3 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/08/30(木) 20:12:55.54 ID:JXe+FyEfP [1/3]
高校生になっても。
prrr
〈あ、もしもしさやかちゃん?〉
〈おー、まどか? どした? あっ、今日初バイトの日だったっけ?〉
〈そうなの。さやかちゃんは今おうち?〉
〈ベッドで寝っころがってたとこー。まどかは今帰り道?〉
〈うん。今日は初めてだから早めに上がりなさいって店長さんに言ってもらったの〉
〈そう。それで、どうだった? うまくやれた?〉
〈あのね、すっごく緊張したけど、『いらっしゃいませ』って言えたよ! レジも横から教えてもらいながらだけど、なんとか打てたの!〉
〈へえ、良かったじゃん! 頑張ったね〉
〈えへへー。それでね、聞いて聞いて! 終わりから三番目くらいのお客さんだったんだけど、全然そんな感じじゃなかったんだけど、わたしすっごく嬉しくて!〉
〈ん、なになに?〉
〈とにかくわたし夢中になってレジの画面しかみてなかったからすぐに気が付かなかったんだけど、気づいた後思わず『やったー!』って叫んじゃって!〉
〈ふふっ、もう、待ってまどか。嬉しいのはわかるんだけど落ち着いて? さやかちゃん何が何だか分かんないよ〉
〈「あっ、ごめんね。あのね、お会計終わった後に、そのお客さんに『ありがとう』って言ってもらえたの!〉
〈『ありがとう』?〉
〈そうなの! もうわたし嬉しくって! だって、今まで全然人の役になんか立てなかったのに、お会計もつっかえつっかえだったのに、『ありがとう』って言ってもらえるなんて思わなくて!〉
〈そっかー。それは良かったねぇ〉
〈うん! もうね、『こんなわたしでも誰かの役に立てるんだ』って思ったら思わず叫んじゃってて、店長さんに『鹿目さん、レジは間違えてもいいけど、叫ぶのは控えめにね』って言われちゃった〉
〈あははっ。店長さんいい人じゃん〉
〈うん、ほんとにそうなの! 店長さんも先輩の人たちもお客さんもみんな優しくて、なんでこんなによくしてもらえるのかなって思うくらいなの!〉
〈そんなの、まどかがいい子だからに決まってんじゃん〉
〈そうかなあ……わたしどんくさいし、いい子かどうかあんまり自信ないんだけど……〉
〈んーん、まどかはいい子だよ。自分からそうやって『人の役に立ちたい』って思えるんだから、絶対だよ。さやかちゃんがどーんと保証しちゃう!〉
〈そっかぁ……うん。さやかちゃんがそう言ってくれるなら、なんだかわたしもそうだって思えるかも〉
〈うんうん! まどかはもっと自信持っていいんだよ。最初は間違えたりするかもだけど、ずぐにバイトにも慣れると思うし〉
〈そうだといいなぁ。覚悟はしてたつもりだったんだけど、覚えなきゃいけないことがいっぱいあって、難しかったよ……〉
〈そっかぁ。でも、まどかは途中で逃げ出したりとかしてないでしょ?〉
〈え? う、うん。言われたことやるだけだったけど〉
〈それでいいんだよ。最初は誰だってそんなもん! 逃げたり投げ出したりしなきゃ、少しずつ覚えられるんだからさ〉
〈そうだね〉
〈あと、『間違えた!』って思ってもいちいち気にしないでいいんだからね? 一度間違えたら、そのことは嫌でもしっかり覚えるでしょ?
だから、間違えることを怖がらないこと! むしろじゃんじゃん間違えちゃいなさい!〉
〈う、うん! なんだか、元気が出てきたよ。わたし、がんばるね!〉
〈そう、その意気! 元気があれば何でもできる!〉
〈うん! ありがとう、さやかちゃん。さやかちゃんのおかげで疲れが吹っ飛んじゃったよ〉
〈どういたしまして。こんな電話ひとつでまどかが元気になるなら、さやかちゃんいくらでも電話かけちゃうよ!
わかってると思うけど、バイトで疲れたりしたらいつでも電話していいんだからね?〉
4 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/08/30(木) 20:13:40.86 ID:JXe+FyEfP [2/3]
〈うん、本当にありがとう、さやかちゃん。わたし、いつもさやかちゃんに助けてもらってばかりいるね……〉
〈あー、またそんな話? これもいつも言ってるけど、まどかに助けてもらってるのはあたしもだってば!〉
〈でも、わたしさやかちゃんを助けたことなんか……〉
〈まどかにそのつもりがなくても、あたしが勝手に助けられてるの! お互い様なんだから気にしなくていいの! わかった?〉
〈うん……えへへっ……ぐすっ……〉
〈……まどか? 泣いてるの?〉
〈違うの……嬉し泣き……。わたし、さやかちゃんと友達で、本当に良かったって……〉
〈……ふふっ。大げさだなー、まどかは……。でも、まどかと友達でよかったのは、あたしも。これもおあいこだね〉
〈……うん、うん……ぐすっ……。ありがど……ざやがぢゃん……〉
〈ちょっとまどか、大丈夫? 泣きすぎて前見えなくなってない? 今どこ?〉
〈ショッピングモールの入り口……〉
〈まだそこか。よし! じゃあ今からさやかちゃんが迎えに行ったげるから、そこ動かないでね?)
