9-119

119 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/09/19(月) 18:13:11.97 ID:6seBkS/WO
この流れなら…やっと完成した長編まどさやSS第一話投下させていただきます!


夕闇に辺りがつつまれつつある逢魔ヶ時…ひぐらしが小さく己の生を振り絞って鳴いている時間…
美樹さやかは見滝原中学校の自身のクラスにいた。
別に居眠りして寝過ごしたとか用事があったとか言うわけじゃない…そもそも今は夏休みでこんな時間には教師すらいはしない。
たださやかは今の時間帯で一番人がいない場所にいたかっただけ。
さやかがこれからやることは…待ち人でもあるたった1人にしか理解できないから。

「さやかちゃん」

カラカラと扉を開く音と一緒にさやかの名前が呼ばれる…どうやら待ち人のご到着らしい。
相手は長い付き合い、振り向かずともそれが待ち人だと声だけでわかるさやかは、背中を向けたまま返事をした。

「遅かったじゃん。来ないかと思ってたよ」
「ひ、ひどいよ、さやかちゃん…わたし、そんなことしないのに」
「はは…ごめんごめん!わかってるよ、あんたが約束をすっぽかすような子じゃないのは。ねっ、まどか」

振り返ればそこにいたのはさやかの予想通りの人物…鹿目まどか。
さやかと同じ美滝原中学の制服に身を包んでいる彼女は、からかわれたことが不満らしく頬を膨らませている。

「あはは、そんなに怖い顔しないの!可愛い顔が台無しだぞー?」
「っ…さやかちゃんなんかもう知らない!」

プイッと顔を背けてしまうまどかだが、さやかからすれば可愛らしいその怒り方に迫力はまるでない。
さやかはクツクツと抑えきれない笑いをこぼすと、軽く謝りながらまどかの頭に手をやった。

「ほらほら、頭撫でてあげるから機嫌直してよ」
「…さやかちゃん、わたしの事子供扱いしてるよね」
「あれ、頭撫でられるの嫌だった?嫌ならやめるけど」
「ううっ…嫌じゃないけど」

恥ずかしいよ…とまどかはさっきまでの不機嫌さはどこへやら、頬を紅く染めてうつむく。
そんなコロコロ変わるまどかの表情に笑みを深めたさやかは、もっとまどかの色々な表情が見たくて頭をしばらく撫で続けてた。

「さ、さやかちゃん…こうしてくれるのは嬉しいけど、そろそろ…」
「だね…お姫様の機嫌も直ったし、行こうか?」
「うん」

さやかはまどかと連れ立って教室を後にする。
自然に…互いの手を重ねながら。


120 名前:119続き[sage] 投稿日:2011/09/19(月) 18:15:59.34 ID:6seBkS/WO
††

2人は学校の屋上に出ていた。
最近の2人にとって今日という日は夕闇に包まれていてもまだまだ長い…少しばかり思い出話に花を咲かせようと思い立ったのだ。

「わぁー…綺麗な夕焼け…」
「お気に召しましたか、まどか姫?」
「えへへ、はい、さやか王子」

2人は手を繋いだまま眼下に広がる見滝原の街を眺める。
3ヶ月近く前に起きた【原因不明の災害】で大規模な被害を受けたさやか達の故郷は、少しずつではあるが元の姿を取り戻しつつあった。

「あの日からもう3ヶ月か…なんかこうやって見ると実感わかないね…」
「そうだね…あんな事があってもこんなに早く復興が進んでる。人間ってすごいや」
「…さやかちゃんも人間だよ。必死に戦ってこの街を守ってくれた…ね」
「……ありがと」

だけどその災害が魔女と呼ばれる異形に引き起こされたという事を知る者は少ない。
そしてさやかがその魔女と命を懸けて戦った事も…

121 名前:120続き[sage] 投稿日:2011/09/19(月) 18:18:34.18 ID:6seBkS/WO [3/9]
「それにしても色々あったよねー…よく考えたら死んでてもおかしくなかったんだよね、あたし」

さやかが魔法少女になって3ヶ月…今に至るまでのこの3ヶ月はまさに激動の日々だった。
魔法少女という世界を教えてくれた尊敬出来る先輩の死、それに代わるように見滝原にやって来た新たな魔法少女との邂逅…そして衝突。
さらに知った自分の身体の異常、長年想い続け彼女が奇跡を使ってでも救いたかった幼なじみと今この場にいないもう1人の親友とのゴタゴタ…とどめに災害を引き起こす巨大な魔女との戦い…
まるで1年かけて起きるような騒動が1ヶ月にも満たない期間でさやかを襲った。

「でもさやかちゃんはここにいる。いつもと変わらない…わたしの大好きなさやかちゃんはここに」
「…まどかのお陰だよ。あんたがいてくれたから…あたしは引き返す事が出来た」
「えへへ…なんか照れちゃうな」

普通なら挫けてもおかしくなかった、潰れてもおかしくなかった…事実さやかは絶望の淵にまでは行っていた。
そんな彼女を救いだしたのは…魔法少女ではない、なんら特別な力など持っていないはずのまどかだった…

