672 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/08/13(月) 22:40:28.64 ID:p4w18iUD0
夏休みネタが出来たので投下させていただきます。
無駄にダラダラと長い上にオチが微妙…。
お時間に余裕のある時にでもご閲覧くださいませ。
「田舎街…ですか???」
「そうなんだ。おじさん達は父さん…つまりさやかのお爺さんの家で過ごす事になったんだ。
せっかくの夏休みなのに田舎に子供一人連れて行くのも可愛そうだし、
だからってこっちに一人だけ置いて行くのもさやかに悪いかと思ってね。」
「田舎も慣れればなかなか良い場所よ。まどかちゃんもどうかしら?」
これは夏休みが始まった直後のお話。
まどかが美樹宅に遊びに来ている時、両親が一ヶ月程実家へ戻るとの話を聞いた。
しかし出来れば一人娘であるさやかに淋しい思いをさせたくはない。
そこでまどかにも一緒に来ないかとの話を持ち掛けたのだった。
[わたしのなつやすみ]
「……あぢい…」パタパタパタ
「…熱いね…」ブイーン
新幹線と電車に揺られる事5時間、田舎道を歩いて到着時は既に午後4時。
古臭くもなく綺麗に手入れされた田舎の家は、すだれを垂らした窓全開でエアコンはオフ。
大都会より幾分かは涼しいが、それでもやはり夏は夏である。
さやかはうちわを扇ぎながら、まどかは扇風機の前でだらしなく寛いでいた。
そんな中で二人はふと、庭で飛ぶ何かを見付けた。
赤トンボが庭に並べられた植木の周囲を飛行しているのだ。
「ねぇまどか。暇だしちょっと見に行こうよ。虫平気だっけ?」
「トンボさんなら怖くないかな…。」
二人はサンダルを履いて追い掛けるが、やはりすぐに逃げられてしまう。
また外に出てから気付いたのだが、庭には植木の他にも様々な樹が植えてある。
「何だこれ…サクランボみたいな実が成ってる。」
「ねぇさやかちゃん。こっちにはブルーベリーがあるよ。」
まどかが見付けたのは青紫の実をぎっしりと実らせたブルーベリーの樹。
さやかが見付けたのは幽かに透き通る赤い実を実らせた樹だった。
「それはユスラウメと言うんだよ。お爺さんの趣味でね。
ブルーベリーと同じで食べられるんだ。二人共、少し食べてみないかい?」
さやかの父に促されて二人はブルーベリーとユスラウメの実を幾つか取る。
水で軽く洗ってからそのまま口に含むと、甘酸っぱい味が口一杯に広がった。
「これ美味しい…! 種があるけどサクランボっぽい味がする!」
「ホントだぁ~。あの…わたし達勝手に頂いてもいいんですか?」
「いいんだよ。普段は食べてくれる人もなかなか居ないからね。」
虫を追って庭に出ただけなのに"実際の樹から直に採った果実を食べた"
という貴重な体験をする事になったまどかとさやか。
これが切っ掛けとなり、二人が田舎で過ごす夏が始まってゆくのだった。
<日記>
今日は初めて田舎のお家で過ごしました。
お庭でブルーベリーとユスラウメの実を頂いてとっても美味しかったです。
他にザクロの樹もあるみたいでこっちもそのうち食べられるみたいです。
………………………………………♭♭♭………………………………………
田舎の夏が始まって二日目の朝。
二人はさやかの両親が運転する車でデパートに来ていた。
まどかとさやかのみならず、娘が増えたかの様でさやかの両親も嬉しそうだ。
「外で遊びたいのなら帽子があった方がいいよ。
ほら、まどかちゃんも好きなのを選びなさい。」
「さやかってば男の子みたいな服ばかり選ぶんだもの。
まどかちゃん、うちのさやかに女の子らしい服を奨めてあげてくれないかしら。」
それから今度は隣接するホームセンターへ。
二人が昨日トンボを見掛けた事を話してから、ちょっとした道具を見て回る事になったのだ。
「ねぇさやかちゃん。これって虫取り網だよね…?」
「んー…今更こういうのもなぁ…。でも、ちょっと楽しそうかも。」
デパートがある田舎街とは言え、大部分は山と樹と草に囲まれたまさに田舎である。
二人は暇潰しに網と虫篭を買って貰った。
………♭♭♭………
昼過ぎにまどかとさやかは早速探検がてら出掛ける事にした。
二人は麦藁帽子をお揃いで被り、まどかはシフォンチュニックにフレアショーパン。
