、わたしが近づいたことでそれが現れたということ
なのでしょうか。それにしても、わたしのことを気配だけで感じ取ったのでしょうか。現世でもわたしが困っているといつでも
気が付いてくれて、「さやかちゃんのまどかセンサーは性能バツグンだからね!」と豪語していた姿が目に浮かびます。
 頭の片隅で冷静にそんなことを考えながらも、わたしの顔はかあっと熱くなっていました。なにしろ久々の、しかも不意打ちの
さやかちゃんの腕の中です。わたしの両足もさやかちゃんの足の間に捕えられ、私の体はさやかちゃんとこれ以上ないほど密着して
いました。さやかちゃんの体の柔らかな感触と心地よい温度が、鼻腔いっぱいに広がる慣れ親しんだ懐かしい匂いがとても切なくて、
わたしは涙が出そうなほどでした。
「はあ……さやかちゃん……」
 わたしは今、心から安心しきっていて、幸福感が体中を駆け巡っていました。さやかちゃんの力強い腕に抱きしめられていると、
どんな嫌なことも忘れられます。わたしは目を閉じて顔をさやかちゃんの胸にうずめます。それに合わせて、さやかちゃんも
いっそう強くわたしを抱きしめてくれました。さやかちゃんに抱きしめられながらわたしは、どんなときでもわたしの帰る場所は
ここなんだと、強く強く、何度もそう思いました。
「さやかちゃん……大好きだよ……」
 そうつぶやいてみました。答えを期待していたわけではなく、口をついて出ただけの言葉。ところが、一瞬間をおいて頭上から
「あたしも……だいすき……」と聞こえてきました。それを聞いたとき、わたしはとっても嬉しく思うと同時に、可笑しくなり
ました。起きているときは恋する乙女でわたしと目を合わせてもくれないのに、眠っている今に限って以前のように格好いいさやか
ちゃんで、わたしを抱きしめてくれるなんて。しかも寝言とは言え、目が覚めていたら恥ずかしがって絶対に言ってくれない
「大好き」まで言ってくれるなんて。まるで、眠っている今だけ以前のさやかちゃんに戻ってくれたような感じです。
「さやかちゃん……もっと、ぎゅって、して?」
 そう言ってみると、さやかちゃんは本当に腕に力を込めてくれました。目覚めているときのさやかちゃんは恋する乙女全開で、
あまりに恥ずかしがるのでわたしのことが苦手なのかな、と拗ねてみたくもなるほどなのですが、無意識のさやかちゃんは、
相変わらず私を大好きでいてくれているようです。
「ね、頭撫でて?」
 今度もさやかちゃんはわたしの言うとおりにしてくれました。わたしの背中に回していた腕をわたしの頭の方に持ち上げ、おっきな
掌でわたしの髪の毛に優しく触れてくれます。髪の毛を梳くように一方向に撫でたり、同じ場所を軽くたたいてくれたり、時々髪の
毛をくしゃくしゃっとやったり、まさに現世でやってくれていた通りの撫で方でした。こんなに以前通りにしてくれるなら、もっと
お願いしても大丈夫かもしれません。
「あのっ、さやかちゃん……キス、して……?」
 意を決してお願いすると、さやかちゃんは頭を撫でる手を止めて、わたしの顔を軽く上に向けました。そして、さやかちゃんの唇
がゆっくりと近づいてきます。旧に恥ずかしくなって顔が赤くなり、わたしは思わずぎゅっと目を閉じてしまいました。そのまま
今か今かとその瞬間を待っていると。
「ん……」
 さやかちゃんの唇が触れたのは、わたしのおでこでした。確かに以前のさやかちゃんはわたしのおでこやほっぺにキスしてくれる
ことがよくありましたが、こんなところまで以前どおりだなんて。わたしは、あてが外れてすっかり肩の力が抜けてしまいました。
「んん……まどか……」



