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185 名前:名無しさん@まどっち[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 19:05:02 ID:2LMrxLqs0
大変お手数なのですがどなたか本スレに代行お願い出来ないでしょうか?
いつもと場所が違うのでリンクが張れないみたいです。
………♭♭♭………(以下本文)
ホントは勤労感謝の日に投下予定だったお話です。
あ、でもやっぱり勤労感謝はあまり関係無いかもしれません。
ちょっとでも何かの燃料になるといいのですが…。


[マイホーム]

ここは見滝原から遠く離れた街のとあるお屋敷。
先日ピアノのコンクールに参加した美樹さやかは、一人の有名なピアニストの目に留まったのだ。
本人直々に面会をしたいとの事であり、喜んでさやかは彼のお屋敷に招かれていた。

「あたしはまだ全然素人ですけど、先生のお陰でもっとピアノの魅力が理解った気がします。」
「ミキさんはピアニストのタマゴです。これからもジブンのカンセイをシンじてガンバってください。」
「はい! 今日は素晴らしいお話をありがとうございました!」

やや片言で喋る白髪の外国人男性がその人である。
玄関の扉から廊下の壁、室内に至るまで一般人とはかけ離れた立派な内装にさやかは面喰らっていた。
よく聞けば、以前にさやかの集めていたクラシックのCDにピアノ奏者として参加する程の人らしい。

「こちらこそこんなオソくまでワタシのハナシをキいてくれてありがとう。デンシャのジカンはまだダイジョウブですか?」
「はい、何とか間に合いそうです。」
「キをツけてカエりなさい。コンドはコウコウセイになってから、レッスンでおあいしましょう。」

先生と握手を交わしてさやかは西洋風のお屋敷を後にした。
携帯を取り出してまず確認した時刻は既に夜8時過ぎ。とりあえずアドレス帳から一番頻繁に使う名前を呼び出す。
夜9時と言えど、長距離を移動する新幹線の終電は結構早いものだ。
乗り継ぐ事も考えると全然余裕は無い為、さやかは早歩きしながら通話を始めた。

「ごめ~んまどか! さっきやっと話が終わってさぁ~…。晩御飯はもう無理だからあたしのはいいよ。」
 いや、ここからだとそっちまで3時間はかかるから。知久さんにゴメンって言っといて貰える? そんじゃ、また明日ねー!」

通話を終了してさやかは「はぁっ」と大きく溜息を吐く。
名高い講師に付けるのは在り難い話ではあるが、まさか昼間からこんな時間まで掛かるとは思わなかった。
先生は大層さやかを気に入ったのか終始笑顔で、しかも早速その場でピアノの指導が始まったのだ。
さやかも失礼の無い様に笑顔と持ち前の明るさを絶やさず何とか一日を乗り切ったのだった。

「しっかしどっかで聞いた事ある名前だと思ったら…つーかあたしなんかが教え子でいいのかなぁ…?
 ―――ってやべっ! ボヤいてる場合じゃないっての!!」

ドタバタと走り込んで新幹線の止まる駅に到着。終電の出発時刻4分前だった。
連休前ではあるが自由席でもそこそこ空いていてさやかは難無く席に座る事が出来た。
弁当を食べている人やぐったりとした人、この時間では周りには殆どスーツ姿の男性ばかりだ。
流石に中学校の学生服を着ている女の子なんて他にはそうそう見当たりそうにない。

「(とりあえずまどかにゴメンってメールでも打つか…。)」

ポチポチと携帯電話を触り始めたさやか。
しかしプレッシャーから一気に開放された事で疲れが一気に出たのかすぐにウトウトと意識を失ってしまった。

………


………………………


………………………………………………


………………………………………………………………………………………

…ポーン

「―――!!(今何処…!?)」

―間も無く○○、○○に到着です。―

アナウンスを聞いてさやかは飛び起きた。同時に自分の携帯が落ちる音。
落としてしまったそれを拾うと、画面にはまどかへのメールが途中のままだった。
途中で眠ってしまったさやかは結局メールを打てず仕舞いだったのだ。
さやかは項垂れながら携帯をポケットに仕舞い込むと、慌てて降車の準備をした。

今度は電車に乗り継がなければならない。
ここからは見滝原まで一本なのだが、生憎席に座るのは難しそうだ。
今度こそまどかにメールを打とうと再度意気込んだのだが、手摺りに掴まっているうちにまた眠気が襲って来るのだった。

「(うっ…眠い…。ちょっと仮眠するか…。)」

―――カクン、はっ!? ………ウトウト……カクン、はっ!!

