479 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/03/24(日) 02:00:48.92 ID:5dhzepDd0 [1/2]
久し振りにろだにてお話を投下させていただきます。
[魔法の眼鏡]
「さーやかちゃんっ♪」ギュッ
「うっひゃああああ!!///」
不意にまどかに抱き付かれたあたしは、恥ずかしさの余り慌ててジタバタと振り解いていた。
…あれからいつもそうだ。
以前はよくあたしの方からふざけて抱き付いていたのに、今では丸っきり逆の立場になってしまった。
あれからって言うのは、所謂その…あたしがまどかに"好き"って感情を抱いてからの事だ。
あたしの初恋が終わってからだけど、それは確かにあたしの中で少しずつ芽生えていた。
まどかは元々ずっとあたしの事が本気で好きだったみたいだから、鈍感だったあたしはある意味自業自得とも言える。
「ねーさやかちゃん? 一緒にお弁当食べようよ。」
「あ、あああああたし今日はいいから! んじゃっ!」
楽しいお昼休みが始まったと言うのにあたしは一目散に教室を飛び出す。
しっかし幾ら自業自得だからって、これはあんまりな仕打ちじゃないだろうか。
「はぁっ…。」
誰も居ない日当たりの悪い校舎裏でだらしなく壁に背中を預けるあたし。
まどかをまっすぐ見れない自分自身への情けなさと、純粋にあたしを好きで居てくれるまどかへの罪悪感が溜息に変わっていた。
[魔法の眼鏡]
(ギュッ)
「―――っ!? うひゃっ!!」
いきなり手を握られたあたしは思わず声を上げてしまう。
でも振り向いた方向に居たのは意外な奴だった。
あたしはてっきりまどかがそこに居ると思ってたから。
「ふふふ、面白い反応ね♪」
「なんだびっくりしたー…ほむらか…。なんであんたがここに…?」
「貴女を笑いに来た、そう言えば気が済むのかしら?」
「ううっ…。」
ニヤニヤと悪戯っぽく笑うほむらさんに何も言い返せなかった。
半分はあたしを心配してくれてるんだろうけど、半分は面白がって顔を見に来ただけじゃないんだろうか?
「そんな迷える王子様へプレゼントがあるの。」
「へ…???」
ほむらが手を差し出すのであたしもそうすると「カチャリと何かが手渡された。
それは何と"眼鏡"。
赤いフチがちょっと目立つ眼鏡を恐る恐る覗いてみると………あたしの視界は特に何も変わらない。
「その眼鏡は魔法少女に伝わる"魔法の眼鏡"よ。度は入ってないから安心なさい。」
「魔法の…眼鏡…???」
あたしは思いっきり目が点になっていた。
いやまぁ確かに奇跡とか魔法とか信じちゃくなっちゃう年頃ではあるけどさぁ、流石に"眼鏡"はないんじゃない…?
「それを掛けていると願いが一つだけ叶うと言われているのよ。騙されたと思って気休めにどうぞ。」
「………はぁ…うん…あんがと…。」
「それじゃ。」
イマイチ信じてないあたしの顔も気にしないで、ほむらはスタスタと歩いて行ってしまう。
魔法の眼鏡ねぇ…そんな物があれば世の中誰も苦労しないと思うんだけど…。
とりあえずその魔法の眼鏡とやらを、あたしは無造作にポケットに仕舞い込んだ。
………………………………………………♭♭♭………………………………………………
(キーン)(コーン)(カーン)(コーン)
午後の授業を適当に聞き流してるといつの間にか放課後になっていた。
鞄を手に取ったあたしの横には懲りもせずまどかがぴったりとくっつこうとしていて、あたしは反射的に離れようとする。
「えへへ、さやかちゃん恥ずかしがり屋さん~♪」
「~~~っ…!///」
鏡を見るまでもなく自分の顔の温度が急上昇してるのが理解る。駄目だ、このままじゃ駄目だ…!
あたしは藁にもすがる思いで、騙されたと思ってポケットの"眼鏡"を取り出してみた。
あいつに貰った眼鏡…魔法なんて信じられないかもしれないけど…もし本物なら―――…
変わりたいんだ、あたし。
これじゃ恭介の時と何も変わってない。また同じ事を繰り返すのは嫌だ。
いつまでもへこたれてばかりのあたしじゃなくて…
ちゃんと好きな人に向き合える自分になりたい!!
