3-943

943 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/28(木) 05:13:04.45 ID:pSOX4K5r0 [1/7]
さやか「まどか、準備できた?」
まどか「うん!」

今日はさやかちゃんとお散歩デートです。

さやか「ほい、じゃあこれ!」
まどか「え、わ!?」

突然視界を遮る影と、頭に緩い圧迫感。
これ…

まどか「麦わら帽子?」
さやか「そ!今日は日差しが強いからね」
まどか「さやかちゃんは?」
さやか「あたしは丈夫いからいいのー。ほら行くよー」

そういって歩き出すさやかちゃん。

まどか「わ、待ってよ!」

慌ててさやかちゃんの後ろに追いすがる。

さやか「今日はどこ行こっか?」
まどか「う~ん、歩きながら考えようか。お散歩なんだし」
さやか「そうだね?」

他愛もないことを話し笑いながら歩いていると、ふと小さな路地が目に入った。

まどか「さやかちゃん、ここ……」
さやか「ここって、あ!?ここ……」

私たちは頷きあってその路地に入る。

944 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/28(木) 05:13:51.33 ID:pSOX4K5r0 [2/7]
そこは。

さやか「やっぱり、あの時の坂道だね」
まどか「……うん」

さやかちゃんの言葉に私は小さく頷く。
道の両端には咲き並ぶヒマワリ畑。その先にある坂道。
まだ私とさやかちゃんが小さかった頃、今みたいにさやかちゃんと2人でこの坂道に来たことがある。
今の私たちにはなんて事のない坂、だけどその頃の私たちにはそれがとても大きな、それこそ壁のように思えて。
いつか大きくなったら、この坂道を登れるのかな、その先にある夢の国へ行けるのかななんて。

さやか「行ってみようか?まどか」
まどか「え……でも…」
さやか「大丈夫だって、ほら行くよ」

さやかちゃんは私の手を取ると、スタスタと坂を登りだす。
恐さ半分、好奇心半分。
幼いとき登れなかった坂道を登る。その先にはどんな風景が広がっているのだろう。

まどさや「………あ…」

揃えたかのように同時に、抜けるような声が漏れた。
何のことは無い、子供の頃、夢に見た坂道の向こうは私たちが想像したような夢の世界なんてどこにも無く、振り返ればそこにある見滝原の街並みと同じ別の街並みが続いているだけだった。
幼少の思い出。さやかちゃんと走り回ったあの頃は、毎日が冒険で、この坂道は私たちのその終着点でもあったのに。色褪せたしまった思い出に、表情も自然と暗くなる。

945 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/28(木) 05:14:30.60 ID:pSOX4K5r0 [3/7]
さやか「あー!!もう、よしまどか海行くよ!」
まどか「へ?」

海?

さやか「ちょっとここで待ってて!」

そういい残すと、さやかちゃんはものすごい勢いで坂を下り路地の向こうに消える。
私が声を掛ける暇さえありませんでした。

さやか「お待たせ!」

行きと同じ勢いで帰ってきたさやかちゃん。自転車を牽きながら。

さやか「よし!まどか、乗れ!」
まどか「へ!?あ、はい!」

自転車、しかも所謂ママチャリの荷台を叩きながら一喝。思わず返事をしてしまう。
さやかちゃんがサドルに跨り、私が荷台に腰掛ける。

さやか「腰に手ぇまわしてしっかり掴まってね?」
まどか「う、うん…」

いつも引っ付いたり抱き合ったり口には出来ないすごいことだってしてるけど、改めて腰に手を回そうと思うとなんだか少し照れる。

まどか「とこれでさやかちゃん、なんで坂の下から乗るの?上からのほうが楽なんじゃ?」
さやか「ん?ああ、これ発射台だから」
まどか「へ?」

なんか私、さっきから間の抜けた声ばっかり出してるよね?
さやかちゃんが自転車のペダルに足をかけるのと同時に、私の後ろつまり後輪の泥除けのところから耳を劈く轟音が響く。

まどか「え?」

みなさん、お解かりいただけるでしょうか?
自転車の後部にロケットの様な筒状のものが付いており、その先端からすごい勢いで炎が拭き出しているという光景が。

さやか「エネルギー充填120%!V.O.B.(ヴァンガード・オーバード・ブースター)・コントロール、オールクリアー!無限の力、今ここに解き放ち、次元の彼方へ突き進め!」
まどか「さやかちゃん!待っ、」
さやか「発・進・!」

946 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/28(木) 05:15:36.40 ID:pSOX4K5r0 [4/7]
私たちは風になりました。
有史以来、人が生身で音速の壁を越えたことがあったでしょうか?いいえ、人類は私たち魔法少女でも恐らく無いでしょう。
ガラスの砕けるような音と共に、急速に景色が後方に流れていく。
時速約2000km。音速の約1,75倍。超音速旅客機ファイヤーフラッシュ・アトミックエアライナー・MkⅤの約1/3に迫る速度です。
音速を超える物体、つまりは私たちから発生するソニックブームが外壁を引き裂き、ガラスを粉砕し、天を突く摩天楼を根こそぎ倒壊させていく。
魔法少女の住む見滝原以外の街並みは全部張りぼてだけど、さやかちゃん……これはやりすぎです。

まどか「さやかちゃあああああああぁぁあぁっぁぁあんんん!!!!!!」
さやか「なぁぁぁあぁぁぁににいいいいいぃぃぃいいい!!!!????」

声が流されて聞き取れません。
さやかちゃんも同様らしく、いくら声を張り上げても聞こえません。

まどか「やぁぁぁありぃぃいいすうううっぅぎいいいぃぃ!!!!」
さやか『もうすぐ突くから準備して!』

頭の中に声が響く。あ、そっかテレパシー。
といいますか、もう着くって。というか準備ってどうすれば?

