841 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/08/05(日) 01:36:57.78 ID:+b7GNHRH0
素晴らしいイラストの後で恐縮なのですが夏祭りのお話を投下させていただきます。
いろいろ吹っ切っていて音楽素養のあるさやかちゃんです。
ttp://ux.getuploader.com/madosaya/download/132/matsuri.txt
―上条邸―
「あたしらが二次選考通ったぁ~!?」
「そうみたいなんだ。さっき合格通知の電話が来たばかりだよ。」
「皆さんかなり気合入れて練習しましたもの。不思議な事ではありませんわ。」
「うーん…正直信じられないんだけど、ここまで来たら覚悟決めてやりますか!」
見滝原祭を一週間後に控えた頃、さやか、まどか、仁美は学校帰りに恭介の自宅に集まっていた。
近々祭りで行われるイベントの選考会が先日行われ、彼女達はその参加資格を手にしたのだった。
各々が健闘を称え本番に向けて士気高揚していた。不安そうにする一人を除いては…。
「……あ、あの…わたしも出なきゃ…駄目…だよね…?」
[見滝原祭]
―祭り当日/夕刻―
「まどかー、たこ焼き食べよ。」
「う、うん…。」
早速出店を回るまどかとさやか。二人は本日訳あって浴衣ではなく私服で訪れている。
夕飯の時間帯が近く、さやかはまず腹ごしらえにとたこ焼きを購入していた。
一方のまどかは今晩行われるイベントの件で緊張しているのか、今ひとつ元気が無い様子だ。
「ふーふー…はい、あーん!」
「ふえっ!? あ…あーん…」
そんな彼女をできるだけ解(ほぐ)そうと、さやかは積極的にまどかを誘う。
驚いて一瞬躊躇う様子は見せるものの、まどかは差し出されたたこ焼きに嬉しそうにありついた。
「熱くなかった?」
「うん、大丈夫だよ…///」
"ふーふー+あーん"攻撃によって、まどかはちょっとだけ元気になった様だ。
さやかがまどかの手を引き歩く姿は出会った頃の二人そのままにも思える。
………♭♭♭………
「はい、お嬢ちゃん残念だったね。」
「うぐぐぐ…駄目だぁーっ!」
「今当たったよね!? どうして落ちないの!そんなのおかしいよ!」
射的屋で頭を抱えて悲鳴を上げるさやか。
目当ての品を打ち抜いたのだが、無常にも標的はコルク栓の直撃を耐え切っていた。
すっかり意気消沈したさやかを今度はまどかが慰める番になりそうだ。
「さやかちゃん、これでも食べて元気出そうよ。」
まどかが手に持っているのは白とピンクの二つの綿菓子。さやかは白い方を受け取る。
ふわふわとした柔らかさと甘みが頬一杯に広がり何だか幸せな気分にしてくれる。
だが少し食べ始めた頃に横風が殴り込み、二人の綿菓子はくっついてしまった。
「わわわっ…! ど、どうしよう…。」
「うー…な、仲良く譲り合うしかないっしょ! ほら、あたしら親友なんだし余裕余裕!」
「そ、そうだよね…!」
親友だからと誤魔化しながらも、敢えて互いの距離が近付く選択をする二人。
掴みどころの無いふわふわとした綿菓子を、狙った場所だけ丁寧に食べ進めるのは意外と難しい。
顔が近付くにつれてお互い平静を保つ事ばかり考えていると、いつの間にか互いの唇は寸前まで迫っていた。
「んっ…のわあっ!!?///」
「わっ…ごめんさやかちゃ…!///」
綿菓子を食べきろうとした所で僅かに唇が触れてしまったらしい。
周囲に人が多数いる中、慌てて顔を逸らしながら二人は顔を真っ赤にしてしまった。
「…まどか………あ、あのさ…ほっぺにちょっと付いてるよ。」
「えっ…?」
事故とは言え一度キスに至ってしまったからか、さやかはやや吹っ切れた様に自らまどかの頬に顔を近付ける。
(ぺろっ)
「ひゃ…さやかちゃ…///」
「へへ…!」
まどかは茹蛸の様な顔で舌で触れられた頬を抑えて幸せそうにしている。
さやかも照れ隠しに微笑んでいる所へ、後ろから聞き慣れた女性の声が掛けられた。
「相変わらずのバカップル振りね、ふふふっ♪」
