424 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 02:37:54.57 ID:F+VVgqc80 [2/8]
ちょっと時間経ちましたが、コンサートホールと聞いて何故か頭に思い浮かんだこんな光景をその場でお話にしてみました。
送信者:王子様
本文:見滝原会館のホールで待ってるから。出来れば一人で来てね。
「(??? さやかちゃん、わたしをコンサートに誘ってくれたのかな? でも何のコンサートなんだろう…。)」
ある日の学校帰り、姿を見せないさやかに代わってまどかの携帯電話が振動でメールの受信を伝える。
待ち合わせ場所は何故か駅近くにある会館、しかもホールだった。
大好きな人が"待ってる"と言のだからまどかとしても行かない訳にはいかない。
他の友達二人にごめんと謝ってから、まどかは一人駅前のホールへと向かうのだった。
―見滝原会館―
五分も歩けばすぐに見滝原会館へは到着する。
どうせ待ち合わせるのなら会話し易い建物の前やロビーにして欲しかったが、やはりまだ目当ての人物は見当たらない。
それにしても今日は平日の夕暮れ直前。
何かの催し物が行われる訳でもなさそうで、さやかはおろか人影は誰一人として見当たらない。
「(おかしいなぁ、今日平日だし何も書かれてないけど…勝手に入っていいのかなぁ…?)
し、失礼しまーす…。」
まどかは恐る恐る入館するが、建物内も外同様に静けさで満ち足りていた。
しかも廊下の天井に設置された照明は点いたままで。
メールに示されている目的地へは、このコンサートホールへの扉を開けるだけだ。
(ギィ…)
「…さやかちゃん? 居るの…?」
コンサートホールの中は照明のみが点いていて、やはりこの場所も無人だった。
まどかはたった一人、周りと見渡しながら一歩一歩舞台の方へ歩み寄る。
『さやかちゃんコンサートへようこそ、まどか。』
「―――ふえっ!?」
突然響いた声に驚いて、思わずまどかは足を止めた。
視線の先…舞台の上に居るのは先程までまどかと同じ学生服姿であったさやかだったのだから。
「さ、さやかちゃん…!?」
見た事の無い水色のドレス姿に身を包み、ヒールとナチュラルメイクで着飾ったさやかはとても美しかった。
彼女が普段ははボーイッシュで強気な少女であるなど、初めて見た人間なら到底信じられないであろう。
今目の前に立つさやかは清楚で可憐なお嬢様のような井出たちで、少し恥ずかしそうにまどかを見つめる。
「いきなり驚かせてごめんね。今日はまどかがあたしのたった一人のお客さん。」
「ええっ!?」
「去年の今日を覚えてる? 初めてあたしとまどかが付き合い始めた日なんだよ。
あたしの世界で一番大切なまどかに贈り物。聴いてください。」
舞台の中央には予め演奏の準備が整っていたグランドピアノが置かれていた。
さやかは椅子にゆっくり腰を落とし、静かに指を奏で始める。
さやかが"まどかの為に"ピアノを弾くようになってから一年。
本人の自己評価は相変わらずだが、今では中学生のピアニストとしては十分誇れるレベルになって来たものだ。
まどかは中央の席に一人座り、初めて耳にするこのフレーズに自然と聞き入っていた。
425 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 03:07:50.66 ID:F+VVgqc80 [3/8]
まどかと初めて出会ってからさやかの視点で物語は始まる。
小学生の頃から一緒に過ごし、苦い恋をして自分の迷いと決意が、小さな組曲のようにピアノで表現されてゆく。
決意の先にあるのは、幼い頃に似た風景ではあるものの、友情が愛情に昇華した春めく世界。
序章で記憶に残るメロディが曲調を変えて終章に現れる、世界中の誰でもない二人だけの楽曲。
426 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 03:10:34.71 ID:F+VVgqc80 [4/8]
さやかが鍵盤とペダルを離し音を終えた後、まどかはしばらくポ~ッとしていて拍手をするのも忘れてしまっていた。
「どうだった…かな…?」
「あ、あの! えっと…そのっ…!」
こんな時どんな言葉でお礼をすればいいのだろうか?
さやかがくれたものが余りにも壮大過ぎて良い言葉がすぐに思い浮かばない。
まどかは頭で考えるのをすぐに諦めた。
427 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 03:14:38.28 ID:F+VVgqc80 [5/8]
(タタタタタ…)
舞台へ一直線に走り出し、その勢いで舞台の前方に置かれた階段を駆け上がるまどか。
そうだ。めいっぱい気持ちを伝える方法は、親友だった昔も恋人同士の今も変わらないのだから。
「さやかちゃん! ありがとぉ~っ!!」
「ひゃっ!? まどか…!」
まどかは椅子から立ち上がったドレス姿の姫君を思い切り抱きしめたのだ。
躊躇う事なく身体を密着させ、腕を絡ませて最愛のスキンシップ。
「美人さんでピアニストのさやかちゃん凄いよぉ~♪ わたし、わたしね…改めてさやかちゃんが大好きになっちゃった!」
「もう、まどかってば~。あたしの格好にツッコまないの?」
「どうして? とっても似合ってるから美人さんだよ。」
「そ、そうっすか…///」
428 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 05:24:01.14 ID:F+VVgqc80 [6/8]
率直に褒められてさやかは思わず顔を背けた。
…が、それさえも愛おしく感じたまどかは追い討ちで頬を摺り寄せる。
薄く薫る香水の匂いは今のさやかに似合うシトラスの薫りだった。
「さ~やかちゃ~ん♪」
「おわぁっ!?」
くるくると踊る無邪気なまどか。心地良くてついそれに甘えてしまうさやか。
二人は一度ぐるりと回転した後、水色のお姫様は腕の中の花を抱き留め唇を落とすのだった。
世界でたった一人の愛する人の為の、二人だけのコンサートは大盛況だったそうな。
おしまい。
途中で規制掛かって分割です。読み辛くてゴメンナサイ。
最終更新:2013年12月04日 19:18