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[ランチタイム]

季節は10月に入り昼間も随分涼しくなった頃。
まどか達はお昼休みになるといつもの様に、最上級生の特権で屋上の特等席を陣取っていた。
各々が持ち寄ったお弁当を開き、雑談とおかずの交換が始まるのだろう。
そんな中で第一声を放ったのはさやかのお弁当を見たまどかがだった。

「最近さやかちゃんのお弁当綺麗になって来たよね。」
「ん?そっかなー…?」

さやかが初めて自分で弁当を作り始めた頃から1年以上が経っている。
思えば当時はまどか達に見せる事さえ躊躇う程に失敗作が並ぶ有様だった。
時は経ち幾度かの暖かさと涙を経験したさやかのそれは、今や主婦が拵える物と謙遜無い出来栄えだ。

「黄色に茶色に赤と緑、全体的な見栄えもとても素晴らしいですわね。」
「このタコさんウインナーって市販の物…ではないわね。焦げ目が少しだけあるもの。」

仁美&ほむらもまどかに続いてさやかの弁当へと目を移す。
改めて見るとそれぞれのおかずはなかなかに手の込んだ品が並んでいる。

「ああ、これは茹でるんじゃなくて焼いたからね。ウインナーは焼く方が上手く丸まってくれんのよ。」
「へー…。」

さやかにごく当たり前の様にウインナーの説明をされたほむらは唯々納得の声を上げるばかりだ。
綺麗に曲がったウインナーに残る、油を用いてこんがり焼けた跡は紛れも無い手作りの証である。

「わあ~、このクマさん可愛いよー!ねぇねぇこれってお菓子で作ったの?」
「残念ながらこのリ○ックマはただのおいなりさんでーす。油揚げの形をちょっと細工しただけだよ。」
「ええー!?これおいなりさんなのー!?」

さやかの弁当箱に4つ並んだそれはどう見ても茶色いクマのマスコットである。
真ん中は白く丸い鼻を模してあり、両上端にはご丁寧に耳までちゃんと再現されている。

(ヒョイ)(パク)
「むぐむぐ…美味しい…ホントにいなり寿司ね。食べてみてビックリだわ。」
「え???ってほむらあんたいつの間にー!? まぁ一つくらいいいけど…。」

確かめる為にほむらが目にも止まらぬ箸捌きでクマ型おいなりさんを口に運んでいた。
何気にこっそり一瞬だけ時間停止の魔法を使ってたりする。

「それにしてもさやか、もしかして料理を食べさせてあげたい相手でも出来たんじゃないの?」
「はあっ!? な、何言ってんのよ…!」

ニヤリと悪戯な笑みを浮かべて感想を述べるほむら。表情とは裏腹に率直な質問だった。
予期せぬ事を聞かれたさやかは何故か急に赤くなり慌てふためく。
すると今度はまどかが自分もとさやかのお弁当を強請ろうと身を寄せる。

「さやかちゃん、わたしその卵焼きが欲しいなぁ~。」
「へっへっへ、卵焼きは何気に自信作だったりするんだよね。ほれまどか、あーん。」
「あーん♪」

外見はごく普通の円柱を輪切りにした卵焼きだが、本人がそう言うのだから間違いは無いのだろう。
お箸から直接頬張ると、とろりとした甘みが口一杯に広がった。

「おいひぃ~!」
「まぁ!中がトロトロしてて焼き加減が絶妙ですわね!」
「とても甘くてこっちも美味しい…もぐもぐ。」
「ってちょっと仁美までー! ああ…あたしの卵焼き無くなっちゃった…。」

まどかのリアクションに便乗してまたしてもお弁当は減ってゆく。
しかも今度はちゃっかり仁美も参加。さやかはちょっとオーバーにがっかりしてみたり。

「貰ってばかりなのも悪いから一つあげるわ。何が欲しい?」
「おおー、ほむらは寿司かー。んじゃ甘エビで。」
「ほらさやか、口開けなさい。」
「へ…? あ、あーん…。」

ほむらの昼食はデパートで購入したと思われる握り寿司(十巻)だ。
さやかがまどかにやったのを真似てあーんを試みたが、横から突き刺さる視線によりほむらの動きは停止した。

