40-866

866 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/10/04(木) 23:31:01.30 ID:ITxVw+sv0
久々のSSをろだに上げました(劇場版に間に合った…7000字超とか長すぎだろ…)


二人が出会ってから初めての遠足のお話。ほかにも「二人で初めて」を色々と。
「まどさや+おし○こ+野外=いい話」という無理目なお題に挑戦したら、
さわやかな児童文学作品が出来上がったので自分でもびっくりw

朝露に反射した陽光がきらめく木漏れ日の下、爽やかな初夏の風薫る森の道を、私は歩いています。生命の素晴らしさを唄うような若鳥のさえずり。萌え出づる新芽のにおい。自然と心が浮き立つような、そんな情景。でも、今の私にそれを楽しむ余裕はありませんでした。
「気持ちいい天気だね。ねぇ、鹿目さん?」
ずっと黙っている私を見かねて、同じクラスの一人の子が私に声を掛けてくれました。
「ん…そ、そうだね」
なるべく平静を装って、私は答えました。その子は少し怪訝な表情をしましたが、すぐに別の友達と話し始めました。どうやら気づかれなかったみたいです。

自己紹介が遅れました。私、鹿目まどかっていいます。見滝原小学校の5年生。4月に転校してきたばかりの私にとって、今日はこの学校で初めての遠足なのです。運動が苦手な私だけど、普段とは違う皆の素顔が見れる遠足は大好きで、今日も楽しみにしていました。それが、なぜこんなことになってしまったのかというと…


それは2時間ほど前のこと。
「パパ、私のお弁当は…」
朝食のテーブルから立ち上がりながら、私はちょっと不安な気持ちで尋ねました。
「テーブルの上に置いてあるよ、まどか」
私の態度に気づいてか、パパは優しい口調で答えました。ほっとする私。私の家はママが会社で働いて、パパが家事をしているので、こういう時はパパがお弁当を作ってくれるんです。普通に考えれば、パパが遠足のお弁当を作り忘れるなんてあるわけないのですが、最近はパパもママも、生まれたばかりの弟のタツヤの世話で忙しくしていて、おっちょこちょいなせいで二人をうまく手伝えない私は、何となく距離を感じていたのでした。
「それと、水筒は持ったかい? 予報だと今日は午後から暑くなるみたいだから、熱中症に気をつけてね」
「うん、わかった。ありがとう、パパ」
「それ本当かい? 脱水症状でも起こしたら大変だ。ほら、紅茶もう一杯飲んできな」
読んでいた新聞から目を上げて、ママも話に割り込んできました。
「もぅ~ママ、そんなに飲めないよ」
半分はママの気迫に押されて、もう半分は、私のことを気遣ってくれるのが嬉しくて。大丈夫かなぁと思いつつ、2杯目の紅茶に手を伸ばしてしまったのが運の尽き。
「いっけない、もうこんな時間! 集合時間に遅れちゃう」
紅茶をふぅふぅしながら飲んでいたせいで、予定の時間をすっかりオーバーしてしまった私は、慌てて家を飛び出しました。季節は新緑の頃。夕べまで降っていた雨のせいで、日差しは強くても朝方はまだ肌寒いくらいです。いつもの通学路を小走りに急いで、どうにか時間内に登校口に着いた私は、下駄箱の前で靴を脱ぎかけたところで、今日の集合場所が学校の隣にある児童公園だったことを思い出し…大慌てで靴を履き直し、駆け出しました。

公園は大勢の子供でごった返していました。どうやら私たち5年生以外もこの公園を集合場所にしているらしく、上級生や下級生らしい姿が見えます。
「えーと、えーと」
ほかの学年の人の流れに巻き込まれたら大変です。半べそをかきながら、5年生の集合場所を探す私。
「鹿目さん、こっちこっち!」
その時、私を呼ぶ大きな声が聞こえました。振り向くと、そこには私に向かって大きく手を振る班長さんと、同じ班の子たちが集まっていました。どうやら5年生は、私の班を残してもう出発してしまったようです。息を切らして皆に合流した私は、何度も頭を下げて謝りました。男の子の中には不満そうな顔の子もいましたが、班長さんはさりげなくそんな雰囲気を制して、そんなに謝らなくてもいいよ~、間に合ってよかった、と優しく言うと、出発できることを先生に告げに行きました。こうして何とか置いてけぼりを食わずにすんだ私ですが、実はもうこの時、少しイヤな予感はしていたんです。そして、案の定…

察しのいい人なら、私が悩んでいる理由はもうおわかりでしょう。そう、おトイレに行きたくなってしまったのです! 今日の遠足は学校の近くにある小さな山へのハイキング。
「山道の途中にはトイレがないから、集合場所の公園で済ませておくように」
説明会で、先生は確かにそう言いました。でも、遅れてきた私はそのタイミングを逃してしまい…このような事態になってしまったのでした…


