160 名前:1/5[sage] 投稿日:2012/10/28(日) 22:39:52 ID:bjB9ADLA0 [2/6]
#まどかとさやかと黄色いインコ#
↓MADOKA
まど界のある日の朝。
わたしがパジャマ姿のまま居間に入ってくると、先に起きていたさやかちゃんが床で寝転んでいました。
「お寝坊さんだね、まどか。あまりにも幸せそうな寝顔だったから、先に起きて朝ごはん済ませちゃった。まどかのも用意してあるから、レンジで温めて食べてね。」
「ありがとう、さやかちゃ…ってあれ?鳥?」
さやかちゃんの顔のすぐ先に、全身黄色の小鳥がぴょんぴょん動いています。
「インコみたい。あたしが窓を開けた途端、家に飛び込んできちゃってさ…。」
さやかちゃんが開け放たれたままの窓を指差して言います。
「逃げないの?」
「うーん、人馴れしてるみたいでさ。誰かが飼っているのかもね。」
さやかちゃんがインコの頭を撫でると、勢いよくさやかちゃんの手のひらに飛び乗ります。
あんなにうれしそうにして…羨ましいなぁ。
「じゃああたしはキリカとの約束あるから出かけてくるよ。お昼頃には戻るから。」
さやかちゃんとキリカさんは、腕がなまらないようにとよく模擬試合をやってます。
武器がどちらも近接系なのに加えて、俊足のさやかちゃんと相手に鈍足を与えるキリカさんとは相性がいいみたいです。
「わたしと遊ぶよりキリカさんと遊ぶほうが楽しいの?」
「え?」
さやかちゃんがあせった表情をしたので、わたしはペロッと舌を出して言います。
「ごめん、冗談。…いってらっしゃい。」
「もぅ、あんたって子は…。行ってきます。帰ったら一緒に遊ぼ!」
ほっぺつねられてからの頭なでなでは反則だと思います。えへへ。
そして、さやかちゃんはインコの喉元をつんつんして言いました。
「あんたは頭いいんだから早く家に帰ったほうがいーぞ。まどか、悪いけど窓はそのままでお願いね。」
161 名前:2/5[sage] 投稿日:2012/10/28(日) 22:41:21 ID:bjB9ADLA0 [3/6]
今日は円環のお仕事もなく、さやかちゃんがいなくなってしまった今、わたしは退屈でした。
とりあえず、さやかちゃんが残してくれた朝ごはんを食べようとキッチンに向かおうとすると、さっきまでさやかちゃんと遊んでいたインコがわたしをじっと見ています。
外へ出る気配は全然ないようです。
「わたしはまどかって言うんだよ。あなた、お名前は?」
恐る恐る頭をなでてみました。
「わたしより、さやかちゃんになでなでしてもらうほうがうれしいんだね。わかるよ。」
さやかちゃんには動物を惹き付ける何かがあるのだと思います。わたしもばっちり惹き付けられてますし。
インコがきょとんと首をかしげた気がしたので、わたしは説明します。
「さやかちゃんはね、朝あなたをなでなでしてた青髪の女の子だよ。」
なおもインコは首をかしげているように見えました。
あれだけさやかちゃんに可愛がられてたのに、その反応はひどいよ。―うん、さやかちゃんの魅力をちゃんと知ってもらわないと!
