243 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/09/01(木) 17:36:46.16 ID:wGjbMfpb0 [4/11]
お待たせしました。
スレに投下とかはやり方がよくわからんので、txtで申し訳ないんだけど、魔法少女まどか☆マギカ 専用アップローダーに投下してみた。
公式ネタ、このスレのネタもほんのりちりばめて。
さやまど幼なじみアナザーSS。
さやか、まどか、恭介の3人が幼い頃からの幼なじみ、な世界のお話。
全体的に(特に序盤は)ものすごいアップテンポで話が進むので、ゆっくりじっくり読んでもらえたら、それはとっても嬉しいなって。
/人????人\
「おめでとう。君のさやまどは上条恭介を凌駕した」
この子に対してこんな気持ちを抱くようになったのはいつからだっただろうか。
そう、確かあれは――
あたしには、二人の幼なじみがいる。
一人は天才的なバイオリニストで、ちょっと色素の薄い髪色をした、上条恭介。
その演奏する姿を初めて見た瞬間から心が奪われた、あたしの初恋の男の子。
一人は桃色の髪を短めのツインテールに結んだ鹿目まどか。
少し引っ込み思案だけど、人一倍心優しい女の子。
幼い頃はいつも3人一緒で、中学生になった今は意識しはじめた気恥ずかしさからか、新しくできた友達との付き合いからか、恭介とはほんの少し疎遠になっちゃったけれど。
それは心が離れてしまった訳じゃなくて……。
だから、今までの関係が変わることなんてないって信じていたかったあたしの気持ちは、ある日あっさりと消し飛ばされてしまったのだった。
中学2年生の春。初めてまどかを連れて見に行った恭介のコンクール。
惜しみなく万雷の拍手を送る、大勢の観客と、ホール中段の座席に座ったあたし達。
子供のように興奮して、目を輝かせて話しかけてくるまどかに笑顔を返しながら、
あたしはほんのちょっぴり寂しいような、でもそれ以上に誇らしいような気持ちでいっぱいだった。
舞台中央で丁寧に頭を下げる恭介。
もう一度まどかと微笑み会い、そして向き直った先で――
頭を上げた恭介が一瞬あたし達を見た……いや、まどかを見て浮かべたその表情は、いつものきりっと澄ました外向けの顔じゃなくて、まるで――
熱く、狂おしいような恋慕のそれだったのだ。
気付けばコンクールもとうに終わっていて、まどかと二人、煌々とした電灯の下で恭介を待っていた。
どうやらあたしは、コンクールの結果も覚えていないほど茫然自失となっていたようだった。
あたし以上に男子と付き合いがないまどかにはわからなかったみたいだけど、あたしには分かる。
恋をしている表情だった……あたしと同じ、だけど少し違う。好きな女の子を見る眼差し。
何でまどかなんだろう。
あたしだってまどかと同じくらい、いやそれ以上にもっともっと恭介と過ごしてきたのに。
ずっとずっと恭介を見てきたのに、どうして……。
頭の中にはそんな情けない言葉ばかりが渦巻いていたけれど、現実の目はしっかりと会場から出てくる恭介を捉えていた。
たとえ恭介がまどかを好きなんだとしても、簡単に諦めたりできない……!
そんな風に無理やり吹っ切って、もう一人の幼なじみ――ライバルの女の子の顔に視線を送って――
あたしのぐちゃぐちゃの頭の中も、心臓も、完全に硬直した。
まどかがあたしを見ていた。
あたしに向けた『あたしが恭介を見るような、恭介がまどかを見るような』そんな表情はすぐに消え去って、恥じ入るようなそれに変わり、最後は怯えたように俯いてしまったけれど――。
目の前が真っ暗になった。
それでも、もう二度と後戻りができない迷路に入ってしまったんだと、どこかに残った冷静なあたしが理解していた。
それからの毎日は、どこか寒々しかった。
あたしは恭介とまどかの顔を直視できなかったし、まどかはあたしや恭介に対してもどこかおどおどとして落ち着かない。
あたしは……きっとまどかも、自分たち3人の関係が粉々に砕けて二度と治ることはないんじゃないかと恐かったんだと思う。
あれから伏し目がちだったまどかが、どこか決意したような表情で、学校の屋上にあたしを呼び出したのはそんな時で、だから、それが一体何の用事なのかはこういうことにあまり縁のないあたしでも分かった。
この子は自分が傷つくことが分かっていても、必死で踏み出そうとしてくれているんだ。それも恐らくは――あたしのために。
「さやかちゃん! 大切なお話が……えっと……あって……その……わたし」
頬どころか顔全体を真っ赤に染めて切り出した最初の勢いが嘘のように、声は途切れがちになって、身体はがくがくと震え始め……まるでこれのまま屋上から飛び降りてしまいそうなくらい悲壮な涙声になったところで、あたしはなぜか熱に浮かされたように……いやいやいや!
