8 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/11/16(金) 23:37:56.03 ID:GbFcSO+gP [1/5]
「まどか。ちょっと、話があるんだけど」
「なに?」
「こっち来て、座って」
「う、うん」
「……」
「あの、さやかちゃん。話って……?」
「うん……すごく言いづらいんだけど、ちゃんと言わなきゃいけないと思って……」
「なんなの……?」
「これ聞いたらまどか、すごくびっくりすると思うんだけど、大丈夫かな……?」
「う、うん。大丈夫だよ。どんな話でもわたし、ちゃんと聞くよ」
「でも……やっぱりだめだ、あたしまどかにこんなこと言えない!」
「そんな、さやかちゃん! 一人で抱え込まないで、何でも言って? さやかちゃんのためなら、わたし……」
「違うの、あたしのことなんかじゃなくて、まどかのこと……。あたし、まどかを傷つけるようなこと言うと思う……」
「えっ……」
「まどか絶対怒るよ、ひどいよ、なんでそんなこと言うのって。あたしまどかを怒らせる、悲しませちゃうよ……そんなの……いやだ……」プルプル
「……でも」
「まどか?」
「わたし、ちゃんと受け止めるよ。さやかちゃんがどんなに辛い話をしても、怒ったりしない。そうできると思う」
「本当に……?」
「うん、誓うよ。だからお願い、さやかちゃん。話して」
「……わかった。ありがとう、まどか……。実はあたしね、まどかのこと……」
「うん……」
「……前から、ずっと……」
「うん……」
「……愛してるんだ!」
「……えっ?」
「だーかーらー、あたしまどかのこと愛してるって言ってんの!」ニカッ
「……それだけ?」
「うん」
「……えっ、ちょっと、さやかちゃんっ!?///」ガタッ
「あはははっ、やーい、引っかかったー! まどか、顔真っ赤だよー?」
「もう、もう、もう! 真剣な顔して何の話かと思ったら! こんな……っ! もおおお!///」カァァ
「あれー? 愛してるって言われて嬉しくなーい?」
「う~~~っ! あのねえ! さやかちゃんが深刻な顔してるから、わ、わたし本当に、不安で!」
「クスクス。なに? 別れ話でもされると思った?」
「されちゃうかと思ったよ! わたしさやかちゃんに嫌われちゃったかと思ったのに……っ!」
「残念! 愛の告白でしたー! 見事に引っかかってくれたね、まどか! 怒った顔もかわいーよ?」
「ひどいよもう! さやかちゃんのうそつき!」
「えー、あたし本当のことしか言ってないしー? まどかを怒らせるかもって。まどかこそ、怒らないって言ったのに」
「うぅぅぅ~~~~、さやかちゃんなんかきらいー! あっち行ってよぉ!」
「そんな真っ赤な顔しながら言っても、説得力ないよー?」ケラケラ
またしてもわたしは、さやかちゃんに引っかけられてしまったのです。
× × ×
9 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/11/16(金) 23:38:51.80 ID:GbFcSO+gP [2/5]
まど界に円環されてきてわたしと結婚してくれ、ずっと一緒に暮らしてくれているさやかちゃんの最近のマイブームは
わたしに一日一回「愛してる」と言ってくれることでした。しかも、それをわたしが予想だにしていない時に不意打ちで
言ってくれるのです。おかげでわたしは「愛してる」と言われるたびに心臓が口から飛び出すかと思うほどびっくりし、
しばらくドキドキがおさまらないほどです。ただでさえさやかちゃんに「愛してる」と言われるのはとってもとっても
嬉しくて幸せなのに、サプライズ効果でそれが何倍にもなるのです。
ある日は、朝食に出てきたオムライスにケチャップで「愛してる」と書かれていました。ある日は、お勤めから
帰ってきたわたしに「お帰り」より先に「愛してる」と言ってくれました。「帰りに大根買ってきて」という電話の
切り際に「愛してる」と言われたこともあります。そして、「愛してる」と言われるたびに恥ずかしさと嬉しさで
顔を真っ赤にしているわたしを、さやかちゃんは毎回心から楽しげにニヤニヤしながら眺めてくるので、その度に
わたしは「次こそはびっくりさせられたりするもんか」と固く誓うのですが、結果はお察しの通りです。
そして、今日。今日のわたしは珍しく、朝目覚めた時から「愛してる」と言われても大丈夫な心構えを忘れずに
