223 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/11/18(日) 22:12:31.68 ID:SgmpaiEV0
空気を読まずに投下させていただきます。
ちょっとした何でもないお話です。
[横顔]
「まどか、学校の近くに図書館があっただろ。悪いんだが、帰りにこの本返しといてくれないか。」
「うん、理解ったよママ。」
ある朝まどかは登校前に、母の詢子に図書館へ本の返却を頼まれた。
まどかが図書館を利用するのは精々夏休みや冬休みくらいのものだ。
たまには気分転換にもいいかなと思い、放課後立ち寄るついでに少し時間を潰して行く事にした。
民家と学校のグラウンドの間にある私立図書館は、静か過ぎず賑やか過ぎず程良い環境である。
日当たりは良く、大きな道路とも隣接していないので本を読みながらウトウトしてしまう利用者も少なくない。
「ありがとうございましたー。」
カウンターの女性に図書カードと見せ、本を手渡せば母からの託けは完了。
まどかは周囲を見渡して寛げそうな場所を探してみる。
図書館の2/3程は本棚の並ぶスペースだ。所々にソファーが配置されている。
残りの1/3程は本の閲覧や自習をする為の大きなテーブルが幾つか並ぶ。
読書に勤しむ青年、学校の宿題をする学生、それから新聞を読むお年寄り…各々が静かに自分の時間を過ごしていた。
その中でまどかは見知ったブルーのショートヘアーの女の子を見付けた。
美樹さやか…いつもは活発でどちからと言うと身体を動かすのが好きそうな、大親友兼まどかの初恋の人だ。
しかしまさかこんな場所で会うとは思いもしなかった。普段彼女が積極的に本を読む事も滅多に無い。
「さやかちゃ………」
それはともかく、まどかは早速声を掛けようとして一瞬躊躇う。彼女が見慣れぬ眼鏡を掛けていたからだ。
クラスメイトの一人、暁美ほむらとはまた違った縁の無い眼鏡は、普段明朗快活なさやかを随分と大人びた印象に変えていた。
「よっ、どしたのまどか?」
「ふえっ!? あ、えと、そのぉ…。」
さやかは縁の無い眼鏡を外して手で一瞥する。
まどかの方から声を掛けるつもりが、立ち尽くしていたのに気付いたさやかに声を掛けられたのだ。
「わたし、ママから本の返却をお願いされて来たんだけど、さやかちゃんが図書館なんて珍しいね。」
「ん? へへ、まぁねっ。」
ちょっと照れ臭そうに返すさやか。読書なんてキャラじゃない、という自覚はやはりあった様だ。
そんなさやかの手には表紙の分厚い難しそうな本があった。
「それ難しそうな本だね。"楽典"…???」
「あたしもたまには勉強してもようかと思ってさ。これは音楽の基礎みたいなもんだよ。」
「…音楽……。」
さやかは上条恭介に恋心を抱いていた頃から人知れず音楽に携わっていた事はまどかも知っている。
それが叶わなかった今もさやかが音楽を手放す事はなかった。
ふとまどかの脳裏に進路、受験、将来と言った耳の痛い単語が浮かび上がって来る。
「さやかちゃんって高校わたしと一緒…だよね…?」
「あー、違う違う。これは大学用ですよーっと。高校はもうあんたと同じ場所に決まったでしょ?」
「あっ…そ、そうだったよね!」
置いて行かれるのではないか? まどかが変に不安がったのでさやかは慌てて訂正した。
ちなみにさやかの言う通り、既に二人同じ高校への進学が決定していたりする。
言い聞かされたまどかは自分の不安が杞憂である事に安堵した。
というかまどかはそれよりももっと気になる点があった事を思い出した。
「ところでさやかちゃん。その眼鏡はどうしたの?」
「あっ、これか。あたし微妙に遠視気味でさー。無くっても問題は無いんだけど、小さい文字読み続ける時はこれあった方が楽なのよ。」
さやかは机に置いた眼鏡を拾い上げて再び着用する。
それ程目立ちもしない縁無しの眼鏡なのに、いつもと違うさやかの落ち着いたイメージにまどかは見蕩れていた。
「まーどか。どしたの?」
「―――っ!? な、何でもないよぉ…。わ、わたしも本取って来るね!」
気が付けば眼鏡さやかの顔が目の前に。まどかは不意を突かれてうろたえていた。