「わたしはさやかちゃんを支えてあげたかっただけ…わたしには何の力もないし、過ぎた願い事だったのかもしれないけど…」
「そんなことないよ」
「さやかちゃん…」
「まどか、本当にすごいんだよ?あんだけやさぐれてたあたしを、あんたにいっぱい酷い事言っちゃったあたしを助けてくれたんだから」

まどかの手を引っ張りその小柄な身体をギュッと抱き締めながらさやかは思い出す。
あの時…一歩間違えれば取り返しのつかないことになるところだった自分をまどかが救ってくれた日の事を…


122 名前:121続き[sage] 投稿日:2011/09/19(月) 18:21:16.11 ID:6seBkS/WO [4/9]
††

「ねえ、この世界って守る価値あるの?あたし何の為に戦ってたの?」

さやかは全てがどうでもよくなりかけていた。
まどかを傷つけ、仁美を助けなければと考えた事で正義の味方としては生きられない自分。
SGはほとんど濁り、もはや魔女を狩る存在としてすら生きられない自分。
さらに今目の前で困惑している男達の会話は、さやかにとって到底許容できるものではなく…さやかは完全に闇に堕ちようとしていたのだ。

「教えてよ。今すぐあんたが教えてよ。でないとあたし…」
「さやかちゃん!!」
「っ!?」

そんなさやかを悲痛な叫びと横合いから受けた衝撃が襲う。
見てみれば、そこにいたのは自分が傷つけてしまったはずの親友。
まどかが、泣きながらさやかの身体にしがみついていたのだ。

「ご、ごめんなさい!この子わたしの友達で…今言った事は気にしないでください!ほらさやかちゃん、行こ…!」
「あんた…なんで」
「そんなこと今はどうでもいいよ!いいから来て!」

男達に平謝りしながら自分の腕を引っ張ってくるまどかに、さやかはなぜか逆らう気にはなれなかった。
どこかで感謝していたのだろう…最後の一線を踏み越える前に自分を止めてくれたまどかに。

……その時のさやかがその事に気付く事はなかったのだけれど。


123 名前:122続き[sage] 投稿日:2011/09/19(月) 18:23:38.07 ID:6seBkS/WO [5/9]
「……」
「……」

ちょうどよく着いた駅に降りた二人…その間に会話はない。
さやかはあれだけまどかに酷い事を言った手前自分から話すなんて出来なかったし、さやかを探す事だけを考えていて見つけた後の事を全く考えていなかったまどかもまた何を言ったらいいのかわからずにいたのだ。

「……さやかちゃん、その…心配したよ?」
「…………」

痛いような沈黙を破って口を開いたのはまどか。
さやかに背を向けながら、彼女を刺激しないように慎重に言葉を選んでいく。
やっと捕まえたのだ、また逃げられるわけにはいかない。

「さやかちゃん…あの、わたし…「…んで…」えっ…」
「なんで、こんなとこにいんの?いつものあんたならとっくに寝てる時間だよね?」
「それは…さやかちゃんを探してたから…「誰が、探してくれって頼んだのよっ!?」っ…」

さやかの怒声にまどかの肩がビクッと震え、目からは涙が溢れ出す。
しかしそんな彼女の様子など今のさやかには意味がない…いや、むしろその弱々しい姿は余計にさやかの感情を逆撫でしていた。

「さ、さやかちゃん…」
「ついてこないでって言ったのに…あんた、あたしをそんなに惨めにしたいのっ!?」
「ち、違うよ…そんなのじゃ…」

止まらない…さやかも駄目だとわかっているのに、まどかへの怒鳴るのを止められない。
腹立たしかった、どんなに酷い事を言っても自分を助けようとするまどかの強さ…そして何よりそんな大切な親友を傷つけておきながら、今すぐにでも彼女にすがりたい気持ちを持っている自分自身の弱さが。

「もうあたしの事はほっといてよ!あたしは最期まで魔女と戦って死にたいんだ!!あんたはあたしの最期の願いを邪魔するのっ!?」
「っ!?死に、たい…?」
「そうだよ!もう疲れたんだっ…あたしは誰も守れない、正義の味方になんかなれやしない!それにあたしはもうゾンビなんだ…死んだって構わないじゃない!!」

荒く息を吐き出し、さやかはまどかに背を向ける。
これでまどかは自分を嫌ってくれるだろう…自分の事など忘れればいいのだ…自分にはまどかの友達を名乗る資格などもうないのだから。

(…まどか、ごめん)

魔法でも消せそうにない胸に走る痛み…それを抱え込んでその場から立ち去ろうとしたさやかは…腕をまどかに掴まれた事で、その足を止めさせられた。


124 名前:123続き[sage] 投稿日:2011/09/19(月) 18:28:06.83 ID:6seBkS/WO [6/9]
「…何よ?まだ何かあるわけ?」
「…………にして」
「はっ?」
「いい加減にしてよっ!!」
「っ…!」

