639 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/13(火) 02:32:41.93 ID:+w07DMXO0
ボツネタですが…。
「あのね…死んじゃったさやかちゃんを無理矢理生き返らせたら、この世界にとってさやかちゃんは別物になっちゃって…。
さやかちゃんがわたしと同じ目に合うなんて、そんな事も考えもしないで、わたし…。」
まどかに似た顔の髪の長い女の子が申し訳なさそうにあたしに謝る。なんでそんなに必死なのさ…。
「ごめんなさい、わたしの我侭で、さやかちゃんにばっかり辛い思いさせて…。
わたしもさやかちゃんと同じ迷子だから。殆どの人はわたしを忘れちゃってる。」
「じゃぁ覚えてくれてる人のトコに行きなよ。こんな偽者のあたしと居たって何も良い事なんて無いよ。」
「わたしはさやかちゃんに会いたくて戻って来たんだよ? 見守る世界にさやかちゃんが居ないなんて耐えられないの。」
「どうせあたしはあんたが作り出した人形なんでしょ?」
「そんなっ!違―――っ」
あの子に差し伸べられた手を、あたしは冷たく振り払っていた。
「さやかちゃん!?」
「付いて来ないで!」
逃げる様に走り出した。そんな事が言いたいんじゃないのに…。
あの時の記憶がはっきりと蘇る。駅で離別れた最悪の日、死んだ日の記憶は何故か今も鮮明だった。
でもあたしの右手はまどかの両手でもう一度強く握られていて振り解けない。
「離してよ!」
「離さないよっ!"今度は"絶対話さないから!」
「なんで…なんでこんなあたしなんかに…」
「離したらまたさやかちゃん居なくなっちゃうから…! だから絶対に離さないっ!」
「っ…! あんたと一緒に居ても…また勝手に絶望して勝手に死ぬかもしれないでしょ!!」
馬鹿だよあたし…何て事言ってんの!
違う…違うよ…ホントは…必要とされたくて、大切に思われたいのに…なんで意地張ってんのよ馬鹿…。
「そしたらまた生まれ変わってさやかちゃんを探しにこの世界に来るよ!
わたし何度でもさやかちゃんを探すから!さやかちゃんが好きだから!大好きだから!!」
まどかの唇が強引にあたしの同じ場所を塞いでいた。すぐに離れたのだけど、温度と感触はちっとも消えやしない。
「ま…どか…?」
「気持ち…やっと伝えられたよぉ…。さやかちゃんは人形なんかじゃない。ちゃんと普通の女の子だよ。
だって、抱きしめたりキスしたりすると、こんなにあったかいんだもん。」
あたしの背中にまどかの腕が。肩には小さな手の平が添えられている。
さっきまであんなにムキに拒んでいたのに、あたしは無意識にその手を握り返していた。
「さやかちゃん…?」
「………こうしていて…いいかな…。」
この世界にとって、あたしは限りなくゼロに等しい。
誰も知らない、誰の記憶にも無い…それなのに、まどかの温もりは虚しさを掻き消してしまう。
「一緒に行こうよ、さやかちゃん。」
「…えっ…何処へ…?」
「えっとねー…誰も知ってる人がいない、遠い街かなぁ。あっ、勿論言葉が理解らないと困るから日本国内だよ。」
あたしが逃げないと悟った途端、まどかの顔はいつもの"鹿目まどか"に戻っていた。
髪型もスタイルもちょっと大人びてるって言うのに心だけ元に戻っちゃってる? そんな感じ。
「そこでね、転校生さんになって新しい生活を始めるの。さやかちゃんも一緒に来てくれないかな?」
あたしが手に取った最後の希望は、何と極上の片道切符だったんだ。
この虚-ゼロ-の世界の片隅で、あたしはもう一度あたしを始める事を選んだ。誰より大切な子と手を取り合いながら。
最終更新:2012年12月15日 14:02