何だか妙にさやかが余裕十分に見える。恥ずかしくて慌てて視線を逸らし、まどかは本棚のある方へ消えて行くのだった。
「(えーっとぉ…これと、これと、これと………。)」
自分が読めそうor興味のある小説を数冊見繕い、抱えてさやかの居た場所へと戻る。
隣の席の椅子を引くと、さやかは笑顔だけで"どうぞ"と快くまどかを受け入れた。
会話を楽しむ施設ではないので、二人は唯黙々と読書を続けるだけ。
まどかが持ち込んだのは閃光のハ○ウェイ、ら○すた等、主に青少年の好むライトノベルだ。
最新の作品こそ無いが、最近の図書館にはこういった若者向けの本も結構置いてあったりする。
自室で一人本を読むよりずっと楽しい。それでいて時折隣のさやかに目を向けてみたりするのも楽しみになる。
これが教室の自習とかならさやかはとっくに居眠りを始めているのかもしれない。
でも難しそうな本をごく自然に、直向に読み続ける姿はまどかの目を惹き付けて離さなかった。
何故だろうか? 唯静かに読書をしているだけなのに、それだけで青髪の少女はとても絵になるのだ。
例えるなら深窓の令嬢、書斎の姫…妙に優雅な妄想をしている自分に驚いていた。
定期的なまばたきと共に動く長い睫毛、時折無造作に掻き上げられる前髪、その全てがまどかにとって魅力的なのだから。
(カリ、カリカリ…)
暫くするとさやかはペンとノートを取り出し、本を机に置き、開いたまま筆記を始めたのだ。
付き合いの長いまどかも、授業中に真面目にノートを取るさやかは見た事が無い。
それだけこのさやかは真面目に取り組んでいるのだろう。
「(さやかちゃん凄くかっこ良くて綺麗だよぉ…。あっ!わたしも何かしなきゃ!)」
しかしぼーっと見蕩れてばかりもいられない。
さやかが間近で勤勉に自分の才を磨こうとするのに、何もしないでいるのはちょっとムズ痒い気がした。
別にさやかに負けたいとかそういう対抗心じゃない。
少しでもさやかの横を歩ける存在でありたい…それだけを願いながら、まどかも何となく筆記用具を取り出してみたり。
(カリカリカリ…)「(えへへっ♪)」
真面目に取り組むさやかが傍に居るのだから、その様子をこっそりノートに漫画絵で描いてみる。
さやかちゃん大好き補正の入った横顔は、さやかの歳相応女の子らしさと女性らしさを上手く表現していると言える。
ノートにペンを走らせる姿だけじゃなく、先程の本を読んでいる姿もしっかり描き起こされていた。
「(さやかちゃんって眼鏡すっごく似合うなぁ。やっぱり美人さんだね♪)」
現実よりもちょっと笑顔は誇張してみた。頬の部分に薄く斜線を引いてより可愛らしく。
本を読む眼鏡のさやかちゃん、勉強するさやかちゃん、嬉しそうに読むさやかちゃん…
「(ってわたし何やってるのぉ~!? 全然勉強してないよぉ~!)」
…今更ながら自分がほぼ遊んでいるだけという事実に気付いたまどか。
さやかちゃんが美人なのが悪いんだ、いや自分が見蕩れてたのがいけない…等と一人で頭を抱えてうんうん唸っていると…
「なーにやってんのよ。」
(ペチッ)
「あうっ!?」
頭を軽く小突されてまどかは顔を上げる。そこには眼鏡を外したいつものさやかが立っていた。
明るくちょっと悪戯っぽい天真爛漫な笑顔はまどかの太陽そのものだった。
「用事済んだからあたしは帰るけど、まどかはどうする?」
「あ、わたしも一緒に帰るよー。」
持参した"楽典"の本と筆記用具を鞄にしまうさやか。彼女の方はこれで片付け完了らしい。
まどかが慌ててラノベを元の棚に戻して戻って来ると、さやかは図書館入り口の自動ドア付近で待っていた。
………………………………………………♭♭♭………………………………………………
帰り道はすっかり夕陽の落ちたオレンジの空の下。
背の高い影と背の低い影は仲良さそうに寄り添っていた。
「ねーまどか、わざわざあたしの勉強なんかに付き合って良かったの? 退屈じゃない?」
「わたしはさやかちゃんの傍に居られるだけで楽しいもん。本読んでる時のさやかちゃん、凄く素敵だったよ♪」
「うわっ…そんなしっかり見なくても…。」
