34-72

71 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/07/07(土) 20:32:30.62 ID:i680o4uc0 [3/6]
七夕

「曇ってるね」
「‥うん、ほとんどお星様見えないね」
「明日は晴れることになってるのになぁ」
家のベランダでわたしはさやかちゃんと並んで空を見上げていました。
天気予報では今日は曇り空だと聞いていましたが、それでも二人で織姫星と彦星を見ようとしてベランダの手すりにつかまって雲の切れ間を探していました。
やがてさやかちゃんが空を見るのをあきらめ、手すりにもたれかかってわたしに話しかけます。
「ねぇまどか。まどかは七夕の願い事した?」
「うん。コープにおつかいに行った時、短冊が置いてあったから‥」
「あ、あたしも昨日そこで書いたわー。で、何願ったの?」
そんなのは恥ずかしくて言えるはずもありません。
わたしが答えに詰まっているのを見て、さやかちゃんが悪戯っぽい笑顔をします。  
「ははー言えないんだ。じゃあ、場所も聞いたことだし、後でこっそり見てきますか。まどかの字なんて一目でわかるからね」
「あう。絶対に駄目!‥あ、そういうさやかちゃんは何書いたの?」
そう尋ねると、さっきまでわたしをからかっていたさやかちゃんが、急にばつの悪そうな顔をして目をそらせました。
「あ、えーと‥。秘密‥」
わたしだってさやかちゃんの字はすぐにわかります。
少しの間沈黙が続いた後、
「ごめん、あたしが悪かったよ。えーと、お互い秘密ってことで勘弁してー」
さやかちゃんが何をお願いしたのかはすごく気になったけど、わたしも見られたくないので仕方がありません。
「それにしても、今夜は織姫と彦星会えないね‥」
もの寂しげな声に驚いてふと横を見ると、さやかちゃんは再び空を眺めていました。
その綺麗な横顔に、わたしは思わず見とれてしまいました。
ですが、すぐにちょっとした不安がわたしを襲います。
ずっとわたしの王子様だったさやかちゃんが、中学生になって乙女の顔をすることがだんだんと増えてきました。
もちろんどっちのさやかちゃんもさやかちゃんで大好きです。
でも、さやかちゃんがどんどん変わっていく一方で、なんだか昔とちっとも変わっていないわたしだけが置いていかれるような気がして‥。
だからわたしは願わずにはいられませんでした。
『大好きな友達とずっといっしょにいられますように。』

72 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/07/07(土) 20:33:28.19 ID:i680o4uc0 [4/6]
小学生の七夕の時も、曇り空でした。
さやかちゃんと2人で学校から帰っている時、わたしは店の前にとても大きな笹が飾られているのを見つけました。
そこには、すでにたくさんの短冊が風に揺れています。
「ねぇまどか。まどかは願い事した?」
「ううん。さやかちゃんは?」
「あたしはもう終わったよ。まどかも何か願い事しなよ」
そう促されて、わたしはしばらく何を願うのかを考えます。
さやかちゃんに背を向け、短冊と鉛筆を取ります。願い事がかなうように想いをこめて丁寧に。
「さやかちゃんとずっといっしょにいられますように‥。ってまどか!?」
後ろから覗かれていました。
わたしは恥ずかしくなって涙目になりながら、今さらながら短冊をさやかちゃんから隠します。
さやかちゃんが耳元を赤くしてわたしから目線をはずしました。
わたしはおろおろしているだけでしたが、さやかちゃんはすぐにわたしを見つめなおしました。
「よし!あたしも願い事変える!まどかとずっとずっといっしょにいられますように‥っと」
どうせたいしたこと書いてなかったからね、と笑いながら付け加えて。
「こんな天気だけど、いっしょに吊るすと効果は2倍だね。それで、一番てっぺんにつける!」
さやかちゃんはちょっと待っててと言って、わたしを置いて店に入っていきました。
しばらくして、さやかちゃんは長い棒を持ってきました。植物を支える支柱でしょうか。
「店の人に頼んで借りてきた。これでこうしてっと‥」
短冊の糸に大きな輪を作り、棒を使い、てっぺん付近の笹の葉に器用に巻きつけます。
たくさんの短冊が飾られているはるか上を、同じ願いの書かれた2枚の短冊が仲良く寄り添ってはためいています。
わたしはその光景がなんだかとても誇らしくて、うれしくて。
曇り空で星は見えそうにないけど、わたし達のお願いはきっと叶うと思いました。
そう思うと、急に織姫と彦星のことが気にかかりました。
「織姫と彦星、このままじゃ会えないよ。1年に1回しか会えないのに‥」
さやかちゃんと1年に1度しか会えないのなら、わたしは悲しすぎて気がどうかするに違いありません。
「わ、そんな顔するのなし!」
さやかちゃんが慌ててわたしの頭をなでてくれます。
「7月7日に星が見えなったら2人は会えないって?そんなわけないじゃん。次の晴れてるときに延期されるだけ。ちゃんと2人は会えるに決まってるよ!」

73 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/07/07(土) 20:36:03.93 ID:i680o4uc0 [5/6]
「‥どか!まどか!」
「え?」
間抜けな声を出すと、家のベランダでさやかちゃんがわたしを覗き込んでいました。
「あんた、またなんか考えてたね」
「あ、ごめん。小学生の頃のことをちょっと‥」
わたしの願い事があの時からちっとも変わっていないことがなんだかおかしくなりました。
願い事にする必要もなかったのかもしれません。
中学生になっても、わたしはさやかちゃんとこうしていっしょにいる。さやかちゃんもずっとわたしといっしょにいてくれてる。
でも、わたしはさやかちゃんに内緒で来年も多分同じ願い事をしていると思います。
「何にやにやしてるのさ。」
「ううん、なんでもない。今日は織姫と彦星は会えそうにないね。でも‥」
あの時のさやかちゃんの台詞を言おうとすると、さやかちゃんがにやっとしてあの時と同じ明るい口調で続けました。
「七夕に星が見えなったら2人は会えないって?そんなわけないじゃん。次の晴れてるときに延期されるだけ」

以上です

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最終更新:2012年07月27日 07:50
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