いられました。それを知ってか知らずか、朝食の時にはさやかちゃんは「愛してる」と言ってくれませんでした。
ならば、言ってくれるのはわたしがお勤めから帰ってきてからです。うっかり忘れたりしないように、円環のお仕事の
最中もずっとそのことを考え続け、夕方いよいよわたしはさやかちゃんと二人で暮らす家に帰ってきました。
今日こそはさやかちゃんの「愛してる」ににっこり笑って「わたしもだよ、さやかちゃん」と返してみせるのです。
密かな決意を胸に、わたしは玄関のドアを開きました。
すぐに「お帰り、まどか」と言いながらさやかちゃんが出迎えてキスをしてくれます。それから「お疲れ様。今日は
どうだった?」と話をしながらリビングへ向かいます。わたしは今日まど界に導いてきた魔法少女の子のことを
一人一人話し、「さやかちゃんは?」と聞きます。さやかちゃんもお洗濯ものの乾き具合や散歩中に会った友達の
魔法少女の子のこと、今日の夕飯のメニューなどを話してくれます。ここまではいつも通りのわたしたちなので、
わたしはこの後もいつものように振る舞うことにしました。夕食の準備に戻ったさやかちゃんと別れて、わたしは
自分の部屋に戻って女神の衣装から普段着に着替えます。魔法を使って一瞬で着替えるのでわざわざ部屋に戻る
必要もないのですが、やっぱりさやかちゃんの前で着替えるのは恥ずかしいのです。
普段着に戻ってリボンを整えながら、わたしはさやかちゃんのことを考えます。さやかちゃんは、突然の
「愛してる」に不意を打たれてあわあわしたり真っ赤になるわたしを見たがっているようなので、わたしが
身構えているうちは「愛してる」と言ってくれないかもしれません。けれど、いくらわたしでもいつまでも
さやかちゃんの掌の上で転がされているわけにはいきません。こうなったら、さやかちゃんが言ってくれるまで
根比べです。
「まどかー、ご飯出来たよー」
わたしが部屋で決意を固めていると、階下からさやかちゃんが呼んでくれました。わたしはその声に応えて
階段を降り、居間のテーブルにつきます。
「いただきまーす!」
「はい、召し上がれ」
いつも通りの夕飯が始まります。一段と腕を上げたさやかちゃんの料理に舌鼓を打ちながら、わたしはさやかちゃんが
口を開く瞬間を今か今かと待ち構えていました。いつもならさやかちゃんは夕飯の間もとびきり可笑しなお話をして
わたしを笑わせてくれるのですが、やはりわたしに「愛してる」と言ってくれるタイミングを計っているのか、
今日は口数がやけに少なくなっています。この調子では、今日は「愛してる」と言ってもらえないのではないかと
わたしが不安になり始めたその時。
「あのさ……まどか」
さやかちゃんがおずおずと口を開きました。いよいよかと思い、わたしの心臓も跳ね上がります。
「あ……」
ついに来ました。さやかちゃんはわたしに真正面から見られながら言うのが恥ずかしいのか、「あ……」で言葉を
切ってしまいました。目もわたしから逸らし、手に持ったスプーンを意味もなくいじっています。わたしは激しく
高鳴る自分の胸の鼓動をおさえながら、さやかちゃんの顔を見つめます。と、さやかちゃんがそのスプーンを
テーブルに置き、意を決したように目をわたしに据えました。いよいよです。
「赤穂浪士って何人だっけ?」
10 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/11/16(金) 23:40:03.52 ID:GbFcSO+gP [3/5]
「え?」
赤穂浪士? 何を言われたのか一瞬わからず、わたしは戸惑ってしまいます。
「赤穂浪士だよ。ほら、あの忠臣蔵の」
「えっと、確か47人だったと思うけど……」
「そっかー、47人か。いやー、毎年年末になるとテレビで忠臣蔵やるからその時だけ思い出すんだけどさ、いっつも
あれ全部で何人いたんだっけなーって忘れちゃうんだよね。ありがと、まどか」
「どういたしまして……」
からからと能天気に笑うさやかちゃんと対照的に、わたしはひそかに落胆してしまいます。わたしに「愛してる」と
言いづらくて言いよどんでいるのかと思いきや、赤穂浪士の人数を聞きづらかっただけだなんて、まったくさやかちゃんは
紛らわしいんだから。
「あー、すっきりすっきり。あ、そう言えばまどか、あい……」
さやかちゃんに腹を立てていたのもつかの間、わたしの胸のドキドキが再開します。もしかして、今度こそ?