〈……えっ、いいよぉ……そんなの、悪いよ……〉
〈いーから! 大人しく言うこと聞きなさい? 泣きながら電話しながら帰るんじゃ、危なっかしくてしょうがないよ〉
〈でも、さやかちゃんのおうちからじゃここまで遠いし……〉
〈心配ご無用! さやかちゃんはまどかのためなら魔法が使えちゃうんだから!〉
〈魔法って?〉
〈そうねえ。例えば、『泣いてるまどかのもとに瞬間移動する魔法』とかかな?〉
〈もう、さやかちゃんたら、またわたしをからかおうとして……〉
〈むっ、信じてないな? じゃあ、使ってみせてあげよう。まどか、目を閉じて?〉
〈う、うん〉
〈そして、頭の中であたしの姿を思い浮かべて?〉
〈思い浮かべたよ〉
〈じゃあ、準備完了。それでは呪文を唱えます。『ホムマドマミアンサヤエントロピー』ってあたしと一緒に言うんだよ〉
〈えっ、ほむ……なに?〉
〈『ホムマドマミアンサヤエントロピー』。いい? いくよ? せーのっ〉
〈〈ほ、『ホムマドマミアンサヤエントロピー』!〉〉
〈……〉
〈……さやかちゃん……?〉
「まどか、目開けて目の前見てごらん?」
「えっ……さやかちゃん!? うそ……本当に!?」
「うそじゃないよん。正真正銘、本物のさやかちゃんですよー!」
「どうしてどうして!? さやかちゃん、本当に魔法使えるの!?」
「だからそうだってば。さ、可愛らしいお嬢さん、お荷物をお持ちしましょう。このしがない魔法使いめにお宅までのご同道をお許しいただけますかな?」
「う、うん……でもどうして!? さやかちゃん魔法使いなの!?」
「なーいしょ。だって、魔法使いは正体がばれちゃいけないんだよ?」
「えっ、そうかもしれないけど……でも、さやかちゃん今魔法使いって自分で……」
「ほら、帰ろ? 早く来ないと置いてっちゃうよ?」
「ま、待ってー!」
5 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/08/30(木) 20:14:59.30 ID:JXe+FyEfP [3/3]
*
ちなみに。
「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ! ……あれ、仁美ちゃん! 久しぶりだね!」
「こんにちは、まどかさん。ごめんなさい、まどかさんのアルバイト中に遊びに来てしまって」
「仁美ちゃんならいつでも大歓迎だよ! あっ、ご注文は?」
「サンドイッチとホットドッグを。あと、ジンジャーエールとコーヒーをお願いしますわ」
「サンドイッチと、ホットドッグと、ジンジャーエールと、コーヒー……仁美ちゃん、一人でこんなに食べるの?」
「まさか。連れがいますわ」
「あ、そうだよね。ごめんね。えーと、820円になります!」
「はい。アルバイトにはもう慣れましたの?」
「まだ全然だよー。いっつもミスしちゃって、毎日さやかちゃんに電話して話聞いてもらってるんだ」
「あら、そうですの。でも、まどかさんずいぶん立派になられたように見えますわ」
「そう? えへへっ、嬉しいな。はい、お待たせしました! ごゆっくり!」
「まどかさんも頑張ってくださいね」
「うん! ありがとう!」
「おっ、きたきた。サンキュ、仁美。ホットドッグとジンジャーエールのお金ここ置くね」
「……そのサングラスは何ですの?」
「変装だよ、一応ね。基本的にまどかはレジにいるけど、たまにテーブルの掃除に店内回ってくることもあるから」
「そうまでして隠れて見守っていなくてもよろしいかと思いますけれど」
「だって、まどかが自信つけて前向きになれるかどうかの瀬戸際なんだよ? ここであたしがこっそりバイト中のまどかを見守ってたなんてバレたら、
まどかが『わたし、またさやかちゃんに迷惑かけちゃった』とかなんとか言って落ち込んじゃうかもしれないじゃない」
「それでしたら、もうちょっと信頼して差し上げて、電話で話を聞くだけになさったらどうです?」
「だめだめ! 変な客にまどかが因縁つけられたらどうするの!? 他の店員さんとかが間に合わなかったりしたら、あたしが出てってやっつけてやるんだ!」
「さやかさんも、たいがいまどかさん離れが出来ないんですのねぇ……」
「んなこたないよ。あたしはまどかのためを思ってさ……」
「まどかさんに、魔法を使って差し上げたんですって?」
「う。なんで知ってるのよ」
「まどかさんからお聞きしましたから。魔法のタネは、今日のように店内でアルバイト中のまどかさんを見守ってらして、
アルバイトが終わったら後ろから帰り道をこっそりついて行って、電話がかかってきたら家から電話しているふりをしながら
目をつぶらせたまどかさんの後ろから現れた、のでしょう?」
「もー、なんで話聞いただけで仁美にはそこまでわかっちゃうのよー」
「あら、まどかさんはまだ魔法だと信じてらっしゃる?」
「あー、うん。どうもこう、あの子はあたしの言うことだと何でもかんでも信じちゃうっていうか、あたしもそれが楽しくてついつい色々出まかせ言っちゃうというか……」
「ほうら、やっぱりまどかさん離れが出来てらっしゃらないですわ」
「別にいいじゃんよー……」
「ええ、善き哉善き哉。>>1乙ですわ」
最終更新:2012年09月06日 08:28