39-525

525 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/09/18(火) 02:19:35.21 ID:BhNoZzpy0 [2/2]
3年次の体育祭のお話です。
ダラダラとちょっと長めですのでお時間に余裕のある時にでも。


―朝―

今日は年に一度の体育祭の日。運動の苦手なまどかは登校時から暗い顔だ。
トレードマークのツインテールは弱弱しく垂れ下げってしまっている。

まどか「はぁっ…。」
さやか「どしたのまどか? 身体の調子悪いの?」
まどか「えっ…? ううん…そんなんじゃないけど…。」

曖昧な返事をするまどかを見てさやかはすぐに察した。
もうまどかを出会ってから5年目になる。言葉で言われなくとも何となく理解るのだ。

さやか「自分が体育苦手だからって、クラスのみんなに迷惑掛かるとか思ってた?」
まどか「ふえっ!? あうう…。」

図星だった様でまどかは思いっきり俯いてしまう。
さやかはそんな健気で可愛いらしいまどかの頭を撫でていた。

さやか「あんたはあんたに出来る事を精一杯やればいいの。それに今年もあたし等クラス一緒じゃん。
    一緒に出る種目も多くして貰ったんだし、あたしが休みの時もしっかり応援したげるから。」
まどか「うん…! 頑張ろうね。」

さやかが心強い笑顔を向けてくれるだけで、まどかの憂鬱もすっかり吹き飛んでしまったらしい。
見滝原中学は学年ごとにクラスが持ち上がり、即ち今年もさやかとは同じクラスだ。
まどか達は三年生となり、中学最後の体育祭が始まるのだった。


[貴女の為に出来る事]


この体育祭では三学年全て含めてクラス対抗で種目毎の合計点数を競う。
クラスは全部でA組~F組まで。それぞれ1年から3年が1チームとなるのだ。

○パン食い競争

開会式が終わると生徒の多くは応援席へ、最初の種目の参加者は入場口へと向かう。
パン食い競争は参加者が必ずパンを貰える事が好評だったらしく、障害物リレーとは別に設けられている。

ユウカ「あれ?さやかってパン嫌いだっけ?」
さやか「ん?ああこれ? まどかが欲しいって言ってたからあげようと思ってさ。」

パンはだいたい誰でも食べられそうなごく普通のあんパンである。
まどか達のクラス、3-Aからはさやかを含める数名が参加したのだが、
さやかだけは何故か一度咥えたパンを食べずに応援席に持ち帰ったのだ。

まどか「さやかちゃんお疲れ~。」
さやか「ほいまどか。お腹空いてたの?」
まどか「えへへ、ありがとうさやかちゃん♪」

さやかに手渡されたパンを受け取ると嬉しそうにもぐもぐと食べ始めた。
勿論パン食い競争は手を使わずパンを取得する訳で。まどかはそれが欲しかったのだ。

仁美「あらまぁ。まどかさんは大胆ですのね♪」
ほむら「抜け目無いわねまどか。」
さやか「へ?何が???」

関心する仁美とほむらを裏目に、さやかは間接キスとなった事に全く気付いていない様だ。


○二人三脚

中沢「おい見ろよ!美樹と鹿目が凄い速さだ!」
ユウカ「あの二人全力疾走じゃない!なんで転ばないの!?」

二人三脚ではまどか・さやかのペアが他のクラスをごぼう抜きしていた。
漫画で片方が相方を引き摺りながら全力疾走というのは良くある話だが二人は違う。

ほむら「当然よ。我が校ベストカップルを甘く見ない方がいいわ。」
仁美「ああ、何て素晴らしいのでしょう!お二人こそ理想の夫婦デスワー!」
恭介「むっ…!」
ほむら「ほら仁美、そろそろ貴女達の番よ。」

既に走り終えたほむらは、舞い上がり過ぎて出番を忘れてしまいそうな仁美を促す。
その様子を見た仁美にパートナー、かつ一応彼氏の恭介は密かな対抗心を滾らせていた。

ほむら「二人共お疲れ。」
中沢「よっ!凄く早かったなバカップル~!」
さやか「うっさーい! まどか大丈夫!?」
まどか「ほへ…ほへ…ほへ…さ、さやかちゃんの為なら…えへへ…。」