「まどかっ!!」
あたしはなぜか反射的に叫ぶみたいに呼びかけていて。
「は、はひっ!なんでしゅか!?」
まどかはびっくりして舌を噛みそうになりながらも律儀に大きな声で返してくれて、それでもう限界!
あたしは緊張感も高揚感ももやもやもよくわからないなにかも、思い切り吹き飛んでしまって、もう笑い声を耐えられず笑い出していた。
「さ、さやかちゃん……?も、もうっ!」
最初まどかは突然爆笑しはじめたあたしにあっけにとられていたようだったけど、事態を把握すると顔をまた真っ赤にしてぷんすか怒って。
それでも笑いが収まらない様子のあたしを見ると、困ったように笑ってくれて。
まだ全然何も解決してないし、それどころか進歩もしてないのに、それでもやっとまた二人で笑いあうことができたことが、その時のあたしには何よりも嬉しくて。
ひとしきり笑ってから、あたしはもう一度呼びかける。
「まどか」
「さやかちゃん?」
「あたし、恭介に告白する!バレンタインはとっくに過ぎちゃったけど、必死に練習したあたしの腕を見せつけてやるんだから!」
さすがにまどかも声が出ない様子だったけど。あたしたちの関係はそう簡単に壊れたりしない!そう思うと、あたしの心はこの屋上から見上げた青空みたいに、澄み渡っているのだった。
その日は大雨で、空がまるであたしの代わりに泣いてくれているようだった。
決戦の日、あたしは恭介の家にお邪魔していた。精一杯なんでもない風を装って、恭介に密会の約束を取り付けることに成功したのだ。
どうやら恭介はまだ帰宅していなくて、待たせてもらっている格好。
空模様は生憎の雨だけど、あたしにはこの日のために用意した手作りチョコがある!男の子向けにちょっぴりビターな特製品だ!
それにこのくらいの歳の男の子は『女の子』にあんまり免疫ないだろうし、押して押して押しまくれば少しは――いや!きっと自分の方も見てくれる!
そんな風に意気込んでいたあたしは、唐突な電話と恭介のお母さんの悲鳴に思考を中断された。
恭介が下校中に交通事故に遭ったとの知らせだった。
あの日から数日が経っていた。
あたしみたいな子供には詳しい事は知らされなかったけど、恭介のお母さんが、恭介にも何らかの過失があったらしいこと、恭介の左手は重傷で、完治してもバイオリンをもう一度弾けるようになるかどうかは難しいらしいということを教えてくれた。
あたし自身も何度かお見舞いに訪れてはみたのだけど、面会を許されてすぐに病室に向かったあたしを待っていたのは冷たい現実だった。
恭介は『何もかもを失ってしまった自分に一体何の意味があるんだろう』と静かに呟いただけで、それからどんなに励まそうと声をかけても、返事はなかった。
病室自体がまるで死んだように生気がなく、あたしが持ってきて花瓶に生けた花ですら虚ろなものを感じさせた。
まどかは来ていないみたいだ。
あの日渡すはずだったチョコレートは今もあたしの鞄の中で眠り続けている。
あれからあたしは、クラスメイトの中沢がこぼしていた一言を頼りに、あの日の恭介を探している。
中沢が言うには、帰宅直前の恭介に声をかけたのだけど返事はなく、どこか自失してる様子だったとのこと。もしそれが原因だったら――
そう思うと、居ても立ってもいられなくなって、恭介の友達や他のクラスメイト達に聞き込みを開始してみたのはいいんだけど、結構な人数に質問してみたのに、進捗は全くのゼロ。それどころか、『美樹さん大丈夫?』『無理しちゃダメだよ?』なんて心配されてしまう始末。
今もこうやって――
「私もお知り合いの方にお聞きしてみましたけれど……芳しくありませんわ」
「そっか。うん、ありがと仁美。あとはなんとかあたしが調べてみるよ」
なんて言ってはみたものの、当てなんてまるでなかった。
「あまり根を詰めてはいけませんわ。さやかさんにまで何かあったら、私やまどかさんも悲しみますもの」
「へーきへーき!なんてったって元気だけがあたしの取り柄みたいなもんなんだから!」
半ば以上の空元気っぷりを自覚しながらも、せいぜい自信満々に言ってのけるあたし。
「上条君も、何とかよくなってくださればいいのですけれど……」
そんな風に、あたし達だけじゃなくて恭介まで気にかけてくれるこの子の名前は志筑仁美。中学校に入ってからの、あたしとまどかの親友だ。
