908 名前:甘いお菓子、甘い……1/4[sage] 投稿日:2012/09/10(月) 18:59:14.48 ID:MSwdkWqZ0 [1/5]
「わぁー…」
その日、まどかはさやかの部屋にお呼ばれしていた。
さやか曰く、今度マミさんのお茶会で出すお茶菓子を作ってみたから試食してほしいという事らしい。
「美味しそう…」
というわけで、今まどかの目の前には小皿に乗せられたショートケーキがある。
上に乗ったイチゴがみずみずしい光沢を放ち、ふんわり柔らかそうな生クリームに覆われたそれは、食べる前でも美味しいものであると容易にわかった。
「あのさ、まどか…いったいいつまでそうしてるわけ?」
「えっ?」
まどかがケーキを前に目を輝かせていると、テーブルを挟んだ向かい側から呆れたような声が聞こえてくる。
視線をケーキから声の方に移してみれば、自分用のケーキを食べていたさやかがまどかの事を苦笑気味に見つめていた。
「さっきから全然食べてないじゃん。あっ、もしかしてダイエットでもしてた?」
「う、ううん!そんなことないよ!ただ…」
まどかは勢いよく首を振ってだったらごめんと謝ってくるさやかの言を否定する。
事実ショートケーキが嫌いなわけじゃないし、さやかの作ったものだから味に関しても心配していない。
「ただ?」
「綺麗だから、食べるのもったいないなぁ…って」
ただそう…あまりにも良くできているそのケーキを崩すのがもったいなく思えて。
食べるにしてもなるべく崩さないようにしたくて、どこからフォークを入れるかまどかは迷っていたのだ。
「もったいないねぇ…冷えてる内に食べない方がもったいない気もするけど……んっ、我ながら美味し」
しかしさやかからすれば自分の作ったケーキにそこまで感じる意味がわからないわけで。
自分用に取り分けたケーキを口に運びながらも、彼女の目はいつになったら食べてくれるのかとまどかをじぃーっと見ていた。
「うーん…えっと…どうしようかな…」
…食べない。
まどかはフォークをゆらゆらと揺らしながらもそれをケーキに突き立てようとはしない。
最初こそ、その様子に微笑ましさすら感じていたさやかであったが、いつまで経ってもそんなことを繰り返しているまどかにだんだんとその目は剣呑な雰囲気を漂わせていく。
909 名前:甘いお菓子、甘い……2/4[sage] 投稿日:2012/09/10(月) 19:01:51.25 ID:MSwdkWqZ0 [2/5]
そして…
「まどか…」
「ご、ごめんね、さやかちゃん!でも後ちょっと…」
「待てるかーーーっ!!」
「ひうっ!?」
さやかが大声を出した事でまどかがビクッと身体を震わせる。
だが、今のさやかはそれを気にする余裕も容赦する気もなかった。
「あぁ、もう焦れったいっ…ちょっと貸してっ!」
「あっ!?」
さやかはもう我慢できないとばかりにまどかの持っていたフォークを奪い取ってしまう。
まどかが驚きに目を丸くしているのにも構うことなく、さやかはそのままフォークをケーキに突き立てた。
「あーーっ!?さ、さやかちゃん、ひどいよぉ!」
「ひどいのはまどかでしょっ!?せっかくあんたに一番上手く出来た自信作を食べさせたかったのに、これじゃ台無しじゃんか!」
今さりげなくまどかにとってすごく嬉しい事をさやかが言っていたような気がしたが、残念ながらケーキを崩されたショックにうちひしがれているまどかの耳にそれは届かない。
「うっ、そこまで落ち込まなくてもいいじゃない…」
「ううっ…」
「…ほら」
「…えっ?」
まどかが顔を上げるとそこにはケーキの乗ったフォーク。
目をパチクリさせてさやかを見ると、彼女はいかにもしょうがないなぁと言う風に苦笑していた。
「さやかちゃん…?」
「まどかに任せてたらいつまで経っても食べてくれないしさ…こうなったらあたしが食べさせたげる!」
ほら、口開けてとフォークを前に出してくるさやかの有無を言わさない様子に気圧されたのか、まどかは素直に口を開く。