ほぼさやかに合わせて走ったのでまどかは息も絶え絶えだった。
足の紐を解くととりあえずさやかの背中に負ぶさっておく。

恭介「…仁美、僕等も全力で頑張ろうね。」
仁美「恭介さん?」
恭介「さやか達に負けたくはないんだ。僕達こそ学校一のバカップルだって事を証明しようよ!」
仁美「恭介さん…! そうですわね!不肖この志筑仁美、全力で従事させていただきますわ!」

その瞬間、一瞬仁美から放たれた、普段とは違う王気(オーラ)に恭介は慄いていた。
ちなみに恭介は一度大怪我をした事もあり、男子としての身体能力は普通からやや低いかくらい。
一方で仁美は人知れず武道や護身術を嗜み身体を鍛えている身である。

仁美「はああああああっ!!」
恭介「ぎゃああああああ!仁美ストップストップ!」

彼女を本気にさせると並みの男子より凄かったりするのかもしれない。
正に先述した漫画の通りに、割と長身の恭介ですら玩具の様に引き摺られていた。
ちなみにまどか達の奮闘と合わせて3-A(まどか達のクラス)は一着である。

仁美「あら…わたくしとした事が…!」
中沢「………。」
まどか「………。」
ほむら「………。」
さやか「………。恭介、大丈夫…?」
恭介「…うん…。」ボロッ

何とも言えないクラスメイト達の視線に恭介は目が虚ろだった。


○球入れ

まどか「(どうしよう…あっ!球あった…! あうう…また取られちゃったよぉ~!)」

広いグランドではクラス毎にカゴが用意され、生徒の半数程が参加する競技となっている。
まどかはこぼれ玉すらもなかなか拾う事が出来ずにひたすらオロオロしていた。
さやかを探そうにも逸れてしまい、また彼女もおそらく競技に熱中しているだろう。

しかしそれでもさやかを探す内、でまどかは白い丸い物を視界に納めた。
ちょっとくらい自分も参加しなければいけないと思い、迷わずそれを掴んだのだ。

(むぎゅっ!)
さやか「―――ひゃあああっ!?」
ほむら「さやか!どうしたの!?」
まどか「わわわわっ! ごめんさやかちゃん…!」

まどかが掴んだのは玉拾いにしゃがんでいたさやかの胸だった…。
競技終了後、案の定応援席で散々からかわれる事になってしまう。

ユウカ「ついにまどかからもセクハラが積極的になったねー。うんうん!」
ほむら「ふふふ…役得ね。グッジョブまどか!」サムズアップ
まどか「ち、違うよぉ!」
さやか「………。///」
仁美「わたくしも近くで見たかったですわ…。」クスン


○障害物リレー

この競技はまどか、さやか共にお休み。メンバーの一人として奮闘する仁美をほむら達と一緒に応援していた。
お嬢様ではあるがすっかりさやか達に溶け込んだ仁美は、網潜りもトンネルほふく前進も気にせずこなして見せる。

仁美「お嬢様なのになかなかやるわね。」
さやか「そういや初めて仁美に会った頃は初々しかったなぁ~。」
まどか「仁美ちゃんってファーストフードもわたし達とが初めてだったんだよね。」
さやか「今じゃすっかりあたし等の友達だけどねー!」

一年の最初の頃では価値観や金銭感覚等の違いからクラスでも浮いていた仁美。
まどか。さやかとの仲良くなったのが切っ掛けで、今ではやや天然娘としても親まれていたり。
時々暴走するのが玉に瑕ではあるが…。競技を終えて応援席に戻って来た仁美は暖かく迎えられる。

さやか「仁美お疲…ぶぶぅっ!!」
ほむら「ちょっとさやか、何をいきなり吹き出して……ぶっ!!」

仁美を見た瞬間、応援席のテントでさやかとほむらは思いっきり麦茶を吹き出してしまう。

まどか「ひ、ひとみちゃ…」プルプル
仁美「はい? どうされましたの?」
ユウカ「あはははは!!仁美ってば鏡見てよ鏡!」

仁美は最後のマシュマロ食いで粉の中に突っ込んだ顔、特に口の周りが粉まみれだったのだ。
モデルの様な体型で気品溢れるお嬢様に、昔のバラエティ番組の様な姿を見せられるとギャップによりかなりの破壊力がある。
仁美は赤面して「コホン」と咳払いをすると、バッグからウェットティッシュを取り出したのだった。