(むっすー…)
「ん…?ほむら…?」
「…ごめんなさい。あーんは却下よ…。」

ほむらはまどかの"さやかちゃんにあーんしてもいいのはわたしだけだよ"とでも言わんばかりの表情に圧倒されてしまう。
苦笑いを浮かべながらあーんは断念し、さやかのお弁当箱の空いた部分に甘エビは置かれた。
こうして四人はわいわいとおかずを交換しながらお昼は進んでゆくのだ。

「あのねさやかちゃん、お願いがあるんだけど。」
「何かな? 可愛い嫁のお願いなら何でも聴いちゃいますよ。」
「今度わたしもさやかちゃんのお弁当食べてみたいなって…。」
「へ…?」

弁当をあらかた食べ終わった後、まどかの意外なお願いにさやかは驚く。
まどかにはプロ級の料理の腕前を持つ父、知久がいる。
さやか自身、料理の腕など到底彼には及ばないと思っていたからだ。

「うーん…でもまどかはパパさんに作って貰ってるでしょ?」
「あ、あの…でもね、たまにはさやかちゃんのお弁当が食べたいなって思っちゃったの。」
「そりゃぁ別にいいけど…。つーかホントにあたしのなんかでいいの…?」

一瞬まどかが自分を気遣ってのお願いかと考えていたが、その目を見る限りは本気だった。
まどかは一流の料理より愛する人のお弁当が食べたいと願うのだ。
料理の味は腕や材料だけでなく"愛"も重要だと言う事か。

結局さやかはまどかからお弁当のリクエストを承諾したのだった。
下校時に「用事があるから」とまどか達と別れ、さやかは一人制服姿のまま隣街の方面へと向かった。

………………………………………………♭♭♭………………………………………………

―風見市/マンション街―

(ピンポーン)
さやかは見滝原から少し離れた街にあるマンションの一室を訪れていた。
ドアを開けた部屋の主は金髪縦ロールの女性、去年まで見滝原中学の生徒だった巴マミだ。

「いらっしゃい美樹さん。」
「いやー、お久し振りッス! ちょっと相談がありまして…。」
「メール読んだわ。可愛いお弁当が作りたいんですって?」
「あ、はい。よろしくお願いします。」ペコリ

マミが隣街の高校へ進学した理由は幾つかあるが、一番大きな理由はある人物とのルームシェアが目的だった。
さやかと弁当の事について話していると、昼寝をしていたその人物が奥からのそのそと現れた。

「ふああ…マミ~、何で中学の制服着てんだよ~…ってお前さやかじゃねぇか!何でここにいんだよ!?」
「はは…久し振り杏子。あんたは相変わらずっぽいなぁ…。」
「もう、佐倉さんってば。美樹さんが来るからって言っておいたでしょ?」

マミと同じ高校の制服姿でのルームメイトである佐倉杏子。学年もマミと同じ高校一年だ。
登場と同時に寝ぼけていたらしく、まだ中学生のさやかをマミと勘違いしてしまったらしい。

「それに横になるならちゃんと着替えなさいって言ったでしょ。またスカートがシワになるわよ。」
「へいへい…。」
「(予想通りって言うか、やっぱマミさんの尻に敷かれてるなぁ…。)」

頭をボリボリと掻きながら杏子は再び奥の部屋へと姿を消した。
マミが世話焼きな姉で杏子が活発でズボラな妹と言った関係であろう。
二人はかつて師弟関係だった頃の様で、それを見てさやかは微笑ましく思うのだった。

………♭♭♭………

制服(中学と高校では違うが)の上にエプロン姿のマミとさやか。
リビングのテーブルには色々な材料が並んでおり、マミはそれを小さく刻んでゆく。

「ほら…こうやって切り抜けば…。」
「おおー! お菓子作るのと同じ容量って訳ですか。」

お弁当作りに手慣れたさやかは更に見た目を良くする為、マミにデコレーションの方法を教わっていた。
こういったのが大得意のマミは、ノリやチーズ、ブロッコリーやハム等を使って巧みに絵を作って見せるのだ。