一方のさやかも愛らしい刺繍の入ったシフォンブラウスに、
ふわりとしたチュールスカートという随分と女の子な服装をさせられている。
「あたしもショーパンでいいのに…。」
「駄目だよ~。さやかちゃん可愛いの似合うんだから。」
ふわふわとしたスカートが苦手らしく、さやかは手で押さえながら歩いている。
しかしまどかと行動を共にしている間に些細な事など忘れてしまうのだが。
「トンボみーっけ! …ありゃ?このトンボ青いけど…。」
「ホントだ~。昨日のは赤トンボさんだったのに。」
同じ街で同じ季節なのに、今日見掛けたトンボの群れは青だった。
とりあえず1匹だけ虫取り網で捕まえてカゴに入れておく。
「見て見てさやかちゃん!今度はオレンジだよ!」
「おお~!また違う色だ! 見滝原じゃ今はトンボなんて全然見ないもんね。
よーし、今日はトンボコレクションするぞー!」
山際から畑を通って川辺や池に向かう。
出会った草花や虫、それに景色そのものが二人にとってはとても新鮮なものばかりだ。
「赤トンボさん捕まえたよ~!」
「こっちは黄色だ。へへへ…なんか思ったより楽しいね♪
おおっ! 今度は緑色発見であります隊長!」
「わぁぁ…緑のトンボさんとっても綺麗…。」
他のものよりやや大きいが、緑色のトンボは一際綺麗なトンボだった。
二人はデジカメで一通り写真を取ってから逃がしてあげる事にした。
「ばいばーい!」
「トンボさん元気でねー!」
<日記>
今日はまどかと一緒に虫取りをした。
子供みたいな遊びだけどやってみると意外と楽しいもんだ。
でもふわふわしたスカートはちょっと恥ずかしいな…。
………………………………………♭♭♭………………………………………
雨上がりの晴れの日。
家の裏奥には林が広がるからか、腐った木が幾つか倒れて地面に埋まっている。
それを見たさやかは一度家に戻り、軍手と空の水槽を持ってから戻って来た。
「さやかちゃん、どうしてスコップじゃなくて軍手で土を掘るの?」
「うーん、ちょっとね…駄目元だから外れるかもしんないけど…。」
土を掘るならまどかの言う通りスコップを用いるべきであろう。
しかしさやかは地面の中に何かを探す様にして手で掘り続けていた。
「―――!! おっしゃ!見っけ!」
(ゴロン)
「きゃあっ!? こ、これって…芋虫さん…!???」
腐った木の埋まる土からさやかが掘り出したのは丸々とした芋虫だった。
それを気持ち悪がる素振りも無く、さやかは得意気にまどかに見せたのだ。
「さ、さやかちゃん…芋虫さん平気なの…?」
「へへへ…こいつはね、カブトムシの幼虫なんだ。」
「ふぇぇっ!? 凄くおっきいけど…ホントにそうなの…?」
手で一匹握れるくらいに大きな芋虫はそこらで見られる芋虫とは比べ物にならない大きさだ。
さやかの手の中でもぞもぞと動くそれを、まどかは目を丸くして見つめていた。
「ねぇまどか、これ自由研究にしようよ。」
「さやかちゃんまさか…それ飼うの~!?」
「だってさぁ、街中じゃ野生のカブトムシなんてそうそう手に入らないよ?」
「う、うん…。あの…わたしもちょっとだけ触ってみようかな…。」
「まだその辺りに何匹かいるっぽいよ。まどかもちょっと掘ってみなよ。」
さやかが捕まえた二匹を土ごと水槽に入れる傍で、まどかもさやかが掘り返した場所を更に掘ってみた。
すると先程と同じ幼虫がゴロゴロと出るわ出るわ。
「わっ…わわわわっ…!ひゃああ! どうしようさやかちゃーん!?」
「あっはははは! その子達も一緒に入れてやろうよ。」
まどかは幼虫に脅えながらも、掘り出したそれをさやかの持って来た水槽に入れてゆく。
水槽には周囲の土と腐った木を入れて、出来るだけ自然環境に近くしておいてあげる。
自由研究という事で、後で再び幼虫を掘り起こして写真を撮っておいた。
<日記>
今日はお家の裏で、何とカブトムシの幼虫さんを捕まえました。
始めて触ったけどさやかちゃんと一緒なら何とか大丈夫みたいです。
それからさやかちゃんのご両親と一緒に飼育の為の買い物をしました。
幼虫さんは全部で6匹。みんなちゃんと大きくなるといいなあ。
………………………………………♭♭♭………………………………………
「まどかまどか!蝉捕まえたよ!」
(バタバタバタ!)