そうです、いくらさやかちゃんだからって、何の脈絡もなく赤穂浪士の話などしないでしょう。おそらく、さっきのは
わたしに「愛してる」と言ってくれようとして、でも恥ずかしくて途中で赤穂浪士のことに話をすり替えて誤魔化した
だけなのです。つまり、さやかちゃんは今度こそわたしに「愛してる」と言ってくれようとしているのです。
期待のあまり、わたしは我知らずテーブルに手をついて身を乗り出していました。
「iPod、欲しがってたよね?」
「へ?」
「iPodだってば。新型も出たし、今度のクリスマスプレゼントそれにしようと思うんだけど、何色がいい?」
「な、何色でも……」
「そう? じゃあやっぱりピンクにするかなー。いやでも……」
さやかちゃんは腕組みをして考え込みますが、その姿はただ単純にiPodの色について思い悩んでいるようにしか
見えません。なんということでしょう、わたしの期待はまたしても裏切られたのです。いえ、そもそも期待していた
こと自体が間違いだったのかもしれません。もしかしたら、さやかちゃんはクリスマスプレゼントのことばかり考えて、
一日一回わたしに「愛してる」と言ってくれることすら忘れているのかもしれません。それなのに、そんなさやかちゃんに
勝手に期待して舞い上がったり落ち込んだりしているわたしがバカみたいです。わたしは落胆もあらわに椅子に腰を下ろしました。
もうさっさと夕飯を済ませて、寝てしまおう。そう思ったわたしは、お箸を手に取って夕飯の残りを口に運びます。
さっきまであんなに美味しかったのに、今はなんだかどの料理も味気なく感じられます。
「まどか、あのさ」
「なに」
再びさやかちゃんが話しかけてきますが、わたしはそれに顔も上げずに生返事を返します。どうせわたしの欲しい
言葉なんて言ってくれないんだから、真面目に相手してあげる気も失せるというものです。
「あいし……」
「え!?」
さやかちゃんの言葉に条件反射的に顔を上げたわたしは、さやかちゃんと目が合います。さやかちゃんはいつになく
きりっとした表情でわたしを見つめてきました。そのさやかちゃんの顔に思わず見とれながら、わたしは三度高鳴る
胸の鼓動を感じていました。やっぱり、さやかちゃんはさやかちゃんなのです。いつだってわたしを気遣い、
優しくして喜ばせてくれるさやかちゃんなのです。最後には必ず「愛してる」と言ってくれるはずなのです。
さっきまでの拗ねた気持ちはどこへやら、わたしの胸は再びさやかちゃんへの期待でいっぱいでした。
「愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ)って知ってる?」
「えっ」
「ほら、中国に昔、清って時代があったじゃん。その時のラストエンペラーの名前だよ。愛新覚羅までが名字なんだって、すごいよね」
わたしは茫然とさやかちゃんを見つめていました。またしても予想外の言葉が返ってきて絶句しているわたしを見て、
さやかちゃんがニヤリと悪戯っぽく笑います。ことここに至って、ようやくわたしはすべてを覚りました。
「さ、さやかちゃんっ!? もしかして、わざとやってるでしょっ!?」
「あれー? 今頃気づいたの?」
激高したわたしを尻目に、心底可笑しそうにさやかちゃんがケラケラと笑います。自分の気持ちを最初からすべて
見透かされながらからかわれていた事実に、わたしはますますヒートアップします。
「もう! もう! ひどいよ、さやかちゃん! わたし、わたしねえ!」
「あー、可笑しかった! もう、まどかの反応があまりに予想通り過ぎて、あたし笑いこらえるの大変だったよー!」
11 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/11/16(金) 23:41:25.03 ID:GbFcSO+gP [4/5]
