29-182

182 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/05/09(水) 08:31:58.48 ID:IXlWUbJz0 [1/7]
小説の流れをぶち切ってしまいそうで申し訳無いですが…。
前スレであった転生後のお話が出来たので投火させていただきます。
名前は変えるとややこしいので敢えてそのままにしてます。



わたし、鹿目まどかには前世の記憶があります。
…と言っても周りに信じてくれる人なんていないし、そもそも信じて貰える事ではありません。
だから、これは誰にも言えないわたしだけの秘密なのです。
いつの日か伝えられる人に出会えるかもしれない…その時までずっと胸の中に仕舞っておきます。

[記憶の彼方へ]

「………転校…かぁ…。」
「ごめんよまどか。大人の我侭に付き合わせちまって…。」
「気にしないでママ。わたしはパパとママが大好きだから、どんな時でも一緒だよ。」

実を言うとわたしは前世の記憶の所為であまり友達がいませんでした。
誰を見ても前に出会った別の誰かを重ねてしまうみたいで、深く付き合うのが怖くなってしまうのです。
だから今回の転校も自分の気分を変えるには良い機会だと思い、わたしはすんなりと受け入れました。

わたしは中学2年生で住み慣れた街を離れ、新しい街へ引っ越す事になりました。
以前に住んでいた場所より地方だけど、ここはそれなりに大きな街みたいです。
明日からこの街の学校に通うんだね…そんな事を考えながらわたしはぶらぶらと歩いていました。
「(…あれ…? 何の音だろう…?)」
ふと聴こえるヴァイオリンの音…。
音楽の詳しい事はよく理解らないけど、素人のわたしにも心地良く聞こえる…。
その音色に引き寄せられながら、わたしは一戸建ての家のお庭に辿り着きました。
植木の間からひょっこりと顔を出して覗いてみると、そこにはヴァイオリンを弾く青い髪の女の人。
この位置からだと顔はよく見えないけど、わたしより背が高くて腰くらいまである髪が風に靡いています。
「(綺麗…。音も、女の人も凄く綺麗…。)」
曲が終わっても暫く余韻に浸っていたかったのですが、わたしはその場を後にしました。
思わず拍手をしそうになったけど、人様のお家を覗き込むのはあまり良い事じゃないよね…。

その夜はパパとママにヴァイオリニストの女性のお話をしました。
この街でまたあの人に会えたら、それはちょっと嬉しいなって思いながら。

………………………………………♭♭♭………………………………………

―学校―
「はじめまして、鹿目まどかです。先生、あの…しかめじゃなくてかなめなんですけど…。」
「ご、ごめんなさい!」「あはははは!」「よろしくお願いしまーす!」
担任の先生に苗字の読み方を間違えられてしまいました。普通はどう見てもしかめって読むよね…。
ちなみにわたしの担任は、縦ロールがチャームポイントな若い女の先生です。
「し…かなめさんの席は…っと、一番端になっちゃうけど美樹さんの隣りが空いてるわね。」
名前を呼ばれた美樹さんがわたしに手を振ってこっちこっちと合図をしてくれます。
ってあれっ…!? その美樹さんの髪は何処かで見覚えのあるものでした。
「よっ、あんた転校生だったんだ。昨日うちの庭から覗いてたよね?」
何と、隣りの席の美樹さんは昨日ヴァイオリンを弾いていた女の人だったのです。
「あっ!ご、ごめんさない…。昨日は練習の邪魔しちゃって…。」
「別にいいよ、減るもんじゃないし。声掛けようと思ったんだけどすぐいなくなっちゃうからさー。」
隣の席に座ってからわたしは気付きました。この人、前世で出会ったとても大切な人にそっくりなんだ…!
髪型が全然違うから雰囲気も落ち着いて見えるけど、ヘアピンも顔も匂いも忘れはしない"さやかちゃん"その人でした。
「カナメまどかさんだったよね。あたし美樹さやか、よろしくね!」