「鹿目さん、元気ないね」

聞き覚えのある声がして、私ははっと我に返りました。声の主をたどると、水色の短い髪を黄色い髪留めで止めた女の子の顔がすぐ近くにありました。この子は美樹さやかちゃん。転校してまだ日が浅く、友達の居なかった私に手を差し伸べてくれた人。遠足の班分けでも、どこの班にも入れない私を見かねて自分の班に入れてくれた班長さん。そう、今朝、遅れてきた私に怒るどころか、心配ないよと慰めてくれた、あの優しい班長さんなのでした。
「う、ううん。そんなこと、ないよ…」
さやかちゃんに声を掛けてもらって嬉しいはずなのに、余計な心配を掛けたくなくて、私はわざと素っ気なく答えました。
「朝のこと、まだ気にしてるのかな? 平気平気、ちょっと遅れただけじゃん! あたしなんか毎朝遅刻ギリギリでさ~、鹿目さんの方がよっぽどしっかりしてるよ」
私を元気づけるように、明るい声で話すさやかちゃん。まるで初夏の陽光のようです。
「う、ううん、そうじゃなくて…」
本当のことを言えるはずもなく、私は言葉を濁しました。
「…ひょっとして、トイレ…とか?」
私の耳元で囁くように、さやかちゃんが尋ねました。次の瞬間、私はその場に立ちすくんでしまいました。下のまぶたに涙がどんどん溜まっていきます。突然泣き出しそうになった私を見て、驚いて隣に立ち止まるさやかちゃん。「あ~あ、美樹のヤツまた泣かしてるよ」「目つけられちゃって、あの転校生も可哀想に」これは幻聴でしょうか、遠くにいる男の子たちがそう言っているように、私には聞こえました。班長として皆をまとめなければいけないさやかちゃんを助けるどころか、また迷惑を掛けちゃう。そんな自分が悔しくて、情けなくて…。我慢しようとしても、後から後から涙がにじんできます。
「あぅぅ、ご、ごめん。泣かないで…」
さやかちゃんは一瞬慌てた様子でしたが、すぐに私を安心させるように落ち着いた口調で続けました。
「大丈夫、あたしに任せて」
そして、私たちのすぐ後ろを歩いていた先生の元に駆け寄ると、その耳元で一言二言告げました。お花がどうとか、聞こえたような…。
さやかちゃんはそれから、立ち止まったままの私を追い越すと、「おぉ~い!」と大きな声で呼びながら、先の方を歩く班の皆のところに走っていきました。片方の足を引きずり気味なのが気になります。皆に追いついたさやかちゃんは、その引きずっていた足のかかとをさすりながら、私の方を指さして何か説明しています。何人かの子が私の方を見ました。私は一瞬身を縮めましたが、どうも私の事情に気づいたわけではなさそうです。
班の皆は何事か納得したように頷くと、また先の方へ歩きはじめ、さやかちゃん一人が悠然と私の方へ戻ってきました。森の中を抜ける道はすぐ先の方でカーブしており、班の皆の姿はやがて見えなくなりました。続いて、遠足の列の最後尾を歩いていたさっきの先生がカーブのところで振り返り、さやかちゃんに軽く手を振ると、同じくカーブの向こうに消えていきました。道にはたった二人、私とさやかちゃんだけが残されました。

さやかちゃんと二人きりになった私は、なぜだか急に恥ずかしくなりました。何か言わないと、と思った私は、さっき感じた疑問をおずおずと口にしました。
「あの、さや…美樹さん、足、どうかしたの…?」
「ん~、この下なら大丈夫かな?」
私の声が小さかったのか、さやかちゃんは私の質問には答えず、道のわきの斜面に生い茂るやぶを見ながらそうつぶやくと、私に向き直って言いました。
「さ、鹿目さん、この下でしてきなよ。あたしはここで誰か来ないか見張っててあげるから」
「えっ、あの…。う、うん、そうだね、ありがとう!」
さやかちゃんの言葉で自分の状況を思い出した私は、さやかちゃんの指さすやぶの方へ足を踏み入れました。やぶの斜面は緩い下り坂になっていて、私は何度も足を滑らせそうになります。
「慌てなくても大丈夫だよ~」
後ろから聞こえたさやかちゃんの声で、少し落ち着きを取り戻した私の元に、今度はさっきまで忘れかけていた尿意が急速に押し寄せてきました。
(大変大変、漏れちゃう漏れちゃう!)
私はさらにやぶをかき分け、少し開けた手頃な場所を見つけると、大急ぎでズボンと下着を下ろしてしゃがみ込みました。
「ふぅ~、間に合った…」
お腹の緊張をゆるめ、安堵する私。でも、そんな気分も束の間、私の心に不安な気持ちが霧のように立ちこめてきました。
(もしクラスの皆にバレたらどうしよう…絶対冷やかされちゃう。さっきの様子ではバレてないみたいだったけど、さやかちゃん何て説明したのかな? うぅ、そんなことより、またさやかちゃんに迷惑かけちゃったよぉ…。同じ班に誘ってくれて、今朝も遅れた私を待っててくれて。私だってさやかちゃんの役に立ちたいのに、対等な『友達』になりたいのに…。はぁ、私にみたいにどんくさい子がさやかちゃんの友達になるなんて、やっぱり無理だよね…)