「おーし…こんな感じかな…ちょっちぎこち無いけど…。」
「無理に一枚の切り抜きに頼る必要は無いのよ。そこは重ねた方が自然に見えるわ。」
「ふむふむ…。」

小さなパーツを重ね合わせてやっと一つの絵が出来る。
これは言わば予行演習だが、さやかの慣れと習得の早さにはマミにも感慨深いものがあった。

「あれから一年も経つと美樹さんも成長するものね。」
「えっ? いやぁ~マミさんには敵いませんよ~。」

徐に褒められたさやかはとりあえずマミの胸元に視線を移す。
真っ先に思い浮かんだのがそれだったが、思わずマミは苦笑しながら弁明した。

「ふふっ…身体の事じゃなくて、中身とか身嗜みのお話よ。
 ボーイッシュな美樹さんは何処に行ったのかなってくらい女の子らしいじゃない?」
「はいいっ!? そ、そうっすか…。」

元気な笑顔はそのままで急に赤面してしまうさやか。
今更隠すつもりも無いというか、先輩のマミには全てが筒抜けになりそうだ。

「こうして可愛いお弁当が作りたいなんて言うんだもの。
 髪のお手入れは行き届いてるし、少し伸ばしたのは好きな子でも出来たから?
 それにこっそりリップを付けてるなんて素敵よ♪」
「うぐっ…。たはは…流石マミさん…。」

マミはお姉さんらしく広い視野で物を見るのか、さやかの些細な変化を見逃さない。
以前は少し制服の襟を隠すくらいだった青い髪は、今は肩へ届くまでに伸びている。
基本的なスタイルはそのままにやや大人びた感じと言えるだろう。

そうしている内に、既に着替え終えた杏子が髪ボサボサのまま再び現れた。

「おっ、一緒に飯作ってんのか。なんかマミが二人いるみたいだな。へへへ美味そうじゃん…」
(ペシッ!)
「でっ!?何すんだよマミ!」

テーブルに幾つか並ぶ試作したおかずを摘み食いしようとする杏子。
しかし同居人に行動を読まれていたのかあっさりと手をはたかれてしまった。

「これは美樹さんが鹿目さんにあげる分なのよ。摘み食いは許しません!」
「うっ…そりゃ悪かった。」
「ええっ!?なんでマミさんあたしがまどかにあげるって知ってるんですかー!?」

さやかはお弁当を可愛く作りたいとは言ったが、まどかに食べさせるとは一言も言っていない。
但しここ数ヶ月の二人の仲の良さを考えればだいたい予想できそうなものだが。

「そうかそうか。さやかは遂にまどかに愛妻弁当を頼まれた…と。」
「うわあああ!愛妻弁当とか言うなぁ~!///」

流石に"愛妻弁当"の響きは恥ずかしかったのか、さやかは真っ赤な顔で手をバタバタさせていた。

―料理を食べさせてあげたい相手でも出来たんじゃないの?―

昼休みにほむらに言われた言葉がまだ記憶に新しい。
さやかがより女の子として成長してゆくのは"彼女"の存在があった事に間違い無いだろう。

………♭♭♭………

マミのお弁当教室を無事終えてさやかも帰りの支度をする。
さやかはこれから明日作る分の材料を買い揃えなければならないのだ。

「まどかとは上手くやってけそうか?」
「うん。高校も同じトコ行けそうだし。」
「そりゃ良かった。一人ぼっちは淋しいもんな。」

今でこそ杏子はマミと同居しているが、二人はそれぞれ家族を失った過去を持つ。
独りぼっちの淋しさは良く知っているからこそ、普段家族が留守がちのさやかを心配していた。

「それじゃ美樹さん、頑張ってね。」
「はい!今日はありがとうございました!」

さやかを見送ると時刻は既に夕方六時前。
空はすっかりオレンジに染まり夕飯時が近付いていた。

「なあマミ、アイツの弁当見てたらアタシも腹減ったぞー。」
「はいはい。それじゃ私達も夕飯の準備をしましょう。今日は何が食べたいの?」
「んーそうだなー……」

マミが時に口煩く叱るのは杏子を家族同然に思っているからだ。
魔法少女と言えどごく普通の女の子である。こちらでも今夜の一家団欒が始まりそうだ。

………………………………………………♭♭♭………………………………………………

―次の日/昼休み―

「さやかちゃん早く早くー!」
「ちょっと待ってよまどか、急ぎ過ぎだって。さっきチャイム鳴ったばっかじゃん。」

昼休みが始まると同時にお弁当箱片手にまどかが一番に屋上に現れる。
勿論さやかから受け取った品だが、昼休みに入るまでは空けないで欲しいと念を押されたのだ。
それはさやかにとって間違っても教室で開けられてはならない代物だからだ。

