5-514

514 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/18(木) 05:39:28.37 ID:/+MXY7Tp0 [1/6]
まどか「ん……」

呻き声をひとつあげ、私の意識はまどろみの中から引き上げられる。
目を開けるとそこには、見慣れない見慣れた天井。

まどか「そっか、私」

今日、さやかちゃんの家に泊まったんだった。
首をひねって隣を向けば、安らかに寝息を立てるさやかちゃんの横顔。
私は再び天井を見上げる。
今の不安定な状態じゃ魔女退治なんて行かせられない。私は渋るさやかちゃんを半ば強引に説き伏せ、今日一日はお休みしてそのまま無理矢理お泊りして今に至ります。

さやか『でもあたし…なんにもできない』

さやか『だってもう死んでるんだもん、ゾンビだもん…』

さやか『こんな身体で抱きしめてなんて言えない。キスしてなんて言えないよ…………』

さやかちゃんの言葉、悲しみが胸の内に反響する。
私にはさやかちゃんにかけてあげる言葉も、その資格もありません。なにを言ったってそれは結局、第三者の無責任な同情でしかなくて。ただ闇雲にさやかちゃんを傷付けるだけでしかなくて。
私はシーツを被り直す。ふわりと、甘い香気が鼻腔をくすぐる。さやかちゃんに借りたパジャマを着て、さやかちゃんのベッドに包まっている。さやかちゃんの匂い、さやかちゃんの温もり、さやかちゃんのさやかちゃんのさやかちゃんの……
そっと身を起こし、いまだに眠り続ける親友の寝顔を覗き込む。

まどか「さやかちゃん、私ね…さやかちゃんの事が好きなんだよ?」

きっとこの言葉を伝えても、さやかちゃんは「あたしも好きだよ」って笑いながら応えてくれるのだろう。けど、きっとさやかちゃんの「好き」と私の「好き」はきっと違う意味なんだろうな…
私たちはお互いが大好きだった。いつからだろう2人の「好き」がズレてしまったのは。

まどか「さやかちゃん、好き。大好き」

私の視線がさやかちゃんの顔をなぞる。

まどか「さやかちゃん……」

515 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/18(木) 05:41:28.87 ID:/+MXY7Tp0 [2/6]
まどか「さやかちゃん……」

気付けば私は彼女の頬に口付けを落としていた。時間にしておおよそ3秒。私はそっと唇を離す。
一度外れた箍は、私の理性を容易く押し流し、長年押し殺し続けた感情の奔流は漲る洪水となって私を突き動かす。

まどか「チュッ…好き、さやかちゃん!好き、チュッ、大好き。さやかちゃんさやかちゃん……」

額に、目蓋に、眉間に、目元に、頬に、耳に、鼻に、顎にキスの嵐を降らせ続ける。
さやかちゃんの顔中触れていないところが無いくらいにキスをする。ただ一点を除いて。
私の動きがピタリと止まる。その部位を凝視する。唇。その禁忌の聖域。触れたい、私の唇を押し付けておそらくファーストキスであろうそれを奪ってしまいたい。
今のこの瞬間を誰も見ていない誰も知らない、さやかちゃん自身すら知らない。私だけのさやかちゃん。今なら、何をしても気付かれない。自分の胸の内にのみ閉まっておくことが出来る。
それでも私の中のなにかが私の動きを抑止する。代わりに視界が霞み、目蓋の内側を満たし、溢れ出た雫が涙となって室内に、大好きな人の頬に小さな雨を降らせる。

まどか「さやかちゃん。さやかちゃんは女の子で、私も女で、だから…抱きしめてなんて言えない。キスしてなんて言えないよ……」

溢れ出る涙は止まらない止められない。女の子同士なんておかしいよね?わけわかんないよね?気持ち悪いよね?
なにより私は、仁美ちゃんが上条君と上手く行けばいいとほんの一瞬だけ思ってしまった。そうすれば、失恋して、人恋しくなったさやかちゃんがきっと私のもとに来てくれるって考えてしまった。
大切な親友の失恋を願い、あまつさえその眠る親友の唇を奪おうとするなんて。自分がこんな汚い人間だなんて知らなかった。臆病なくせに卑怯で、下劣で、最低な。もう、救いようが無いよ。
突然、頭を優しく撫でられた。

まどか「あ……う、え?」

涙を拭い恐る恐る声を掛ける。

まどか「さやか……ちゃん?」
さやか「うん」

ゆっくりと目蓋が開かれる。

まどか「さやかちゃん…その、起きてたの?」
さやか「あんだけされれば、さすがに気付くって」

困ったように笑うさやかちゃん。
サッと血の気が引く音が聞こえた。

まどか「さやかちゃ、ごめ!私、その…ごめんごめんね!!」

最早うまく言葉にすら出来ない。ただひたすら「ごめんなさい」と繰り返し続ける。

516 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/18(木) 05:44:35.61 ID:/+MXY7Tp0 [3/6]
ギュッと温かな温もりに包まれた。

さやか「まどか、落ち着いて。そんなんじゃ、話も出来ないよ」

頭を撫でながら優しくあやしてくれる。子供をあやす母親のように、まるで昔に戻ったみたいな気持ちになる。
ほんの数時間前までとはまったく逆の立場。情けないな私。
しばらくそのままで、ようやく落ち着いてきた私はそれでも僅かにしゃくり上げながら何とか言葉を吐き出す。

まどか「わ、たし…さやかちゃん、が…好きなの」

「好き」という単語だけがイヤに明瞭に出た。私のずっと押し殺し来た気持ちの証明なのだろうか?