 カサカサ
(…やだ、何の音?)
暗い気分に沈んでいた私の耳に、突然やぶをかき分けるような音が聞こえて、私は身をすくめました。
 カサカサ
(ヘビ? クマ? まさか…変な人じゃ!?)
初めは遠くに聞こえたその音は、確実にこちらに近づいてきます。
 ガサガサガサ
(いやっ、助けて、さやかちゃん!)
私は思わず心の中で叫んでいました。
 ガサッ!
やぶから飛び出した人影が、恐怖で逃げることもできない私に話しかけてきました。
「うぅ~、鹿目さん、ちょっと隣、お邪魔!」
「…え?」
小刻みに足踏みをしながら近づいてきたその人影=さやかちゃんは、ズボンと下着をまとめて下ろして私の隣にしゃがみ込むと…その…私と同じことを、始めてしまったのでした。


「いやぁ~、実はあたしもさっきから漏れそうでさ~。でも一応あたし班長じゃん? だから自分から言い出しにくくって。鹿目さんが居てくれて助かったよ~」
にしし、と照れ笑いを浮かべながらさやかちゃんは言いました。
「あ、あの…」
「あ、もちろんクラスの皆には内緒だぞぉ。あたしってこんなだからさ、男子に知られたらまた『ションベン女~』とか言われちゃう。ホント、あいつらデリカシーがないんだから。オトメゴコロがどれだけ傷つくか、ちっとは考えろっつーの! まったく、もし今度何か言われたら、けっ飛ばしてやるんだから…」
一方的にまくし立てるさやかちゃんの言葉を聞きながら、不覚にも「どこをけっ飛ばすんだろう?」と考えてしまった私の脳裏に、なぜか、出かけ間際に見たオシメを替えてもらうタツヤの姿が浮かび…私は思わず頭を振って、そのイメージを振り払いました。
「あの、さ…美樹さん、その…」
「ん~、何か堅苦しいなあ、その呼び方。『さやか』でいいよ。だから、あたしも鹿目さんのこと『まどか』って呼んでいい?」
「ふぇ!?」
さやかちゃんの言葉に、私は完全に固まってしまいました。トイレのことを見抜いた件といい、この人は私の心が読めるのでしょうか。だって私は、さやかちゃんのことを、ずっと…。呆然としている私の態度を否定と受け取ったのか、さやかちゃんはばつの悪そうな表情で続けました。
「あちゃ~ごめん、あたしっていつもこうなんだ。急にこんなこと言われてビックリしたよね? ごめんね、このことは忘れて…」
「ううん、全然そんなこと、ないよ!」
自分でも驚くほど大きい声で、私はさやかちゃんの言葉を遮りました。
「あのね、私、仲のいい友達は『○○ちゃん』って名前で呼んでるの。前の学校では何人か居たんだけど、転校してきてからそういう友達が居なくて…。あの日、さやかちゃんに助けてもらってから、私ずっと、友達になりたくて、でも私みたいにどんくさい子が近くにいたら、さやかちゃんに迷惑かなって心配で、今日もすっごく迷惑かけちゃって、でも、さやかちゃんの方からそんな風に言ってくれて、私すごく嬉しくて、私なんかでよかったら、あの、友達になってくれたら、と、とっても嬉しいなって、えと、あの、それと…」
何を言いたいのか自分でもよく分からないのですが、思っていることを夢中でまくし立てた私は、すっかり息が上がってしまいました。そんな私の『告白』を呆気にとられて聞いていたさやかちゃんですが、突然「ふふふっ」と笑いました。
「へ?」
まだ息を切らしながら、目をぱちくりさせている私に、さやかちゃんはにっこり微笑んで言いました。
「鹿目さんって、そんなにいっぱい話せるんだ」