―――――――――
――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
「まどか、一緒に帰ろ。」
気が付くとあたしは自分から進んでまどかの手を握っていた。
手の平にはしっかりとまどかの体温が、それに小さな指の感触が伝わって来る。
あれ? あたし何で平気なんだろ。ほむらに貰った眼鏡を掛けた途端に…。
「さやかちゃん…! うんっ!」
太陽みたいに明るいまどかの笑顔は眩し過ぎたりもせず心地良い光に感じた。
さっきまでまどかの顔もマトモに見れなかった自分が信じられない。
魔法少女に伝わる魔法の眼鏡…あたしさっき"好きな人に向き合える自分になりたい"って願ったよね?
もしかしてこの"魔法の眼鏡"のお陰なの!!???
「さやかちゃん、その眼鏡どうしたの?」
「んー? まぁその、イメチェンって奴かなー。」
余裕たっぷりにキリッと笑ってみせるとまどかは嬉しそうにくっついて来る。
小動物みたくスリスリなんてしちゃって可愛いもんだ。
今までくっつくだけでたまらなく恥ずかしかったのが嘘みたいに平気だ。
ヤバい!思いっきり顔がニヤけそうだけど意外とクールに振舞えてるぞ!
っつー事はもしかして、この眼鏡外すと元のあたしに戻っちゃうんじゃ…。
「―――っ!????/// のわああああっ!!」
「さやかちゃん…???」
眼鏡を外してみた途端に体温が急上昇してブッ倒れるかと思ったー!
慌てて掛け直してあたしは何とか落ち着く。ふー、この魔法の眼鏡とやらは凄い効き目だ。
ちょっと訝しげな顔したまどかだけど、あたしの様子を見て「えへへ」とまたくっついて来てくれた。
………………………………………………♭♭♭………………………………………………
この日はまどかと適当に駄弁りながら特に寄り道はしないで帰宅。
明日はなんでかまどかにお弁当を作って来てあげる事になったのだ。大丈夫かあたし…?
帰宅して改めて鏡で自分を見てみると、ちょっとだけ真面目そうな女の子に見えなくもない。
ほむらに言われた通り、この眼鏡に度は全く入ってないらしい。
人差し指でチョイとフレームの真ん中を持ち上げてインテリっぽくポーズを決めてみたり。
別段変って訳でもないし、これはこれはイケてるんじゃないだろうか?
何よりまどかと普通に手を繋いだり、話したり出来るんだからそれ以上に嬉しい事はない。
勿論平気になったからって、あたしの中でまどかを"好き"だって気持ちは変わりない。
何処まで落ち着いていられるか理解らないけど、いつかはちゃんと告白しようと思う。
それから、後でほむらには何かお礼しとかなきゃね。
眼鏡の手入れ方法とかは詳しくないけど、あたしにとって大切な魔法の眼鏡なんだから、寝る前に綺麗にしておいた。
………………………………………………♭♭♭………………………………………………
次の朝…
「さやかちゃ~ん!」
「まーどかっ。おはよ。」
頭半分程低い可愛いピンクの子がやって来る。
朝の挨拶ついでにそうだねぇ…こういう時は両想いらしく、まどかの顎に手を添えてみたりした。
「さ、ささささやかちゃん!?」
「ふっふっふ。好きな人同士の朝の挨拶はこうするものでしょ?」
「ふええええええっ!???///」
っておーい!いきなりハードル上げ過ぎでしょあたし!
内心ちょっと後悔したけど言い出しっぺはあたしだから今更引き下がれはしない。
でも見下ろすと、両手をじたばたして耳まで真っ赤になっちゃまどかがめちゃくちゃ可愛い。
あたしは恥ずかしいとか言う以前にこのまどかがたまらなく愛おしくて、無意識に自分の顔をまどかに落としていた。
あああ…まどかの顔が近付いて来る!!せめて目を閉じてくれー!!
眼鏡してても恥ずいものは恥ずいっすよ!
で、でも大丈夫!今日のあたしは眼鏡w掛けたクールさやかちゃんなのだ! ええい!!
唇に触れると「ふにゅっ」と柔らかくてプリンというかマシュマロっぽい感触だった。
ほんの二、三秒くらいだけど、ちっちゃくて柔らかいまどかを堪能してからあたしは唇を離した。
(きゃあああああ♪)(ひゅーひゅー!)(朝から熱過ぎるぞバカップルが!)(キマシタワー!)