「きゃー!!」
手に取った蝉を見せてまどかを驚かすさやか。勿論唯の悪戯であるが。
さやかが手を開いた瞬間に蝉は懸命に羽ばたいて飛んで行ってしまう。
「ねぇさやかちゃん…もしかして蝉さんも飼うの…?」
「うーん…蝉はすぐ死んじゃうからねぇ。
捕まえてもすぐ離してあげた方がいいかな。」
「そっか…。こんなにたくさん鳴いてるのに、寿命とっても短いんだよね…。」
………♭♭♭………
(みーんみんみんみん…)
蝉の鳴き声が木霊する中で冷たい素麺と刺身を食す。
さやかはずるずると勢い良く、まどかはチュルチュルと遠慮がちに麺を啜っていた。
「さやかちゃん、お行儀悪いよぉ…。」
「ん? そーかなー。」
「ははは、まどかちゃん。素麺は日本の食べ物だからね。
音を立てて食べるのが正しいんだよ。」
「ほぇ!? そうなんですか…。」
言われてみればそんな気もする。
気にしないで食べるさやかとその両親にまどかも倣う事にした。
「あれ? さやかちゃん、イカさんにお醤油じゃなくてマヨネーズなの?」
「醤油もいいけどマヨネーズもイケるもんだよ。まどかもどう?」
「それじゃいただきます。(もぐもぐもぐ…)んー…結構美味しいね♪」
<日記>
今日は割と静かに一日を過ごした気がする。
まどかも馴染んでくれたみたいで、もうすっかりうちの家族の一員だ。
ん…? いや、家族の一員なんて変な意味は無いんだけど。
普段はまどかの家にお世話になる事が多いからちょっと新鮮な気分だった。
………………………………………♭♭♭………………………………………
今日は緩やかな雨。二人は湿った空の下で傘を差して歩く。
さやかが手に持つ一つの傘の中で時々肩が触れ合っている。
「ねぇ…さやかちゃん…。」
「ん? どーしたの?」
「あのね…こうしてると、わたし達…恋人同士みたいだよね…。」
「ぶふっ?! きゅ、急にそんな事言わないでよ!///」
「えへへ、冗談だよ…///」
冗談の筈なのに言われたさやかも元凶のまどかも真っ赤になる。
この田舎での服装はまどかの提案によりさやかがガーリッシュな服、
まどかがどちらかと言うとボーイッシュな服を着る事が多かった。
最初はしきりに嫌がっていたさやかもすっかり私服のスカートに慣れたらしい。
「さやかちゃんはやっぱり女の子らしい服が似合ってるよ。」
「う…そ、そうかな…。まどかだって…そういう感じのいいと思う。」
出会ってから最近までとは正反対なイメージである。
お互い相手の普段の想像とは違うそれに惹かれたからなのだろうか?
些細な言葉に対しても妙に意識してしまう事が多くなっていた。
雨の擬似デートの中で、二人は岩の積み重ねられた畑脇の斜面に何かを見付けた様だ。
「あっ! 見てさやかちゃん、かたつむりさんがいるよ!」
「ホントだ! にしし、ちょっと触ってやろうぜ!」
この田舎街は二人にとって新しい遊び場そのものだ。
新しい物を見付けた瞬間に色恋しい雰囲気は消え、年頃の無邪気さが曝け出されるのも幼馴染らしい風景だ。
(つんつん)
「おっ、引っ込んだぞー。」
「かたつむりさん可愛いね~♪ あっ、こっちはなめくじさんだよ。」
「―――ッ!???」
"なめくじ"の名前を耳にした瞬間さやかは唐突に顔を引き攣らせていた。
まどかにとってはかたつむりもなめくじも同程度の存在らしいのだが…。
「きゃあああああああ~!!」
「ひゃっ!? ど、どうしたのさやかちゃん…?」
さやかは恐らくなめくじの姿を直視して悲鳴を上げたのだろう。
まどかは間近で耳を劈(つんざ)いたたさやかの悲鳴に驚いていた。
「やだよやだよ!あたし…殻が無いのは駄目なんだぁ~!」ヒシッ
「さ、さやかちゃん…///」
傘を落としてまどかに抱き縋るさやかは正に女の子そのものだ。
プルプルと震えるさやかをよしよしと撫でながらまどかは満面の笑みで優越感に浸っていた。
………♭♭♭………
「おや? 二人共随分濡れちゃってるね?」
「あのねおじさん、さやかちゃんってばなめ…」
「ひいいいいっ!言わないでぇ~!!」
まどかが名前を言い掛けただけで抱き付いて懇願するさやか。
どうやら本気でなめくじが苦手らしい。芋虫は大丈夫だと言うのに。
「あらあら、まどかちゃんの前ではさやかもすっかり女の子ね♪」
「お、お母さんまで…!」
「えへへ、さやかちゃん可愛いよ♪」
涙目で抗議しようとするもまどかに縋り付くばかりでは何も反論出来ない。
服装も相まって娘の女の子らしい様子に両親はとても満足気だった。
<日記>
今日のさやかちゃんはとっても可愛かったです。
いつもの頼りになるさやかちゃんも大好きだけど、
泣きそうになっちゃったりするさやかちゃんはとっても可愛いのです。
そんなさやかちゃんはなめくじが大の苦手みたいです。カブトムシの幼虫さんは平気なのにね。
………………………………………♭♭♭………………………………………
「さやかちゃん待ってよぉ~!」
「へっへー!こっちこっち~!」
水着にビーチサンダルで浜辺を駆け回る二人。
解けてしまったまどかのリボンを、拾ったさやかがそのまま持って逃げたらしい。
本気で逃げている訳ではなく、カップルの"ウフフアハハ"という追いかけっこそのものだ。
(バシャン!)
