いつのまにか長めのものになってしまいました
はっきり言えば3.をやりたいがための1.2.なので長そうと思ったら飛ばしてください。
1.
それは、ある静かな夜の出来事。
私が宿舎の窓からお月様が輝く夜空を眺めていたら、廊下の床が軋む音がしてきたんだ。
こんな時間に出歩く人はいないはずなのに、だけど、その音はこちらへ近づいて来た。
そして、扉を叩く音……
「誰?」
「あたしだよ。まどか」
私の呼びかけに答えて、親しみのある声が聞こえてきたんだよ。
「さやかちゃん!」
思わず座っていた椅子から勢い良く立ち上がると、ドアへ向かったんだ。
いつも側に居て欲しいと思っている人が、夜に会いに来てくれるなんて、嬉しいよね?
それで、わくわくしながら一度ノブに手をかけるけど、慌てて自分の身なりを確認する。
髪よし、顔も……よし、服は寝巻きだし、着替えたほうがいい気はするけど、待たせられないから……まあいいや……
他にも点検してみたけれど、大丈夫そうだった。
少しでも、さやかちゃんにいい所を見て欲しいからね……
用意も出来たことだし、再び部屋の入り口に立つと、そっとさやかちゃんを迎え入れたよ。
最近は軽鎧ばっかりだったさやかちゃんが、普段着でいるのは、なんだか新鮮。
だけど剣は変わりなく、腰に携えている。
「おまたせ、さやかちゃん」
「もう、おっそーい」
さやかちゃんは少し待たされていたから、不満を表すように頬を膨らませる。
「ごめん、ごめん」
「ん、許す」
でも、私がすぐ謝ると、さやかちゃんはニコっと笑って答えてくれたよ。
その笑顔だけで私は癒されるんだ……でも、いつも見慣れている顔なのに、何か違和感があったんだ。
私がベットの上に、さやかちゃんは椅子に座って話しを始める。
今日の授業、昨日の実習、先月の買い物、そして去年の遠足……
おかしい。いつもなら、過去のことばっかりじゃなくて、未来のことも話すのに。
今度あそこに行こうね、とか、卒業旅行をしたいね、とか、そういうことを……
だけど、それには理由があったんだ……
「ま、こんなところか」
「うん?」
「ありがとう。まどかに会えて楽しかった」
「え」
なんでそんな言い方なの?何で悲しそうな顔をするの?何で?何でなの?
それでも、さやかちゃんは話を続けてる。
「ごめん、まどか。約束守れなくて」
約束……それは一緒に卒業しようって言うもの。私達が出会って、仲良くなって初めてして、
でも、まだ唯一まだ達成していないもの。
つまり守れないということは……さやかちゃんが学校を辞めるってこと。
「そんなの嫌だよ!」
「ごめん……」
さやかちゃんは、本当にすまなそうな顔で謝るばかり。
「どうして!」
ついつい声が大きくなってしまうけど、この興奮は抑えられるわけはない。
それは、さやかちゃんにもわかっていたようなんだ。
だから、さやかちゃんは窓の方へ行くと、外を見ながら語り始めたんだ。
「やっぱりあたし、こういうところは向いてなかったんだ……だから領地に戻って跡継ごうかなって」
知っていた。さやかちゃんみたいな純粋な子は、この学校にあわないって。私は、姫という立場があったから守られたけど、
さやかちゃんは貧しい地方の貴族……そういう子は成績に関係なく、いじめられていた。
でもさやかちゃんは、同じ地域の有力者である幼馴染の上条君という子が好きで、追って入学したって理由があったんだ。
だから認められるように、一生懸命努力してたよ。その頑張りに魅せられて、周りに認められるようになって、
ほとんどの人には虐められなくもなったんだ。そして、がんばり自体も実を結び、前回の剣術大会では優勝してしまうほどに。
私の横で、常に輝いていたさやかちゃん。だから私もさやかちゃんを応援していた。
何を?
