11 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2012/04/20(金) 10:47:24.31 ID:leKwmo3+O
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/8286/1333201004/26-29
>>1乙
26 :名無しさん@まどっち :2012/04/20(金) 10:27:33 ID:dnTJG4MY0
前スレ>>699の
【絶対幸せになれないお題出しったー】
まどさやへのお題は
・聞こえない
・…行ってきます
・げほっ、う……っかは…!です。
を元に。
さやかちゃんの明るい声は、もう聞こえない。
玄関に立ってドアを開けたわたしは、思わず後ろを振り返った。もちろん、そこには誰もいない。わたしがお勤めに出る
ときは、いつもさやかちゃんが玄関まで見送りに来てくれて、わたしにいってらっしゃいのキスをしてくれるのが日常だった
けれど、もうそんなことはなくなってしまった。それはわかりきっているはずなのに、それでもわたしは毎日ここで振り返らず
にはいられない。
「…行ってきます」
家の中に向かって声をかけても、返事はない。心なしか薄暗く見える家の中の何もない空間に、なにか重苦しいものが立ち
込めていて、それがわたしの声を吸い込んでしまったかのよう。わたしは奥歯を噛みしめて背を向けて玄関から出、ドアを
閉じて鍵を掛けた。
ゆっくりと自分の体を浮かせ、空に向かって飛び上がる。これからお勤めに行くというのに、わたしの表情は晴れないまま
だった。自分で自分の頬を叩き、こんなことじゃいけない、と自分を奮い立たせようとする。わたしがこれから迎えに行くのは、
魔力を使い果たして、あるいは魔獣に命を絶たれて絶命する瞬間の魔法少女たち。わたしにとってはこれまで何度もこなしてきた
お勤めではあるけれど、彼女たちにとっては自分自身の人生の、苦痛や絶望に満ちた末期の時だ。わたしの役目は、そんな彼女
たちの苦痛や絶望を受け止めてあげること。そのわたしが沈んでいたら、魔法少女たちを受け止めてあげることができない。
それは、彼女たちにとってこの上なく失礼なことになってしまう。
何度もそう自分に言い聞かせるけれど、わたしの中の神様になる以前の『鹿目まどか』が泣き叫ぶ。さやかちゃんがあんな
状態なのに、さやかちゃんが心配で心配で仕方がないのに、さやかちゃんに万一のことがあったら一生後悔するのに、こんな時に
魔法少女のお迎えなんて無理だよ、と。
今のわたしにそんなわがままは許されないの、あなただってわかっているでしょう、とその声を無理やり黙らせてわたしは
現世の魔法少女のもとに向かう。押し殺した想いがどうか外に表れていませんようにと祈りながら。
27 :名無しさん@まどっち :2012/04/20(金) 10:28:28 ID:2RxzecMQ0
さやかちゃんには、もうわたしを抱きしめてもらうこともできない。
どうにかその日のお勤めを終え、わたしはまど界に戻ってきた。導いてきた魔法少女を分霊に任せ、家路につく。最初こそ
一刻も早くさやかちゃんのもとへ帰ろうと全力で走り続けたけれど、わたしの足取りはすぐに重くなり、とうとう立ち止まって
しまった。
それは、わたしが家に戻ってもさやかちゃんのためにしてあげられることは何もないから。それどころか、わたしがそばに
いることがかえってさやかちゃんのためにならないから。
これまでさやかちゃんは、わたしが外でお勤めをしている間、家の中のことは何でもやってくれていた。お洗濯ものを干し、
部屋をぴっかぴかに磨き上げ、おいしいご飯を作ってわたしの帰りを待ってくれていた。だから、さやかちゃんはあんな体に
なってもわたしのためになにかをしてくれようとする。体に障るから休んでいてと言っても、さやかちゃんは「まどかが
やってるのを見てる方が寿命が縮まりそうだから」と冗談めかして言い、休んでくれようとしない。そういう時、わたしは
どうしようもなく自分が情けなくなってたまらなくなる。
さやかちゃんが大変な今こそ、今までさやかちゃんが頑張ってくれてた分だけでもお返ししたいのに、さやかちゃんが安心して
休んでいられるようにしてあげたいのに、それさえもできなくて、さやかちゃんに余計な苦労をかけてしまう。宇宙すべてを
この手で作り変えても、魔法少女を救う概念になった今でも、わたしは全然さやかちゃん離れが出来ていない。いつまでも
さやかちゃんに頼りきりで、いつも助けてもらってばかりで。
そんなことを考え続けて落ち込むところまで気分が落ち込んでしまったけれど、どうにか気持ちを奮い立たせてわたしは家に
帰ろうと足を踏み出した。わたしが家に帰るのがあまり遅くなると、なにかあったのかとさやかちゃんが心配するから。
とにかく、さやかちゃんに心配をかけないようにできる限りのことをしよう。それで、できる限り笑っていよう。空元気でも
わたしが笑顔でいないと、さやかちゃんにまた心配をかけてしまう。さやかちゃんのことだから、わたしの空元気なんて
お見通しだろうけど、空元気だとしても出せるくらいにはわたしは大丈夫なんだということをさやかちゃんに見せて
あげなきゃ。さやかちゃんには、わたしのことよりも自分自身のことを第一に考えてほしいから。
28 :名無しさん@まどっち :2012/04/20(金) 10:29:15 ID:oNUwe7ps0
さやかちゃんは、もう起き上がることすらできない。
「げほっ、う……っかは…!」