183 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/05/09(水) 08:33:25.74 ID:IXlWUbJz0 [2/7]
―休み時間―
「美樹さーん、ちょっとこの楽譜見てくれない? どう弾いたらいいか理解らなくて…。」
「んー? どれどれ。」
クラスメイトの美樹さんは明るくてスタイルも良くて音楽の教養があるみたいで人気者です。
たくさんの人達に声を掛けられ、特に女の子のお話を聞いたり音楽に関するアドバイスをしたりしています。
綺麗な青髪と青い瞳…右目は眼帯で隠れて見えないけど。怪我でもしたのかな?
「おっとごめんごめん。ん?そんなにあたしの顔見てどしたの?」
お話が終わると美樹さんはポツンと座っていたわたしの傍に戻って来てくれました。
「え!えと、その…。同じ学年だなんて思ってなかったから、まだちょっとびっくりしてて…。」
「…あたしそんなに老けて見える…?」ジトー
「ち、違うよぉ! わたし…その…。美樹さんと比べると子供みたいだから…。」シュン
「…ぷっ。あっはははは!!」
美樹さんは半眼になったと思ったら急に大笑いし始めました。大人っぽい雰囲気と違って小い子みたいに笑うんだね。
「あたしらまだ中学生じゃん。そんなの気にすんなー!」
「あっ、う、うん…そうだよね♪」コロッ
「あんた表情くるくるして可愛い奴だなー。」
「ふぇっ!? そ、そうかな…?」
無邪気な笑顔で急に可愛いなんて言われて、わたしは何故か胸がドキドキと音を立てました。
「おっし。隣の席ってのも何かの縁だろうし、放課後にでもこの辺を案内したげるよ。」
転校初日、こうしてわたしはヴァイオリストの女の子と再会どころかお友達になる事が出来たのです。

―授業中―
「………zzz…」ウッツラウッツラ
「(美樹さん!起きなきゃ先生来ちゃうよ!)」
なんだか美樹さんは授業の半分くらい眠ってる気がします。お勉強大丈夫なのかな…。
「(鹿目さん、大丈夫ですわ。美樹さんは中学生にして天才ヴァイオリニストですから、先生は何も言えませんわ。)」
話し掛けてくれたのは前の席の女の子。ふわふわした髪がお嬢様っぽい感じの子です。美樹さんのお友達なのかな?
「(ええっ!?美樹さんってそんなに凄かったの…!?)」
「(はい。それはもう、コンクールの度に都内…時には外国からの声が掛かる程ですのよ。)」
この美樹さんって凄いんだ…。前世で中学校のクラスメイトだった上条君みたいです。
「―――こら!そこの二人!お静かに!!」
「「…ごめんなさい…。」」
ヒソヒソ話がエスカレートしちゃったみたいで、わたし達は先生に怒られてしまいました…。

―放課後―
「同い年で美樹さんっての堅っ苦しいし"さやか"でいいよ。あたしもまどかって呼ばせて貰うし。」
わたしは街を案内して貰うべく、二人きりでぶらぶらする事になりました。
「さやかちゃんって凄いんだね。ヴァイオリンのコンクールでも優勝したって聞いたよ。」
「…別に凄くなんてないよ。」
「え…? でも…誰にでも出来る事じゃないよ…。」
美樹さん改めさやかちゃんは、ヴァイオリンの事を言われると急に影を落とした様に声のトーンを下げてしまいます。
「周りの人はみんな…そうやってあたしを特別扱いするからあんまし自慢とかしたくないんだ。」
「あっ…ごめんなさい…。で、でもさやかちゃん…。授業はちゃんと…聞いた方がいいかなって…思うの…。」
「…ははっ!そうだよね。うん!そりゃそうだ!」
わたしは恐る恐る指摘しましたが、わたしの心配とは真逆にさやかちゃんは急に明るさを取り戻していました。
「ちゃんと思ってる事はっきり言ってくれて嬉しいよ。名前で呼んでくれたのあんただけだし。」
「ふぇ…???」
むしろさやかちゃんは喜んでくれたみたいです。わたしは自分の考えをそのまま言っただけなのだけど。
「一応言い訳させて貰うとね、楽器の練習と音楽の勉強でちょっと寝不足なんだわ。
「さやかちゃん、大変なんだね。あ、でも今日って時間大丈夫なの?」
「レッスンは6時からだから2時間くらいならブラつく暇はあるよー。」