「「―――!?」」
いちゃ付いていたまどかとさやかの元に魔法少女仲間達が現れた。
笑顔で最初にバカップルへ声を掛けたのは金色の浴衣に身を包む先輩のマミである。
赤髪の杏子は紅の、黒髪のほむらはそれぞれ紫の浴衣姿で勢揃いだ。
「よっ! さっきお坊ちゃん達の組にも合ったぞ。こっちのバカップルも負けず劣らずってトコだな。」
「あら…? 普段着だなんてバカップルにしてはイマイチ雰囲気が無いわね。」
「あんたらさっきからバカップルバカップルって…。ん…?」
「マミさん、ほむらちゃん、杏子ちゃんこんにちわ。どうしたのさやかちゃん?」
さやかはバカップル呼ばわりにツッコミを入れようとしたが、それよりもマミとその両サイドが気になっていた。
何しろマミの右腕には杏子の手が、マミの左腕にはほむらがしっかりと手を握っていたのだから。
杏子とほむらは数秒してさやかの視線に気付いたらしい。
「ちょっと杏子。貴女が何故巴さんの手を握っているのかしら…?」
「弟子のアタシが師匠のマミさんの手を握ってんのは普通だろ。テメェこそ何でマミさんと手ェ繋いでんだよ。」
「私だって最初の方の時間軸では巴さんの弟子よ。一緒に戦った時間では貴女にも負けないわ。」
「マミさんの一番弟子はアタシなんだよ。それに戻る家が無いんじゃマミさんに世話になるのは仕方無いだろー♪」
どうやら杏子とほむらの間では密かに巴マミ争奪戦が始まっている様だ。
言いながら杏子はマミに頬擦りしようと身体を近付けたのだがライバルに阻止されてしまう。
「何してるのよ杏子!巴さんから離れなさい!」グイグイ
「マミさ~ん♪」
「こらこら!二人共仲良くしなさい! 今日は暁美さんも泊めてあげるから。」
縋り付こうとする杏子をほむらは後ろから引っ張って剥がそうとしていたが、
マミは苦笑いしながら二人をそれぞれ右側と左側で腕と胴で抱きかかえる様にして宥めていた。
「おおー…マミさんがモテモテだ!なんかかっこいいぞー!」
「…さやかちゃんもかっこいいよ…。」ボソッ
さやかの率直な感想に対してすぐさまボソりと呟くまどか。
自分に関しては未だに自信の無さを示すものの、彼女の中で最愛の人こそが最も魅力的な存在なのだ。
杏子とほむらもマミに抱き寄せられてすぐ大人しくなる辺り、それ程仲が悪い訳ではなさそうだ。
夏祭りの雑談を楽しんでいる所へさやかの携帯電話が振動し、持ち主に着信を伝えた。
『お二人とも、そろそろ準備が始まりますのでお越しになってください。』
「おっ、もうそんな時間か。まどか連れてすぐ行くよ。」
「あっ…。」
発信者は仁美。さやかの会話を聴いて察したまどかは少し俯き加減になる。
さやかへの呼び出しとまどかの様子を見たマミ、ほむら、杏子の三人は頭に「?」マークを浮かべていた。
「あたしたち18:30から正面のステージで出番なんだ。良かったら見に来てね。」
「ステージ?…ってアンタらバンドでもやるのか?」
「それは出てからのお楽しみ、ってね!」
さやかは得意気な笑みを浮かべ、まどかの手を引いてその場を後にした。
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時は一ヶ月程遡りここは上条邸。四人は楽器の並んだ音楽部屋に集合していた。
仁美はヴァイオリンと似た形状だが随分大きい楽器、チェロを構えて椅子に座っている。
「恭介がヴァイオリンで、なるほどー…。
あたしピアノしか弾けないからこれで楽器被らずにアンサンブル出来るって事か。
しっかし今度はチェロとは…ほんと仁美って万能だよね。」
「ふふふ、淑女の嗜みですわ。」
「さやかだってピアノを止めずに続けていたじゃないか。」
「あ、あの…。ところで…どうしてわたしが呼ばれたのかな…?」
ヴァイオリニストの恭介、チェロを構えた仁美、ピアノの心得があるさやか。
そんな中にいる自分は場違いなのでは?、とまどかは恐る恐る訴える。
「ふっふっふ~。まどかには今回歌を歌ってもらいまーす。」