『V.O.B.使用限界。パージ』

ママに似た雰囲気の大人びた女の人の声が響いた。
あ……さやかちゃんのうなじ。昨日、私が付けたキスマーク///
などと、一瞬でも気を抜いた私がバカでした。
衝撃、暗転、再度衝撃。目、鼻、耳、口に水と感触と潮の香り、浮遊感。
水中から見る太陽はとても綺麗で、海面の揺らめきに合わせて形を変えるそれはどこか儚く見えて。
私の意識はそこで途切れた。

947 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/28(木) 05:18:00.85 ID:pSOX4K5r0 [5/7]
誰かが私を呼んでる。
大好きで、とても大切な人の声。
薄く目を開くと、私を心配気に覗き込むさやかちゃんの顔がありました。
ああ、そうだ。さやかちゃんの無茶で私、海に落ちて…
一生懸命に私に呼びかけるさやかちゃんが、なんだか可愛く思えて。さっきの仕返しも含めてもう少し気を失った振りをしておこう。

さやか「どうしよう…やっぱりこういう時は……今更恥ずかしがるなあたし!それに今はそんな場合じゃない!」

さやかちゃん、なにを悩んでるんだろう?

さやか「行きます!」

私の後頭部に手を差し入れて頭を支えると……この唇の感触、キス!?じゃなくて、人工呼吸かな。
でもさかやちゃんちゃんとした人工呼吸の仕方わかってないみたい。一生懸命息を吹き込んでくるけど、ん…なんだか頭がクラクラしてきちゃう。
もう我慢できない。私はさやかちゃんの頭を手で押さえると、息を吹き込むために開けていた口に舌を差し入れて。

さやか「!?!?」

驚きに見開かれたさやかちゃんの空の様な青みがかった瞳と目があって。
私は一気に上体を起こし、さやかちゃん覆いかぶさりました。

◇◆◇◆◇◆

一悶着あった後、私たちは並んで砂浜に腰を下ろして海を見ていました。
視界の隅にバラバラになったロケットの破片、拉げた自転車、深く抉れた砂浜が見えますが無視しておこう。

さやか「綺麗だね」
まどか「うん」
さやか「まどかの方が綺麗だよ」
まどか「さやかちゃんには負けます~」
さやか「この、可愛いやつめ!」
まどか「ティヒヒヒ」

じゃれあいながら笑いあう。ありふれた、けれど大切で、私の大好きな時間。


948 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/07/28(木) 05:19:42.11 ID:pSOX4K5r0 [6/7]
ひとしきり笑いあって、急にさやかちゃんは遠く、水平線を見つめる。

さやか「ねぇまどか。あの水平線の向こうには何があるのかな?」
まどか「え?」

突然の問いかけに、私もさやかちゃんに習って水平線を見つめる。
水平線の向こう。何がありのだろう、そもそも何かあるのだろうか?
ここは私が創った世界で、見滝原市以外は全部張りぼてで、海を越えても昔学校で習った天動説のように世界は途中で途切れているかもしれないのに。

さやか「いつか行ってみたいね?」
まどか「何も無いよ」
さやか「まどか?」
まどか「海の向こうには何も無い。ここは、この世界は私が創った魔法少女のための箱庭。見滝原の外には何も無いよ」
さやか「あたしはそうは思わないな~」
まどか「どうして?」
さやか「だってその方が楽しそうじゃん!」
まどか「楽しそう?」
さやか「うん。さっき、子供の頃の登れなった坂道を登れた。その先にはありふれた街並みしかなかったけど、けれどその景色はちゃんとそこにあったよ。ならあの向こうだって何かあるかもしれないでしょ?」
まどか「そうなのか?」
さやか「そんなのわかんないよ。だから行きたいんじゃ?無いならまた探せばいいじゃん、道は四方に広がってるよ」

そういってさやかちゃんは両手を広げながら天を仰ぐ。

まどか「あはは、さやかちゃんがそういうならなんだかそんな気がしたくるよ」
さやか「そうでしょう?だからさ、いつか一緒に行こう」
まどか「うん!絶対行こうね、一緒に」

そして私たちはまたひとつ、小さな約束を交わした。
いつか行ってみたい。さやかちゃんと一緒に、水平線の向こう……ううん、深く蒼い瞳のような空の終わりまで……

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最終更新:2011年08月18日 18:15
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