まどかの開いた口にスポンジと生クリームの乗ったフォークが滑り込み、ようやくケーキはまどかに食される運びとなった。
「――――」
「どう、美味しい?」
「うん!すごく美味しいよさやかちゃん!」
満面の笑みでそう述べるまどかにさやかはよかったと笑みを返し、もう大丈夫だろうとフォークを差し出す。
「――――」
「んっ?まどかどうしたの?」
しかしどうしたことかまどかはスプーンを受け取ろうとしない。
ああ言ってはくれたけどやっぱり美味しくなかったのかとさやかが不安を感じ始めた頃、まどかはようやく口を開いた。
「あー…」
「はい?」
「あー」
文字通り口を開いたまどかはそのまま何かを待つようにさやかを見る。
これでも長い付き合い、さやかはまどかの瞳から彼女の望む答えを瞬時に探り当てた。
910 名前:甘いお菓子、甘い……3/4[sage] 投稿日:2012/09/10(月) 19:05:05.76 ID:MSwdkWqZ0 [3/5]
「もしかして……あたしに食べさせてほしいの?」
「――――」コクコク
正解と言わんばかりにうなずくまどかにさやかは思わず苦笑してしまう。
口を開けてただひたすらさやかが食べさせてくれるのを待っているまどか、彼女はさやかがそれを断る可能性など微塵も考えていないのだ。
(まぁ、間違ってはいないんだけどさ…)
しかし雛鳥のように待つまどかを見ていると、ムクムクと悪戯心が沸き上がってくるのが美樹さやかという少女であり。
(よぉし、ちょっとからかっちゃおうかな)
目を閉じているためまどかは気付いていないが、さやかはそれはもう楽しそうにニヤついていた。
「よしよし、じゃああたしがまどかにケーキを食べさせてあげるからねー」
「――――」
「――――あむっ」
「えっ?」
待っていても何も来ない、それどころかさやかが何かを食べた気配を察しまどかが目を開く。
そこにはイチゴがなくなっている自分のケーキと口をモゴモゴと動かしているさやか…その状況が示しているのはただ1つだった。
911 名前:甘いお菓子、甘い……4/4[sage] 投稿日:2012/09/10(月) 19:06:15.69 ID:MSwdkWqZ0 [4/5]
「んー、イチゴ美味しいなぁ」
「さ、さやかちゃん!もしかしてわたしのイチゴを食べちゃったのっ!?」
「いやー、なんかまどかの顔見てたら悪戯したくなっちゃって」
「そ、そんなあ…ひどいよさやかちゃん…」
ショートケーキのイチゴを食べられる…それは例えるなら砂漠で水を失うかのようなもの。
大袈裟かもしれないがそれだけのショックをまどかに与えたのは事実だ。
「さやかちゃんのバカ、バカ!イチゴのないショートケーキなんてまるでお調子者じゃないさやかちゃんだよ!」
「ごめんごめん」
「むうううう……えいっ!」
「おおっ!?」
まるで反省の色が見えないさやかに頬を膨らませていたまどかは、仕返しとばかりにフォークを半分残ったさやかのケーキに突き立てる。
見事に残り全てを刺すことに成功したそのフォークを……まどかは無理矢理口の中に押し込んだ。
「むぐう……」
「おお、まどかがハムスターみたいだ」
「むぐ、んっ……ゴクン」
「あーあー、口元クリームだらけにしちゃって、ほらふきふきしましょうねー」
「んん……」
「美味しかった?」
「――――うん」
「へへ、それはよかったよかった」
ティッシュでクリームを拭き取られていくまどかが、さやかのケーキから【2つのイチゴ】の味がした真意を知る事になるのはもう少しだけ後の話である。
「そういえばさ」
「?」
「さっきの『イチゴのないショートケーキなんてまるでお調子者じゃないさやかちゃん』ってのはどういう意味かな~?」
「えっ」
「んー?」
「……」
「――」
「ウェヒヒ、さやかちゃんは元気なところが魅力ダヨネー」
「あはははは、ちょっと棒読みだぞこのやろー」
「ひゃうう……ひゃやかひゃん、ほっへらひっはらないれ~」
最終更新:2012年09月11日 07:50