興奮してまともな言葉にならないわたしに、さやかちゃんはますます大笑いしています。もうわたしは腹が立って
仕方ありません。わたしは音を立てて立ち上がり、自分の部屋に戻ろうとします。そんなわたしの手をさやかちゃんがつかみます。
「離して! さやかちゃんなんか嫌い!」
「ごめんごめん。まどかが可愛くてさ、つい、ね? この通り、謝ります。だから機嫌直してよ」
わたしの手をつかんだまま拝むように謝っているさやかちゃんを見て、わたしの怒りもすこし和らぎました。
ちゃんと謝ってくれるのなら、許してあげてもいいかもしれません。ただし、条件付きです。
「じゃあ、ちゃんと言ってくれたら許してあげる」
「うん、わかってるよ。まどか、あいして……」
さやかちゃんから顔はそらしたままですが、わたしの頬が熱くなります。結局はわたしからねだるような形に
なってしまいましたが、ようやくさやかちゃんに「愛してる」と言ってもらえるのです。さんざんさやかちゃんに
からかわれてささくれ立ったわたしの気持ちですが、さやかちゃんの言葉一つで簡単に機嫌が直ってしまうので、
我ながら現金なものです。というよりもう、わたしはさやかちゃんに対して怒っていません。さやかちゃんの言葉を、
耳をダンボにして決して聞き漏らすまいとしているので、それどころではないのです。しかし。
「アイシティって、まど界にもあったっけ?」
「~~~っ!!! も、もおおお! いい加減にして! さやかちゃんのバカああああ!!!」
わたしはさやかちゃんの手を振りほどき、階段を駆け上がって自分の部屋に鍵をかけ、ベッドにもぐりこんで
わんわん泣きわめきました。
× × ×
翌朝、わたしは泣きながら目を覚ましました。昨晩ベッドで大泣きして、そのまま泣きつかれて眠ってしまったためか、
目がしっかり開けられません。ぼんやりと目を開けると、目の前になんだか柔らかくて温かいものがあります。
気が付くと、どうやらわたしは寝ながらそれに両手でしがみつき、顔を埋めていたようです。一体これは何だろうと
思いながら手を動かすと、なんだかとても安心する自分に気が付きました。顔を近づけてみると、とてもいい匂いが
します。それを握る手に、少し力を込めてみました。すると。
「んっ……」
頭上からよく聞き覚えのある声が聞こえてきました。というか、この手の感触も匂いもなんだかよく知っている
ような気がします。わたしはそんなまさかと思いながら、顔を上げました。
「へへっ、お目覚め? お姫様」
「さやかちゃん!? な、なにしてるの!?」
わたしが顔を上げた先にあったのは、さやかちゃんの笑顔でした。わたしが顔を埋めていたのは、さやかちゃんの
胸だったのです。そのことに気が付いて赤面すると同時に、昨日のことが思い出されます。わたしはさやかちゃんに
からかい倒されて腹を立て、もう顔も見たくないと思って鍵をかけて自分の部屋に立てこもったというのに、
どうしてさやかちゃんがわたしと同じベッドに入って、わたしを抱きしめているのでしょう。
「なにしてるのはひどくない? 寝ぼけてあたしのベッドにもぐりこんできたのはまどかじゃない」
「ええ!? あれ、ここさやかちゃんの部屋!?」
ベッドから半身を起してあたりを見回してみると、確かにここはさやかちゃんの部屋で、わたしが寝ているのも
さやかちゃんのベッドでした。ということは、わたしは夜中に自分で鍵を開けてトイレに立ち、戻る時に部屋を
間違えてさやかちゃんのベッドにもぐりこんでしまったということなのでしょう。顔も見たくないと思っていたのに、
自分からさやかちゃんの胸にもぐりこみに行くなんて、無意識のわたしはなんて節操がないのでしょう。あまりの
恥ずかしさに顔から火が出そうです。
「ほら、まだ早いしもうちょっと寝ようよ」
「きゃっ!」
さやかちゃんに手を引っ張られて、わたしはベッドに倒れこみます。顔はしっかりさやかちゃんの両腕に抱え込まれて
