482 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 04:08:50.56 ID:4dh0FaBd0 [1/6]
さやか「あれ?」
リビングに入ってくるなり素っ頓狂な声を上げるさやかちゃんそれもそのはず。今さやかちゃんの目の前にあるのはなんでもありのまど界鹿目家のリビングにおいても不釣合いな立派なグランドピアノ。
さやか「どしたの、これ?」
まどか「あ、いや…なんか今日は概念のお仕事の呼び出しも無くて暇だな~って思ってて。それでなんかしたいなと思って」
さやか「で、音楽でもやろうかと思って形から入ったはいいがピアノなんて弾けないことに気付いてどうしようか悩んでいたと」
まどか「うう…はいぃ…」
全部言い当てられちゃった。故郷のお父さんお母さんそれにたっくん、どうやら親友に隠し事は出来ないようです。
まどか「邪魔だよね?今、片付けるから…」
さやか「ねぇ、これ弾いてみて良いかな?」
まどか「え?さやかちゃん、ピアノ弾けるの?」
小さいころからずっと一緒なのにそんな話一度も聞いたこと無いよ?
さやか「あ~あんま言いふらすこととでもないしね~柄じゃないからすぐ辞めちゃったしね」
まどか「小さい頃やってたの?」
さやか「うん。うちの母さんがさ、あんたは女の子らしくないからピアノでもやって少しは女らしくなれ~なんて。失礼しちゃうよ」
まどか「そうなんだ」
さやか「まぁ、その音楽室に通ってたおかげで恭介と出会えたんだけどね…」
そういってさやかちゃんは寂しげに笑う。私はそんな顔をして欲しくピアノを出したわけじゃないのに。だから私は。
まどか「ねぇさやかちゃん。何か弾いて聴かせてよ!」
さやか「え、うん。そうね~」
うんうん唸りながらも自然な感じでピアノの前に座るさやかちゃん。何気ない仕草なのにそれがすごく様になっていて、少しドキドキしてしまいました。
うう…さやかちゃんにドキドキする私じゃなくて、さやかちゃんをドキドキさせる私になりたいのに。道は長そうです…
まどか「あ、暗い曲はダメだよ」
さやか「注文多いなー。わかってますよ、そんな気分じゃないし」
さやかちゃんは鍵盤に指先を滑らせる。
さやか「お、ちゃんと調律もされてる。それにこのピアノ、あたしと相性がいいみたい。まるで嫁とあたしのようだね」
まどか「も、もう!変なこと言わないでよぅ!」
さっきからドキドキしっぱなし。顔が熱いよ。
さやか「う~ん……あ!」
まどか「どうしたの?」
さやか「ちょ~っと待っててね」
そういい残してパタパタとリビングから出て行ってしまう。耳を澄まして足音を聞くと、どうやら自室に向かったみたい。
483 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 04:09:36.07 ID:4dh0FaBd0 [2/6]
さやか「お…っ待たせー!」
まどか「何してきたの?」
さやか「ちょっと楽譜とってきました」
まどか「楽譜?」
手に持ってる紙束がそうだろうか。
さやか「うん。実はさ、まどかがいない時とかたま編曲とかしててさ」
照れくさそうに頬を掻くさやかちゃんに思わずクスリとしてしまう。柄じゃないなんていったって、実は音楽が好きなんだね。
まどか「これはどんな曲なの?」
さやか「え……っと。アヴェ・マリア…」
まどか「…………」
『アヴェ・マリア』
さやかちゃんの好きな曲。コンクールでの上条君の課題曲。さやかちゃんのために弾いた曲…
そい言う意味ではさやかちゃんはまだ、昔の想い人の上条君と繋がってる。さやかちゃんの恋人は私なのに。こんな些細なことで嫉妬してしまう。
嫌な娘だな……私。
さやか「それじゃまどか。はいこれ」
まどか「これは?」
さやか「アヴェ・マリアの和訳歌詞」
まどか「?」
さやか「歌ってよ、まどか!」
まどか「…………………へ?」
う、歌うって私がっ!?ええっ!!?
なんだかさっきまでの私のドキドキとかジェラシーとかが一度に吹き飛ぶほどの急転直下の超展開だよ!?
さやか「じゃ行くよー!はい、3・2・1……」
まどか「あ、ア゛ヴェ゛・マ゛あぁぁ~っっっっっ………」
さやか「~~~~~」←声にならない笑い
まどか「~~~~~」←声にならない呻き
だってだっていきなりでなんて歌えるわけ無いのに、さやかちゃんの馬鹿!もう死にたい…
さやか「あははは!いやーごめんごめん。予想通り見事に外してくれたわ」
まどか「さやかちゃんのイジワル……もう知らないもん!」
さやか「だからごめんって~。そんなにむくれてちゃ可愛い顔が台無しだぞ」
こんな顔にさせたのはどこの誰ですか?