そうだ、まどかと言えば――
「ね、仁美。まどかのことなんだけど」
まどかはあの事故の日から、あまり顔を合わせてくれない。
何度か恭介のお見舞いに誘ってはみたものの、いつも俯いて首を横に振るだけだった。
それはあたしを避けてるのかと思っていた。でも、今このときの仁美の表情――
「まどかさんは――」
思案げなようで、どこか決意した顔で静かに切り出されたとき――
あたしはついに答えに辿りついてしまったんだと、暗雲に呑みこまれるような気持ちで、悟っていた。
その日の見滝原も大雨だった。
近くで雷が鳴っていて、生徒たちもどこか落ち着かない。
そんな騒々しい中で、人一倍恐がりのまどかが静かに何かを思い悩んでいるのが少し、いつもと違う。
その理由も、あたしは既に知ってるんだよ、まどか――。
放課後、あたしはまどかを人気のない体育館裏に呼び出すことにした。
普段と変わりなく、何でもないようにまどかの席に近づいて、そっと声をかける。
「まどか」
辺りに響く雷鳴にも反応しなかったまどかが、まるで本当に雷に打たれたようにびくりと震えたのが、ひどくおかしかった。
「放課後、体育館の裏で待ってるから」
そう伝えて、幼馴染の反応も待たずに引き返していく。
物言いたげな仁美を目の端に捉えながら、自分にこんな冷え切ったような声が出せたことが不思議で、また少し笑った。
人気のないその場所に、小さな傘が一輪咲いていた。
まどかを待ちながら、あたしはひととき思いを馳せていた。
鹿目まどか。
あたしの幼なじみ。恭介の幼なじみ。
恭介の想い人で、そして、あたしの――
砂利を踏みしめる小さな音でわずかな思案から引き戻される。
「さやか、ちゃん……」
「……まどか」
人気のないその場所に、小さな傘が二輪咲いていた。
仁美の話で聞いたあの日のまどかは、放課後恭介に呼び出されていたらしい。
何も知らないまどか、コンクールの興奮も冷めやらぬまどかは、はしゃぎながら仁美に言ったそうだ。
『恭介くんはね!とってもすごいんだよっ!』
恭介の用件も、コンクールの演奏やあたしの事らしいと思い込んで――
胸を張って、かわいらしく、幼なじみの自慢をしていたのに。
翌日のまどかは、まるでこの世の終わりのように沈み込んでいたと、仁美は語った。
それを聞いたとき、あたしの脳裏に閃くものがあった。
まどかと会った後に茫然自失していた恭介。あたしを避け始めたまどか。『何もかも』を失ったと話した恭介。恭介のお見舞いに来ないまどか。
全てが繋がってしまった。
あの日、まどかは恭介の告白を――
「断った、のね?」
あたしの幼なじみは、またびくりと震えた。
「恭介に告白されて――振ったんだね?」
その顔は、前に傾けられた傘に隠れて見えない。
「どうして!」
分かりきったことを、それでも聞いた。聞かずにはいられなかった。
「どうして恭介を振っちゃったのよッ!?」
あたしの叫びに似た問いは辺りに響いて、しかし幼なじみの顔は見えない。
「わたし……だって、わたしは、わたしが好きなのは――」
まだ見えない顔のまま、いつかの続きを紡ごうとする幼なじみに、もうあたしは限界だった。
手に持っていた傘も鞄も投げ捨てて、濡れるのも構わず雨の中を大股に歩み寄って。
「わたしが好きなのはさやかちゃんだから――」
それがあたしの鼓膜に届く前に、幼なじみの傘を、奪って、放り捨てる。
そのまま、あたしができなかった告白をしようとする幼なじみの顔を見ずに――
「わたし、さやかちゃんが好きなの!大好きなんだよっ!」
平手で打った。
土砂降りの雨は、あたしたちを一瞬のうちに濡れ鼠にしていた。
その頬を伝うそれは、もう雨水と区別がつかない。
幼なじみは、あたしの勢いに押されてへたり込み、土砂で制服は見るも無残に汚れきっていたけれど――
その顔は悲しみ、苦しみ、辛さ、痛みにゆがんでいても――
その顔は必死で、悲壮で、弱弱しさなんて欠片もなかったんだ。
雨は、まだ降り止まない。
あたしは呆然としていた。
あたしの幼なじみを打った手をぶらりと下げたまま、ただ、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
あたしは今何をしたの?どうしてこんな、こんなことをしてしまったんだろう。どうして――