胸に押し付けられます。わたしの両足もさやかちゃんの両足の間に挟まれて捕まり、わたしの体はぴったりとさやかちゃんと
密着してしまいました。
「昨日はごめんね、まどか。愛してる」
「あ、うう……」
さやかちゃんにしっかりと抱きしめられながらささやかれた愛の言葉に、わたしはこれ以上ないくらい胸が
いっぱいになってしまいます。昨日まであんなに怒っていたというのに、わたしの中から怒りがあっけなく
かき消えていくのが感じられます。
「これは、昨日の分。それで今からが今日の分ね」
「わっ」
12 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2012/11/16(金) 23:42:43.63 ID:GbFcSO+gP [5/5]
さやかちゃんの胸に抱え込まれていたわたしの顔が、さやかちゃんの手によって上を向かされます。わたしを
見つめるさやかちゃんとしっかり目が合い、わたしは射すくめられたように動けなくなってしまいました。
さやかちゃんがゆっくりと顔を近づけてきて、唇を重ねてくれます。感激のあまりわたしの全身に電流が走り、
なんだか気持ちがふわっとして体に力が入らなくなってしまいました。そして。
「愛してるよ、まどか」
「は、はい……」
まっすぐに見据えられたまま至近距離で言われた「愛してる」は威力抜群でした。体中がさやかちゃんの愛情で
いっぱいになり、とても暖かな気持ちがわたしを包み込みます。わたしには赤面しながらかろうじて間の抜けた返事を
返すのが精一杯でした。
恥ずかしくて嬉しくて幸せで、わたしは再びさやかちゃんの胸に顔を押しつけます。わたしの顔の熱さがさやかちゃんの
胸に直に伝わってしまい、わたしがどれだけ喜んでいるかさやかちゃんには丸わかりになってしまうでしょう。
それでも、わたしはさやかちゃんに少しでもくっついていたくて、腕に力を込めてしがみつきます。さやかちゃんも、
わたしの体をしっかりと抱きしめ返し、一方の手でわたしの頭を優しく撫でてくれます。わたしは我知らず涙を
こぼして泣いていました。
どれほどそうしていたでしょうか。さやかちゃんに抱きしめられながら、わたしはあることに気付いてしまいました。
わたしのかすかな身じろぎだけで、さやかちゃんも何かを察してくれたようで、わたしの頭を撫でる手が止まります。
「ねえ、さやかちゃん……」
「なあに、まどか?」
「今日は、もう言ってくれないんだよね……?」
今日は、わたしのお勤めはお休みです。なので一日中さやかちゃんと一緒にいられるのですが、今日の分の
「愛してる」はもう言ってもらってしまったので、いくらさやかちゃんと一緒にいてももう言ってもらえません。
そのことが、なんだかさびしく感じられてしまったのです。二日分の「愛してる」でさっきまであんなに幸せだった
のだから、それだけで満足していればいいのに、やっぱりわたしはよくばりです。ですが、さやかちゃんはわたしの
言葉に込められたニュアンスを余すところなく汲みとってくれたようです。
「じゃあ、まどか。一日中言ってあげようか?」
わたしの体を離したさやかちゃんが、自分の体を起こしてわたしの顔の両脇に手をつき、上から見下ろすような
体勢になります。さやかちゃんの片膝がわたしの両足の間に陣取り、ゆっくりとわたしの両足を押し広げていきます。
さやかちゃんの手がわたしのパジャマのボタンを一つ一つ外していきます。わたしの気持ちなんてさやかちゃんには
一から十まですっかりお見通しなことを思い知って、わたしは恥ずかしくて顔を手で覆ってしまいます。だって、
さやかちゃんの言葉の意味はもちろん、一日中わたしとベッドの中で仲良くしてくれるということで。
「どうする? まどか」
悪戯っぽく微笑むさやかちゃんに見下ろされ、わたしは真っ赤な顔を両手で覆いながら、こくりと頷いて>>1乙。
最終更新:2012年12月18日 01:16