「―――はっ!」
「ふぇぇぇぇぇん!さやかちゃんの馬鹿ぁぁぁ!嬉しいよぉ~♪///」ギュゥゥゥゥ
馬鹿とか言いながら必死にあたしにしがみ付いて来るまどかさん。
正気に戻ったあたしはこの場から消えて無くなりたい気分だったけど、眼鏡のお陰なのか意外と冷静に振舞えていた。
「ごめんごめん。今度は二人きりの時に…ね?」
人差し指をまどかの唇にチョンと置いて落ち着かせる。
するとまどかは何も言わず「えへへへ」と嬉しそうに満面の笑顔を浮かべた。
「さやかさん、まどかさん、お早うございます。」
「おっはよー仁美!」
「ねぇねぇ聴いてよ仁美ちゃん♪ さやかちゃんがね、さやかちゃんがね…」
まどかってばさっき恥ずかしかったのをもう忘れて仁美に報告しちゃってるよ。
相当嬉しかったって事なのかね? いや、朝っぱらから大胆な自分の行動にも驚きだよホント。
「二人共お早う。(どうやら効き目有りみたいね?)」
「(へっへー、見ての通りでございます。)」
仁美に続いてほむらさんも登場。全ては昨日貰った"魔法の眼鏡"とやらのお陰なのだ。
「(貴女達が余りに焦れったくて協力させて貰ったんだけど、ここまで形勢逆転するとは思わなかったわ。)」
「(マジでありがと!今度お礼させてよ!)」
「ねーねーさやかちゃん、ほむらちゃんと何お話してるの?」
内緒話気味に戦況報告をしてるとまどかが不満そうに割って入ろうとした。
「(お礼とかより貴女はこれからもまどかと上手くやる事を考えなさい。)
さやかのイメチェンについて話してたのよ。まどかはどう思う?」
「ほえ? さやかちゃんが眼鏡掛けると美人さんになって、前よりもっと女の子らしくなったと思うよ♪」
「わたくしもそう思いますわ。元々賑やかな印象のさやかさんが落ち着いた雰囲気に感じられますもの。
心成しか物腰も以前より大人びていらっしゃる様で、やはりまず見た目から入ったのが功を奏したのでしょうね。」
「仁美ぃ~、それはちょっと褒め過ぎっしょ~。眼鏡掛けたってあたしはあたしだよ。」
魔法の眼鏡のお陰だって事は取り合えず黙っとく。
そのうちちゃんと話さなきゃとは思うんだけど。今はこうしてまどかに向き合い続ける事が大切だ。
………………………………………………♭♭♭………………………………………………
お昼休みは屋上の日当たりが良い場所でランチタイム。
朝6時から作り始めたので午前中の授業はあたしずっとウトウトしてた。
あ、いつもの事ですね理解ります。
まあ魔法の眼鏡には"頭が良くなるように"とは祈ってないからしょうがない。
タコさんウインナーや卵焼きは多めに作って、焦げ目の少ないのだけ揃えておいた。
出来るだけ色合いも考えて黄色は卵焼きとコーン、緑のブロッコリーとレタスとメロン、赤はプチトマトとウインナー。
あと茶色の唐揚げと黒の糊に白いご飯で配色はばっちしだ。
「どう…かな…?」
「おいひぃ~!卵焼き柔らかいよぉ~♪」
「あはは…よかったー…。パパさんのと比べるのは勘弁ね?」
「ううん!さやかちゃんのお弁当凄く綺麗で美味しいよ! あ、あのね、そのぉ…。」
「何かな?遠慮なく言ってくれていいよ。」
「また今度も作ってくれたら、それはとっても嬉しいなって…。」
あたしに負担掛けるのが申し訳ないと思ってるんだろうな、この子は。
そんな所が可愛くてまた無意識の内にあたしから抱き付いていた。ついでにほっぺに残った糊を頂く。
(ヒソヒソ…さやかさん、お弁当に随分気合を入れたみたいですわね。)
(さやかは本来とても女の子らしい人よ。それを無意識に引き出すまどかもなかなかの甘え上手だけど。)
(ところでわたくし達は屋上へ来たのにわざわざ日陰で何をやっているのでしょうか…。)
(仁美、それを考えたら負けよ…。)
しっかしこの眼鏡、もしてかしてあたしの料理の腕まで上達させてくれたのかな?
それとも好きな人と向き合えたから上手く行ったとか?
でもまぁ…上手く作れたから結果オーライか。
こんな感じで、まどかの頼みならこれからも頑張れる気がする訳ですよ。
………………………………………………♭♭♭………………………………………………
放課後、あたしは洗面所で眼鏡を外し、鏡の前で洗顔してから化粧水なんか付けてみる。
それから香水も少しだけ。
今日はこれから帰りにまどかと二人きりで喫茶店に行くのだ。
化粧水とか香水とか、ホントはまだ中学生には必要無いかもしれないけど。
でもまどかと二人きりで出掛けるなんて考えるとちょっと背伸びしたくなる。
魔法の眼鏡のお陰もあって、好きな子の前でなら女らしいあたしで居られる気がするんだ。
「………。よしっ!」
今日こそ告白決めるぞー!
