645 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/10/02(火) 03:34:03.54 ID:y3zAfc5W0 [2/9]
続いて、夜中にこそっと
「吉日」
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3476447.txt.html
郵便局で湧いてきた妄想
時間の概念はないんじゃねみたいなツッコミは勘弁してくれるとうれしい
「さて、よーしこれで…んん?あの封筒は……」
1時間ほど前から赤ワインに付け込んでおいた牛肉を、炒めた玉ねぎの中へと投入し、色づくまで火を通す。
フライパンから鍋へと移動させ、既に美味しそうな匂いを立てる具材を容赦なく水に浸し、ローリエの葉っぱを散らすと弱火に調節。
さて、あとは灰汁とりながら煮込めば夕飯の下ごしらえは完了だ、ちょっと洗濯物をやっちゃおう。
そういってリビングに向かい、何の気なしに水晶玉を覗き込んだ私は、見慣れた人が持つ見慣れない封筒に視線を奪われた。
歩みに合わせて揺れるブロンドの縦ロールに、それ以上の存在感を持って揺れる二つの双丘。
全体的に黄色なイメージを持つマミ先輩の片手には、やっぱり黄色い大きな封筒。
郵便局に向かう彼女の姿が妙に気になったのは、彼女の表情がどことなく緊張を見せていたからだ。
親指と人差し指をくっつけて水晶玉に触れ、指を開くことで画面を拡大、封筒の表面の字を確認した私は、下界に合わせたカレンダーを振り返り、二つの情報から一つの結論を導き出した。
「そっかぁ、もうそんな季節なんだね……。しっかり大安になんてマミさんらしいな」
「何がマミさんらしいの?」
結論を独り言に乗せた私に話しかけてきたのは、我が嫁兼我らが女神さまだった。
先月はダブルタッチ機能を説明するのに1時間、それでいて水晶玉に機能を付加するまでは30秒、そんな少しだけ間の抜けた可愛らしい中身とまど界を率いる魔力とを兼ね備えた自慢の嫁だ。
部屋の片づけをしていたのか、上下ジャージ姿(それも中学の)でリビングに現れたまどかを見て、天使だと思っても女神と見抜く人はいないだろうなぁと思っていると、小首を傾げますます天使度をあげながらまどかは水晶玉を覗き込んだ。
「多分、センターの願書だよ。12日消印までって書いてあるから、期間中の大安が今日しかなかったんじゃない?」
やって損のないことはきっちりとやっている先輩の行動意図を推定した私は、生前鹿目家にあったのと同じデザインのカレンダーを指さした。
縁起なんかに頼らなくても、マミさんが受験に大失敗するとは思えないけどね。
「そっか……。マミさんももう受験なんだね……」
どこかのお化け達と同様、まど界にゃ学校も試験もなんにもない。
いやまぁ、カルチャースクール的にお勉強してる人たちはいるんだけど。
過去の魔法少女から生の歴史が学べるまど界では、いつも世界史や日本史が大人気だ。
かくいう私は、運動目的にと、毎週末ある女武将に剣を習っていたりする。
「で、来年はほむらだね。杏子には……関係ないか」
中2の時点でまど界入りした私たちは、高校受験すらしていないので、これからマミさんやほむらを待つ受験地獄の辛さは分からない。
魔獣退治と並行して受験勉強するのは大変だろうな、とは想像するけど、私たちとしては無事戦い続ける彼女たちを見守り応援するだけだ。
おっと、あのまどかの顔は黄信号だぞ?と私の中の第まど感が危険を告げる。
あのまどかの表情は、下界では早逝することになった私の事を悲しんでいる顔だ。
次はほむらという話で、そこでさやかちゃんも一緒に受験するはずだったんだよね……とかきっと思ってる。
早逝どころかいなかったことにすらなってしまった自分の事を棚に上げ、他人の事を心から悲しめるまどかのことは大好きだけど、私の事でまどかに悲しい顔をさせるのは非常に不本意だ。
そこで私は、さりげなく話をずらすことにした。
「そだ、今日は大安ってせっかく思い出したんだし、あの懸賞出しちゃおっかな?って、みんな縁起がいい日なんだから効果ないのかなぁ」
笑みを浮かべながら茶化した話にもっていこうとする私に、まどかはちゃんと乗ってくれた。
そうそう、そうやってまどかは笑ってる方が……!ヤバい、あれは今からなんかカッコいいこと言う顔だ!