さやか「それって、友達としての好きじゃ……ないよね?」

小さく頷く。

まどか「おかしいよね。同性なのに、異性として好きなんて……気持ち悪いよね…」

さやかちゃんは何も言わず、ただジッと私を抱きしめたまま。
不意に、さやかちゃんが口を開く。

さやか「ごめん、まどか。あたし、あんたに謝んないといけないことがある」

私は僅かに身を硬くする。

さやか「あたしね……たぶん、まどかの気持ちに気付いてた」
まどか「…………嘘」
さやか「けど、恐くて聞けなかった。もしかしたらまどかが離れて言っちゃうんじゃないかって思うと」
まどか「…………」
さやか「ねぇ、まどか」
まどか「なに?」
さやか「もしあたしが、付き合おうって言ったら……どうする?」


私は勢いよく首をひねりさやかちゃんの顔を伺い見る。
ふざけた様子など一切無く、真摯な瞳で見つめ返してくる


517 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/18(木) 05:47:38.95 ID:/+MXY7Tp0 [4/6]
さやか「あたし、失恋して悔しくて悲しくて…心の隙間をあんたで埋め合わせようとしてる最低な奴だけど、それでもあたしのこと好きだって言ってくれる?」
まどか「好きだよ!大好き!!どんなさやかちゃんでも、ずっとずっとさやかちゃんが大好きだよ!!」

吼えていた、叫んでいた。深夜だとかマンションだとか近所迷惑だなんてどうでもよかった。伝えたかった、知ってほしかった、そして応えてほしかった。私の気持ちに想いに。

さやか「ありがとう」

そういってさやかちゃんはギュッと私の身体を掻き抱いた。

さやか「まどか、まどかの身体は温かいね」
まどか「うん。さやかちゃんと一緒でね」

息を呑む気配がする。それから必死にかみ殺したような嗚咽が聞こえる。私はただ、さやかちゃんがそうしてくれたようにさやかちゃんの身体を抱きしめ続けた。

さやか「ありがと……もう、大丈夫だから」

私たちはどちらとも無く身を離す。お互い腫れぼったくなった目蓋と頬には涙の後、散々泣きはらした酷い顔だった。堪えきれず、揃って笑い出す。

さやか「あはははははは!まどか、ひっどい顔ー!」
まどか「さやかちゃんだって!あはははははは!」

ひとしきり笑い合ってもつれ合いながらベッドに倒れこむ。

まどか「さやかちゃん、大好きだよ」
さやか「この子はまた恥ずかしげも無く…うん、あたしもまどかが大好きだよ」

ようやく、ズレてしまった私たちの「大好き」は再びかみ合った。
ゆっくりと距離が詰まって行く。相手の息遣いすら感じ取れるほどの近さで。

見滝原の夜景を四角く間切る窓。そこから差し込む月明かりに照らされた私たちの影絵が、静かに重なった。

くちづけにしては長く、愛には短すぎて。けれど私にとって人生で一番幸せだと感じた瞬間だった。

さやか「そうだ、ちょっと待ってて」
まどか「え?うん…」

さやかちゃんは机の引き出しを物色し、あるものを取り出してくる。

さやか「じゃーん!」

それは赤い糸だった。さやかちゃんは私の左手を取り小指に糸の端を結ぶ。

さやか「まどか、こっちにお願い」

赤い糸の反対の端と自分の左の小指を差し出す。私はさやかちゃんがしたのとと同じように糸を結ぶ。
さやかちゃんは小指を掲げ、ニカッと笑う。

さやか「おまじない。もしこれが明日、起きるまでに解けたり切れたりしなかったらあたしたち、きっと上手くいくよ」
まどか「!……うん!!」

私たちはベッドに身を沈める。
赤い糸で結ばれた互いの手を重ね、指先を絡ませあう。2人の絆がけっして切れてしまわないように。


518 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/18(木) 05:52:19.02 ID:/+MXY7Tp0 [5/6]
まどか「ねぇ、さやかちゃん。もし私が契約してさやかちゃんを元に戻してあげるって言ったらどうする?」

脳裏にマミさんの笑顔が浮かぶ。魔法少女になるって約束したのに、怖気づいて逃げ出して、都合がよくなったらまた魔法少女になるなんていい出して。ズルい私で本当にごめんなさい。けど、きっとマミさんなら何も言わずただ微笑みながら背中を押してくれるんだろうな。

さやか「う~ん……いいや」
まどか「いい…の?」
さやか「うん。まどかまでこんな身体になること無いよ。それに、まどかにもいつか命に代えてでも叶えたい願いがきっと見つかるから、その時までとっときなよ」
まどか「うん……」

さやかちゃんがそっと私の頬にキスをする。

さやか「おやすみ、まどか」
まどか「おやすみ、さやかちゃん」

私たちの問題はなにも解決していない。魔法少女のことだけじゃない、私たちの恋は社会では許されない恋。
目が覚めれば、またつらい現実に向き合わなくちゃいけない。清算し切れなかった過去と、現在の障害と、未来への不安と、立ち向かっていかなければならない。
けど今は、ただ、まどろむように君と。

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最終更新:2011年08月24日 18:27
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