○大玉転がし

さやか「まどかは無理しないで押すフリだけね。」
まどか「う、うん!」

まどか、さやか、仁美、ほむらが仲良しの女子通しでチームとなりリレーに参加する。
ちなみにまどか以外の三人は女子の中でもかなり高い身体能力の持ち主だ。

中沢「あの女子軍団あんなに飛ばして大丈夫かよ!?」
恭介「あまり早いとポールを曲がりきれないんじゃないかな…。」

人より大きい大玉は転がす時、速ければ速い程ポールを曲がる時に大きな遠心力が発生してしまう。
ちなみに行きで曲がる時に内側からさやか、まどか、仁美、ほむらの順となる。

ほむら「任せて!」

一番外側のほむらは予定通りに素早く回り込んで大玉の軌道修正を一手に引き受けた。
こっそり魔法少女の力を使って大玉は難なく帰りのコースへ。

さやか「おっしゃあ!ナイスほむら!」
仁美「あとは真っ直ぐですわね!」
まどか「わーん!待ってよぉ~!」
ほむら「えっ…?」

内側のさやかと外側のほむらが進路のブレを修正しつつ仁美がメインで前に押す。
抜群のチームワークと思われたが、やや後方から情けない声が聴こえて来た。
三人のペースにまどか一人が置いて行かれそうになったのだ。

さやか「やべっ…まどか! 仁美!こっち側ちょっと任せた!」
仁美「さやかさん!?」

さやかは一瞬だけ足を止めてまどかを捕まえると、咄嗟に自分の背中に背負わせて戦列へと戻る。
最終的にほむら、仁美、さやか(背中にまどか)という形で四人は無事次のチームに大玉を渡した。

恭介「ところでどうして鹿目さんはさやかに背負われてたんだい?」
さやか「いやー、まどか置いて行そうになったから悪いと思ってさ。」
まどか「えへー…///」
ユウカ「いくらさやかだって女の子一人背負って良く走るよねー。」
さやか「このくらい平気平気!ちょっと重かったけ…」
(げしっ!)
さやか「あだっ!」
まどか「さやかちゃんの馬鹿ー!」

応援席にはいきなり足を蹴られて飛び跳ねるさやかとむくれるまどかの姿があった。


○椅子取りゲーム

この学校では基本的に男女混合で(合計人数は合わせるが)行い、椅子取りゲームもその一つだ。
クラスで四名ずつが参加しつつ参加して数を減らして行き、最後は残り三人に対して椅子一つで決着が着く所なのだが…。

さやか「あっちゃー…三人共うちのクラスだ…。」
まどか「え?仁美ちゃんもほむらちゃんも上条君もうちのクラスで生き残ってるなんて凄いよ?」
ユウカ「まぁそうなんだけどね…でも誰が生き残っても点数変わらないでしょ?」

この三人はお休みで見学中、一人喜ぶまどかに説明をする事にした。
点数の振り分けは1位が5点で2位が4点…と続くのだが、三人同じクラスでは合計点は変わらない。
しかし参加者にもお客さんに対しても競技を途中で終了する訳にはいかず、結局最後まで行う事になる。

(ドン!)
ほむら「きゃあっ!」
恭介「うわっ!」

当然1つの椅子に対し三人がぶつかって押し出される訳で。
体格と身体能力ではなかなか良い勝負だが、タイミング良く椅子を取ったのは仁美だった。

恭介「いててて…。負けちゃったな…。」
仁美「ほむらさん、大丈夫ですか?」
ほむら「え、ええ…ありがと…。」

相手二人をかなりモロに押し出してしまった為、恭介とほむらはバランスを崩し転んでしまう。
勝者である仁美は手を差し伸べてたのだが、その相手は恭介ではなくほむらだった。
一応これでも仁美は恭介の彼氏である。だが差し出された手を取るほむらは心成しか嬉しそうだった。