184 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/05/09(水) 08:38:49.42 ID:IXlWUbJz0 [3/7]
ゲームセンターやカラオケボックスの場所を案内して貰いながら、小腹が空いたのでファーストフード店に立ち寄りました。
こうして2人で街を歩いていると、遠い記憶が何だか懐かしい気がします。
「…みんなあたしに弾けて当たり前だとか思ってさ…(モグモグ)。こっちは才能無い成りに努力してるんだっつーの!(ゴクゴク)」
「あはは…。でもさやかちゃんは努力を形にして見せたんだよね。やっぱり凄いと思うよ。」
「へ?そう? 努力って言って貰えるとさやかちゃん照れちゃいますよ。」
「わたしで良かったら幾らでも言うよ。それにね、出来たらさやかちゃんが頑張ってる所も見たいなって。」
「あ~!なんか久々にスッキリしたわ。んじゃもうちょい時間あるし、うちにでも来る?」
「えへへ…お邪魔します♪」
さやかちゃんはありのままの自分と接してくれる仲間が欲しかったみたいです。
周りから尊敬されるって、必ずしも良い事ばかりって訳じゃないんだね…。

―美樹家―
夕陽が差し込み始めたリビングで、わたしはずっと気になっていた事を思いきって訊ねる事にしました。
「ねぇさやかちゃん。その右目は怪我をしてるの…?」
長い髪に少し隠れて目立ちませんが、さやかちゃんの右目は白いガーゼの眼帯に覆われているのです。
「ああ、これね。前に父さんと喧嘩しちゃってさー。………ほら。」
右手で髪をたくし上げ、左手で眼帯を外すとそこには肌に傷も無くちゃんと眼がありました。
ただ、青い左目と違って右目は不自然に瞳孔が開いたままの灰色でした。
「怪我自体は治ってるんだけど、右目の視力はゼロ。これが原因で父さんは家を出て行っちゃってさ。
 暫くして母さんもわたしがコンサートで貰ったお金を持ってドロン。ホント大人って薄情だよねぇ~。」
さやかちゃんは大げさに困ったポーズを取ってあっけらかんとした様子です。
結果的にさやかちゃんは中学2年生にして一人暮らし、しかもヴァイオリンで自活しているっていう状況でした。
これ…凄く大変な事じゃないのかな…。そんな現実にもめげず、さやかちゃんは逞しく生きているのです。
「…それにさ…眼の色が違うって気色悪いでしょ? だから隠してるのよ。」
そう言ってさやかちゃんは直ぐに眼帯を元通り着け直しました。さやかちゃんは所謂後天性のオッドアイなのです。
「気持ち悪くなんてないよ。わたしはかっこいいと思うけど。」
「へっ!? そ、そうっすか…。」
わたしの反応が意外だったのか、さやかちゃんは頭を掻きながら照れ臭そうにしています。
「まぁ…まどかがそう言うなら眼帯無しも考えてみるか…。」
「それにさやかちゃん、中学生で一人暮らしなんて凄いよ!さやかちゃんさやかっこいい!」
「ぶっ…!何よそれ~!恥ずかしい様な嬉しい様な…。そっちがそう言うなまどかはまどかわいいだー!」
「きゃー♪」
さやかちゃんはわたしに抱き付きながら身体をくすぐって来ました。
出会って一日も経っていないのに、何故だか当たり前の様にこうしていたみたいで…。
「何だろ…。こうしてるとさ…何だか懐かしい気がするんだよね…。」
「えへへ、そうだね…///」
さやかちゃんに抱き寄せられた手を更に上から優しく包み込むと、胸の中に仕舞っておいた思い出が鮮明に蘇ります。
「赤くなってくれちゃって可愛いなぁ。おーし決めた!まどかはあたしの嫁になるのだ~!」
「えへへ…♪ さやかちゃんなら…いいよ。」
「………ぁっ…」
わたしを抱きしめたまま、さやかちゃんは途端に勢いを止めてしまいました。
そしてわたしの肩にポタりと何かが落ちたのです。
「さやかちゃん?」
「あ、あれ…? あたし…なんで………泣いてる…の…?」
もしかして…さやかちゃんにも前世の記憶が残っているのでしょうか?
でもさやかちゃんは考えようとすればする程、、涙の粒は大きく止め処なく流れ始めてしまいます。
「…うぐっ…なんでよ…なんで…止まん…ないの…っ…」ポロポロ
わたしには理解ります。それは悲しみの涙ではなく、きっと記憶の彼方の思い出に幽かに触れた喜びなのでしょう。
「さやかちゃんが落ち着くまで何回でも言ってみてくれないかな? さっきこの言葉…。」
「…うんっ…! まどかは…あたしの嫁になるのだぁ~っ…! あはは…!なんでこんなに嬉しいんだろ…!」

