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19 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/10/16(火) 23:52:12.41 ID:QKM6z2ODP [1/4]
735 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2012/10/14(日) 10:40:03.25 ID:00hcCwYi0
持ってないなー

まどっちかさやかちゃんのどちらかが魔女の口付けを喰らってしまって…という話ください



「さやかちゃん、まどかがどこに行ったか知らないかい!? 部屋で寝ていたはずが、いつの間にかいなくなっていたんだ!」
 放課後、家に帰り着いてベッドで寝ころんでいたあたしは、知久さんからの電話で飛び起きた。まどかは今朝、
通学路のあたしや仁美との待ち合わせ場所に現れたとき見るからにフラフラで危なっかしい歩き方をしていた。
熱はなかったけれど、目は焦点が合っておらず目の前のあたしたちを見ているようで見ていなかった。
風邪ではないだろうけど今日は大事をとった方がいいと判断したあたしは、仁美とともにまどかを家まで送り返し、
知久さんにまどかを託してそれから学校に向かった。
 家に帰って一息入れたらまどかの家にお見舞いに行こうかと思っていた矢先の出来事に、あたしは思わず家を
飛び出した。知久さんからの電話によれば、あたしたちに送られてきたまどかはしきりに外に出かけたがり、
半ば無理やり押し込めるような形で部屋で寝かせていたということだった。それが、いつのまにかいなくなっていたなんて。
「まどか……っ! あんた一体どうしちゃったのよ!? ああもう、手のかかる子なんだから!」
 あたしは一旦まどかの家に行き、知久さんに改めてまどかが家にいないことを確認して、見滝原市街の中心部の
方向へ走り出した。知久さんはタッくんの世話があるから軽々しく出歩けないし、詢子さんは明日まで出張だ。
仁美もお花のお稽古に行ってしまっているので、今まどかを探し出せるのはあたしだけだ。そのことを改めて
胸に刻みつけながら、あたしは力の限り駆けていった。

 高層ビルが競い合うように林立する見滝原市街の中心部に位置する見滝原駅の駅前に、あたしはたどり着いた。
まどかがどこに行ってしまったのか、手掛かりは全くと言っていいほどない。けれど、あたしはまどかは市街地に
来ているような気がしていた。根拠と言うほどの根拠はないけれど、今朝のまどかの様子から、あたしはそうとしか
考えられないと思っていた。
 今朝、あたしや仁美との待ち合わせ場所に現れたまどかは、カバンも持っていなかった。それどころかあたしが
声をかけるまで、あたしたちの方を見もせずにあたしたちの横を通り過ぎようとしていた。今朝のまどかは
待ち合わせに現れたのではなく、たまたまそこを通って目的地に向かう途中だったのだ。そして、今朝のまどかが
向かおうとしていた方向は、見滝原の市街地。一度家に連れ戻されたけれど、頃合いを見てまどかがまた同じ場所を
目指した確率はかなり高いはずだ。
 あたしは駅前であたりを見回した。当然、都合よくまどかの姿が目に入るなんてことは期待していない。けれど、
まどかが家を抜け出した時間帯は中学校はまだ授業中だ。そんな時間に制服姿の女の子がフラフラ歩いていれば、
誰かの目についている可能性は高い。駅前の交番のお巡りさんやコンビニの店員、クレープ屋のおっちゃんに
路上で絵を描いているアーティストと、あたしは手当たり次第にまどかの特徴を話して目撃情報を集めた。そして。
「ああ、たぶんその子だ。普通中学生がこんな時間に街にいないからね、気になって覚えてる。大通りを橋の方に歩いて行ったよ」
「その子なら見たわ。あっちに工業団地の跡地があるでしょう? そこに行ったみたいよ」
「友達かい? こんな人気のないところに女の子が来るもんじゃないよって言ったんだがね、話も聞かずにそっちの工場に入って行っちまったよ」
 道すがら会う人会う人に話を聞きながらまどかの足取りを追っていくと、あたしはとある寂れた工場の前に
たどり着いた。シャッターには錆が浮き、資材ともゴミとも見分けがつかないくず鉄が手つかずで積み上げられている様を
見るに、もう何年も使われていない様子で人の気配も感じられない。夢遊病か何かわからないけれど、まどかは
こんな場所に一体何の用があったのだろう。ともかく中に入ってみよう、とドアの取っ手に手をかけた瞬間、
あたしは戦慄に襲われた。
「なに……この臭い……!?」
 鼻をつく強烈な刺激臭に、即座に頭が痛くなる。どうやら、においはドアの内側から洩れてきているようだ。ということは。
「まどか!」
 ドアを開け放って飛び込むと、さらに濃度を増した刺激臭に鼻が曲がりそうになった。薄暗くがらんとした建物の
奥の床に、何かが横たわっているのが見える。袖で鼻を押さえて走り寄る。よく見慣れた見滝原中の制服と赤い
リボンが目に入った。

