48 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/07/07(土) 02:13:58.67 ID:h8okdvts0 [1/4]
ホントは次の夜だと思うんですが、一応7月7日になったので七夕の話を投下させていただきます。
「よろしいですかみなさん、短冊は一人一つまでですよー!」
『はーい!』
ここ見滝原中学では定期試験も終え、夏休み前に一学期最後の学校行事が行われていた。
今日は七夕の前日。生徒達は短冊に願い事を書く事になったのだ。
クラス毎に用意された笹に飾れる短冊は一人一つまで。生徒達は競うかの様に各々の願いを書いては括り付け始める。
[天の川の渡し守]
<恭介の腕が治りますように/美樹さやか>
さやかは想い人であった恭介を結局友人の仁美に譲る形となったが、それでも彼を大切に思う気持ちは変わらなかった。
退院はしたが腕の治らない彼が、少しでも元気になって欲しいと短冊に願いを込めたのだ。
「(あたしって…結構未練がましい奴だな…。)」
幼馴染の彼は以前より遠い存在になりつつあるが、未だ心の何処かに未練があるのかもしれない。
さやかはそんな事を考えながらやや自嘲的な笑みを浮かべていた。
「(えへへ、さやかちゃんはどんな願い事をしたのかな。)」
さやかが笹の前から立ち去った後、まどかは自分の短冊を片手に無邪気な笑顔を浮かべながら現れた。
「―――……あっ…。」
しかしまどかは"美樹さやか"の名前が書かれた水色の短冊を見た途端に立ち止まってしまう。
そして誰にも悟られない内に、そそくさと自分の短冊をスカートのポケットに仕舞い込んでしまった。
「さってと、まどかの短冊は何っ処かな~♪」
「わたしは書いてないよ。」
まどかは自分の傍、笹の前に戻って来たさやかにそれだけを告げた。勿論"書いてない"のは嘘である。
「へ…!? そりゃぁまた何でよ…?」
「えへへ…わたしはいつも幸せだから、お願いなんてしなくても平気だよっ♪」
「ふーん…そっか…。」
さやかはまどかの態度が何となく腑に落ちなかったが、確かに短冊の中に"鹿目まどか"の名前は見当たらない。
暫く他の生徒の短冊を読んでいるさやかを残してまどかは一度その場を離れる事にした。
そのまま教室の隅にあるゴミ箱に向かったまどかは、短冊を取り出しこっそり棄てたのだ。
先程無造作にポケットに突っ込んだ為に、ピンク色の短冊少しくしゃくしゃになっていた。
だがクラスで唯一人、まどかの捨てた短冊をほむらだけは見逃さなかった。
時間停止の魔法まで用いてまで、誰にも悟られないようにこっそりと回収しておく。
………♭♭♭………
―放課後/教室―
「ほむらー、話って何?」
「貴女に見せたいものがあるのよ。」
さやかは友達のほむらにメールで話があるとだけ言われて教室に残っていた。
そしてほむらは見せるというか、ある紙切れを直接さやかに手渡したのだ。
「あれ?これ短冊じゃん………―――って…うえっ!??///」
渡されたのは数箇所が折れたピンクの短冊。その内容と筆者の名前を見たさやかは思わず赤面してしまう。
何しろ<さやかちゃんのお嫁さんになれますように/鹿目まどか>などと書かれていたのだから。
「…な……ななな…!?///」
もう一人の幼馴染であるまどかの事は薄々感付いていたが、こうも大胆に言葉にされるとかなり気恥ずかしいものがある。
「それ、さっき偶然ゴミ箱で拾ったのよ。ふふっ…それをどうするかは貴女に任せるわ。」
ほむらは悪戯っぽく笑ってから踵を返す。まるで筆者の気持ちを代弁する様に。
―わたしはいつも幸せだから、お願いなんてしなくても平気だよ―
あの言葉は嘘だった。手の中にあったのは叶わない願い事…これではまるで独りぼっちの織姫だ。
「………。あたし…ちょっと書き直してから帰るわ…。」
後姿でそれを聞いたほむらは口元に"フッ"と満足そうな笑みを残して教室を後にした。
「(あいつには今仁美がいる。だからきっと大丈夫…あたしがいなくてもね。
それより今あたしが本当に向き合わなきゃいけないのは………。)」
………………………………………♭♭♭………………………………………
49 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/07/07(土) 02:15:15.29 ID:h8okdvts0 [2/4]
―次の日/教室―
七夕の当日は朝から予想通り早速短冊の話題で持ちきりだった。
そんな中、まどか達が教室に到着するや否や男子生徒の茶化す声が飛んで来る。
「おっ!早速バカップルが現れたぞ!鹿目と美樹ブラブじゃん~!」
「うっさ~い!」
「えっ…?」
茶化す中沢と応戦するさやか。まどかは自分の名前が挙げられて訳が理解らなかった。
何しろ笹には昨日棄てた筈の自分の短冊が括られているのだから。
<さやかちゃんのお嫁さんになれますように/鹿目まどか>
「あ、あれぇ…どうしてわたしの短冊があるの…!?」
シワになった跡のあるピンクの短冊、そこに書かれている文字は間違い無く自分のものだ。
