296 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/09/03(月) 01:01:25.92 ID:hS7I9l8V0 [1/3]
話ぶち切ってしまって申し訳ないですがある雨の日のお話を投下させていただきます。
[雨の日]
ある雨の日、それは霧で霞掛かった日曜日の見滝原。私は街で偶然さやかちゃんの背中を見付けて声を掛けました。
「さやかちーゃん、何処行くのー?」
「まどかっ!? い、いや…ちょっと…散歩にでも…。」
「こんな雨の中で???」
「…まぁ…その…ちょっとした気分転換って言うか…あはははは…!」
じめじめした天気の中で、さやかちゃんは長靴を履いて手に買い物袋を下げています。
わたしにはそんなさやかちゃんの反応が何故だか妙に挙動不審に感られました。
「わたしも一緒に行きたいなー♪」
「えっ!? いやぁ…まどかを巻き込んで風邪ひかれてもアレだし………じゃぁね!」
(タタタッ!)(パシャパシャ…)
「あっ…! …行っちゃった…。」
わたしの返事も待たずにさやかちゃんは一人走り去ってしまいました。
でもその後ろ姿がどうしても気になって、わたしはこっそりと後を追う事にしたのです。
さやかちゃんが持つ水色の傘は、人が訪れる事の無さそうな空き地に入って行きました。
そこは地面も舗装されていなくて、ゆっくり歩かなければ靴がドロドロになりそうな場所です。
さやかちゃんは隅っこの木材や土管が重ねられている場所で一人しゃがみ込んでいました。
「おいでエイミー。ご飯持って来たよ。」
(ミー…)
名前を呼ばれて可愛い泣き声を共に姿を見せたのは小さな黒い子猫さんでした。
さやかちゃんが持っていた買い物袋からは煮干と紙パックの牛乳が出て来ます。
エイミーと呼ばれた子猫さんは、さやかちゃんに差し出されたそれを嬉しそうに食べ始めました。
それにさやかちゃんは子猫さんが雨に濡れない様に傘で守ってあげているのです。
「さーさやかちゃん。何してるの?」
「げっ!まどかぁ!?」
(ミー?)
さやかちゃんは慌てて立ち上がり猫さんを隠そうとしますが、わたしはしっかりと見た後でした。
「むうっ。げっ、は酷いんじゃないかなぁ。猫さんのお世話してる事どうして隠すの?」
「いや…なんか……恥ずかしいし…。」
さやかちゃんは少し顔を赤くしながらも観念したみたいです。猫さんを手に乗せながらわたしに見せてくれました。
「この子エイミーって名前付けたんだ。ホントは家で飼ってやりたいんだけどうちマンションだし…。」
「えへへ、さやかちゃんって優しいんだね♪」
「んなっ…!? ななな何よ急に~!」アタフタ
さやかちゃんは更に赤くなりながら、子猫を乗せていない方の手をバタバタを振って慌てています。
勿論その手は傘を取り落としてしまったので、わたしの傘に入れてあげました。
「さやかちゃんは一人ぼっちだったわたしにも優しくしてくれたもんねー♪」
「うぐっ…もう…。ごめんねエイミー、今日は雨だから長くはいられないんだ。帰るよまどか!」
「ふええっ!? あーんさやかちゃん待ってよぉ~…!」
照れる顔を見られたくないのか、さやかちゃんは先に帰り始めてしまいました。
わたしはさやかちゃんの優しい所をたくさん知っていて、この日また一つさやかちゃんの大好きな所を知ったのでした。
………………………………………………♭♭♭………………………………………………
「そう…そんな事があったのですね…。」
わたしはある場所へ向かう途中、雨の日の公園で仁美ちゃんとお話していました。
手の中には今もさやかちゃんがお世話をしていた子猫、エイミーがいます。
「今日はそろそろさやかさんの所へ行ってあげなくてもよろしいんですの?」
「あ…うん…そうだよね…。」
「この子はわたくしが預かっておきますから、まどかさんはお二人の時間を大切にしてくださいな。」
「うん…それじゃ、お願いできるかな…。」
わたしはエイミーを仁美ちゃんに預けてその場を後にしました。
297 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/09/03(月) 01:02:43.57 ID:hS7I9l8V0 [2/3]
―見滝原総合病院―
「さやかちゃん…具合はどう…?」
