3-906

906 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/27(水) 04:34:23.38 ID:c8zfSGEM0 [2/6]
懐かしい感じがした。
心に映るこの景色は、朝の登校、授業風景、夕焼けの教室、休日の雑踏、山、海、誰かの記憶?
あたしを少し低い視点から見つめる。あなたは誰?
ああ、そうか『この娘』は……

?「美樹さやか…?」

この澄ました声は。まさかこの際に来て最後に話す相手があんたなんてね。

さやか「転校生…」
ほむら「……!!あなた…ソウルジェムが!?」
さやか「うん、もう……限界みたい」

駆け寄ろうとする転校生を、あたしは手で制する。

さやか「あたしは、大丈夫だから」

何が大丈夫なんだろう?自分でもよくわからない。けれどあたしの心は凪いだ水面のように波紋ひとつ無い穏やかを保っていた。
あたしは転校生に笑いかける。

さやか「あんたは無事?マミさんや杏子は?」
ほむら「みんな無事よ。あなたが……守ってくれたから」

なら安心した。あたしの力が他の人に効くのかはわからなかったけど、元々『他人の傷を癒したい』ってのがあたしの願いなんだから他人の怪我くらい治せるよね?

さやか「なんかさ、ごめんね。色々…」
ほむら「なにを……」
さやか「『あの娘』が待ってるから、あたしもう行かなきゃ」
ほむら「!あなたまさか……記憶が?」
さやか「うん、戻ったって言えばいいのかな?っていっても、たった今なんだけどね」

そういいながら、あたしはソウルジェムを掲げて見せる。魂の宝石には、かつての面影など微塵も見られないほど、もはや手の施しようが無いくらい黒く濁っていた。

さやか「あんたは『あの娘』会いに行っちゃダメだよ?」
ほむら「ずいぶん……酷いことを言うのね」
さやか「バーカ」

死んで欲しくないって意味に決まってんじゃん。
あたしたちは、たぶん、あたしの知る限りはじめて笑いあったと思う。

907 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/27(水) 04:34:41.22 ID:c8zfSGEM0 [3/6]
さやか「そうだ、これ渡しとく」

そういってあたしはヘアピンを外すとそれを転校生に投げ渡す。
転校生は危なっかし気に両手でキャッチする。

ほむら「これ……」
さやか「あたしのこと、忘れないでよね!」
ほむら「絶対、絶対忘れない。だから…だから……」

雫は瞬時に瞳を満たし、頬へと零れて涙となる。

さやか「泣かないで。また、逢えるか。だから……またね、『ほむら』」
ほむら「うん、うん!またね………『さやか』」

結界が揺らぐ。そこは元の駅のホーム。
結界が消失する時、一緒に戻されたのだろうマミと杏子がほむらから少し離れたところに立っていた。

杏子「ん?おい、さやかは……さやかはどうした!?」
マミ「行ってしまったわ………円環の理に導かれて…」
杏子「バカヤロウ…。やっと友達になれたってのに…!」

ほむらは手に持っていた赤いリボンと黄色のヘアピンをキュッと胸に抱く。

ほむら「……まどか………」

ほむらの嗚咽交じりの呟きにマミと杏子は怪訝な表情を作る。

マミ「暁美さん……まどかって…」
杏子「…誰だよ……?」

2人の声に応えず、ほむらは掠れる様な小さな声で「さやか……」と呟いた。
その声は誰にも拾われること無く、駅のホームに降って消えた…

なにもない空間だった。
いや、微かに見えるあの光。暖かくて懐かしい、『あの娘』の笑顔その物のような光。
ずっと物足りなさを感じていた。そこにあるのが当たり前で、なのにそれがなくて、けれどそれがなんなのか思い出せなくて。
バカだなあたし…ホントにバカだ。『あの娘』はずっとあたしの側にいたのに。
風の中にも。大地の上にも。あたしの中にだって。
ずいぶん遠回りをした、ようやくたどり着いた。
これが、ずっと大事な人を見失っていたあたしの長い旅路の最初の一歩目。ずっと寂しい想いさせちゃったね?これからはずっと側にいるから。

だから、今、逢いに行くよ。

『まどか』

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最終更新:2011年08月18日 18:15
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