しかも近くに寄り添う様にさやかの水色の短冊が括られていて、まどかは思わず目を丸くしていた。
<さやかちゃんのお嫁さんになれますように/鹿目まどか>
<まどかと恋人になれますように/美樹さやか>
「まぁ!お二人は禁断の両想いですのね!キマシタワ~!!」
「あーもう!仁美まで言うなぁ~!!」
「さ、さささささやかちゃん…これって…!?」
興奮の余り暴走寸前な仁美を宥めてからさやかはまどかの方に向き直る。
「なんつーか、心境の変化って奴?」
「で、でもぉ…昨日は確か…上条君の腕って……。」
「あー…今心臓ぶっ飛びそうなくらい恥ずかしいから言わないで。」
涼しい顔をしたつもりのさやかだが顔は耳まで真っ赤だった。
そのまままどかの手を引っ張って人気の少ない廊下へ出る。
「あたし等まだ中学だし…いきなり嫁だって勇気はちょっとないけど…。とりあえずお付き合いからって事でいいよね?」
「うん!さやかちゃんだーい好き~!!」
「おわぁっ!?」
自分の気持ちが迷惑でないと知ったまどかは想いのままさやかに抱き付く。
無垢で屈託の無い笑顔の中にも恋心故の恥じらいは確かにあり、まどかの頬は赤く染まっていた。
………♭♭♭………
―夕方/美樹家―
まどかは両親の許可を得てさやかの自宅へお泊りする事になった。
今夜はさやかの両親も留守であり、七夕の夜に二人きりで過ごせるからという理由だ。
「まどかー、そーめん出来たよー。」
「わぁ~!さやかちゃん上手ー!」
「いやいや、気持ちは嬉しいけどただ茹でただけだっての。」
「えへへ、でもさやかちゃんが作ってくれたからきっと美味しいよ。」
「もう~、そんなに褒めたって何も…」
"出ないよ"と言い掛けてさやかは口篭った。どうやら今晩は彼女なりのサービスがあるらしい。
「ふぇ??? さやかちゃんどうしたの?」
「ぬふふ、まぁ後のお楽しみですよ~。」
50 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/07/07(土) 02:16:09.42 ID:h8okdvts0 [3/4]
七夕の縁起物として冷やし素麺を食べた後、さやかは冷蔵庫から何かを取り出す。
二人きりの食卓に置かれたそれは普段の食事としては少々珍しい色のものだった。
「青いゼリーだよね? これって…もしかして"天の川"のゼリー!? 」
まどかと自分にそれぞれ置かれたのは半球型の水色のゼリーだった。
透明な水色の表面には白い星型が幾つも浮かんでおり、また中央には二つだけ大きな星が寄り添っている。
「ふっふっふ、青いサイダーを寒天で固めて天の川ゼリーを作ってみたんだ。ちなみに白いのは牛乳寒天でーす。」
「すっごぉ~い!綺麗だよー! …ってこれさやかちゃんが作ったの!?」
「まぁねー♪」
「わああ…これ何だかわたし達みたい…。」
中央で寄り添う大きな二つの星はピンクとブルー。二人を示すこの色は間違い無くさやかが選んだものであろう。
「うちの織姫さんは一人ぼっちで待ってて淋しそうだったからね。」
「もう、さやかちゃんてば。わたし達年中一緒だよー。」
「あっははは! それもそうだわ。」
七夕を模した華やかな贈り物は、恋人同士でいたいというさやかからの気持ちそのものだった。
ゼリーを食べ終えた後でさやかは今夜のメインイベントへを提案する。
「それじゃ、これから星でも見に行こうよ。空も晴れてきたし、ちょっと走れば星も見えると思うからさ。」
「えっ? 走るって、さやかちゃんまさか…。」
「へっへー!勿論ですよ♪」
まどかを後ろに乗せ、さやかは街外れまで自転車を走らせる。
見滝原市の光が遠ざかるに連れて、星空の色は黒から深い"蒼"へと変化してゆく。
人気の無い畦道へ自転車を止めて、二人は手を繋ぎながら空を見上げていた。
「うわぁ…ねぇさやかちゃん…空って黒じゃなくてホントは青いんだね。」
「星がたくさん見える夜はこんな感じなんだけどね。最近は家の辺りだと全然星が見えないからなぁ。」
静寂に包まれたこの場所では夏の大三角形を簡単に見つける事が出来た。
願い叶った二人の想いは織姫と彦星に重なり、それでいて二度と離れ離れになどなりはしないのだが。
「さやかちゃんとずっと一緒にいられますように…。」
「あたしも。まどかとずっと一緒にいられますように。」
天球の光に照らされながら、青い星と桃色の星はそっと重なり合った。
………♭♭♭………
ベッドの中で先に寝付いたまどかの頭を撫でながら、さやかはさやかはとある短冊の事を思い出していた。
「………すぅ……すぅ……さやか…ちゃぁん……zzz…」
「(あいつはもしかすると天の川の渡し守だったのかもね。橋渡ししてくれた事、絶対無駄になんてしないよ。)」
<まどかが大切な人と結ばれますように/暁美ほむら>
「(まどか…ちゃんと幸せにするからね。)おやすみ、まどか。」
[天の川の渡し守
おしまい。
ほむさんはクラスメイトかつ自由に行動が取れるので話に絡ませやすかったり。それでは皆様良い七夕を。
最終更新:2012年07月27日 07:49