乱れた脳裏の底で、あたしの気持ちは暴れまわっていた。
この子のせいで、恭介が――でも、それは仕方のないことで、この子のせいなんかじゃない。
この子のせいで、あたしの恋が――でも、それは仕方のないことで、この子のせいなんかじゃない。
――どうして、あたしなんかを好きになっちゃったの?こんな、あたしを。
混乱した頭でも、身体はいつの間にか動き出していた。
投げ捨てた鞄を拾う。
雨に濡れ、泥にまみれたそれをまさぐって、目当ての物を取り出す。包装もびりびりと破って捨てる。
それは、チョコレートだった。
特製の、手作りの、それは。
あの日恭介に渡すはずのもので、渡せなかったもので。
それはあたしの恋の結晶で、そして、届けることもできずに散った想いの残滓だった。
それを――割って、砕いて、捨てた。
あたしの恋は、その幼なじみの目の前で、雨と土砂に汚れた。
結局あたしは一体何が大切で、何を守ろうとしてたのか、そんなことも、もう分からない。
ただ突っ立っているだけの木偶のようなあたしの耳に、いつの間にか弱まっていた雨音を、かき消すような声が響いた。
「わたし、恭介くんの事が大好きなさやかちゃんに、恋しちゃったんだよ」
決して大きな声じゃないのに、今までのどんな言葉よりも強く、熱く、響いた。
「さやかちゃんの想いは無意味なものなんかじゃない。とっても大切なものなんだよ」
その子は、惚けたままのあたしの足元にあったそれ――ひときわ大きなチョコの欠片を、宝物みたいに拾って。
汚れてじゃりじゃりとしてるそれを、そのまま口に含んで、食べてしまう。
「だって、ほら。こんなにおいしいんだもん」
そう言ってとびっきりの笑顔を見せてくれたその子を、気付けば思いっ切り抱きしめていた。
「……まど、か」
わたしのぐちゃぐちゃだった心は、何とか一つにまとまって、その子の気持ちに応えてくれたらしかった。
「まどか……」
そんな時になって、ようやく気付いた。
数日前、どうしてまどかの告白を遮ったのか。
ついさっき、どうしてまどかの告白を遮ろうとしたのか。
「まどか!まどかっ!まどかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ああ、なんだ。
あたしはこの子の――あたしの一番大切な女の子の――胸を締め付けるような、涙を浮かべた微笑みの形をした、あの泣き顔を見るのがたまらなく嫌だったんだ。
空はいつの間にか晴れ晴れと輝いて、きれいな虹を覗かせていた。
二人のファーストキスは、チョコと、雨水と、土砂の味がして――それでも何よりも大切な想い出になった。
そんなこんなで晴れて恋人同士になったあたしたちだけど、ちょっと普通の恋人同士とは言いがたい関係になっちゃっている。
同性だとかそんなことよりもある意味重症なそれは、あの屋上と体育館裏で芽生えてしまった、あたしの困った性癖が原因なのだった。
あたしとまどかの新しい日常。
「うぇっへっへ!こぉーの!可愛いやつめぇ!」
燦々と太陽が照りつける日、見滝原中学の教室であたしたちはいつものようにじゃれあっていた。
まどかは子犬みたいにあたしにくっついて好意を隠そうともしないし、あたしもつい甘やかしてしまうのだ。
実はまどかの隠れファンらしい中沢君が物凄く羨ましそうな顔であたしたちを凝視してくるけど、これは無視無視。
お互いに想い合う気持ちが大きく変わったという――今はまだ秘密の――事実があるとはいえ、
対外的なあたしたちの関係は――残念なことに――あまり変わってはいない。
ただ二人の距離がちょっぴり近くなっただけ、という風にしか見えないと思う。
「まどかはあたしの嫁になるのだー!」
ちなみにこれはあたしの偽らざる本音である。
あたしは今何をしたの?どうしてこんな、こんなことをしてしまったんだろう。どうして――
気付けばあたしの目の前には、しどけない、というかあられもない格好のまどかが、小さなお尻を真っ赤に腫らして、息も絶え絶えに横たわっていて。
当然のように、乱れた衣服やシーツもぐっしょりと濡れそぼっていた。
話は数時間前に遡る。
平日は仁美も交えての恭介のお見舞いや、部活やらに忙しいけれど、今日は学校も休みだし、ずっとまどかの側に居られる!