185 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/05/09(水) 08:45:05.81 ID:IXlWUbJz0 [4/7]
涙でぐしゃぐしゃになったさやかちゃんの顔は笑顔で染まっていました。釣られてわたしも笑顔になります。
「ねぇまどか。あたし、前にどっかであんたと会ったっけ…? あたし物覚え良い方じゃないからさ、忘れてたらホントごめん!」
「うーんとね…あると言えばあるし、無いって言えば無いかな。」
「何よそれ~!」
「さやかちゃんが信じてくれるかは理解らないけど…クラスのみんなにはナイショだよ?」

わたしは自分に出来る限りの事をお話ししました。
魔法少女として、神様としてさやかちゃんを導いた…って言うのは別の事に置き換えながらですが。
「前世…か。ホントにそんな記憶ってあるのかな…。」
「勿論全部信じてなんて言わないよ。でもね、わたしは………」
どんなに頑張っても、過去の記憶を未来で出会った人にはっきりとは伝えられません。
けれど、わたしの気持ちはたった一つだけ。これだけは何年経っても揺ぎ無い気持ちです。
「わたし…さやかちゃんと"もう一度お友達になりたかった"の。それだけがわたしの願いなんだよ。」

………………………………………♭♭♭………………………………………

―朝の通学路―
「さやかちゃんっていつ頃からヴァイオリン習い始めたの?」
「あーっと……ごめん、良く覚えてないや。元々無理矢理音楽教室に入れられた気がするんだけど…
 そこで同じヴァイオリンコースの凄く真面目な男の子に出会ってさ。
 あたしはそいつに妙にライバル心みたいなのが芽生えちゃって、それから本気で練習してた気がする。
 まぁ…そいつは小学校の頃家族と一緒に外国に引っ越したからあんまし覚えてないや。」
さやかちゃんは生まれ変わってもやっぱりヴァイオリンに縁があるみたいです。
でも今は誰かの幸せを願うんじゃなくて、自分から幸せに向かって歩もうとしているさやかちゃんが素敵です。
「わたし、もっともっとさやかちゃんのヴァイオリン聴きたいなっ♪」
「じゃぁ今日も帰ったらまどかにだけ聴かせちゃおうかな。まどかはあたしの嫁だからね!」
「さやかちゃんのお嫁さんなら…いいよ…///」
わたしはそう言いながらさやかちゃんの手を軽く握りました。
「うぉっ!? ちょ、ちょっと待ってぇ~!///(そんな赤い顔で見るの犯罪的に可愛いよこの子…)」

『あらあら、お二人は既にそんなご関係でしたのね♪』
「―――のわっ!?」「わぁぁぁっ!?」
通学路で遭遇したのは同じクラスの前の席の女の子でした。
わたし達は慌てて手を離しましたが、今のやり取りはしっかりと見られてしまったみたいです。ちょっと恥ずかしいなぁ…。
「あのさ、まどか…。さ、最初は…手を繋ぐトコから…でいいかな…?」
「ふぇぇぇぇぇっ!? う、うん…///」
「お二人共…その愛の形は…禁断の恋ですのよぉぉぉ~っ!!」
「へ!? あ、あの、ちょっとぉぉ~!?」「行っちゃった…。」
お嬢様風の女の子は何かを叫びながら走り去ってしまいました。あの子ともいい友達になれそうな、そんな気がします。

例え記憶が無くても環境が違っても、こうしてわたしとさやかちゃんはこの世界で再び出会う事が出来ました。
それはきっと…奇跡でも偶然でもなく必然だったのかもしれません。
そうだ、パパとママにもさやかちゃんを紹介してあげよう。きっと仲良しさんになれる筈だから。
「これからもよろしくね、さやかちゃん。」
「へ? うん。よろしくね、まどか。」
どうかわたし達がずっとお友達でいられます様に。

[記憶の彼方へ]

おしまい。おはようまどさやスレ。例えこの先何があろうとも、二人の平和が永遠に続く様祈っています。

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最終更新:2012年05月22日 01:30
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