ほむら「………///」
恭介「………。(何だろう、この妙な敗北感は…。)」

同じ状況であればか弱い女性を敬うのはある意味正しいのだが…。

さやか「あっはははは! 仁美をほむらに取られちゃったね~♪」
中沢「女を女に取られるとか天才にしか出来ない技だよな。」
恭介「う、煩いよ! 暁美さんは女の子だから仕方無いだろっ!!」

幼馴染であるさやかの冷やかしにいつに無くムキになる恭介。
同じく応戦席に戻ったほむらは暫くポ~っと仁美を見つめていた。


○応援合戦

さやか「やだよ!なんであたしがこんな格好…!」
ほむら「ほら観念しなさい。クラスの投票で決まったのだから仕方無いでしょう。」

クラス全員で行う応援合戦で、3-Aは数名が学ランとチアガールの格好をする事になった。
さやかはミニスカ姿でもじもじしながら、何故か学ラン姿のほむら&仁美の後ろに隠れるばかりだ。
同じくチアガール姿のまどかが一緒に前に出ようよとさやかの手を取る。

まどか「さやかちゃん頑張ろ。とっても似合ってるよ?」
さやか「ううっ…///(まどかと一緒なら…我慢出来るかな…。)」

まどかのお陰で縮こまりながらも何とか前に出て来た。
だが一般応援席からさやか達へ向けて聞き覚えのある声が響く。

マミ「美樹さーん!」
杏子「まどかー!さやかー!似合ってるぞー!」

ビデオカメラ片手にもう片方の手をぶんぶん振る縦ロールはOGのマミ、隣には同級生の杏子。
二人はまどか達を応援しつつしっかりと録画していた。勿論応援合戦のチアガール姿も含めて。

さやか「うわああああ!マミさん達にまで見られた…。」
まどか「あっ、隠れちゃ駄目だよぉ~! ほら…。」ギュー

涙目になりつつ再び隠れようとするさやかを何とか宥めようと抱き寄せていた。
純粋にさやかを元気付けたいと思っての行動だが、傍目にはバカップルにしか見えない。
さやかもそんなまどかの気持ちが嬉しくて何とか乗り越えられそうだ。

さやか達は大太鼓と、学ラン姿の仁美達の笛に合わせてボンボンを振り始めた。


○昼休憩

仁美「それでは皆さん、また後程お会いしましょう。」
ほむら「私も親の所に行って来るわ。」

昼休憩の間生徒達は応援席の家族の元へ向かい、自ずと生徒の応援席は無人となる。
家族と離れているほむらも、今日は遠くから両親が応援に来ているらしい。

まどか「わたし達も行こっか。」
さやか「あたしはいいよ。親どっちも来れなかったから。」
まどか「えっ…!? でもぉ…。」
さやか「独りでクラスの応援席に居るのもハズいしさ。教室で昼済ませとくよ。」

午後の競技開始に間に合えば基本的に昼休憩の行動は自由である。
教室ならば確かに人目には付かないのだが…まどかは居た堪れない気持ちでさやかの手を握って言う。

まどか「…わたしの所においでよ。」

さやかは手を引かれるまま、鹿目家の陣取るシートで昼食を取る事になった。



さやか「お邪魔しまーす。」
絢子「水臭いな。さやかちゃんはうちの家族みたいなもんだろー。」
さやか「たはは…。」
知久「さやかちゃんとまどかとお揃いのチアガール可愛かったよ。」
さやか「うぐっ…! もう忘れてくださいよー!」
タツヤ「さやかー! まろかー! よめになるのらー!」
さやか「ぎゃー!たっくん変な言葉覚えないで!」
まどか「えへへ、自業自得だよさやかちゃん♪ …もぐもぐ。」
さやか「わー! まどかそれあたしの弁当…!」
絢子「いいじゃないか。まどかはうち等のよりさやかちゃんの愛妻弁当が食べたいんだとさ。」
さやか「あ、愛妻弁当って…!///」
知久「ははは、僕の作ったので良ければ幾らでも食べて行ってよ。」
さやか「へっへー、それじゃお言葉に甘えて…。」
まどか「~♪」モグモグ

両親が多忙のさやかはよく鹿目家でご馳走になるのだが、こうして体育祭で一緒に食べるのはとても新鮮だ。
知らぬ間に持参した弁当はほぼまどかに平らげられ、さやかは知久の持ち寄った弁当に舌鼓を打つのだった。