「わわわ…冷たいよぉ…」
さやかを追い掛けて勢い良く海に入ったまどかはその冷たさに思わず声を上げていた。
水着の胸元まで水に浸かりすぐに慣れるだろうが、心配したさやかがすぐに駆け寄って来る。
「まどか大丈夫?」
「う、うん……平気…///」
さやかはリボンを手早くまどかに付け直し、腕を背中に回して抱き寄せる。
冷たさに慣れないまどかと肌を密着させて体温を分けてあげる為だ。
下心の無い大胆な優しさに愛しい人の肌を感じてまどかは赤面する。
「せっかくだしちょっと泳ごうか。浮き輪無いけど大丈夫そう?」
「う"……。さやかちゃんが…手を繋いでくれてたら…大丈夫かな…。」
「もう~!まどかってば甘えんぼさんなんだから♪」
頼られるさやかも勿論満更ではない。
こういう時は自然と身体能力の断然高いさやかがまどかを守りながら過ごすのだ。
さやかに手を引かれながら、まどかは犬掻きと平泳ぎの中間の様な泳ぎで一時を楽しんだ。
「おーい二人共ー!バーベキューの準備が出来たよー!」
「「はーい!!」」
………♭♭♭………
さやかの両親は食事の準備が出来ると娘達を呼び寄せる。
泳いだ後は魚や貝と言った海の幸によるバーベキューをご馳走になった。
「おや? まどかちゃんはピーマン苦手なのかい?」
「うっ…は、はい…。」
「まどかはピーマンだけじゃなくてタマネギも苦手だよねー。」
「あううう!さやかちゃんの馬鹿ぁ~!」ヒョイッ
「んなっ!?」
まどかは自分が苦手な野菜をさやかの取り皿に置いた…
のではなく、何とさやかが取った食べ頃のカキを素早く奪ったのだ。
拗ねるフリをして笑顔でさやかから奪った物を美味しそうに頬張っている。
「ふーんだ!さやかちゃんが悪いんだもん♪」
「ぬぐぐ…まさかそう来るとは思わなかったわ…。」
「(あっ、このエビさん美味しそう…)」スカッ
今度はまどかが取ろうとしたエビをさやかがお返しとばかりに奪い取った。
「ああ~っ!さやかちゃん酷いよぉ…。」
「ふふん!まどかがこのさやかちゃんに勝とうだなんて甘い甘い!
ほらまどか、あーん。」
などと言いつつさやかは奪ったエビをタレに漬けるとそれを自分の口元には運ぼうとしない。
ふーふーと冷ましてからまどかの方へ持って行くのだ。お返しと言うか唯のイチャ付きである。
「ふぇ!? あ…あーん…///」モグモグ
「あらまあ、二人共まるでカップルみたいね♪」
「んぐっ!?」
「うわ!ちょっとまどか大丈夫…!? 水!水!」
さやかの母が何気無く放った一言に二人は思いっきりうろたえる。
エビを喉に詰まらせたまどかはさやかから水を受け取って事なきを得たが。
「そうかそうか、さやかはめげずにまた好きな人を見付けたのか。」
「ちょっ…!べ、別にまどかとはそんなんじゃ…///」
「いいのよさやか。今時女の子同士が悪いとか思っちゃ駄目よ。」
「ううっ…///」
「(さやかちゃん…♪)」
さやかの初恋が散った事は両親も既に承知の上だった。
その上で彼女がまどかに向けつつある仄かな感情も公認済らしい。
母に頭を撫でられてさやかは顔を上げられそうになかった。
………♭♭♭………
その夜、まどかは土を半分程入れた自宅の水槽を見て心配していた。
定期的に土を入れ替えていたのに今日は動く気配がしないのだ。
「ねぇさやかちゃん、カブトムシの幼虫さん動かないね?」
「んー…そろそろ蛹になったんじゃないかな。」
「ほぇー…。芋虫さんがあんな鎧みたいになるなんて凄いよね。」
「でも蛹になる途中は柔らかいらしいんだ。
触るのは危ないから土の入れ替えはやめてそっとしとこうよ。」
<日記>
今日はまどかと泳いだ後にバーベキューをした。
父さんと母さんに言われたけど、あたしやっぱまどかの事が好きなのかな…?