「ふええーっ!? わ、わたしがー!?」
突然の発表にまどかは驚かずにはいられない。勿論まどかは稽古事で音楽を習った事など全く無い。
そんな自分に音楽の主役とも言えるポジションを任せようと言うのだから。
「勿論鹿目さんの歌いやすい曲が優先だよ。無理にクラシックをやろうって訳じゃないんだ。」
「この前まどかさん達とカラオケに行った時、なかなか素敵な歌声でしたもの。」
「わ、わたし演歌上手かな…?」
「違う違う。もっと明るく優しい感じで歌ってたじゃん? あれ何て言う曲だっけな…。」
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―見滝原祭/楽屋―
見滝原祭に設置されたステージでは、昼過ぎから夕方にかけて様々な企業の発表会が催しとして行われる。
そして陽が落ちてからはプロアマ問わず、有志の参加者から選考会を通り抜けた十数組がグループ演奏を行うのだ。
恭介、仁美、さやか、まどかは数多い候補の中から選抜されたグループの一つだった。
「まどか、大丈夫…?」
「う…うん…。」
まどかはさやかとの露店巡りで一時は気が楽になっていたものの、ステージを目前にして再びガチガチになっていた。
ステージ衣装の着替えを手伝いながら、さやかは頻(しき)りにまどかを元気付けようとするがなかなか上手くいかない。
頭を抱えるさやかに仁美はこっそりと耳打ちをした。
「………。」(ちゅっ)
「―――ふぇぇっ!!?? さ、さやかちゃん…?!///」
俯き気味のまどかを影が覆ったかと思うと、その瞬間さやかの唇が眼前に現れた。
いきなりのキスは頬に軽く触れた程度のものだったが、まどかの気を引くには十分過ぎる程だ。
顔を背けたい程赤面するのは二人同じだが、さやかは敢えて笑顔をまっすぐ向けたまま言う。
「あんたは一人じゃないのよ。あたし達は四人で一緒に頑張るんだから。
まどかの後ろにはいつもあたし達が付いてる。いい?」
「…うん!」
………♭♭♭………
(パチパチパチ)
舞台上手奥にヴァイオリンを携えた恭介、奥やや中央寄りにはチェロを構えた仁美。
舞台下手の奥はピアノに向かうさやか、手前中央にまどかという配置だ。
ピアノ三重奏+ヴォーカルという構成でのグループ演奏が始まる。
「え、えっと…み…皆さんこんにちわ…」
長めのパーティードレスに身を包んだまどかがおずおずと始める。
ピンクの生地にあしらわれた白いフリルがまどかの幼さに相まって妖精の如く愛らしい。
そしてやはり緊張するまどかの肩にポンと手が置かれてまどかは軽く背後に目を向ける。
そこにはブルーのドレス姿のさやかが立っており、一瞬まどかにウインクして見せた。
ベアトップにやや短めの丈はさやかの恵まれたスタイルを一層引き立てるものだ。
さやかのウインクはまどかへ向けて"頑張りなさい"のアイコンタクト。
さやかが傍にいるだけで、まどかにとってこれ以上心強いものはないのだ。
「わたし達、頑張りますのでどうか最後まで聴いて行ってください。
一曲目は"またあした"、二曲目は"コネクト"です。」
さやかのピアノによる簡単な前奏の後にまどかの歌が入り、曲は始まる。
ヴァイオリン、チェロ、ピアノの組み合わせは、少ない楽器数で音域をフォローし合える理想的な構成とも言える。
この季節にはすっかり陽の沈んだ時間帯、星の下でまどか達の音楽が奏でられるのだ。
「まどかってあんなに歌上手かったんだな…。演歌しか聴いた事無かったから新鮮でいいなぁ。」
「三人の卓越した技術と鹿目さんの愛らしい歌声が成せる技ね。」
「ああまどか…貴女はこの星空の下で、私の知らない貴女になって旅立ってゆくのね…。」
歓声と拍手が鳴り止まぬ中で舞台中央へ集まりお辞儀をする四人。
大一番を乗り越えて半ば放心状態のまどかは、舞台袖へ向かう途中で足元が疎かになっていた。
「―――わわっ…!」
音響機器へ繋がれたケーブルに足を引っ掛けてしまったのだ。
突然の出来事に慌てて手を動かすが、既に身体は前のめりであり転倒は免れない。
(タトン!)