用の済んだ私たちは、元の山道に戻るために斜面のやぶの中を上っていました。前日の雨のせいで滑りやすくなっていましたが、さやかちゃんが後ろからお尻を押してくれたので、なんとか元の道に戻ることができました。道には誰もいません。さやかちゃんの話では、最後尾を歩く先生が気を利かせて、少し先で私たちを待っているということでした。
「その…本当にありがとう、さやか…ちゃん」
私は改めてペコリとお辞儀をしました。
「どういたしまして。じゃあ、先生を待たせても悪いし、早く行こっか。アリバイ工作もバッチリだし」
「…アリバイ?」
「へへへ…ジャンジャジャ~ン!」
さやかちゃんはおどけた調子で、首を傾げる私にそう言うと、片方の靴を脱いで靴下をペロンとかかとまで下ろしてみせました。そのかかとには、可愛らしいピンク色の絆創膏が貼られていました。
「さっき、班の皆に『靴ズレができちゃったから保健係の鹿目さんに診てもらう』って言っといたの。こうすれば、二人で抜け出しても怪しまれないでしょ?」
「…すごい! でも、いつの間に…?」
感心する私に、さやかちゃんは自慢げに胸を張りました。
「すごいでしょ~、道の下に降りてく前にささっと貼っちゃったんだ~! ま、さやかちゃんにかかればこのくらいの芸当は朝飯前ですよ。だから、これからも困ったことがあったら、何でも相談して!」
さっきと同じように、にしし、と照れ笑いを浮かべるさやかちゃんに、今度は笑顔で「うん」と答えた私は、頭の片隅に残っていた疑問を思い出しました。
「そう言えば、先生にも何か言ってたよね? お花がどうとか…」
「ああ、知らなかった? 野外でトイレに行くことを『花摘みに行く』って言うんだって。誰が言い始めたのか知らないけど、なんかシャレてるよね~」
そうなんだ。さやかちゃんのお陰で、私はまた一つ賢くなりました。

そんなことを話しながら二人並んで道を歩いていくと、ほどなく道端に標識が見えてきました。そこから道は急に険しくなっていて、上りの方を示す標識には「見滝富士山頂 1.5km」と書かれています。その方を見ると、先を行く先生やクラスの皆の姿が見え、その上には新緑に萌える小高い山の頂上が、青い空を背景に浮かんでいました。

「ここから本格的な登りだね。よ~し、行こう、『まどか』」 まるで、それが当たり前だというように差し出された左手に。
「うん、『さやかちゃん』」 私は自分の右手を伸ばしてしっかりと握りしめて。

後に「見滝原小の名物コンビ」と呼ばれることになる二人の少女は、初夏の陽光がきらめく青空へと続く山道を、手を取り合って駆け上っていったのでした。


〔エピローグ〕
「おぉ~、まどかのお弁当、美味しそう!」
「えへへ…パパが作ってくれたんだ~」
あの後間もなく皆と合流した私たちは、無事山頂にたどり着きました。今は、お待ちかねのお昼ご飯の時間です。
「この卵焼きおいしそ~…いただきっ!」
その言葉と同時に、私のお弁当箱の卵焼きの一切れが、さやかちゃんの口の中に消えていきました。
 ポリポリ
「あっ、も~、ひどいよさやかちゃん」
文句を言ってみる私でしたが、美味しそうに食べているさやかちゃんを見るのは悪い気はしません。
 ポリポリ
「いいじゃんいいじゃん、四切れもあるんだし。じゃあお返しに、あ~ん」
さやかちゃんは自分のお弁当からミートボールをつまむと、私の口元に運びました。ちょっと恥ずかしかったけど、私は思いきってそれを頬張りました。
 ポリポリ
「ん、美味しい…えへへ、ありがと、さやかちゃん」
ジューシーなお肉の味が口いっぱいに広がり、私はあっさり機嫌を直してしまうのでした。
 ポリポリ
「ん?」 さやかちゃんが私の仕草に気づきました。
 ポリポリ
「あれ?」 ほとんど同時に、私もさやかちゃんの仕草に気づきます。
 ポリポリ
「まどか、ひょっとして…」 ズボンのお尻のポケットの辺りを掻きながら、さやかちゃんが小声で囁きます。
 ポリポリ
「…もしかして、さやかちゃんも?」 太もものわきを掻きながら、私も声をひそめます。
私たちは目を見合わせ、ふふふっ、と同時に笑った後、お互いにいたずらっぽく目配せを交わしました。さやかちゃんが唇に指を当てて「内緒だよ」をしたので、私も「内緒だよ」を返しました。
「…二人ともどうしたの?」
一緒にお弁当を囲んでいた同じ班の女の子が、不思議そうに尋ねました。その質問に、私たちは無言で答えました。さやかちゃんは「にしし」、私は「えへへ」と微笑みながら。

…そう、私たちが初めて一緒に『花を摘んだ』あの場所は、さやかちゃんと、私と、ヤブ蚊さんだけが知る、秘密の花園…

おしまい

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最終更新:2012年10月13日 09:30
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