さやかちゃんの部屋から、苦しそうな声が聞こえる。けれど、わたしにはどうすることもできない。わたしには、さやかちゃん
の苦しみを代わってあげることすらできない。魔法少女の神様なんて祭り上げられていても、わたしはこんなにも無力だった。
愛する人が苦しんでいるのを見ているしかできないなんて。
さやかちゃんは、今日もほとんど食事を摂ってくれなかった。少しでも食べなければよくないのに、どうしても食欲がない
らしい。そのせいか、さやかちゃんの体はだんだんやつれてきてしまっていた。日に日にやせ細っていくさやかちゃんを目に
するのは、わたしにとって耐えがたい苦痛だった。その苦痛が、どうにか取り繕っていたわたしの笑顔をゆがめてしまう。
そんなわたしを見て、さやかちゃんは弱々しく微笑んで「大丈夫だよ」と言ってくれる。もう腕を上げるだけでも辛いはず
なのに、わたしの頭を優しく撫でてくれる。
自分が一番辛いはずなのに、そんな状態でもわたしを慰めてくれるさやかちゃんの気遣いが優しすぎて、わたしはぽろぽろと
泣き出してしまった。こらえなきゃとどれだけ強く思っても、涙はわたしの決意を軽々と飛び越えてあふれ出てきてしまう。
泣いているところを見られたくなくて、わたしはさやかちゃんの部屋を飛び出した。自分の部屋に駆け込んでベッドに顔を埋めて
泣く。できる限り声を押し殺して、泣き声がさやかちゃんに聞こえないように。
さやかちゃんは、優しい。そして、わたしを責め苛んで泣かせるのは、そんなさやかちゃんの優しさ。なぜなら、さやかちゃん
がああなってしまったのは、わたしのせいだから。
さやかちゃんは「まどかのせいなんて思わないよ。こういうのも悪くないかなって思うし、あたしは大丈夫」と言ってくれた。
けれど、さやかちゃんは本当に辛そうで、そのさやかちゃんを苦しめることになった原因が自分にあるという事実が、わたしの心に
重くのしかかっていた。
「なんで、さやかちゃんなの……? わたしが、わたしが苦しめばよかったのに……」
こんな言葉を聞かれたら、なんてことを言うのと叱られるだろう。それでも、そう思わずにはいられなかった。
いつかは、さやかちゃんの苦しみにも終わりが来る。その時が早く来てほしいと祈りながら、わたしは泣き疲れて眠りに落ちた。
29 :名無しさん@まどっち :2012/04/20(金) 10:29:53 ID:IosZz7mw0
*
「四ヶ月に入ったところですね。順調ですよ。つわりはまだひどいですか?」
「いえ、最近は吐き気もおさまって、だいぶいい感じですよ。一時期は本当にひどくて起きられなくなっちゃいましたから」
「さやかさんの場合は、特にひどかったようですね。食事も食べられないのは辛かったでしょう?」
「参っちゃいましたよ。今まで好物だったものが見るのも嫌になっちゃって。せっかくまどかが作ってくれた食事も全然
食べられなかったんだもん」
「そういえば、ドアの外でその神様がやきもきして待ってらっしゃいますね。キリカ、神様をお呼びして?」
「うん。神様、織莉子が呼んで……うわっ」ダダダッ
「さささささささやかちゃんっ! 具合はどう!? どっかおかしいところなかったっ!? 織莉子さん、さやかちゃんは
大丈夫なんですかっ!?」
「はいはい、どうどう。落ち着いてよ、まどか。あたしも赤ちゃんも順調だってば」
「……はあ�、よかったぁ�……。だってさやかちゃんあんなに辛そうだったから、わたし心配で心配で……ぐすっ」
「もう、なに泣いてんの。まったく、つわりになってないまどかの方が辛そうな顔してんだもん、どっちが赤ちゃん出来たのか
わかんないわね」
「だって、いつもあんなに元気なさやかちゃんが吐き気で苦しんでたりとか、一日中ベッドで寝てたりとかするようになっちゃって、
そんなさやかちゃん見てる方が辛くて…………ううっ、ぐすっ……うあああ�ん……」シガミツキ
「ああもう、泣かないの! ほれ、よしよし。やれやれ、赤ちゃんがもう一人増えたような気分よこっちは」ナデナデ
「くすくす。神様が不安になるのもわかりますわ。けれど、心配することはありません。もう半年ほどで元気な赤ちゃんが
生まれてくると予知にばっちり出ていますから」
「織莉子さんも人が悪いよね。予知で前から知ってたくせに、あたしが起きられなくなってから『妊娠なさってますよ』なんて
教えに来るんだもん」
「あら、でも、赤ちゃんができるようなこと、なさってたんでしょう? それなら、ご自分で気が付かれてもよろしいんじゃありません?」
「あー、まあ確かに……。やっぱりあれがまずかったね、まどか」
「うん……ごめんね……。わたしが毎晩せがんじゃったから……」
「あらあら。そんなに頑張ってらっしゃったんですの?」
「まあ頑張ったっていうか、毎晩まどかとキスしてから寝てましたから。そりゃ赤ちゃんだってできちゃいますよね」
「……は?」
「さやかちゃん、そんな恥ずかしいこと織莉子さんに言わないでよぉ……///」
「あの、つかぬ事をお聞きしますけれど、キスの後は……?」
「後? まどかと手つないで寝てますけど」
「それだけですか……?」
「さやかちゃんに抱きしめてもらって眠るときもありますよ」
「……」
「やー、でも早く赤ちゃん生まれてこないかなぁ。まどかに似てるといいよね、きっと可愛いよ!」
「わたしはさやかちゃん似がいいなあ。その方が絶対かっこいい子になるもん!」
「まどか似がいいよ!」
「さやかちゃん似!」
ギャーギャー
「……解せないわ……」
「……愛だねぇ」
「本当に、無限に有限ですこと……」
>>1乙。
最終更新:2012年06月24日 03:01