上条君と結ばれることを。
そう、卒業の年、各自騎士候補生は、仕官する先を探すのだけど、基本は同性の主人を探す。
だって恋愛感情が生まれることを考慮すると、職務を妨げる恐れがあるので、基本推奨されない。
だけどさやかちゃんは、上条君へ仕官することにした。
この場合、相手が異性を登用するということは、つまり恋愛感情を抱いてもかまわないと言うことで、
一種のプロポーズの意味をなしていて、これは有力な家の娘を嫁がせる方法の一個として定着していたんだ。
だからさやかちゃんの求めを上条君が受け止めれば、それは結婚するということ。
でも、その結果は……断られた。
理由は簡単だった。
上条君の家は貧乏な貴族より、有力な商家との結婚を望んでいた。
ただそれだけだった。
優秀だろうと、出の問題で、さやかちゃんは断られたんだ。
そして、さやかちゃんは落ち込んだ。
空元気だけのさやかちゃんを見ていた胸がいたかったよ。
それどころか夜中にやってきて、私の前で泣いたんだ。
今まで一度も、泣いたところを見たこともなかったのに……
でもやっと、最近、何とか立ち直り、前みたいな笑顔をみせてくれるようになって安心していたのに……
「あそこはさ、いっぱい美味しいもの取れるんだよ。臣民も良い人ばっかりで……」
さやかちゃんは、いつも私に故郷の素晴らしさを語ってた。だから知っている。そして、本来さやかちゃんがいるべき場所も。
「そうだ、まどか!もし、来る事があったらおいしい料理ごちそうしちゃう!
って、まどかは姫様だから、勝手に来られないよね……でも、その時は楽しいパーティしようね」
寂しげで、でも、優しい笑顔を向けるさやかちゃんに、私は何も言えそうになかった。
だけど本当にそれでいいの?
「と、こんなもんかな」
さやかちゃんは立ち上がって、出口へ向かって歩いていく。
そして、廊下へと出ようとしたときに、こっちを振り向いて短い言葉を吐いた。
「まどか、今までありがとう。さようなら」
そういって、扉は重々しく二人の間を遮断した。
頭が混乱して、よく考えられなくなってきている。
でも、本当にこれでいいの?
いいわけはない。
私はさやかちゃんといたい。
でも、どうすれば……
そうだ!一つだけ方法があった。
それが頭に浮かんだとき、ベットから飛び降りると、私は必死になってさやかちゃんの元へ向かい、追いついたところで腕をつかんだ。
「さやかちゃん、一緒に来て」
「え?」
「先生のところに行こう」
「行ってどうするの?」
「行けばわかるよ」
廊下を走り、階段を駆け下りて、先生がいる部屋までやってきた。
「先生、起きてください!」
加えてドアを強く叩いた。
「何事ですか!」
顔を出した先生に向かって私は叫んだ。
「私の騎士を決めました。任命式をしたいんです!」
2.
それからが大変。
さやかちゃんや先生になだめられたりしたけれど、私の決意は変らない。
先生は結局折れてくれたけど、式をするためには高位の人が二人、証人として必要だったんだよ。
だから城に連絡してくれて、数人の使者が来ることに。
それまで私とさやかちゃんは話をすることになったんだ。
「ということで、さやかちゃん。私の騎士になってください」
「ちょ、ちょっとまどか。本気なの?」
さやかちゃんは驚いた顔をして、私を見つめている。
それはそうだ、こんなことになるなんて思いもしないだろう、ってことは分かっているんだ。
でも、私は真剣なんだよ。
「うん」
「でも、どうして……」
「さやかちゃんと一緒にいたい……それだけじゃダメ?」
「だめだよ。まどかは一国の姫様でしょ?私なんかじゃ……」
さやかちゃんの反応はもっともで、いくらこっちが求めるような視線を送っても、却下された。
だから、さやかちゃんに向かって気持ちをさらけ出すことにしたよ。
「さやかちゃんが必要なの。さやかちゃんは強いし、意思だってしっかりしてる。
それに女の子には優しいし、弱いもの虐めも嫌い。それに、それに……」
「ね、ねえ、まどか。それってまだ続くの?」
「なるって言ってくれるまで、さやかちゃんがなんで相応しいか説明するよ。じゃ、続けていい?」
自分で言っていても、胸が温かくなるんだ。だって、さやかちゃんの良いところを言っていいんだよ?