電車に揺られている内にさやかは手摺りを掴んだまま意識を失う→カクンとなる→意識を取り戻す…という状態を幾度か繰り返していた。
そうして、何度目かの後にだいぶ目がは醒めたらしい。
もうすっかり座席は空いていて、周囲の女子高生から「クスクス」とちょっとした笑い声が漏れていた。

「(ううっ…恥ずぅ…。)」

さやかは全く自覚の無いままに、このちょっとお間抜けな動作を繰り返していたのだ。
込み具合が緩やかになって来ても気付かず、結構注目の的になっていたのかもしれない。
思い返すだけで恥ずかしくて、少し顔を赤くしながらさやかは空いた席へと向かった。

『間も無く見滝原~、見滝原です~』
「―――!?」

その後すぐに目的到着のアナウンスが流れてしまい、さやかは結局席に座る事なく電車を降りたのだった。

………………………♭♭♭………………………

駅を出た時には既に夜11時半を回っていた。既に辺りに人の気配は無く、時折自動車が通るくらいのもの。
しかも携帯電話を見てさやかは更なる溜息を吐かずにはいられなかった。
まどかへのメールが打ちかけのもの、それと着信2件はどちらもまどかからのもの。

「(はぁ…もうまどか寝てるだろなぁ…。親は…今日居ないんだっけ…。)」

メールだけでも打とうと考えたが時間が時間だ。メール着信で起こすのもちょっとアレだ。
さやかは仕方無く、肩を落としながら帰宅する事にした。

「(はぁ…あたしもいつか仕事し出したらこんな感じなのかな…。)」

正直ちょっと泣きそうだった。
まどかのお陰で、まどかの為に未来の夢への道標が見えそうなのに、現実というのは過酷なのだ。
もし将来まどかが傍に居てくれたとして、ごめんねのメールさえ満足に行かない自分を許してくれるのだろうか。
こんな生活が現実に待ち受けているのなら、大切な人さえも傷付けてしまう自分自身を許せるのだろうか…。

さやかは沈痛な面持ちで暗く冷たい自宅の扉を開けるのだった。



…筈だった。潜った扉からは何故か暖かさと明るさが溢れているのだ。
一瞬家の号室を間違えてしまったのかと思ったがそうじゃない。
しかもその直後、戸惑うさやかに聞こえない筈の声が聞こえたのだ。

「お帰りなさい、さやかちゃん。」

目の前には両手をスカートの上で合わせ、満面の笑顔でさやかを温かく包んでくれるまどかが居るのだ。
一瞬何事だろうと思ってさやかは制服姿のまま呆然と立ち尽くしていた。

「な…なんでまどかが…ここに…!?」
「えへへ、さやかちゃん連絡着かなかったからお家で待たせて貰ったんだよ。
 今日はご両親がお留守でしょ? だから…」

さやかはその場で鞄を取り落とし、形振り構わずまどかに抱き付いていた。

「さ、さやかちゃんっ!?」
「………まどか…ありがと…ただいま…。」

ここにまどかが居なかったらは泣かずいられたかもしれない。
でも自分の事情と気持ちを察して待っていてくれた事が嬉しくて、さやかはポロポロと涙を零していた。

「さやかちゃんどうしたの!? 何かあったの…?」

少し気丈な性格かもしれないが、さやかはやっぱり中学生の女の子なのだ。
家を留守にしがちな両親、将来の不安、心の何処かに隠しきれない孤独感から開放された喜びの涙だ。

「…ううん、面談は上手く行ったよ。…あたし…まどかが…こうして待っててくれたのが…嬉しくて…。」
「さやかちゃん…。」

今は何も聞かず、小さな腕で優しくさやかを抱きしめてあげた。

………………………♭♭♭………………………

「今日のご飯はカレーだよー! すぐ暖めるからちょっと待っててね。」

リビングのドアを開けると芳しいカレーの香りが漂って来た。
お腹を空かせているであろう夫(?)の為、まどかは真っ先にコンロのスイッチを入れる。

「おおっ!まどかが作ってくれたの!?」
「うん! さやかちゃんが遅くなりそうだから何か出来ないかなってパパとママにお願いしてみたの。
 パパに教えて貰いながら、頑張って全部自分で作ってみたんだよ?」
「ううっ…あんたって奴は…ホントにあたしの嫁だぁ~!」
「わわっ…!///」

今日のまどかは健気に夫の帰りを待つ妻そのものだ。ちなみにまどかは美樹家の合鍵をしっかり持っていたりする。
自宅で待っていてくれただけでも嬉しいのに、わざわざ晩御飯まで作ってくれたのが嬉し過ぎてさやかの方から思いっきり抱き付いていた。