「仁美ちゃんもほむらちゃんも早く速く!」
「まどかさんは早くお弁当が開けたくてたまらないのでしょうね。」
「そんなに急がなくてもさやかのお弁当は逃げないわよ?」

手をぶんぶん振って急かすまどかの下へ三人も歩み寄る。
早速お弁当箱を開けたまどかは驚きの声を上げるのだった。

「わぁっ!! こ、これって…もしかしてわたしの顔…!?」

二つに分かれるタイプのお弁当箱から現れたのは、ご飯の上に広がる"まどかの顔"だった。
顔の肌の部分はチーズ、その上半分にハムを重ねて作られたピンクの髪の毛が広がる。
左右に広がるツインテールの根元には、トマトを切って作ったリボンまでちゃんと備えられている。
顔の上にはノリと薄く切ったカマボコで目、眉、鼻、口が細かく再現されている徹底ぶりだ。

「まあ!可愛らしいまどかさんのキャラ弁当ですわね!」
「凄い…こんなの初めて見たわ!写真写真!」
「へへへ!さやかちゃんちょっと張り切っちゃいましたよ~。」
「ど、どどどどどうしよう~!? 何処から食べればいいか理解らないよぉ~。」

予想以上の反響にさやかは思わずはにかみ頭を掻きながら照れ隠し。
一方のまどかは余りの出来にお弁当をどうしていいのか困惑気味だった。

「あら?こちらのおかずの方もお花みたいで可愛いですわ~。」
「緑のレタスとブロッコリーが葉っぱで、ウインナーとプチトマトが花って所かしら?」

もう片方の箱には肉類や野菜等のおかずが納められている。
まどかをイメージして赤やピンクの花をモチーフにするのはマミのアイデアだ。
ウインナーは今回タコさんではなく花弁の形に切れ込みを入れ、開ききらない程度に茹でた物。
残りのスペースにはから揚げとブロッコリー、それからハート型に切り抜いたニンジンを乗せたハンバーグ。
キャラ弁の部分を含めてまさに愛妻弁当と呼ぶに相応しい造りである。

「えへへ…いただきます♪こんな凄いお弁当作ってくれるなんてびっくりだよ~♪」
「喜んで貰えたみたいで良かったよ。んじゃあたし等も食べるか。」

さやかの愛妻弁当を写メとデジカメに納めてから今日のランチタイムが始まった。
おかずの交換を繰り返しながら、この日は勿論キャラ弁の話題で持ち切りになる。

「今度はさやかさんご自身のお顔で作られては如何でしょうか?」
「はあっ!? いや…あたしの顔なんて誰得だよ…。」
「そうかしら? 少なくともまどかは喜ぶんじゃない?」

チラリとまどかの方を向けば目をキラキラと輝かせてこっちを見ている。
さやかにとって自分の顔のお弁当を作るなど、想像しただけで恥ずかしくてたまらないだろう。

「さやかちゃんのキャラ弁当楽しみだなぁ~♪」
「いやいやいや!そもそも青なんて色的に無理だし…!」
「青でしたら食紅かもしくは紫キャベツから色を作れますわよ。
 それに緑色辺りでもヘアピンを付ければさやかさんだと理解りますわ。」
「貴女の顔を描くのなら、気合入れて作らないとまどかの採点は厳しそうね。」
「何だよー!もう決定ムードじゃーん! トホホ…頑張ってみるか…。」

まさか自分の顔で愛する人にお弁当を作る事になるとは夢にも思わなかった。
しかも"まどかが大好きなさやか"なのだから、可愛く作らないとまどかから不満の声が飛ぶのは間違い無いだろう。
さやかは半ば無理矢理承諾しつつ反撃でお弁当にまどかLOVE」と書いてやろうと考えるのだった。

………………………………………………♭♭♭………………………………………………

―その夜/鹿目家―

「おっ? まどかは最近野菜の好き嫌いが無くなったな。」
「もうママってば。わたし来年から高校生になるんだよ?」
「わりいわりい。いつまでもお子様って訳にも行かないもんな。」