その一つ一つの言葉の意味を代表するエピソードが、頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消える。
それは、さやかちゃんと私のアルバムのようになっているんだ。
「わ、わかった。まどかの気持ちはよーくわかったから!……しょうがないなあ、もう……」
さやかちゃんは半ば叫ぶようにして、そして、終わりには優しい目をこっちに向けてくれた。
「じゃあ」
「うん。まどかの騎士になるよ」
そういってさやかちゃんは笑ってくれた。
さやかちゃんの問題は終わった。次は使者を相手にすることになった。
どうやら、さやかちゃんを私の騎士にしたくないようなんだ。
でも、それは先生も協力してくれたんだよ。
例えば資質について。
「美樹さんは立派な生徒です。机上は平均ですが、戦闘、探索は右に出るものがいません。剣術大会の成績でもお分かりになると思います。
私としてはまったく問題がないと考えます」
性格について
「優しくて、気配りができる子です。少し潔癖で、わけ隔てない対応をするため、高位の人との間の会話で、空気が読めないと思われてしまう欠点はあります。
でもそれは、姫の騎士になると言う点で、悪者からの手引きを受けず、汚職からも守ってくれるという利点になります」
こんな具合に先生は一緒になって反論してくれた。
それでも相手は食い下がり、話が平行線をたどりそうになった時、部屋にローブ姿のフードを被った人が現れた。
そして、その正体は!
「やあ和子、お待たせー。それに、まどか、おっひさー。いやあ、実の娘がピンチとなっちゃ、駆けつけないわけにはいかないでしょ」
「ママ!」
そう、この国の王女である私のママ、鹿目詢子、その人だ。
「さて、話しは聞いてるよ。アタシはさやかちゃんに何回かあってるし、あの子はいいと思ってたんだ。
だからあの子がいいってんなら、賛成だな」
王女様に言われては、誰も反論することはないみたい。
やっと、事が済んだと思ったら、ママは私に向かって話しかけてきた。
「まあ、でも、今っていうのは無理なのは、まどかもわかるよな?とりあえず明日あたりまで待ちな」
「……うん。わかった」
「よーし、いい子だ。さすがわが娘」
そう言ってママは笑った。
「ということで、さやかちゃん。今日は一緒に寝ていいって!お忍びじゃなくて公認だよ!」
「ということで……って、どういうこと?」
「だって。気が変わって逃げられたら嫌だし……」
「いや、逃げないって!もう、まどかはあたしを信用してくれないの?」
「信用したいけど、怖いんだ。もし起きてさやかちゃんがいなくなっちゃったって考えると……」
そこまで言うとさやかちゃんは呆れたという表情をして、でもすぐ優しく微笑んで答えてくれた。
「じゃあ。まどか、手をつなご?」
「え?手を」
「起きるまで握っててあげる。それなら安心でしょ」
「うん!」
おずおずと手を差し伸べると、さやかちゃんはしっかりと受け止めてくれた。
温かい手。たぶんさやかちゃんのやさしさが、手にまであふれ出ているんだよね。
だからその体温は気持ちがいいもので、私を安心させてくれるんだ。
だんだんと眠くなり、瞼が落ちそうになった時。遠くから、柔らかい声が聞こえてきた。
「おやすみ、まどか」
鳥が鳴く声が聞こえる。目を瞑っていても光を感じることが出来る。
もう朝なんだ。
起きるためにゆっくりと目をあけると、そこにはさやかちゃんがいた。
しかも笑っている。
「おはよう、まどか」
「お、おはよう、さやかちゃん。いつ起きたの?」
「あー、あたし寝れなかったわ」
「え?ほんと」
「うん。だってあんなことになったら緊張しちゃってね」
ほんの少しだけ疲労の色がある顔でさやかちゃんは笑っている。色々迷惑かけちゃったってのは分かっている。
でも、それでも、さやかちゃんと別れたくなかったんだ……
それはそうと、一つだけ気になることがあった。だから勇気を出して聞いてみた。
「私の顔ずっと見てた?」
「そりゃもう。かわいい、かわいい寝顔でして」
顔に血が上ってくるのがはっきりわかった。
だって、恥ずかしいよ。一晩中好きな人に、だらしない顔を見られていたなんて思うと……
これが、穴があったら入りたいって気持ちなんだろうね。
3.
