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116 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/14(日) 19:00:26.92 ID:Xjw++wgo0 [8/11]
まどか「え!?明日の入学式、ママ来れないの?」

夜の食卓で私は驚きの声を上げる。パスタのお皿を突いていたフォークを止める。

詢子「悪いまどか!急な会議で、どうしても外せないんだホントにゴメンな」
知久「僕もタツヤを見てないといけないから…」
まどか「ううん、大丈夫だよ!だって私もう中学生だもん」

それから、おざなりの会話を終えて私は早々に席を立ってしまった。

翌朝、私は1人で家を出る。
朝の澄んだ空気を深く吸いながら新たな学び舎への道を歩く。

まどか「あれ!?」

フッと我に返ると、まったく見覚えの無い場所に立っていた。
俯いて歩いてたら道間違えちゃった…
慌てて引き返して、正しい順路に戻る。けれどそこには同じ制服を着た子は1人もいなくて。

まどか「……うっ………」

涙が溢れそうになる。
入学式、楽しみにしてたのに。いつもウジウジして後ろ向きで、けど中学生になったら変われると思ってたのに。いつまで経っても私はずっと弱いままで。
このまま帰っちゃおうかななんて思ったとき。

?「どうしたの?大丈夫?」

後ろから声を掛けられた。

まどか「え?」

振り返ると、同じ見滝原中の制服に身を包んだ女の子が立っていた。
背、高いな。活発そうなショートカットに整った顔立ち。一瞬だけ男の子かと思っちゃったけど、ちゃんと見れば女の子らしい可愛らしさもちゃんとある。

?「泣いてるの?」
まどか「え!?あ…あの、」
?「はい!これ使って」

そう言って女の子はハンカチを差し出してくれる。
思わず受け取ってしまう。

まどか「あ、あの…ありが」
?「涙には、人肌がいいんだって」

いいながら私は頬を撫でられた。気恥ずかしさと照れくささで顔が真っ赤になる。
手渡されたハンカチをギュッと握り締める

117 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/14(日) 19:02:43.46 ID:Xjw++wgo0 [9/11]
?「落ち着いた?じゃあ、行こう!」

女の子は私の手を取って歩き出す。暖かくて優しい、けど力強い手だった。
先輩…かな?

?「いや~、寝坊した時はどうしたもんかと思ったけどまだ人がいてくれてよかったよ」
まどか「あの…私」
?「あ、ゴメンね?1人でペラペラしゃべっちゃって、入学式で舞い上がっちゃってて」
まどか「え…?」

入学式。じゃあこの人…この子も私と同じ新入生なんだ。

?「よ~っし、到着!」
まどか「え?…あ!」

気が付くとそこはもう見滝原中学の敷地内だった。

?「おっと、急がないと式始まっちゃうね?じゃあ、またね!」

離れていく手の温もりに僅かな名残惜しさを感じる。
反対の手に握っていたモノを思いだして私はハッとなる。

まどか「あの!これ」

手を振って呼び止めるが、女の子はもう見えなくなっていた。
それから式はつつがなく終わった。正直、校長先生の話とかあまり聞いてなかった。新入生歓迎の辞を読んでくれた先輩の声と髪型だけをぼんやりと覚えているだけだった。
そういえば私、お礼もろくに言えなかった…
ホールから人の波が吐き出される。私は扉の隅に立ち、朝の女の子を必死に探す。ハンカチを返してお礼を言って、ううん…違う。もう一度会いたい。会って話がしたい。それで、もしよかったら…友達になりたい。

まどか「あ!」

思わず声を張り上げていた。いた、見つけた!人垣の向こう、見間違える筈なんて無い。
私は人の壁を掻き分けながら、必死に進む。

まどか「あの!!」

自分でもビックリするくらい大きな声が出た。けれどそれが功を奏して彼女に気付いてもらえた。

?「あ、あ~今朝の子。どうしたの?」
まどか「あの、えっと…」
?「ここじゃ人の邪魔になっちゃうね。場所変えようか?」
まどか「あ」

再度、私の手を取ってくれた優しい手。

再度、私の手を取ってくれた優しい手。
私たちは場所を移し、桜並木の木陰に立つ。

118 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/14(日) 19:03:42.09 ID:Xjw++wgo0 [10/11]
?「それで、どうしたの?」
まどか「あの、えっと…これ!」

私は借りていたハンカチを差し出す。

まどか「ありがとうございました!」
?「あ、こら。あ~ゴメンねわざわざ」
まどか「それで、ええっと……その…」

言う。言うんだ「友達になってください」って、今言わなきゃきっと一生いえない。たった一言、一言なのに言えない。喉まで出掛かったてるのに、魚みたいに口をパクパク開閉させるだけで言葉にならに。
苦しい。苦しくて、情けなくて、また涙が溢れそうになって。
そっと、両手を温もりに包まれた。

?「がんばって」
まどか「!……私と、私と友達になってください」
                      
結んだ手をそっと持ち上げ、咲き誇る桜の満開の下、満面の笑みをもって。

?「うん!」

そう、頷いてくれた。

まどか「私、まどか。鹿目まどか」
さやか「あたしは、さやか。美樹さやかだよ。よろしくね」
まどか「よろしく。えっと……美樹、さん…」
さやか「さやかでいいよ、まどか」
まどか「うん!さやかちゃん」

私たちは並んで歩く。
新しい学校を、新しい制服を着て、新しい友達と。
並んで校門をくぐる時、私はあることを思い付く。

まどか「そうだ、さやかちゃん。写真撮ろうよ」
さやか「写真?」
まどか「うん!」

私は鞄からコンパクトデジカメを取り出す。

まどか「せっかくの入学式だもん」
さやか「あたしたちの友達記念日だし、ね?」
まどか「あ……うん!」
さやか「えっと、じゃあ……すいませ~んシャッター押してもらえませんか?」
?「私?」
さやか「はい、頼めますか?」
?「いいわよ。じゃあ並んで」

私はさやかちゃんと校名の刻まれたプレートの前に並んで立つ。

まどか「なんだか、ちょっと照れるね」
さやか「えへへ、まぁね」
?「もっと寄ってね。じゃあ撮るわよ?」

カシャリっと乾いた音がしてシャッターが切られる。
これから、さやかちゃんとの思い出をたくさん残そう。ある時は写真に、ある時は形に、ある時は心に。
遠い未来に、いつか形が綻んでも、いつか心がセピア色に染まっても。絶対に忘れないように、またその時の気持ちを思い出せるように。
これはその最初に一枚。私たちの最初の一歩目。

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最終更新:2011年08月22日 17:48
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