まどかはピーマンを筆頭にニンジンやタマネギと言った野菜がかなり苦手な方だった。
しかし今は父の作る料理にそれが含まれていても寄って食べたりはしなくなった。

「あっ、そうだパパ。わたし明日からもお弁当いいからね。」
「ええっ!? …もしかしてパパのお弁当美味しくなかったかい…?」
「違うよぉ! ただ、そのぉ…。」

父の弁当を断る理由が言い辛そうに目を伏せるまどか。
すると詢子が悟ったのかフォローに回る。

「はっはっは、まどかはさやかちゃんの愛妻弁当の方が嬉しいんだよな?」
「(ガーン!)」
「まぁ…腕前や材料の差が、料理の決定的味の差じゃないって事だろ。
 愛妻弁当ってのはな、作った人の愛が込められてるから上手いんだ。
 知久が初めて作ってくれた弁当の味は今でも覚えてるよ。」
「詢子…。」

………………………………………………♭♭♭………………………………………………

次の休みの前日、さやかは鹿目家で夕飯からお泊りまで過ごす事になった。
だが父の知久が急用で戻りが遅くなるとの事で、まどかとさやかはタツヤの面倒を見つつ鹿目家両親の帰宅を待つ。
そのついでに夕飯も知久に代わりさやかが作る事になったのだ。

夜七時前には両親も揃って鹿目家+1で夕食が始まる。
テーブルにはさやかの作ったクリームシチューとサラダにパンが添えられていた。

「いやー…知久さんに比べるとフツーで申し訳ないんですけど…。」
「いやいやなかなか上手いじゃないか。さやかちゃんもすっかり主婦だねぇ~!」

少しお酒が入った事もあって母の詢子は上機嫌だ。
みんなが普通に召し上がってくれるのを見てさやかは胸を撫で下ろしていた。

「さやかちゃんはシチューの野菜を大きめに切るんだね?」
「あっ…それはまどかに苦手な野菜食べさせようと思いまして…。
 まどかってピーマンとか嫌いなの多いんですけど、好きな料理でなら食べられるって言うんです。」
「あわわ…パパの前で言わないでよぉ~!」
「いいじゃんかー。野菜もしっかり食べないと大きくなれないぞ~?」プニー
「へうう~…。」

まどかの頬をびろーんと引っ張りながら笑顔のさやか。二人の様子を見て両親は悟る。
愛妻弁当もそうだが、さやかはまどかの事を親よりもよく知った上で料理を作っていたのだ。

「なあ知久。こりゃさやかちゃんの方が一枚上手だったな。」
「僕もそう思うよ。さやかちゃんはまどかの事をよく考えてくれてるんだね。」
「ん?何の話ですか?」
「いや何…家族が増えて嬉しいねぇって話だよ。」
「ぶっ! そ、それはちょっと早いですよ~!」
「そ、そうだよぉ!わたし達まだ中学生だよ!」アタフタ

吹き出しそうになったのを押さえ、さやかはプロポーズでもされたみたいに赤くなってしまう。
さやかがまどかを大切に思うのは唯の親友という理由だけではないのだ。

「さやか姉ちゃんはうちの嫁になるのだー。」
「くおらたっくん! あたしがまどかを嫁にするんだから、嫁はまどかの方なの。おーけー?」
「あーい!」
「えへへ…別にさやかちゃんがお嫁さんでもいいんだよー?」

もしさやかが将来鹿目家の一員になったら…母と共に疲れて帰宅すると、妻と父がご飯を準備して出迎えてくれる。
まどかは密かにそんな光景を妄想していた。

「さやかちゃんにはそのうち色々料理を教えてあげなきゃね。」
「誰よりもまどかを大切にしてくれそうで頼もしい娘になりそうだな。」

知久がさやかに料理を教える事でさやかのお弁当のレパートリーも増えるだろう。
それは同時にまどかの昼休みの楽しみがもっと増える事にもなるのだ。

………………………………………………♭♭♭………………………………………………

―昼休み/屋上―

「さやかちゃん早く早くー!」
「やれやれ…まどかってば今日もはしゃいじゃって。」
「例え毎日でもまどかはきっと貴女のお弁当が嬉しいのよ。」
「さあ参りましょう。あまりまどかさんをお待たせしてはいけませんわ。」

今日もさやか達はまどかを先頭に、お弁当を広げに屋上へと向かう。
するとお弁当箱の包みとは別に見慣れないタッパーが置かれていたのだ。

「あれ?さやかちゃん、今日は入れ物が一つ多いね?」
「これはデザートだよ。中身はお弁当食べ終わってからね。あっ、勿論仁美とほむらの分もあるから。」

[ランチタイム]

おしまい。

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最終更新:2012年10月01日 08:26
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