かねての約束からまどかの家を訪ねたあたしが、迎えるまどかのとびっきりの笑顔の前に舞い上がっちゃっても仕方のないことだと言えよう。
そんなわけで、まどかの部屋に招待されたあたしは、まどかがほんの少し席を離れた瞬間を狙って行動を起こしたのだ。
いわゆるガサ入れである。
と、言ってもそこは勝手知ったるまどかの部屋。そう簡単に怪しい物なんて見つかるはずがない。
一瞬窓の外に髪の長い女の子の影が見えたような気がして振り返ったりもしたけど、どうやら気のせいらしかった。もしかして幽霊?
そして、謎の悪寒に苛まれながらもあたしはついに発見したのだ――って、あれ?ベッドの下?前からこんな箱あったっけ……?
予想に反してあっさり見つかってしまった謎の箱。その中には――
「さ、さやかちゃん?どうしたの?さっきのケーキに何か変な物でも入ってた……?」
不安げに尋ねてくるまどかに対して、あたしはまさに有頂天!さっきから怪しい笑いが止まらないってもんよ!
まどからしい甘さの、ほっぺたがまとめて2つ、いや4つは落ちそうなまどか特製チョコレートケーキの味はともかく。
「ふっふっふー!これを見てもそんなことが言えるかな!?」
自信満々にあたしが突きつけたそれは!なにを隠そう、あの謎の箱から出てきた――
「あっ!そ、それっ……!」
――エロ本、である。
「ちがうのちがうのっ!」
真っ赤な顔で必死にすがりついてくるまどかを訳知り顔でなだめながら、あたしは満を持して提案する。
「これ、一緒に見てみにゃい?」
噛んだ。
余裕というメッキを剥がされたあたしではあるけれど、そこはそれ。あたしとまどかの仲なら大丈夫!と頼みこむ。
結局まどかは、完熟トマトみたいな顔をして、こくんとうなずいた。さっすがまどかとあたし!
二人して、やや古さを感じさせる本を覗き込んでしばらく。
もうまどかどころかあたしまで完熟トマトだった。なにこれ、新しい世界すぎる。
そんなとき、ふと気になって隣の様子を窺うと――まどかは、そんなあたしに気付かないくらい夢中になって読んでいるみたいだった。顔を真っ赤に染めたままのガン見である。
しばらくそんなまどかを見て楽しんでいたあたしだったけど、やがて気付いてしまったのだった。
まどかみたいな子が、こんなマニアックなエロ本を隠し持っている、そのギャップに。
気付いてしまうともうダメだった。口があたしの意思を無視して勝手に言葉を紡ぐ。
「ね、まどか。あたしとこういうことしたいって思う?」
それは質問のかたちをした誘惑だった。
まどかは、さすがに黙り込んだ。あたしも凝固した空気を感じて黙り込む。
あたしの胸はずっとドキドキと高鳴りっぱなしで、その音がまどかに聞こえないかなんて、そんなあるはずのないことが無性に気になった。
体感では10分以上、実際には1分あるかないかの間を置いて、まどかは応えた。
「……うん。さやかちゃんの為なら、いいよ」
とんでもなく嬉しかった。それと同時にずるいと思った。本当はまどかの方がこんなことしたいって思ってる癖に!