○綱引き

午後の授業は大人数で行う綱引きから始まる。
まどか達は初戦から勝利を飾ったのだが、勢い余って半数程が後ろに転んでしまった。

まどか「わああっ…!」
(どてん)
さやか「あたたた…まどか大丈夫…?」

まどかも勢い良くすっ転んでしまい、後ろで引っ張っていたさやかの上に尻餅を着く事になった。
特に痛みなど無くまどかは満足そうな笑みを浮かべているばかりだ。

さやか「まどか?怪我無い…?」
まどか「うん…とっても柔らかかったよ♪」
さやか「ぬなっ…! あたしの心配を返せー!」


○借り物競争

時間の掛かりそうな種目なので人数は少ないがまどかも参加者の一人。
しかしお題の書かれた紙には単純に「服」とだけ書かれていて、まどかは半ばパニック状態になっていた。

さやか「まどかー!どしたー!?」

近くの応援席からさやかの声が届いてまどかは落ち着きを取り戻した。
とりあえずクラスの応援席にいるさやか達の所で駆け寄るまどか。

まどか「あのねさやかちゃん!"服"って借りられるかな…?」
さやか「へ!? 服…っつったって…。」

さやかもだが勿論仁美もほむらも同じく体操服姿。
応援席はテントもあるのでパーカーを着ている人もおらず、簡単なお題だが生徒に頼るのは難しそうだ。
さやかが今脱げる物と言えば靴下くらいだが、汗と砂に汚れたそれを手渡すのも気が引ける。
そこでほむらは頭の上に豆電球を浮かべ、ニヤりと不敵な笑みでさやかに囁いたのだ。

ほむら「あるじゃないの。ごにょごにょ…。」
さやか「へ…?! うー…でもまどかが困ってんだし…。」

教室に制服を取りに行くのは余りにも時間が掛かり過ぎる。
覚悟を決めたさやかは、自らの体操服の下から手を背中に入れ、服の下から顔を真っ赤にしてまどかに差し出した。

さやか「はい…。終わったらすぐ返してよ…。」
まどか「ふえええええ!? こ、こここここれって…。」

まどかの掌にはさやかの手とはまた違った温もりが伝わって来る。

仁美「さやかさん…幾ら何でもそれは…。」
ほむら「一枚は一枚よ。ほらまどか急いで!」
まどか「うん!ありがとうさやかちゃん!」

まどかはさやかから受け取った青いブラを出来るだけ手で隠しながらゴールへと向かった。
手の中にしっかりと残ったさやかの体温を感じながら…。


○騎馬戦

元々は4人1組の競技だが、激しくぶつかるのを防ぐ為に手軽にハチマキを取り合える2人1組で行われる。
まどかを肩に乗せたさやかは、まどかの体重が軽い事もあってかかなりの機動力の騎馬である。

さやか「行っくぞまどか~!」
まどか「きゃわわわわ!!」

さやかは序盤から手加減無しで全力疾走。手早く相手の背後に回り込んでまどかに次々とハチマキを取らせてゆく。
だが余りに動きが激しいのでまどかは途中で目を回してしまった。

まどか「あうう~…。」グルグル
さやか「ちょっとまどか!?しっかりしてよ!」
男子「貰った~!」
さやか「うおっ!やばっ…!」

咄嗟の判断で回避して回り込むが、肝心のまどかが目を回したままで反撃に迎えず防戦一方だ。
馬役のさやかは両手が使えないので逃げる事しか出来ない。

ほむら「仁美!あの二人を助けましょう!」
仁美「はいですわ!」

窮地に陥ったさやか達を救ったのは仁美・ほむらのペアだった。
後ろから奇襲を掛けてほむらが敵のハチマキを奪った事でとりあえずは助かった。
自分のハチマキを失ったペアは強制退散で騎馬を解除しなければならない。