ほっぺを軽く叩いて気合を入れ直し、眼鏡を装着して準備完了だ。
「まどかー、お待たせー!」
「さやかちゃん!」
校門にまどかを数分待たせていたのであたしはダッシュで駆け付ける。
まどかはすぐに気が付いたらしく、あたしに擦り寄って来た。
「あれ? さやかちゃん、ちょっといい匂いがするね? 授業中はしなかったのに。」
「やっぱ気が付かれたか。帰る前にちょっと香水付けて来たんだよ。」
「くんくん…えへへ、いい匂い♪」
「こぉ~ら。それなんか変態っぽいぞー。」
「ええー。さやかちゃんだってよくセクハラしてくるでしょー?」
「何だとこのー♪」
鼻を身体にくっ付けるのはともかく、積極的に匂いを嗅ぐのが妙に変態っぽい気がしてからかってみたり。
今のあたしなら友達としての"好き"から恋愛感情としての"好き"に変わっても、前みたいに自然にスキンシップが取れるのだ。
(ドン!)
「あっ!すみません!」
あたし等は人目も憚らずじゃれ合っていたので、思わぬ方向にふらふらしていた事に気付かない。
下校中の他の生徒に思いっきりぶつかってしまった。
(ポロッ…)(ガシャーン!)
「―――あっ!!」
げっ!嘘でしょ!? ぶつかった所為で眼鏡が外れてしまった…。
しかも落下したショックでレンズは割れてフレームまでぽっきりと折れちゃってる。
せっかくほむらに貰った魔法の眼鏡が…どうしよう!!
「大丈夫ですか!?」
「さやかちゃん大丈夫!?」
ぶつかった生徒とまどかが心配そうにあたしの顔を覗き込む。
あたしが地面に膝を付いて動けないのは怪我をしたからじゃない。
眼鏡が割れたショックでどうしていいか理解らないからだ。
「あ、ああああああたしなら大丈夫だよっ…!」
案の定、息が掛かりそうなくらい近いまどかの顔に、自分でもみるみる顔が紅潮してくのが感じられる。
近い近い!なんでそんなに顔近いのよぉぉぉ! さっきまで平気だったのに心臓がバクバク言ってるよ…!
「さやかちゃん…???」
あたしが急に手をバタ付かせて慌てるものだからまどかがますます心配して近付いて来る。
好きな人の身体が密着してるって感じて、あたしは無意識に後ずさってしまった。
「ご、ごめんまどか! あたし先に帰るからっ! んじゃっ!!」
もうまどかの顔をマトモに見れなかった。
やっぱり魔法の眼鏡が無いと、ちゃんと好きな人と向き合えない、いつもの臆病なあたしだ。
気が付いたら、あたしは逃げる様にしてその場を後にしてた…。
………………………………………………♭♭♭………………………………………………
「うわああああああ!! あたしの馬鹿ああああああっ!!」
自室のベッドにあたしは鞄を放り投げて独り喚いていた。
つーか何やってんのよ、マジで…。デートの約束すっぽかしてまで逃げ帰るなんて最悪だよ…。
でも…やっぱりあの魔法の眼鏡が無いと駄目だった。
好きな人の顔すら見れないあたしに戻ってた。
変わりたいって願って、それが叶ったって思ったけど、本当の自分は何も変わってなかったんだよね…。
………………………………………………♭♭♭………………………………………………
こんな憂鬱な朝は久し振りだった。
学校には行きたくない…まどかに合わせる顔が無いから。
でも行かないとまどかが心配するし………で、結局あたしは渋々登校する事にした。
「さやかちゃん…お早う…。」
「―――!! お、おはよまどか…。」
ううっ…限り無く気拙い…。て言うか悪いのは120パーセントあたしなんだけど。
でも先に口を開いてくれたのはまどかだった。
「あ、あのね…これ、昨日さやかちゃんが忘れて行った眼鏡だよ。
壊れちゃったけど一応渡さなきゃって思って…。」
まどかの手の平には無残に壊れてしまった魔法の眼鏡があった。
割れたレンズの破片まで残さずに、わざわざこれ拾い上げてくれたんだ…あたしの為に…。
「まどかさん、さやかさん、お早うございます。」
「まどか、さやか、お早う。」
「あっ! 仁美ちゃん、ほむらちゃんお早う。」
仁美とほむらが登校中にタイミング良く合流出来たのは多少なりとも救いだったかもしれない。
少なくともまどかと二人よりは気が重くならずに済みそうだ。