さやか「今度はちゃんと弾いたげるから、ね?」
まどか「なら…許してあげます」
さやか「そうそう、まどかは笑ってる顔が一番だよ!さぁさぁお客様どうぞこちらの特等席へ」
まどか「もう、調子良いんだから」
さやかちゃんに手を引かれながらピアノに近いソファーに座る。
さやかちゃんはピアノの前に。私は今し方まで握っていたさやかちゃんの手の感触を思い出す。こんなことでさっきのモヤモヤが晴れるなんて私もずいぶんと単純みたい。
さやか「んじゃいっちょやりますか」
そういってさやかちゃんはゆっくりと鍵盤の上に手を広げ、少しだけ目を伏せてから鍵盤に指を躍らせる。
さやかちゃんの指の動きに合わせて幾層にも重なった音色が流れ出る。私は自然と目を伏せる
484 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 04:10:22.37 ID:4dh0FaBd0 [3/6]
http://www.youtube.com/watch?v=lH4nOI3WR6k
そういえばさやかちゃんさっき。
まどか「ねぇさやかちゃん」
さやか「ん~?」
まどか「さっき、編曲してたって言ってたけどそれって?」
さやか「ん?ああ、アヴェ・マリアって鍵盤楽器だとオルガンが主なんだよね。別にそのままでもいいんだけどフランツ・リストもピアノ編曲してたし、まぁなんとなくちょっといじってみようかなとね」
まどか「そうなんだ」
って、さやかちゃんは何気なく言うけどそれを私たちくらいの歳の子が「なんとなく」でやるのはかなりすごいことなんじゃ?
まどか「もしかしてさやかちゃんって、実は音楽家としてすごい才能があったんじゃ?」
さやか「あはは、無い無い!こんなのただの趣味手度。あたしは何の取り柄も無いただの小市民ですよ」
そんなこと無いと思うんだけどな。さやかちゃん良いところいっぱいあるしピアノだって頑張ってれば将来は。
将来。私たちに未来はあっても将来はない。
ダメダメこんなこと考えてたらまたさやかちゃんいに怒られちゃうよ。
例え将来が無くてもそれを夢見るのは私たちの自由。夢という名の夢を夢見る魔法少女。永久に永きし恋せよ乙女。
笑顔笑顔。うん、大丈夫。
いろいろ考えてるうちにさやかちゃんの演奏が終わる。
さやか「ふぅ。どうだった?」
まどか「うん、とっても素敵だったよ!」
さやか「張り合いの無い感想だな~」
まどか「もう一曲弾いてくれたらもっと気の利いた感想がいえるよ?」
さやか「そう来るか…。そうだな~」
まどか「さやかちゃんの好きな曲で良いよ?」
さやか「じゃあ、アレにしようかな」
そして再びさやかちゃんの指が鍵盤の上を踊る。
485 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/16(土) 04:11:08.87 ID:4dh0FaBd0 [4/6]
※つべに動画無かった
なんだろうこの曲。空の…違う。海の中にいるような、音色の触れる感触は、青。
初めて聴く曲なのに私はこの曲が大好きになった。
まどか「これは?」
さやか「これはね、エリック・サティの夢見る魚。水の中に住む魚が夢見るような曲」
夢見る魚。音楽と人魚の魔女だったさやかちゃんがこの曲を選んだのがは、運命なんだろうか?
なら、今見ているこの世界の夢がせめて幸せであるように。
気がつけば私は演奏をするさやかちゃんを後ろからギュッと抱きしめる。
さやか「わ!?ま、まどか?」
ビックリしたさやかちゃんの手元が狂い、一瞬だけ音が乱れる。けど私は気にせずさやかちゃんを抱きしめ続ける。
さやか「まどか。何心配してるのか知らないけどさ。あたしはまどかと一緒にいれてすっごい幸せだよ。だからさ、さっきも言ったけど笑ってよ。あんたがそんな顔してたらあたしまで悲しいよ」
まどか「…………うん」
やっぱり親友に隠し事は出来ないみたいです。
私は片手でさやかちゃんを抱きしめながら、もう片方の手であるものを取り出す。「それ」の柄の部分に紐を通し、魔法で出した青と桜の2本のリボンをくくりつけた後、そっとさやかちゃんの首にかける。
さやか「まどか、これは?」
まどか「このピアノの鍵。渡しておくから、弾きたくなったらいつでも弾いて」
さやか「オッケー!ならその時は是非まどかに聴いてもらいたいな」
まどか「うん!」
曲が終わる。でもさやかちゃんの…ううん、私たちの見る夢は終わらない。
その日から鹿目家のリビングは一部改装され、ピアノ用スペースが作られた。そしてさやかちゃんの胸元には私たちの絆の証の鍵。
私だけの小さな音楽家。
どうか彼女の見る夢が幸せでありますように。
最終更新:2011年08月18日 17:42