私のまどかセンサーは、どんな些細な事でも見逃さない。
あの表情のまどかは、高確率で私をキュンとさせることを言って照れさせるのだ。
自覚して言ってるかどうかは時と場合によるけど……、これだから天然たらしは!
「それなら、今日じゃなくて3日後に出した方がいいと思うよ」
「3日後って……木曜?なんでまた」
「だって、ここで一番縁起のいい日は、友引だもん。さやかちゃんにとっては悲しい日だったろうから申し訳ないんだけど、まど界にさやかちゃんを導けた日、私はやっぱり嬉しかったんだよ。大好きな親友と再会できたあの日は友引で……神様やってる私が大好きな日なんだから、まど界ではやっぱり友引が一番縁起がいいんだよ」
日頃あまり触れないから珍しい話、だけどきっとこれは、まどかの本心だって顔が言ってる。
あの日を思い出す。
玉砕覚悟で魔獣に突っ込んだ時の、戦闘時特有の昂揚感。
撃破と引き換えに手にした、魔力の底が抜けていくような喪失感。
近くで戦闘していた杏子の、怒鳴る様な悲鳴。
消える瞬間にみた、駆けつけるマミさんとほむらの焦った顔。
仲間と、家族と、そして仁美や恭介とのお別れが自覚できるようになった時、空から女神が現れた。
なんでこの場面で出てくるお迎えが見滝原中の制服着てるのさ、と非現実的な光景にツッコミを入れようとした時、押し寄せてきたのは記憶の奔流。
そして、こんな大事な親友を、すっかりいないもののように忘れていた、強い後悔。
記憶がつながり、かすれた声でその名を呼ぶと、女神は嬉しそうに笑ってくれた。
本当に嬉しそうな顔で、涙を流しながら。
今度こそ、その笑顔を守っていきたい、その笑顔の傍に居続けたい、そう思ってから下界時間で早4年。
もう私たちは、友達から親友、親友から友達夫婦とステップアップしてる。
まどかの笑顔を100パターン以上見分けられるくらい幸せにしてもらってるのに、まどかにこんな顔をさせちゃいけない。
私が(下界的には)死んだ日を喜んでる自分を少し責めてる、そんな顔。
でも、私の気落ちの整理はついてて、その日を私も心から大事にしてる、それもきっと、まどかは分かってる。
だから、ここはひとつ、旦那として愛する嫁をキュンとさせて、いちゃいちゃ可愛がりながらのお茶になだれ込もう。
「そっかそっか。それじゃ……、私たちの挙式も、友引にしようね?」
もうとっくに事実婚状態ではあるけど、どうせ時間も有り余ってることだし、挙式はまどかの仕事が落ち着いてから、というのが私たちの計画。
なんでも、改変後5年前後は世界がひずみがちで、まどかのお仕事も多いんだとか。
まどかはこれを本当に楽しみにしてて(私もだけど)、まどかを高確率で照れさせることができる、鉄板の話題だ。
まどかが密かに二人分のウェディングドレスを自作してるのは、知らないふり。
嫁の努力は尊重するのが旦那の責務、それに、私もびっくりしたいしね。
あー、デザイン楽しみ。
さて、それじゃ真っ赤に顔を染めた小動物みたいな嫁を……
「うん、もう一応仮抑えしてあるんだ。来月末の、もちろん友引だよ」
「さやかちゃんのサポートのおかげで、忙しいのも早めにひと段落したし」
「えへへ。さやかちゃんが幸せにしてくれて、さやかちゃんを幸せにできたら、それはとっても嬉しいなって」
「結婚しよ?二人で、幸せになろうよ!」
やっぱり女神さまは、従者たる私なんかより、1枚上手だった。
不意打ちプロポーズにキュンと来た私が、火をかけた鍋の事を思い出すのは、それから4時間後のまどかの腕の中。
最終更新:2012年10月23日 01:54