男子「ああっ!てめぇらズルいぞ…!」
仁美「お二人共ご無事ですか?」
さやか「助かったよ!まどかが目を回しちゃってさー…。」

その後もさやかはまどかを乗せたまま制限時間まで何とか逃げ切った。


さやか「うわー…あたし等以外殆ど全滅じゃん…。」
ほむら「全く、男子はだらしないわね。」
中沢「暁美さんすんません…。上条の奴が途中でバテるから…。」
恭介「恐いからゆっくり走れって言ってのは中沢君じゃないか!」
中沢「お前がフラフラするから乗ってるこっちは恐かったんだよ!」
(ぎゃあぎゃあぎゃあ)
ユウカ「…こういうの、喧嘩する程仲が良いって言うのかなぁ?」
仁美「ふぅ…まどかさんとさやかさんはあんなに仲良しですのに…。」
恭介「…っ!」ピタッ

仁美に"まどかとさやか"と聞いて上条は急遽喧嘩を止めた。これも微妙な対抗心なのだろうか…?
さやかは応援席に戻り、目を回したまどかを介抱している所だった。



○応援席にて

まどか「仁美ちゃん頑張れー!」
さやか「おっしゃぁ!ほむらいいぞー! まどか、もう気分は大丈夫?」
まどか「うん、もう平気だよ。」

種目も残り僅か。現在は仁美とほむらが棒倒しに奮闘している真っ最中だ。
冷たい麦茶を飲みながら一休みして、まどかはもうすっかり回復していた。

まどか「あとは…リレーだけだね…。わたし…やっぱりみんなの迷惑にならないかな…。」
さやか「だーい丈夫だっつの。練習したでしょ? まどかは"あたしに向かって"走ればいいの。」
まどか「あっ…!」


○リレー

最後の種目はクラス全員参加によるリレーだ。
3-Aは男子より女子の方が身体能力の高い生徒が多く、人数の関係でさやかはトップバッターとアンカーの二度走る。
そしてまどかはアンカーであるさやかの前。この順番もクラスで相談して作戦を立てたものである。

中沢「うおおおお~!暁美さぁぁぁぁんっ!!」
ほむら「っ!?」ゾクッ

前を走る中沢の叫びにほむらは何故か背筋が寒くなった。
リレーゾーン(バトンを渡せる範囲、助走を付けられる)を何となくギリギリまで走って遠ざかっていた。

中沢「ううっ…俺やっぱ暁美さんに嫌われてるのかな…。」
恭介「諦めるんだね。暁美さんは男子に興味無いんじゃないかな。」
中沢「このリア充めぇ~!」

そうこうしている間に早くもリレーは終盤に差し掛かっていた。
まどかは不安そうにリレーゾーンの先の方へ向かう。これは自分の走行距離を減らす為だ。

まどか「(あうう…大丈夫かなぁ…。)」
仁美「まどかさん!しっかり!」

前走者の仁美からバトンを受け取り、トラック半周を懸命に走り始めるまどか。
受け取った時は一位で走っていたのに、1人、また1人と追い付かれてしまう。

まどか「(うう…やっぱりわたしなんかじゃ駄目なのかな…。みんなごめんなさい…全然役に立たなくて…。)」
さやか「まどかー!ここまで走れー!!」

愛しい人の声にまどかは顔を上げる。押し寄せる現実に意気消沈したまどかにとって順位など関係無かった。
ただ今は先に待つさやかの事だけを考えて、さやかに触れる事だけを考えて走り続けた。

3位に後退する所だったまどかは何とか持ち堪えた。追い抜いた1位の走者ともこれ以上距離は開かない。
まどかの視界に映るのはさやかだけだった。

仁美「成る程、この配置は正解ですわね。」
ほむら「さやかのいる場所に向かう事だけ考えられれば、まどかにとってもそれ程苦痛ではないわ。」

さやかはまだリレーゾーンの一番後ろから動かない。助走が付かなくてもいい。
少しでもまどかの負担を減らし、まどかのバトンを早く受け取ってあげたかった。

まどか「(さやかちゃんっ…!!)」
さやか「任せてっ!!」

バトンを貰ったさやかは助走無しでスタートダッシュを決めてみせた。
ほぼ同着の2位男子は一瞬で追い抜いた。1位の男子とはまだやや距離があるが、その差は僅かずつ縮まってゆく。