861 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/04/18(水) 23:23:27.62 ID:KlawlND0P [17/18]
 さやかちゃんは、まだ夢の中のようです。わたしは苦笑して、もう一度さやかちゃんの胸に頭を寄せました。先ほどの緊張の反動
か、わたしも眠くなってきていたので、わたしもこのまま寝てしまうことにしました。キスしてもらえなかったのはちょっぴり残念
だけれど、ぎゅっとしてもらったりなでなでしてもらったりと、今日は久しぶりにさやかちゃんに可愛がってもらえたので幸せ
いっぱいです。その幸福感を胸に、わたしは眠りに落ちていきました。


「うっひゃああああああっ!?」
 突然の叫び声で、わたしは目を覚ましました。目をこすりながら顔を上げると、私の横で何かがじたばたともがいてバランスを
崩し、ベッドから落ちてごちっと痛そうな音がしました。尻餅をついた体勢のまま窓まで後ずさったそれは、当然のことながら
さっきまで一緒のベッドで寝ていたさやかちゃんでした。
「ままままどかっ!? えっ、ちょっ、なっ、なんであた、あたしの隣に!? あ、あたしっ、なんで!?」
 さやかちゃんは目を見開いて心底びっくりしたと言わんばかりの顔で私を見つめています。口はろれつが回っていないし、腰も
抜けたままのようです。それにしても、いくらびっくりしたからと言って、そんなにパニックになって逃げ惑わなくてもいいのに。
「もー、いきなり大声出さないでよ、さやかちゃん」
「だっ、だって! あたし、一人で昼寝してたはずで! な、なんか目開けたら、いきなりまどかがっ! なんで、こんなっ!?」
 自分からわたしを引っ張り込んだくせに。さやかちゃんのあまりの言い草にちょっと傷つきます。
「ひどいよぉ。わたしが帰ってきたらさやかちゃんがお昼寝してるから、寝顔を眺めてたらさやかちゃんが寝ぼけてわたしを
引っ張りこんで抱きしめたんだよ?」
「う、うそぉっ!? うそでしょ!?」
 さやかちゃんは赤くなったり青くなったりまだ一人で大騒ぎしています。そのちょっと情けない姿を見ていると、さっきまでの
ギャップもあいまって思わずため息が出てきますが、それもわたしに恋していくれているが故だと思えば、怒る気にもなりません。
 わたしはベッドから起き上がり、さやかちゃんに歩み寄りました。さやかちゃんの前でしゃがみこみ、さやかちゃんの顔を覗き込みます。
「ね、さやかちゃん?」
「ひゃっ、ひゃい!? ななななんでひゅか!?」
 さやかちゃんは目を白黒させながら答えます。顔は真っ赤だし、ちょっと涙目だし、なぜか敬語だし、さっきまでの格好いい
さやかちゃんの面影もありませんが、そんなさやかちゃんもとても可愛いとわたしは思いました。わたしに恋する乙女の顔をして
とても可愛いさやかちゃんと、わたしを包んで守ってくれる格好いいさやかちゃん。これからはその両方を堪能できるのです。
 わたしは微笑んで、さやかちゃんに言いました。
「また、一緒にお昼寝しようね?」

                 *

「エリー! エリー! お願いだから助けてぇ!」
「……あー、いいいい。みなまで言わなくていいわよ。あれでしょ? 『お昼寝してるといっつもいつのまにかまどかがベッドに
もぐりこんでくるようになって困ってるの! 目が覚めたときにまどかの可愛い顔が間近にあると、心臓が口から飛び出しそうに
ドキドキしちゃって、思わず逃げ出すとまどかに「わたしの心をもてあそんでおいて逃げるなんて、ずるいよぉ!」なんて苦情を
言われるし! あたし寝てる間に無意識にまどかを抱きしめたりなでたりしてるらしいんだけど、全然覚えがなくって! ねえ、
あたしいったいどうしたらいいの!?』でしょ? あたしがかける言葉は一つ、『末永く爆発しろ』よ!」
「ちょっとー!? なんか手立て考えてくれてもいいじゃない! このままじゃあたしの心臓が持たないよ!」
「知るかー!」


だいぶニュアンス変わってるけどインスパイア元:http://dl7.getuploader.com/g/madosaya/90/www.dotup.org2694896.jpg

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最終更新:2012年04月25日 00:24
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