無意識にあーんとかやってる自分が恐い…でもまどかはたしの事好きそうだし…。
そういえばここの所カブトの幼虫が大人しくなった。そろそろ蛹になったのかも。
………………………………………♭♭♭………………………………………
「お嬢ちゃん達、コイツを持って行きな!」
「わぁぁ…おっきなスイカ!」
「ええっ!?いいんすか!?」
「最近はこの辺りじゃ子供もめっきり減っちまったからなあ。
冷蔵庫で冷やしてから食べると上手いぞ!」
二人が商店街を歩きながらお店を見て回っていると声を掛けられる。
田舎街というか商店街に子供が連れで歩く事自体も珍しいのだろう。
スイカにブドウに桃…買い物もしていないのに二人の両手はあっと言う間に荷物で一杯居になった。
「田舎街の人達って親切なんだね。」
「へへへ、今日は凄くラッキーな日なんだよきっと。
もしかするとあたしら、若い夫婦とか思われたのかもね。」
「えへー♪ それじゃさやかちゃんがお嫁さんだよね?」
「はいっ!? …あっ………///」
普段なら自分がまどかを嫁にすると冗談交じりに言うさやか。
だが生憎今はどちからと言うとさやかの方が女の子らしい服装である。
今の自分の姿を思い返したさやかは、自ら言っておきながら真っ赤になっていた。
勿論ピンクのツインテールのまどかもとても愛らしいのだが。
さやかは両腕でスイカを抱え、まどかは両手に桃とブドウを下げて帰宅した。
………♭♭♭………
庭の中央に新聞紙を敷いて井戸で冷やしたスイカを置く。
まどかは目隠をされて手には木の棒。所謂スイカ割りである。
「まどかー!もうちょい左!左!」
「こ、この辺かなぁ…?」
「はーいストップよ~!」
「まどかちゃん、スイカは意外と割れ難いから思い切って振り下ろしてごらん。」
「はい…! よーし…やあっ!!」
(ブンッ!)(スポッ!)
(ガッシャーン!!)
「あ」
「ふぇぇっ!!???」
「………。」
「………。」
割音に驚いてまどかは真っ先に目隠しを外して状況を確認する。
思い切り振り下ろした棒はまどかの手からすっぽ抜けていたのだ。
結果的にまどかはスイカではなく、向かいの窓硝子を粉砕する事になってしまった…。
<日記>
今日はさやかちゃんの家族とスイカ割りをしました。
…のだけどわたしは窓硝子を割っちゃった。えーん。
後でおじいさんに怒られると思ったけど大笑いされちゃいました。ごめんなさい。
………………………………………♭♭♭………………………………………
(ガリガリガリガリ…)
「はーい出来上がり~! まどかは何かけたい?」
「わたしはイチゴがいいかな。」
「そんじゃ練乳とイチゴを…っと。」
「わーい!ありがとうさやかちゃん!」
ベランダの縁側に腰掛けてカキ氷を作って食べる二人。
まどかは練乳にイチゴ、さやかの方は練乳にメロンを味わっている。
「さやかちゃんが作ってくれたイチゴ味美味しいなっ♪」
「メロンも美味いけどイチゴも食べたくなって来たなぁ。おーし!」
(サクサクサク…)
幸せそうなまどかを見たからだろう。
さやかはイチゴ味も食そうと自分のカキ氷を一気に頬張った。
「ぬおおおお~!頭がキーンってする…」
「あははは!当たり前だよぉ。そんなに急いで食べなくてもいいのに。」
「たはは…そりゃそうだ…。」
冷静に考えればこうなると理解っていただろう。
さやかは何とも間抜けな行動に自嘲的な笑みを浮かべていた。
「さやかちゃん、イチゴ味あーんだよ♪」
「へ!? そんじゃお言葉に甘えて…あーん…」
初めからこうすれば良かったのだ。
………♭♭♭………
(ゆっさゆっさ)
「…まどかまどか。」
「……うーん…どうしたのさやかちゃん…こんな時間に…?」
「いやー…今日晩御飯の時に見た心霊写真の番組思い出しちゃって…。」
同じ部屋で眠っていた二人。まどかは深夜に突然さやかに起こされた。
意外と恐いものが苦手なさやかはどうやら一人でトイレに行けなくなったらしい。
「…もう、おトイレなら場所知ってるでしょぉ~…おやすみぃ…」
「ちょ、ちょっとまどか! あのっ…そのぉ…あ、あたし…一人で行くのが…」
「恐いんだよね♪」ニッコリ
「うぐっ…!///」
さやかのお願いを無視するかに見えたまどかは突然笑顔で振り返る。
言わされてしまったさやかは耳まで真っ赤になってしまっていた。
田舎のトイレと言っても割と最新設備の様式トイレだ。
ただ向かう途中の廊下がやや長い事と、この静けさがさやかにとっては一層恐怖感を煽るものだった。
「お願いだから先に帰ったりしないでよ!」
「………。」
「へ…!? う、嘘……まどか……? ねぇまどかってば!」
「………。」
「うぐっ…そんなぁ……。…ぐすっ…うううっ…酷いよまどかぁ~!」
(ガチャッ!)