さやか「(くっそー…距離が足りないか…!)」

仁美「まどかさん!早くこちらへ!」
まどか「えっ…?」
ほむら「そうよまどか!近くで応援してあげなきゃ!」

まどかは仁美に引っ張られてトラックの反対側、即ちさやかがゴールする方向へと真っ直ぐ向かう。
ゴールには間に合わないだろうが、少しでも近い場所でまどかは力の限りさやかの声を呼んだ。

まどか「さやかちゃん!負けないでぇー!!」
さやか「(まどか!? )………っ! うあああああ~!!」

今は女の子である事も忘れて雄叫びを上げた。少しだけ身体のリミッターが外れてまた距離が縮まる。
頭の中にまどかの事だけを考えて…あの子の笑顔だけを思い浮かべて…。

小さなまどかがさやかの為に出来る事。
名前を呼ぶ事しか出来ないけど、それは確かにさやかの力になれたのだ。



まどか「さやかちゃん!」
さやか「―――っ…!? ま…どか…???」

一瞬意識が飛んでいたらしい。息が激しく上がる自分の傍には笑顔のまどかが寄り添っている。
自分の手には「1」と書かれたフラッグ。そこに続々とクラスメイトが集まって来た。

恭介「凄いねさやか。最後の最後で追い抜くなんて今日のヒーローじゃないか。」
中沢「流石男女は格が違うね。よっ、鹿目の王子様!」
ユウカ「今日のMVPはさやかだよねー。カッコ良かったよ♪」
ほむら「こういうのを見てると、貴女達を一緒にさせて良かったと思えるわ。」
仁美「この気持ち…まさしくキマシですわ!」
さやか「…はは…なんか…夢みたい…。」

自分の限界を超えて走ったからなのか、さやかはガクンと腰を抜かしてしまった。

まどか「さやかちゃん!?」
さやか「あー…平気平気…。ちょっと疲れただけだからさ…。」


○フォークダンス

点数を競う種目とは違い、生徒が任意で参加するイベントの様なものだ。
大半の生徒は男女のペアで参加するものだが、同性で踊ってはならないというルールは無い。

まどか「わたしさやかちゃんとがいいなー。」
男子「ちょっと待てよ、お前等男女で組まないのかよ。」
さやか「あたしもまどかとがいい。」
中沢「おいおい美樹まで…。」
ユウカ「さやかは今日のヒーローなんだから多めに見てあげようよ。」

全種目が終了し、クラスメイトが全員揃った応援席ではどうやらもう一悶着あるらしい。
リレーで大活躍だったさやかには流石に誰も意見出来ず、一足先にまどかの手を取ってグランドに出て行った。
別のクラスの生徒と踊っても構わないのだが、いざ急に相手を決めるとなると近場の生徒になりがちだ。

ほむら「いいじゃない。好きな人同士で踊るのだから文句は無いでしょう?」
中沢「じゃぁ暁美さん!俺と踊ってください!」
男子「ズルいぞ!暁美さんは俺が・・・!」
ほむら「なっ…!?」
仁美「あらあら、モテモテですわねほむらさん。」
ほむら「くっ…。なら私は仁美と踊るわ!」
仁美「まあ!いけませんわほむらさん♪」

いけませんと言いつつ仁美はあっさりほむらの手を取っていた。
ほむらにとっては男子の手から逃れる為の口実だが、意外とまんざらでも無かったりする。

恭介「ちょっと待ってくれよ!仁美は僕と…」
ほむら「いいじゃない仁美。今日くらい特別な関係でも…。」
仁美「ええ、ほむらさん。是非ご一緒しましょう。」
恭介「」

ほむらの誘いに仁美は何故かノリノリだ。そのまま二人は手を取りグランドに向かってしまった。
後にはショック石の様に固まったままの男子数名が残された。恭介を含めて。



まどか「(みんなの前でさやかちゃんと踊ってるなんて夢みたいだよぉ…。)」
さやか「(まどかってば赤くなっちゃって可愛いなぁ。あたしがもっとしっかりしなきゃね。)」

身体を密着する様なダンスではないが、後ろ手に繋いだりしていると妙な高揚感を感じてしまう。
顔が正面で向かい合うと、お互いそれに気付いてもっと赤くなったり。
まどかが少し足をもつれそうになるとさやかはずぐに動きを止めて肩を支え、再びダンスに戻る。