「さやかちゃんはね、とっても素敵な女の子なの。さやかちゃんは優しくてかっこよくて可愛くて…。
わたしとさやかちゃんは小学生の時に出会ったんだけど、学校にまだ慣れてない頃のわたしが、ある日道端で転んじゃって…。
その時に手を伸ばしてくれたのがさやかちゃんなの。あの時のさやかちゃんの手、とっても優しくて温かくて…。
あれからも、まどかをいじめるなーって何回も飛び込んできてわたしを守ってくれるんだよ、さやかちゃん。
…さやかちゃん大好き。」
一度話し始めると止まりません。止められないのです。もう、頭の中はさやかちゃんでいっぱいなのです。さやかちゃんまみれなのです。
「それにね、わたしが怪我をすると、いつも顔色を変えて駆けつけて来てくれて、手当てしてくれるんだよ、大袈裟すぎるよ。
それからね、さやかちゃんはいつも恥ずかしがって隠すんだけど、素敵なお洋服とかに憧れてる時。あの時にふっと見せる女の横顔にドキッとしちゃう。
(中略)
だからね、わたしはさやかちゃんのことがとってもとっても大好きなの。」
一通り話し終えた時、わたしはとても幸せな気分になっていました。
同時に、わたしのお日様さやかちゃんに照らされてる気がして、なんだかとってもあたたかく感じました。
『さ…か…ちゃん…だ…すき』
え?―突然しゃがれた声が耳に入ってきます。
『さやかちゃん…だいすき、さやかちゃんだいすき』
声の主を探すと、そこには黄色いインコが羽を広げています。
「わっ、これってもしかして、わたしの言葉、覚えちゃった?」
確かに熱心になりすぎて、何回もその言葉を口にした記憶がありました。
「ただいまー」
こんな時にさやかちゃんが帰ってきてしまいました。時計を見ると、もうお昼過ぎです。
『さやかちゃんだいすき』
どうしよう…。これ、さやかちゃんに聞かれちゃったら…。
確かに、わたしはこの言葉を弾みで何度もさやかちゃんに言ってしまうことがあります(もちろん、後で顔が真っ赤になってしまいます)。
ですが、インコの口からさやかちゃんに伝わってしまうのは、自分では止められない録音テープが流されるようなもので、いつも以上に恥ずかしいものがあります。
『さやかちゃんだいすき!』
「やめてー何度も大きな声で言わないでー!」
次第にさやかちゃんの足音が大きくなってきます。
そして、ドアが開いてさやかちゃんがわたしたちのいる部屋に入ってきました。
162 名前:3/5[sage] 投稿日:2012/10/28(日) 22:43:02 ID:bjB9ADLA0 [4/6]
↓SAYAKA
「ん?なにやってるの?」
あたしがドアを開けると、まどかはなぜか手をばたばたさせていた。
まどかの背後で、今朝の黄色いインコが見え隠れする。
『さやかちゃんだい…』
「わーわー!な、なんでもない!―わ、わたしは関係ないよ!」
え?何言ってるの…?
「あ…」
今まで一人で慌てていたまどかの動きが一瞬止まる。
「ん?どうしたの、まどか?」
「んー、神様関係のお仕事ができちゃったみたい。今日は円環じゃないからすぐに戻れると思うけど。ごめん、ちょっと行ってくるね…。と、とにかく、わたしは本当に何もしてないからね!」
そう何度も念を押されると、何かあったと疑ってしまうのが普通の人間だと思うんですけど…。
あたしの目の前でまばゆい光が溢れ、次の瞬間にはまどかは白い衣装に包まれていた。
何度も見慣れてはいるけれど、いまだにドキッとせずにはいられない。
女のあたしが言うのもなんだけど、その衣装エロいよ。エロかわ…って何言ってるんだか、あたし。
そんなことを思っている間にまどかは姿を消して、あたしは一人家に取り残された。
『さやかちゃんだいすき』
一瞬声の出所がわからず、あたりをきょろきょろする。
「なんだ、あんたか…。嬉しいこと言ってくれるじゃない。いい加減うちに帰らなくてもいいの?」
あたしはインコの頭を優しくつんつんつついた。
「さっきのまどかの様子が変だったけど、あんたなんか知らない?」
そういえばついさっきまで、まどかはパジャマを着てたけど、着替えもしないでお昼まで何をやっていたのだろうか。
それにしても…。
「あーあ、まどか行っちゃったよ。これから一緒に遊びたかったんだけどなぁ。」
もちろん、そんなのはあたしのわがままでしかないんだけど。
「あの子は、今もみんなのために頑張ってるんだよ。せめて、まどかはあたしが支えてあげなくてどうする。」
こっち(=まど界)に来たとき、あたしは固く決意していた。―まどかが魔法少女を救う存在ならば、あたしはそのまどかを守らないと…!