まどかは炊飯器で保温してあるご飯と二人分更に置きカレーを盛り付ける。
主夫の知久に教えて貰っただけあってカレーの味付けは完璧だった。
細かい所ではニンジンの皮がほんの少し残ってたり豚肉ががたまに上手く千切れてなかったり。
でもそこにまどかの手作り感が溢れていて、料理の温かさ以上にさやかの胸を暖めてくれる。

「およ、これってパイナップル? カレーに上手く合ってて美味しいなぁ。」
「パパのお奨めで入れてみたんだよ。お味はどうかな…?」
「うん、文句無しに美味いよ。」
「良かった~♪」

まどかは自分で味見をしてはみたものの、家事全般が苦手な事もあってちょっと不安だった。
それとこんな遅い時間までさやかは待っていたのにはちゃんと理由がある。

「それより今日はごめんね。メール打つつもりだったんだけど途中で爆睡しちゃっててさ…。」
「ううん、いいよ。さやかちゃんが大変そうなのは何となく理解ってたから。
 わたし少しでもさやかちゃんの為に何かしてあげてくって…。将来さやかちゃんのお嫁さんになれたらなって…。」
「「まどか…。」

自信無さ気に上目遣いで言うまどか。
さやかの直向きさや逞しさ、良い所を知り尽くしているからこそ、自分が彼女に見合うのかという疑問は耐えない。
だがさやかだってまどかがずっと自分を見てくれていた一途さを知っている。
だから…真っ直ぐ目を見て真面目に応えた。

「あたし、やっぱまどかがずっと傍に居てくれたら頑張れる気がする。
 だからその…もしどっちが働いてても、もしどっちも働いてても、あたしはまどかと一緒に居たいよ。
 両方女なんだしどっちが嫁になるかはまだ理解んないけどね~。」

最後の方は少し冗談っぽくて、でも将来一緒になる約束は揺るがないものだった。
苦手な料理にも挑戦して自分の傍に居たいと願うまどか。
さやかは一度スプーンを手元に置いてテーブルの反対側に歩み寄る。
腰を落とし座ったままのまどかにOKのキスを落とした。

………………………♭♭♭………………………

ちょっと遅い晩御飯も無事終え、二人はお風呂を済ませてベッドに潜り込んでいた。
二人で入ればすっかり狭くなってしまったが、その分ぴったりとお互い成長しつつある身体をぴったりとくっつけられる。

「今日の帰りさ、正直に言うとちょっと挫けそうだったんだ…。」
「えっ…?」
「面談は上手く行ったんだけど、将来こんな生活が続いたらどうしようかなってさ…。
 帰りは遅くて家は真っ暗で…でもあたしにはまどかが居てくれたんだ。」

横になったまま、まどかの胸元に顔を埋めてさやかは弱音を呟く。
まどかは子供の様に潜り込む青い髪を、母の様にそっと腕で包み込んであげる。

「大丈夫だよ。さやかちゃんがお仕事大変な時はわたしが支えてあげたいから。
 わたしにはさやかちゃんが居なくなるのが一番怖いから。だから、遅くなったって平気だよ。」
「まどか…。ありがと…。あたしの、小さくて可愛い…王子様かな…。」
「ふえっ!?」

目をぱちくりさせてまどかは驚いた。
背丈の小さい自分に対して、お姫様ならともかく王子様の発言は予想に無かったからだ。
さやかは顔の位置を戻して言う。

「まどかって強い子じゃん。ガキの頃からだっけ。あたしが凹んだらよく抱きしめて、くっついててくれたでしょ?
 それだけですっごい心強いんだ。もしかしたらあたし…もっと前からまどかに惚れてたのかもね。」

かつてさやかにとって初恋の相手と離れて初めて気付いたのかもしれない。
心の支えはいつしか本物の恋心に変わっていた。

「わたしもね、さやかちゃんを支えてあげられるわたしになりたいから。お姫様でも王子様でも大歓迎だよっ♪」

元々くっついているというのに、まどかはその状態で更にさやかを力強く抱きしめた。
それに合わせてベッドがギシッと揺れる。

「へっへー、んじゃ明日はデートかな?」
「わーい! 何処行くか考えとかなきゃ。」

二人きりで遊ぶだけなのに、新しい遊びを見付けた子供みたいに嬉しそうにはしゃいでしまう。
大きくなるにつれて露になる友情を超えた愛情に戸惑う事もあった。
でも二人なら、こうして普段の関係から踏み出す事で乗り越えて行けそうだ。

「まどか、お休み。」
「うん。さやかちゃん、お休みなさい。」

常夜灯を消せば部屋に残るのは至近距離に残るお互いの顔だけ。
世界で一番大切な人の顔を見つめながら、今夜は最高の夢が見られそうだ。

[マイホーム]

おしまい。

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最終更新:2012年11月28日 08:29
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