(ドン!)
ほむら「―――っ!」

隣で踊る生徒につぶかって転びそうになったほむら。
しかしパートナーの仁美が素早く腕で抱いていた。暫くの間二人のダンスは制止する。

仁美「(ほむらさん、大丈夫ですか…?」
ほむら「え、ええ…///(これ、いいかも…。)」

踊りに慣れていて身のこなしが良い仁美は背も高く、自然とほむらをリードする側になっていた。
今までまどかを守ろうと気を張っていたほむらだが、こうして頼り甲斐のある相手に支えられるのは初めて。
不器用なほむらはうっとりと柔らかな笑みを浮かべていた。

恭介「ところで中沢君。どうして僕は君と組んでるんだい?」
中沢「仕方無いさ上条。俺、応援席で待機組みには入りたくないんだ。」
恭介「………。」



杏子「おーし、写真上手く撮れたぞー。見ろよマミ!この幸せそうなまどかとさやか♪」
マミ「暁美さんと志筑さんも楽しそうね♪」
杏子「へっへっへ、あのお坊っちゃんのも撮ってやろう。」
マミ「まあ!BLなんて駄目よ♪」ポッ

まどか&さやか、仁美&ほむらは他の男女のペア以上に幸せそうに踊っている。
上条はただ中沢に踊らされているだけであるが。


○表彰式

さやか「へ…? あたしが出るの!? 今年のクラス委員はほむらでしょ~!」
ほむら「大活躍したのは貴女じゃない。ほら、まどかからも何か言ってあげて。」
まどか「わたし表彰台に上がるさやかちゃん見てみたいな~♪」
さやか「うぐっ…。しゃーないわねぇ…。」
中沢「にひひ、美樹の奴すっかり尻に敷かれてるな。」
さやか「うっさいよ!」

体育祭も無事終了。まどか達の3-Aは組別ではA組が2位、クラス別では1位という成績だった。
男子がやや頼りない中でさやかと仁美、あと実はこっそり魔法少女というほむらのお陰である。

解散前に記念に3-Aで写真を撮る事になり、トロフィーを持ったさやかの隣には勿論まどかがいる。
そしてほむらはちゃっかり仁美と手を繋いでいたりする。

ほむら「仁美…上条君に飽きたらいつでも私に乗り換えていいのよ。」
恭介「ちょ、ちょっと暁美さん!!」
仁美「あらあら。美人のほむらさんに見初められるなんて光栄ですわ~♪」
ユウカ「ありゃー…こりゃ上条君も気が気じゃないよね。」
中沢「上条、俺じゃ駄目なのか?」(悪ノリ)
恭介「僕はノンケだああああーっ!!」ウガー


………………………………………………♭♭♭………………………………………………

―帰り道―

まどか「………zzz」スピスピ

すっかり疲れ果てたまどかはさやかの背中でぐっすりと眠っていた。

仁美「まどかさんはさやかさんの背中がお気に入りですわね。」
さやか「まどかは良く頑張ったからね。あたしが家まで送ってくよ。」
ほむら「家に着いたらまどかのお母さんに泊まって行けと言われるのが目に見えているわね。」
さやか「うっ…そうかも…。」
仁美「明日は体育祭の代休でお休みですからよろしいではありませんか。」
さやか「あはは…一日中遊んでて休まらない気がするけど…。まぁいっか。」

中学最後の体育祭はさやかだけでなく、まどかにとってもとても充実した一日になったのだろう。
運動の苦手な自分を必死にさやかが支えてくれて、まどか自身はさやかの為に僅かだが力になれたのだから。
まだ背中で眠ったままの小さな彼女はとても幸せそうな寝顔だった。

仁美「それでは、わたくし達はこちらですので。」
ほむら「あなた達だから心配いらないだろうけど、まどかをよろしくね。」
さやか「うん。またね。」

本当はもうずっと前から気付いていたのかもしれない。
まどかが小さな身体でさやかにしてあげられる事は幾らでもあったのだ。
傍にいてあげるだけでいい。声を聞かせてあげるだけでいい。
小さな身体で頼もしい彼女を背に感じながら、さやかは未来の帰るべき場所へと足を運んだ。

[貴女の為に出来る事]

おしまい。

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最終更新:2012年09月18日 08:27
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