先ほどのさやかに負けないまどかの怒鳴り声に、今度はさやかがビクッと身体を震わせる。
未だ涙を溢しながらまどかの目はさやかの事を真っ直ぐに射ぬいていて。
その瞳に、さやかは言葉を発することすら…封じられた。

「死んだって構わないなんて…そんなわけないよ!!さやかちゃんが死んじゃったら、悲しむ人はいるんだよっ!?さやかちゃんのパパやママ…わたしや、仁美ちゃんや上条君だって!」
「っ…」
「さやかちゃんは1人じゃないんだよっ…さやかちゃんがいなくなったら泣いちゃう人はたくさんいるのっ…だからっ…」
「なんで…?なんでこんなに酷い事言われて、あんたはまだそんな事を言ってくれるの…?あたしは大切な友達を傷つけるようなバカなんだよ…?」

さやかはわからなかった、どうしてまどかがこんなに救いようのない自分のためにここまでしてくれるのかが…

「それは…」

そしてまどかが返した答えは…

「さやかちゃんが大好きだからだよ…さやかちゃんはわたしの大切な友達で…わたしはさやかちゃんが大好きだからっ…」


125 名前:124続き[sage] 投稿日:2011/09/19(月) 18:34:12.04 ID:6seBkS/WO [7/9]
「何よそれっ…そんなので、あんたはっ…」
「わたしにはっ…それだけでさやかちゃんを助ける理由になるんだよっ…」

大好きな友達だから…まどかの答えはそんなとてもシンプルで単純なもの…
それでも痛いほどに伝わってくるまどかの想いにさやかは泣きそうに……いや、既にボロボロと涙をこぼしてしまっていた。
こんなに自分を思ってくれる親友…彼女に全ての弱さを吐露ししがみついてしまいたい、前に泣きついた時とは違い今度こそ自分の中に渦巻く全ての負の感情を流してしまいたい。

きっと、きっとまどかはそんな自分を優しく受け止めてくれる…そんな自惚れはさやかにだってある。
ただ一言…「ごめん」と口にすればいい、彼女を抱き締めて思いっきり泣けばいい…それで全て丸く収まるのだ。

「……ごめん」

しかしそれでも…たとえ前者は出来ても自身の欲求たる後者は出来ないのが、美樹さやかという少女で。
さやかはまどかの手を包み込むように握ると、ゆっくり、力をいれてしまわないようにその手をほどく。
もし力をいれれば…自分はあっさりまどかを壊してしまうから。
もう二度と彼女を傷つけたくないから…だからやっぱりもう離れるべきなんだとさやかは自身の中に、答えを出した。

「さやかちゃん…?」
「あたし、まどかにいっぱい酷い事言っちゃったね…八つ当たりなんかしてほんとにごめん」
「いいよ…そんなことどうでもいい…」
「ありがとう…だけど、やっぱりダメだよ。あたし、もうまどかを悲しませる事しかできなくなってる…あたしなんかいなくなった方がいい……だから―」
「っ…さやかちゃ…」

『さよなら』…さやかが言おうとしたその言葉もまどかの悲痛な叫びも音となる事はなかった。

さやかとまどかの周りの空間が歪な形に歪み始めた事によって。


126 名前:125続き[sage] 投稿日:2011/09/19(月) 18:41:49.20 ID:6seBkS/WO [8/9]
「あっ!?」
「魔女の…結界!?」

考える前にさやかはまどかを抱き寄せ背中に庇う。
それはもうさやかにとって無意識にやるほど当たり前の事、まどかが危なくなれば自分は彼女を守る…何回も重ねてきたそんな二人の絆の証。
どうやら神様は自分に最後にプレゼントをくれたらしい…そう感じたさやかは思わず笑ってしまった。

(神様も、けっこういいとこあんじゃん…最期に、あたしにまどかを守らせてくれるなんてさ)

きっと今日で最後になるこの当たり前の事…それを片付けて終わらせよう。

美樹さやかという少女の全てを。

「さ、さやかちゃん…!」
「大丈夫、まどか。あんたはあたしが守る、だから安心して見てなさい」

―あたしの、親友に最後まで本心を隠したバカの最期の戦いを。

さやかはまどかの頭を2、3回ポンポンと叩くと…自身のほとんど真っ黒に濁った魂をかざす。
数秒後騎士のような衣装に身を包んださやかはまどかに振り返ると彼女のよく知る笑みを浮かべ…一言だけ、自身の想いを告げた。

「まどか……あたしもあんたが大好きだよ」
「えっ…さやかちゃ…」
「さよなら」
「っ!?さ、さやかちゃん待って!」

まどかの制止を無視し、マントをなびかせ、剣を持ちさやかは最期の戦場に向かう。

『ブーーーーーン!!』

皮肉にも、その相手は彼女がまだ魔法少女の真実を知る前に戦った相手。

『…………』


そしてその大本…【落書きの魔女】だった。


―いいじゃんか、一緒にいてやってもさ
ー…もう強がんのもいい加減にしなよ
―あんたは自分のために泣いてくれるこいつをまた傷つけるのか?

次回【そんなのあたしは許さない】

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最終更新:2011年10月02日 22:21
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