朝の御飯を食べていた時、今日の予定を教えてもらったんだ。
休日ということもあって、礼拝堂は終日開いているとのこと。
証人はお昼前後に到着するということで、式は午後に行われるらしい。
だけど、私達はそれぞれやることがあって、ばらばらに別れていった。
といっても、私はあまりやることがなく、簡単な打ち合わせくらいのものだった。
それにひきかえさやかちゃんは、書類の作成、リハーサル、儀礼用の装備合わせなど大変そうな内容なんだ。
その後各自お昼を食べて、とうとう式の時間になった。
着なれないドレスに身を包み、壇上でさやかちゃんを待つ。
胸の鼓動は速くなる一方で、このまま待たされたら破裂してしまいそう。
だけどその心配もなく、目の前にあるドアが部屋に光を注ぎながら開かれた。
王家の紋章が刻まれた鎧を身にまとい、見慣れた剣を引下げて、いつも以上にかっこいいさやかちゃんが現れた。
その姿を見ただけで、心臓が跳ねそうになった。それだけ本当にかっこいいんだもん。
そのさやかちゃんが、ゆっくり歩き、私の側へ近寄ってくる。そして一歩手前までくると、膝をついてしゃがみこんだ。
そう、これが式のはじまりなんだ。
「美樹さやか、汝は全てを捧げ、我が剣となり」
そう、いつも練習させられていた言葉
「汝、全てを捨て、我が盾となり」
いつもさやかちゃんの名前を入れて唱えていた言葉
「その心はいつも我と共に」
上条君のことを知っていたから、言うことを諦めていた言葉
「いついかなる時も離れず」
だけど、幸か不幸か、今日、その言葉を唱えている
「どのような困難にも共に立ち向かい」
さやかちゃんには悪いと思っているけれど
「その喜びを、そして悲しみを分かちあい」
私は嬉しいんだ
「死ぬまで我に尽くすと誓う者か」
さやかちゃん答えて
「汝に問う、盟約を結ぶと誓うか」
私の問いに
「我が主よ、誓います」
嬉しい……
「私は貴女の剣となり」
望んでいた言葉が
「私は貴女の盾となり」
待ち望んでいた言葉が
「この命を捧げます」
さやかちゃんの口から聞けたことが
左手をさやかちゃんの前に差し出すと、さやかちゃんの温かい手で私の手を包んでいた手袋が外される。
そしてさやかちゃんは、その命を使って作ったマジックリングのコアに口付けをすると、私の薬指にはめた。
このマジックリングは献身の象徴で、騎士が主を裏切らないためにと作られた魔法の指輪。
そのコア部分は、魔法により騎士の魂が封じられている。
なので指輪から百メートルくらい離れれば、騎士は死ぬ運命なのだ。
つまり指輪を渡すということは、自分の命を差し出すということなんだ。
そして、今、さやかちゃんの指輪は私の左手の薬指にはめられている。
その指にはめることは絆を深めるという意味合いがある。そして他の意味も……
そんな指輪に対して、私は最後の儀式をする。
左手を顔の前まで持ち上げると、さっきさやかちゃんがリングにキスをした場所へ、私も唇を合わせる。
まだそこに温もりを感じながら、私はさやかちゃんとの始めてのキスを終えたのでした。
これからもよろしくね。さやかちゃん。
終わり
最終更新:2011年09月14日 21:25