しかし即座に気付いたさやかが反射的にヒールを二歩踏み身体を飛ばしていた。
「………! (あれ…!?)」
「…ふー、危機一髪ってトコだね。」
まどかの身を包んだのは激突の痛みではなく青いドレスを翻すさやかの身体。
そして舞台上でそれを目撃した観客の黄色い歓声だった。
「まあ…! さやかさんったら本物の王子様ですわ!」
「こういうトコ、この二人には敵わないなあ…。」
舞台のほぼ中央で繰り広げられた一瞬の劇はお姫様抱っことまでは行かないが、
回された腕と身体全体で支える姿は身長差も加味されてまさに王子と姫である。
仁美と恭介にまで見守られながら、まどかとさやかはこの日一番紅潮した様子だった。
………♭♭♭………
有志による演奏も終わり次はビンゴゲームが行われる。
今回は多くの企業がスポンサーとなった為に景品は総額300万円との事らしく、
来客達は老若男女問わずこぞって気合十分に参加するのだった。
「なかなか揃わないなー…誰かビンゴ出来そう? あたし全然駄目ー。」
「うーん、僕も全然だ…。」
「わたくし先程からダブルリーチなのですがなかなか進みませんわ…。」
各所から次々と「ビンゴ!」の声が上がり舞台上のホワイトボードに番号が並んでゆく。
しかしまどか達の戦況はイマイチな様だ。
「―――あっ、ビンゴ。」
「おおー! まどかやったじゃん!」
「うん! …でもまだ景品残ってるのかなぁ…。」
「鹿目さん早く手上げて! まだ残ってるかもしれないよ!」
その中でやっとまどかが揃ったらしいが、既にかなりの人数が上がっていた。
慌ててまどかは手を上げて司会のいる舞台の方へと翔けてゆく。
まどかがしょんぼりしながら持ち帰ったのはかなり小さな箱だった。
「ごめんね、もう大きいの無くて。」
「いいじゃんいいじゃん、あたし等で貰えたのまどかだけなんだし。早く開けてみなよ?」
まどかが開けた包みの中からは微妙に高そうな箱が出て来た。
箱を開けると中には小さく内側が金色、外側が銀色に輝くリングがあった。
「何だこれ…。わっか…???」
「ペアリングでしょうか。これはプラチナ製ですわね。」
「ふぇ!? ぷ、ぷらちな…?!」
普段余り耳にしない貴金属の名前にまどかとさやかは目が点になった。
中学生の二人は理科の授業で名前こそ知っているが、実物はまずお目に掛かる事は無いだろう。
「うーん…二つ合わせて10万そこそこって感じかな。結構しっかりしたものだと思うよ。」
「じゅ、じゅうま…!?」
「は、はううう…!」
「あら?お二人共どうされましたの?」
恭介にさらっと値段を言われて二人はますますうろたえる。
何しろ今目の前にあるのはお小遣いで手が届く本やCDとは別世界の品物なのだ。
しかも手にしたのはまどかだ。もう片方は最愛の人に譲る事になる訳で…。
まどかはそれを恐る恐るさやかに差し出していた。
「ほらさやか。鹿目さんから受け取らなきゃ。」
「…で、ででででも…! って言うか…そんな高価なのをあたしなんかに…。」
さやかが慌てるのは単に恥ずかしいからではない。
まどかの人生にとって大事な物になるかもしれない品を自分が受け取る資格があるのか、そんな考えがさやかを躊躇わせるのだ。
すると恭介と仁美は笑顔でまどかとさやかを見つめながら今日の出来事を振り返った。
「まどかさん、今日演奏前の貴女に勇気をくれたのはどなたの唇でしたか?」
「さやか、ステージ上で堂々と抱き寄せた彼女を好きじゃないなんて言わないよね?」
「「…!!」」
さやかは引け目を感じる必要など何処にも無かったのだ。
今日の舞台でさえまどかを支えたのは誰でもないさやかだったのだから。
さあどうぞと言わんばかりの視線に、泳ぐ目を合わせて二人は覚悟を決める。
「…あの…そのぉ…えっと、こういうのって…確か薬指に填めるんだよね…。」
「まどか…それ人差し指なんだけど…。」
「あううううう…! ご、ごめんなさぁい…。」アタフタ
動揺と緊張の余り間抜けなやり取りになってしまう二人に、仁美と恭介は思わずクスクスと笑ってしまった。
長い付き合いなのに、好きな人同士では初々しい姿がとても微笑ましいのだ。
まどかがさやかに填め終えると、今度はさやかが手に指輪を持ちまどかの左薬指にそ~っと填める。
「わあああ…♪」
さやかに填めて貰ったペアリングを見つめてキラキラと目を輝かせるまどか。
まさかお祭りでお互いに指輪を填め合うとは夢にも思わなかったが。
「まどか、薬指じゃサイズ大きくない?」
「えへへっ♪ ちょっと大きいけど、そのうちぴったりになるかなって。」
(ドドン!)(ドン!ドン!)
二人が予想外の幸せに浸る空の上には、この祭り最後のイベントである花火の打ち上げが始まっていた。
それはまるで彼女達を祝福するかの様なタイミングだ。
見滝原祭での露店巡りと演奏会の思い出、そして神様から少し早いプレゼント。
まどかとさやかにとって今夜の花火はこれまでの人生で一番美しい花火となったのだろう。
もう一組のカップルと惚気合いながら、少年少女達の夜は更けてゆくのだった。
[見滝原祭]
おしまい。
最終更新:2012年08月17日 03:27