20 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/10/16(火) 23:52:53.59 ID:QKM6z2ODP [2/4]
「まどかっ! しっかりしてっ! まどかぁっ!」
 そこに倒れていたのは、まさしくあたしの親友のまどかだった。あたしはまどかを抱き上げて肩を揺さぶった。
幸いなことにまどかの体にはまだ温かみがあって、苦しげな呼吸音も聞こえたが、まぶたは閉じられ、手足は力なく
垂れ下がったままでなにも反応がない。視界の端にバケツと洗剤の容器が見えた。この臭気の元もそれらしい。
まどかは、このガスにやられたんだ。
 急がなきゃ! あたしはまどかを抱き上げ、急ぎ足で出口へと向かった。ところが、さっきまで開け放してあった
はずのドアがいつの間にか閉じられていた。駆け寄ったあたしはドアノブをひねったが、どういうわけかドアには
鍵がかかっていた。ドアの内側だというのに、ノブには鍵を開けるつまみもない。しかもいくら引っ張ってもドアは
びくともしなかった。
 あたしは、振り返って別の出口を探した。この密閉された空間ではガスの逃げ場がなく、まどかが本当に死んでしまう。
暗がりに目を凝らした時、左手の壁に床に接したガラス窓が並んでいるのが見えた。
 あたしは手近にあった鉄パイプを手に取り、ガラス窓を次々に打ち割った。外から新鮮な空気が流れ込んでくる。
窓は小さすぎてあたしやまどかの体は通りそうもないけれど、ともかくガス中毒でやられる心配はなくなった。
あたしは割れたガラスを隅に寄せ、まどかをできるだけ窓の近くの床に横たえた。まどかの頬に手を当てると、
さっきより温かく感じられる。表情もさっきまでよりは苦しくなさそうだ。それを見て、あたしは安堵のため息をついた。
 外から流れ込んでくる空気のおかげで、窓の近くではガスのにおいはだいぶ和らいできていた。しかし、
ガスを発生させている元凶のバケツが残っている以上、この場を早く脱出するに越したことはない。
あたしはまどかのそばを立ち上がり、鉄パイプでドアを壊せないか試してみることにした。
 ところが、あたしがまどかの顔を眺めているうちにあたりの風景は一変していた。壁や床の一部が、まるで
生きているかのように鈍く発光してうごめいている。さっきまで何も映っていなかった高く積み上げられた
ブラウン管の画面に、極彩色の模様や読めない文字が浮かんでいる。笑い声とも虫の鳴き声ともつかない
何者かの声がそこら中から聞こえる。
「な、なに!? なんなの!?」
 今まで感じたこともない得体の知れない恐怖があたしを襲った。なにかがいる。邪悪な何かが確かにあたしたちを
狙っている。そんな思いがあたしの心を支配して、頭の中では最大ボリュームの危険信号が鳴り響いている。けれど、
恐怖にすくんだ足はがくがくと震えるばかりで全く言うことを聞いてくれなかった。
「ひゃあああっ!」
 そして、あたしとまどかはいつの間にか片方だけの翼を備えた不気味な化け物に取り囲まれていた。顔は貼りついた
ように変化のない笑顔で、手足は操り人形のように不自然にカクカクと震わせ、あるものは笑い声を上げながら
あたしたちの周りを飛び回り、あるものはブラウン管の画面を見せつけるようにこちらに向けている。あたしは、
魅入られたようにその画面から目を離せなくなっていた。
 その画面に映し出されているのは、まどかだった。次々と切り替わる画面のどれもにまどかが映し出されていたが、
そのうちのいくつかには、あたしも映っていた。しかし、なにかがおかしい。その画面の中のまどかは、どれも泣いているのだ。
 ある場面では、まどかは友達と遊んでいるあたしの背中をただ見つめて泣いている。ある場面では、まどかは
ベッドの中であたしの写真を握りしめ、泣きながら眠っている。またある場面では、あたしに抱きつかれたまどかが
あたしには見えない角度で苦しげな、切なそうな表情で必死に何かをこらえている。どの場面からも、胸が苦しくて
息が出来なくなるほどの痛みと苦しみが伝わってきた。
 これは、まどかの苦しみ? まどかはどうしてこんなに苦しんでいるの? まどかは、どうしてあたしを……。
 次の瞬間、あたしははっと気が付いて振り向いた。あたしの後ろで横になっていたはずのまどかが、化け物の
うちの何体かに手足をつかまれ、連れ去られようとしている。それを目にした時、あたしの中の恐怖や戸惑いは
一瞬にして消えていた。
「まどかを離せえええええっ!」

21 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/10/16(火) 23:53:36.74 ID:V/MRmuWJ0 [2/2]
だが聞いてるのが仁美ちゃんなら…?