まどかがわざと返事をしなかった為に半泣きでさやかはドアを開けた。
「わわわ!ごめんねさやかちゃん! ちょっとだけ意地悪してみたくて…。」
「……ひっく…ぐずっ…まどかの馬鹿ぁ…」
さやかに泣き付かれたまどかは結局、さやかが用を足すまで一緒に中にいるハメになるのだった。
<日記>
今日はまどかとカキ氷を作って食べた。
まどかの幸せそうな顔を見てるとこっちまで幸せになる。不思議だ…。
テレビで心霊番組なんてやってたからトイレに行くのが恐くなってしまった。
ううっ…田舎の夜なんて大嫌いだぁ~!
………………………………………♭♭♭………………………………………
「ほら、これがザクロの実だよ。種の周りを食べてごらん。」
真紅で硬い殻の様な実が割れ、中からは赤く小さな果実が幾つも現れた。
名前こそ聞いた事があるが、二人が実際に食べるのは初めてである。
「おおー!初めてだけどこれもイケる!」
「美味しいです!このお家って実が食べられる木が多いんですね。」
ブルーベリーにユスラウメと言い、人に有益な樹を育てるのも主の趣向らしい。
実の半分は種なのだが、それでも二人は天然の甘みに頬を緩ませていた。
………♭♭♭………
その日、晩御飯を済ませた直後に水槽からゴソゴソと物音がする。
まどかとさやかが駆け付けると、黒く大きな塊が土からゴソゴソと這い上がっていた。
「うおお~!やったー!本物のカブトムシだー!!」
「凄~い!ちゃんと成虫になれたんだね!デパート以外で見たの初めてだよ!」
「そいじゃ早速写真を…っと。」
二人の自由研究は無事に佳境を迎えたらしい。
写真を撮りまくる二人だが喜んでばかりも言ってはいられない。
「わわっ!オス同士が喧嘩始めちゃった! かっこいいけど…。」
やばっ…! 空のケース取って来るよ!まどかは写真お願いね!」
「うん!」
6匹全部が成虫になったのだが内分けはオスが4匹にメスが2匹。
一つの水槽だとやや狭いらしく、即効で喧嘩が始まってしまった。
家でもう一つ空の透明なケースを見付け、それにも飼育用の土を入れて二組に分ける事になった。
「ふぅ…これでかなり広くなったしとりあえず大丈夫だろ。
まだしょっちゅう喧嘩しそうなら虫籠も使おう。」
「わたし達なら女の子同士でも仲良しなのにね…。」
「ちょっ!それとこれとは訳が違うでしょーが!///」
<日記>
今日はカブトムシさんが無事成虫になって出て来ました。
さやかちゃんとの自由研究は進んだのだけどいきなりケンカが始まって驚きました。
カブトムシさんって大変なんだなぁ…。わたし達みたいにすぐに仲直り出来るといいのに。
………………………………………♭♭♭………………………………………
美樹家+まどかの田舎街生活も残す所二日となっていた。
今夜はこの田舎街でちょっとした夏祭りが行われるそうな。
「はい、まどかちゃんも出来上がり。」
「わーい!ありがとうございます!」
まどかはさやかの母に桃色の花が鏤められた浴衣を着付けして貰って大喜びだ。
一方のさやかは鏡も見ないで部屋の隅にしゃがみ込んでいる。
「ねぇお母さん…あたしも浴衣じゃなきゃ駄目なの…?」
「何言ってるの、せっかくまどかちゃんとお揃いにしてあげたのに。」
さやかは自信無さ気におずおずと部屋の隅から腰を上げた。
まどかの浴衣とは対になる様な水色の花の浴衣に身を包んでおり、
自慢のスタイル(本人は無自覚だが)を引き立てている。
「さやかちゃん…凄く綺麗だよ!」
「そ、そっかな…?///」
まどかに褒められた途端にさやかは上目遣いで顔を赤くする。
傍目に見れば完全に年頃の恋する乙女である。
「二人共準備出来たかい?」
「バッチリよ。それじゃぁ行きましょう。」
二人の娘は既に浴衣に着替えていたさやかの両親に連れられて祭りへと向かった。
………♭♭♭………