「そっか。それなら遠慮はいらないよね……たっぷり愛し(いじめ)てあげるからね!」
Sーパーさやかちゃんの、誕生だった。
完全に思い出した。と同時に、頭を壁に打ち付けたくなるくらいの恥ずかしさと後悔があたしを襲った。
ああいうことはもっと、こう、段階を踏んでからするつもりだったのに、暴走して4つ以上飛ばしてしまったような気がする。
その上、あたしは気付かされてしまった。
まどかに泣かれるのは嫌でも、まどかをなかせる――あらゆる意味で――のは大好きな、すっごくアレな自分に。
回想と後悔に苛まれたあたしが、ようやく現実に戻ってきたとき、まどかは行為の疲れからか、とっくにまどろみに落ちていた。
まどかは怒るかな、なんて考えながら、そっと顔を覗き込むと――その唇にはいつもの微笑みを浮かべていて。
思えば、自分はいつもこの笑顔に救われてきたんだな――なんて思いながら、のほほんとその愛らしい寝顔を眺めているあたしは……十数分後、このぐっしょり濡れたシーツやらの始末に頭を悩ませることになることを、まだ知らない。
ちなみにあのエロ本、出所は幼い頃の恭介が拾って幼いまどかが仕方なく隠し場所を提供してあげていたっていう顛末らしい。
そんなところでまどかの好感度を下げてたのか――今となっては感謝したくなるような気の毒なような、複雑な気持ちを抱くあたしだった。
――それから数週間後。待ちに待った日曜日。場所はもちろんあたしの部屋!
このところとんでもなく爛れた休日を送っている気がする……と思っていながらも、いつもまどかの可愛らしさに負けてしまうあたしは、骨の髄まで、心の奥まで、まどか色に染まっていて――まどかにはかなわない。
きっと、それは、まどかも一緒なんだろう。一緒だったら、うれしい。
まどかは子犬みたいな印象に違わず、尽くすことを喜びとするタイプみたいで、どうにかあたしを喜ばせようとするんだけど、あたし以上に敏感なその身体は、すぐに気をやってしまう。そんなところもたまらなくかわいい。
この日も健闘むなしくダウンしたまどかをあたしのベッドにうつ伏せに寝かせて、足を顔の前に突き出してやる。
陶然とした表情のまどかはすぐに理解したようで、あたしのその指先を丁寧に舐め始める。これも日々のしつけの賜物だ。
なんて、褒めた瞬間にまどかはドジってあたしの指先に犬歯をぶつけてしまう。
「痛っ」
思わず漏れてしまった小さな悲鳴に、まどかはあわてて。
「あっ!さやかちゃん、大丈夫!?」
あたしは苦笑してもっと大事なことを注意する。
「こーらっ!あたしの部屋ではさやかちゃんじゃなくてご主人様でしょ?最近いつも先にダウンしてご主人様の手をわずらわせちゃうし、これは罰が必要かな?」
本当は全然怒ってなんかないけど、わざと意地悪く付け加えてあげる。
「折角だし、他の誰かに躾けてもらう?中沢がまどかのこんな姿見たらなんて言うんだろうね」
あたしがまどかに隠れファンっぷりを暴露してからというもの、中沢はまどかの恐怖ワードになりつつある。
「や、やだぁっ!さやかちゃんやめてぇぇ!」
案の定まどかは呼称を改めるのも忘れて、涙目で跳びついてきて、まどかに甘いあたしは、拒めないどころかうれしくて。
「ウソよウーソ!中沢なんかを、あたしだけの大切なまどかに指一本触れさせるわけないでしょ?」
感極まったまどかが、さっきまで足に触れていた唇で口付けてきても、やっぱりあたしは拒めない。
何しろキスはまどかの得意技なのだ。まどかの内面を写したかのような、ちょっぴり拙くて、熱くて、優しい、一生懸命なキスは――
あの日あたしを完全に落とした、必殺技なんだから。
一時は完全に沈み込んでいた恭介は、あたしたち3人の度重なるお見舞いと、仁美の献身で、少しずつだけど自分を取り戻しつつあるようだった。
突然の悲劇に見舞われて生きていく気力を失った時でも。恋に破れることもできずに自分を見失い自暴自棄になった時でも。たった一つの大切なものさえあれば、魔法や奇跡なんてなくても案外踏ん張れるのかもしれない――なんて。
この子はそれをあたしに教えてくれたんだ。
ねえ、恭介。あたし、今、最っ高に幸せだよ!
最終更新:2011年09月20日 06:06