さやかちゃんは病院のベッドに横たわっていました。
あれから数ヶ月経った頃、さやかちゃんは車の前に飛び出したエイミーを庇って惹かれてしまったのです。
幸い命に別状はありませんでしたが、さやかちゃんの足には今でもまだ包帯が残ったままです。
「おーっすまどか。いやぁー…せっかく今日から車椅子で外出てもいいって言われたのに思いっきり雨なんだもん。
なんか急にダルくなっちゃって横になってた。」
さやかちゃんは読んでいたクラシックの本を置き、すぐにわたしに顔を向けて起き上がりました。
「そうなんだ…。でも今日はこれから晴れるみたいだよ。カーテン開けてあげるね。」
わたしが病室のカーテンを開けると、そこから眩しいくらいの太陽が差し込んで来たのです。
病院へ入る時に雨が上がりかけていたのですが、もうこんなに晴れていたとはわたしも思いませんでした。
「わ…晴れてる! あ、そうだまどか。最近エイミーは元気?」
「うん。エイミーなら今仁美ちゃんが預かってくれてるの。」
暫く病院から出られなかったさやかちゃんはその間エイミーとも会えません。
でもエイミーはわたしにもとても懐いてくれたので、わたしがさやかちゃんの代わりにご飯をあげていました。
「ねぇさやかちゃん、外に行こうよ。今ならきっと虹も見えるよ。」
さやかちゃんは入院中もわたしに元気な顔を見せてくれて、それにあと少しで歩ける様になるそうです。
でも今だけは…わたしがさやかちゃんを支えてあげられる貴重な時間だったり…。
わたしは車椅子のさやかちゃんを押して病院の外へ向かいました。
「エイミー!久し振りだねー!良い子にしてた?」
(ミー!)
公園の近くでエイミーはさやかちゃんを見付けると真っ先に駆け寄って来ました。
わたしにも懐いてくれてるけど、やっぱり最初に大事にしてくれたさやかちゃんが一番のお気に入りみたいです。
「ちゃんとまどかの言う事聴いてたかー?
(ミー)
「そっかそっか~♪よしよし~♪」
「むぅ…さやかちゃんエイミーにばっかりズルいよー。」
「あははは!そんじゃ大きなまどか猫さんは病室に戻ってからなでなでしたげるよ♪」
「あうっ…。」
わたしはちょっとだけエイミーに嫉妬していた事に気付いてハッとしました。
さやかちゃんのお世話をするのもいいけどわっぱりわたし…さやかちゃんに甘えたいのかなぁ。
「うふふ…お二人は今日もとっても仲良しさんですのね♪」
エイミーの後を追って現れたのはお友達の仁美ちゃんです。
仁美ちゃんはわたしがさやかちゃんを迎えに行く間にエイミを預かっていたくれたのですが…。
「おっす仁美ー!この子の面倒見てくれてありが………大丈夫…???」
さやかちゃんは思わず言葉を止めていました。何故なら仁美ちゃんの両ほっぺには立派な引っ掻き傷があったからです。
「ええ。問題ありませんわ。」
…どう考えてもエイミーが引っ掻いたんだと思います。何故かエイミーは仁美ちゃんにはなかなか懐いてくれません。
でもお嬢様たる者のの精神力なのか、仁美ちゃんは痛そうな素振りも見せず笑顔です。
「こーらエイミー、もう仁美引っ掻いちゃ駄目だぞー。つーかいい加減仁美にも懐いてくんないかなー…。」
「ほらエイミーさん、クッキーなど如何で…」
(カジッ)(ミッ!)
クッキーを差し出す仁美ちゃんですが、エイミーがかじったのはクッキーではなく仁美ちゃんの指でした。
「あはは…きっとそのうち仁美ちゃんもお友達になって貰えるよ。」
「トホホですわ…。」
慣れて貰えず肩を落とす仁美ちゃんも、きっといつかわたし達みたいに仲良くなれると思います。
そうやり取りをしている内に、雨上がりの空に気付いたさやかちゃんが声を上げました。
「おーっ!虹が見えるぞー!」
「わぁ…!綺麗…!虹が二つも見えるよ!」
ここが見晴らしの良い公園だからなのかもしれません。虹の向こうにはもう一つの虹が薄っすらと見えるのです。
「はっきりと見えるのが主虹、遠くに色が逆向きで薄く見えるのが副虹と言いますのよ。」
「へぇー。よーしまどか!あたしあの虹のあるトコまで行きたい!」
「ふええっ!?あそこまでぇ~!?」
「さやかさん…山の麓へ着く頃には虹は消えますわよ…。」
雨上がりの空の下。わたしはさやかちゃんと仁美ちゃんとエイミーと、もう暫く公園の散歩を楽しみました。
[雨の日]
おしまい。
最終更新:2012年09月11日 07:35