「おっとと! やっぱ下駄は歩き難いなぁ…。」
「わたしは転んでもさやかちゃんが助けてくれるから平気だもーん♪」
「こらこら、今日ばっかりはあんまり頼りにしないでよ。」
二人共下駄で歩いている為に心成しか足元が頼りない。
いつもであればドジをやらかしたまどかを咄嗟にさやかが助けるのがお約束だが、今日はそうも行きそうにない。
浴衣娘同士仲良く手を繋ぎ、結局いつもとあまり感じになっていた。
「よし…何とか1つだけ取れた…!」
「さやかちゃんすごーい!いきなりヨーヨー取っちゃったよ!」
水プールに浮かんだヨーヨー釣りで、2度挑戦したさやかは1度だけ成功した。
さやかはポヨンポヨンを弾む赤い風船を迷う事無くまどかに手渡したのだ。
「ふぇ? これ貰ってもいいの?」
「いいの。元々まどかにあげようと思って赤いの狙ったんだし。」
はにかんだ笑顔で頭を掻きながらさやかは答える。
受け取ったヨーヨーの紐を、まどかは嬉しそうに指に通して弾ませた。
そろそろ本来夕飯の時間が近付き、二人は夜店を巡りながら空腹を満たす事にした。
さやかが最初に手にしたのは焼き鳥、まどかは真っ赤な林檎飴だ。
「いきなり林檎飴なんてまどからしいなぁ~。一口くれない?」
「ええっ? べ、別にいいんだけど…わたし舐めちゃってるよ…?」
「あえっ!? いいのいいの!今更そんなの気にしなくていーじゃん!」
さやかは少し顔を赤らめつつも林檎飴へと口を伺わせる。
パキッ、と音を立てて飴の表面を少しばかり頂いた。
「んまいんまい。まどかのほっぺみたいな味だなぁ~♪」
「もう…さやかちゃんってば…。お返しにわたしも焼き鳥欲しいなっ。」
「おっとそうだね。こっちがまだ食べてない奴で…」
さやかの手に持つトレイには1本の食べかけと1本の串、それから手付かずものが1本あった。
食べかけでは申し訳ないという理由で手付かずの焼き鳥を渡そうとしたのだが…。
「違うよぉ。さやかちゃんが食べかけたのが欲しいの。」
「うっ…やっぱし…。(あたしだって間接キスやらかしてんだし断れないよなぁ…。)」
さやかが折れるままに渡した食べ掛けをまどかは嬉しそうに頬張る。
それからも二人はイヤ焼きやフランクフルト等を競う様に次々と食べ続けていた。
腹ごしらえを終えた後もいろいろな出店を見て回る。
まどかが目を惹かれ立ち止まったのは硝子細工のお店だった。
「綺麗…これ硝子で出来てるのかなぁ…。」
「いらっしゃお嬢ちゃん!若い子には半額サービスするよ!」
ずらりと並んだ硝子の工芸品は立派なグラスから小さなアクセサリーまで大小様々。
気前の良いおじさんはどうやらこの辺りで働く硝子職人さんらしい。
「あの…これって硝子の指輪ですか…?」
「そうだよ。もしかしてお嬢ちゃん、好きな子にでもあげるのかい?」
「はうっ!?」
まどかの目を見て察したのか、おじさんの発言は図星だった。
また、まどかの驚く声に釣られてさやかも同じ店へ顔を出しに来る。
「まどかー、何見てんの? へぇー…硝子のお店なんてお洒落じゃん!」
「いらっしゃいお嬢ちゃん、ピンクの子のお友達かい?」
さやかがまどかの手に持つ指輪ブルーのに気付くのにそう時間は掛からなかった。
まどかは変に勘ぐられるのが恥ずかしいので迷わずそれを購入していたのだ。
職人が製作しただけあって硝子の質もなかな良く、綺麗な青色に透き通っている。
「おじさん、あたしもこのピンクの指輪ください!」
「毎度あり!お嬢ちゃんも半分にまけとくよ!」
まどかの選んだ品と対になる様に、迷わずさやかも色違いの硝子の指輪を選んだ。
相手の色を選ぶ目的は言うまでもなく交換する為だ。
人気のやや少ない場所で、二人はこっそりと指輪を相手の左薬指に填めてあげる。
透き通るお互いのそれをうっとりと眺めていると、突然色取り取りの何かが硝子の指輪に映り始めた。
(ヒュ~…ドン!ドドン!)