最近まどかの陽だまりのような笑顔が頭から離れない。
ふと気が付いたらまどかのことを考えていて、今日も試合に気合が入ってないとキリカに叱られたくらいだ。
あいつだってオリコさんのことばかり考えてるくせに…。
「まどかともっと笑い合いたい。触れ合いたい。もっと長く同じ時間を共有したい。―あたし、やっぱりまどかのことが…好きなんだ。」
一緒に住むようになってしばらく経っているのに、何を今さら当たり前のことを言ってるんだか。
「まどか…好き…」
その言葉はなんと不思議な響きを持っているのだろう。頭の中でリフレインする。
「まどか好き。」
もう一回言ったところで、あたしははっと我に返った。
「あ、待った!今のなし。…いや、間違ってはいないんだよ。でもとにかくなし!」
こっちに来てから、「好き」と弾みで何度か言ったことはある。今みたいに…。
それでも、未だに恥ずかしさに耐えられずその台詞をごまかそうとするあたしは、正直情けないのかもしれない。
子供の時みたいに、何の躊躇もなくまどかと「大好き!」と言いあってた頃が変に懐かしい。
163 名前:4/5[sage] 投稿日:2012/10/28(日) 22:49:27 ID:bjB9ADLA0 [5/6]
『まどか…すき!』
え!?突然の声にびっくりした。
『まどかだいすき!』
あたしの目の前に、黄色いインコがいた。これってもしかして、あたしの台詞の真似をしてる!?
しかも、なんか誇張されるような…。いや、あたしが…えーと、そう思ってるのは間違ってないよ。でも…。
「ただいまー。さやかちゃん。」
な…!?まどか、もうお帰り!?…早すぎるよ!!
「あはは…。お、おかえり。」
もしさっきのをまどかに聞かれたら、恥ずかしすぎてどうしていいかわからないよ。
あたしは両手のひらでインコを覆い、まどかから見えないように後ろにまわす。
「あの…、この子から何も聞いてない…よね?」
まどかは何かを探るように、じーとあたしの目を見つめてきた。
今のあたしには、まどかにそうされるだけで全身が緊張してしまい、とても耐えられそうにない。
『さやかちゃんだいすき。』
「あぅ…///」
インコのその一声に、急にまどかは顔を赤らめてもじもじとし始めた。
え、…あれ?―これってもしかして…まどかもあたしと同じ状況なの…?
『まどかだいすき。』
「わ…///」
そして、あたしの台詞も暴露された。
『さやかちゃんだいすき。まどかだいすき。』
あたしたちはお互い顔を真っ赤にしながら、長い時間無言で見つめ合っていた。
視線をそらせられなかったのだ。
恥ずかしくて、でも、嬉しくて…。
次にどう動けばいいのかあたしにはわからなかったし、もしかするとまどかもそうなのかもしれない。
その沈黙を破ったのは、あの黄色いインコだった。
『あーバカップル爆発シロ爆発シロ!吐き気がしてきたわー!うちに帰るー!』
インコは突然狂ったように叫ぶと、開けっ放しの窓から飛び去って行った。
わ、ひど…。
あたしたちは、ぽかんとしてインコが去った窓をしばらく眺めていた。
あまりにも突然の出来事だったので、さっきまでの緊張はすっかりなくなってしまった。
やがて、あたしたちの視線が再びあって、しばらく見つめあった後、二人同時に口を開く。
「…大好き」
164 名前:5/5[sage] 投稿日:2012/10/28(日) 22:50:35 ID:bjB9ADLA0 [6/6]
↓epilogue
『エリー、ただいまー』
「あー、ボタン!!どこ行ってたのよ!…まぁ、あんたは一度聞いた会話を一字一句逃さず全て記憶して真似できるほど賢いから、いなくなっても戻ってくるとは思ってたけど。心配なんて…ほんのちょっとだけ…したんだからね。」
『さやかちゃんだいすき。まどかだいすき。』
「え?ちょっと待って…。なんかすごーく嫌な予感がするんですけど…」
以上です。エリーちゃん頑張れ…
最終更新:2012年10月29日 08:32