バツが悪そうに少し目を背けるさやか。背けたのは幽かに染まった頬を隠す為でもある。
「あっ、でも…わたし…まだ自分が何をすればいいか理解らないよぉ…。さやかちゃんは自分の夢に進み始めてるのに…。」
自分の知らないさやかの魅力をまた知れた事はまどかにとって大きな幸せだ。
でも同時に少しの不安も生まれてくる。そんなまどかの表情を見て、さやかの片手が優しく頬をなぞった。
「まどかはまどかだよ。そんなに慌てなくても、あたしはまどかを独りで置いて行ったりしないから。」
「さやかちゃん…?」
あどけない幼馴染の沈む顔を覗き込む様にさやかは屈んでいた。もう片方の頬にも手が添えられてまどかの逃げ場は失われる。
正面には背ける場所の無い大好きな人の顔が真っ直ぐ見つめていた。
最初に鼻がコツンを触れ、ちょっと角度をずらして唇同士が重ねられる。
他に人通りがあったとしても、どうせ差し込む夕陽の所為で女の同士が重なる姿ははっきりと視界に捉えきれないだろう。
さやかの一部が躊躇無く当たり前の様に咥内に差し込まれ、それはまどかの抱えた不安ごと、じゅるりと音を立てて唾液を吸い上げてしまっていた。
一頻りまどかを吸い上げてからさやかは唇を離す。影には殆ど映らない銀色の糸は音も無く地面に落ちた。
「まだあたし等来年から高校生でしょ? どうせ悩むなら、高校入ったら何しよっかなーって悩んじゃいなよ?」
「ふぇ!? あっ…うん…。えへへ、そうだよね♪」
まどかは暫く呆然とさやかを見つめていたがすぐに我に返った。
さやかの優しいキスが不安を奪い去って、そこに残るのは繋がり合った想いと未来への希望だけだった。
「どんな道に進むとしても、まどかにはずっと傍に居て欲しいんだ。あたし独りだと途中でへこたれちゃいそうだからさー。」
さやかはぶっきら棒になかなか大胆な宣言をしている。
彼女の言う"ずっと傍に居て欲しい"とは"ずっと恋人同士で居て欲しいに"等しいものだ。
「わたしも…さやかちゃんの傍に居られるわたしになりたいなぁ。」
「へっへー。そんじゃ、あたしはどんなまどかだろうと愛しちゃいますよー!」
身体の大きさで勝るさやかは愛くるしい小さな彼女を両腕で包み込んでいた。
「まどか…柔らかいなぁ…。」
「えへへ…さやかちゃんもいい匂いだよぉ…♪」」
頬をスリスリするといつもと変わらないの暖かくて柔らかいまどかの感触。
小さなまどかの方も便り甲斐のあるさやかに身体を預けて堪能していた。
これは中学三年の秋~冬にかけてのお話。
どんな未来が待っているのかな? でも不安も希望も、愛しい人が傍に居てくれたら乗り越えられる。そんな気がする。
「そういやまどか。あんた図書館で必死に何か描いてたよね?」
「あ、うん。本読んでるさやかちゃんを描いてたんだけど…。」
ゴソゴソを鞄を漁ってノートを取り出した。ちなみにこれ、授業中には使わない"さやかちゃん専用ノート"だったりする。
その"さやかちゃん専用ノート"の今日描いた分を開き見せると、さやかはみるみる内に顔を紅潮させていた。
「うわああああああっ! あ、あああああたしこんなに可愛くないっての!! 髪なんか長めだし睫毛も長くない!?」
「ええー? これとっても自信作なのにぃ…。あっ、それじゃこれはどうかな?」
読書をするさやか、勉強するさやかの横顔が色んなバリエーションで描かれている。
勿論まどかの補正込みだが、さやかの魅力を前面に出すというのは捉え方としてあながち間違いでもない。
「―――っ!? あたし制服だったでしょ!なんでこんなお嬢様みたいなカッコしてんのよー!?」
「それじゃさやかちゃんこういう服探そうよ。さやかちゃん美人さんだから似合うよー。ほらほらこの絵なんてどうかな?」
「やーめーてぇー!!」
まどかはそのままさやかの絵を描くだけでは飽き足らず、読書するさやかはいろんな服装に変えられていた。
ノートを取り上げてもむしろまどかは「さやかちゃんにあげるね」とでも言いながら喜ぶだろう。
今日も"さやかちゃん専用ノート"にはまどかの夢と希望が描き綴られてゆくのだった。
[横顔]
おしまい。
最終更新:2012年12月15日 14:34