「花火だぁ~! 綺麗だね…。」
「うん。何だかさ…あっという間に終わっちゃったね。」
「さやかちゃん…?」
始まった花火大会を二人きりで見つめているとさやかが名残惜しそうに言う。
こうしている時間はとても楽しいのだが、ずっとこの街での生活が続く訳ではないのだから。
「最初は正直、田舎街で過ごすなんて気が乗らなかったんだけどさ…。
まどかと一緒に過ごせてあたしはとっても楽しかったよ。」
「またいつか、二人一緒にこういう場所で過ごせるかな?」
「一緒にいれば何処にだって行けるよ、きっと。」
気が付けばもう一ヶ月近くが経とうとしていた。
美樹親子とまどかは明日の夕方には見滝原に戻っているだろう。
花火で気を紛らわせて落ち着かせながら、さやかはまどかの手を強く握る。
「…あ、あのさまどか…。あたしはね…まどかの事………きなんだ…。」
二人きりに花火というシチュエーションに任せてさやかは勇気を出した。
初恋を逃したからこそ、今ある恋への決意。しかしまどかからすぐに返事は無い。
「………。…花火の音で良く聞こえなかったよ。なぁにさやかちゃん?」
「う"っ…。な…何でも無いっ!」
さやかは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
しかし手はしっかりと握ったまま、花火が終わるまで握り続けていた。
「(何てね。さやかちゃん、ちゃんと目を見て言ってくれなきゃやだよ。)」
まどかは密かに悪戯っぽい笑みを浮かべつつ、さやかと共に両親の元へと向かうのだった。
<日記>
今日は田舎でゆっくり出来る最後の日。
やっぱ女の子っぽい格好は苦手だけど、まどかが可愛いって言ってくれたら不思議と嫌な気はしない。
思い切って告白してみたんだけど一発目は空回りだった。トホホ…。
………………………………………♭♭♭………………………………………
―志筑邸―
夏休みも後半に入り、同じ学校に通う少女達が仁美の家へ集まっていた。
お茶会という名目で二年生達は宿題の残りを済ませる事が目的だったりする。
「わたくしはドイツへ旅行に行きましたわ。」
仁美お嬢様は流石一般人とはレベルが違う。
恐らくは上条家を絡めた音楽関連での旅行なのだろう。
「私は家族とロンドンへ行ったわ。外国に出たのは初めてなの。」
長期休みの間は両親と過ごしたらしいほむらも負けてはいない。
病気がちだった娘が元気になったお祝いも兼ねての家族旅行だそうだ。
「私は佐倉さんと北海道へ避暑の旅へ行って来たわ。」
身寄りの無いマミは戦友を連れて北国への旅行。
先の二人には劣るが中学生二人にしてはなかなかのものだ。
「わたし達は田舎でたっくさん遊んで来たんだよ。ねー♪」
「ねー♪」
「「「???」」」
まどかとさやかは旅行ではなかったが他の三人以上に満足そうな笑顔を見せる。
心から嬉しそうな二人の様子に三人はきょとんとしていた。
「相変わらず二人はよく焼けるわねー。」
「なっ…!? あ、あたしら別にそんな…。」
「そうだよほむらちゃん!さやかちゃんのご両親と一緒だったし…。」
「いえ…妬けるじゃなくて肌が焼けてるって意味なんだけど…。」
まどかとさやかはほむらの"やける"発言を思いっきり勘違いしていた。
というか勘違いしたのはこの二人だけである。
連日田舎街を走り回った二人はしっかりと日に焼けていたのだ。
「ふふふふふ…! 美樹さんも鹿目さんも何と勘違いしたの?」ニヨニヨ
「あらあら、お二人には心当たりがありますのね♪」ニコニコ
「なっ…ななななな…?!///」
「ぁぅぅぅぅぅ~…!///」
「ぷぷぷ…しかも揃って真っ赤になるんだもの…! やっぱり貴女達は真性のバカップルだわ。」クスクス
バカップルなボロが出たのを三人に思いっきりからかわれてしまい、
さやかは頭から湯気を出し、まどかはジタバタと慌てふためいていた。
<日記>
今日からはまた見滝原で残りの夏休みを過ごします。宿題も何とか終わりました。
でもどんな場所だってずっとさやかちゃんと一緒に居られたら…
それはとっても嬉しいなって、思ってしまうのでした。
[わたしのなつやすみ]
おしまい。
最終更新:2012年08月17日 04:18