現実からちょっとでも逃げられる様な気がしたから…。
「あら? その眼鏡…。」
「―――ごめんほむら! せっかく貰った魔法の眼鏡…壊しちゃってさ…。」
「「魔法の眼鏡???」」
まどかと仁美が声を合わせて聞き返す。
この際だしもう正直に話しちゃおう。
まどかにもちゃんと謝んなきゃいけないし。
「あのさまどか…。怒らないで聴いてくれる…?」
「うん???」
「こないだからさ、あたしがちゃんとまどかに向き合えてたのはね、この眼鏡のお陰なんだ。
あたしがあんまりにも情けないからさ、ほむらに貰ったんだ。
魔法の眼鏡って言って、これを掛けてると願いが一つだけ叶うんだ。」
今もあたしは俯きながら、まどかとちゃんと目線を会わせられずに話してる。
「それで、さやかさんはその眼鏡に何を願ったのですか?」
「あたしはね…"好きな人に向き合える自分になりたい"って願ったんだ。
それからはまどかに抱き付いてもキスしても結構平気だった訳ですよ。
だから………その……ごめん…。」
あたしは唯謝る事しか出来ない。
けど優しいまどかは多分あたしを責めたりはしないだろう。
そしたらきっとまた、あたしはそんな自分が嫌になる…。
「ププッ…クスクスッ…!」
「ほむらちゃん…???」
あたしがまどかに謝ってるのを見て何故だかほむらが必死に笑いを堪えていた。
手で口元を押さえてプルプルと震えてる。
「ごめんなさいさやか。それ嘘よ。
そんな都合の良いアイテムがこの世にある訳ないじゃない。」
「………。はい…???」
あたしは口をあんぐりと開けていた。
いや、たぶんまどかも似た感じだと思う…。
「だから嘘なの。あれは何の変哲も無い唯の眼鏡よ。
余りにも貴女がもどかしかったから、何かの切っ掛けになるかと思って悪戯してみたの。
思った以上に信じ込んじゃうから可笑しくて…ふふっ♪」
笑い過ぎて目にちょっと浮かんだ涙を指で掬うほむらさん。
ってちょっと待てぇ! 唯の眼鏡だった…って事は、あたしは見事に騙されてたって事…!?
「成程、最近のさやかさんが妙に積極的だったのはそういう理由があった訳ですのね。
でもさやかさんは嘘だと気付かずに、知らず知らずの内にご自分のお力でまどかさんに向き合っていた…と。」
「そういう事よ。それに貴女、さっき眼鏡の説明をしてた時にまどかへの告白同然だったじゃない。」
「はいっ!???」
あたしは自分の言葉を思い返してみた。
まどか本人に思いっきり"好きな人に向き合える自分になりたい"って…!
「さやかさんは先日、ご自身の意思で朝からそこら中の生徒にキスを見せ付けていらっしゃいましたし、なかなかの度胸をお持ちの様ですわね♪」
「えへへ! さーやかちゃ~ん♪ わたしも大好きだよ!さやかちゃん大好き!」ギュッ
「うっひゃああああああ!!」
やっと頭が正常回転し始めた頃にはまどかの顔が密着しててまどかのいい匂いがあたしの鼻に届いてた。
魔法の力に頼ってたって思ったら全部自分の力って事ですかー!
それじゃあたしは今まで何やってたんだぁー!うわああああああっ!!
「わたしはどんなさやかちゃんだって大好きだよっ!
かっこいいさやかちゃんも恥ずかしがり屋さんなさやかちゃんも大好きっ♪」
「あ、あああたしもまどかがす、すすすすす…―――あっ………」
なんか心臓壊れそうなくらいドキドキしまくって急に視界が…
目の前に映るまどかの顔が遠くなって……あたしの記憶はその辺りで途絶えてしまった。
「さやかちゃん!?」
「ちょっとさやか!?」
「さやかさんしっかり!」
………
………………………
………………………………………………
で、あたしが目を醒ましたのは保健室のベッドの上だった。
何も変わってなかったんじゃなくて、変わりかけてる自分に気付かなかったってのが正しいんだろうね、きっと。
料理が上手く行ったのも結局自力だったんだと思う。
これからももっとまどかの為に頑張ってみようかな。
そんなこんなで今日は昨日の埋め合わせに、改めてまどかと二人で喫茶店に行く事になりましたよーっと。
いつか健気で優しいまどかの相手に相応しいあたしになってやるんだから。
[魔法の眼鏡]
おしまい。
最終更新:2013年05月22日 08:08