22 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/10/16(火) 23:58:13.69 ID:QKM6z2ODP [3/4]
あたしは鉄パイプを振りかぶって化け物に殴り掛かった。あたしに殴られた化け物の体は意外なほど手ごたえなく
パーツごとにバラバラになって飛び散ったが、あたしはそれを気味が悪いとも思わず、次から次へと化け物を
打ち倒していった。まどかを連れ去ろうとしていた化け物をすべてやっつけると、あたしはくずおれるまどかの
体を抱きかかえた。幸いなことにまどかはどこもケガを負ってはいないようだった。あたしは振り返って、周りを
取り囲んでいる残りの化け物どもを睨みつけた。
「あたしのまどかに手ぇ出しておいて、ただで済むと思ってんじゃないわよ!? あんたたち全員、絶対に許さない!」
あたしは再び鉄パイプを振り回して化け物どもを打ち倒していった。化け物はまるで予想外の事態にどうしていいか
わからないかのようにほとんど抵抗らしい抵抗もせず、残骸があたりに散らばっていった。化け物の手にしていた
ブラウン管も次々に画面が消えていく。その場から逃げ出していく化け物すらいた。あたしは、目の前に転がった
ブラウン管の一つを滅多打ちにした。まどかを苦しめて。まどかの苦しみはこいつのせいだ。そうに違いない。
こいつさえやっつければ。こいつさえ。

気がつけば、目の前には夕暮れの寂れた工業団地の建物が広がっていた。あたしは鉄パイプを手にしたまま
ぼんやりと工場の外に立っていた。振り返ると、さっきまで固く鍵がかかって開かなかったドアがボコボコに
へこんで壊れている。どうやら、あたしがブラウン管だと思って滅多打ちにしていたのはこのドアだったようだ。
「まどか!」
工場の中に駆け戻ると、まどかは最初にあたしが横たえた時の体勢のまま、安らかな寝顔で眠っていた。
洗剤は反応しきってしまったのか、工場内にはガスの臭いもほとんどしていない。工場内には何かがいるような
気配はせず、さっきまでの光景はまるで夢か何かだったような気がしていた。確かにあれだけ強い臭気が
立ち込めていたのだから、ガスの効果で幻覚が見えていたとしても不思議はない。あたしはそう自分を納得させ、
まどかを背負って家路についた。



次の日、あたしはまどかと学校で再会した。昨日まどかはあたしに家まで送り届けられた後、事情を聞いた
知久さんにあたしともども病院に連れて行かれたが、心配するほどの症状ではなく、すぐに意識が戻った。
案の定、まどかは今日一日のことを何も覚えていなかった。なんとなくそんな気がしていたけれど。
昨日のことは、まどかがおかしくなったことまで含めて、何かの悪い夢だったんだろう。そう考えることにして、
あたしたちは普段通りの生活に戻っていった













はずだった。
普段通りでなくなってしまったのは、あたしがまどかの顔を直視できなくなってしまったことだ。後から
思い返して、あの時ブラウン管に映し出されていたのは、お互い女の子同士だというのにあたしのことを好きに
なってしまったまどかの苦しみだったんだ、と気が付いてしまってからのあたしは、赤くなったり青くなったり
まったくもって平常心ではいられなくなってしまった。
確かにまどかのことは好きだけれど、それは友達としてであって、あたしにはそういうケはないはずだ。
だから仮にまどかに恋愛感情を持たれていたとしても、別にあたしが動揺する必要はない。それなのに、
まどかに好かれていると思うだけで、あたしの心臓は狂ったように鼓動を打ち鳴らし、意味もなくそわそわして
落ち着こうにも落ち着けない。そもそも、こんなガサツでお調子者で美人でもなく可愛いなんてお世辞にも言えない
あたしを好きになってくれる人間がこの世に存在するなんて、どうにも信じられなかった。
まどかは、あたしがまどかの気持ちを知ってしまったことには気づいていないようだ。だから、何の気なくそばに
寄ってきたり手をつないだりしてくるのだけれど、その度にあたしは真っ赤になってたじろいでしまう。すると
まどかに怪訝な顔をされるので、慌ててバカなことを言って誤魔化しているけれど、それもそろそろ限界に近い。
まどかはよく今まで自分の気持ちを隠し通してこられたもんだと感心してしまう。なぜなら、あたしは今まで
まどかの気持ちに全く気が付いていなかったのだから。
これからも毎日まどかと顔を合わせるというのに、どうしていいかわからない。まどかは普段通り接してくるのに、
あたしだけが普段通りの顔ができない。あたしはまどかを助けに行っただけなのに、どうしてこんな目にあうの。
あたしの青春の悩みは、まだまだ続いて>>1乙。

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最終更新:2012年10月22日 08:03
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