94 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/29(日) 02:29:37.74 ID:4h3ZE4060 [1/2]
百合スレより転載SS!あまりにも良かったので
唇になにかが触れる感覚に、頭が追いつかなかった。
「まど、か?」
「えっと……さやかちゃん、ごめん!」
目の前の親友は、今までに見たことのないくらい真っ赤で、申し訳なさそうに慌てている。
謝る声がぐわんぐわんと頭の中で反響して、考えがうまくまとまらない。
まどかの部屋で普通に遊んでいたらまどかの顔が迫ってきて。それからなにかが触れて。謝られて。
それはもうどうしようもないくらいに、一つの事実しか指していなかった。
のだけれど、いやそんなまさか。
「なんで?」
混乱する頭でようやく吐き出せたのは、その一言だけだった。
「う、その、私もよくわからなくて、勢いで、本当に、本当にごめん!」
まどかはそんなあたしとは対照的に一息でそう言い切って、部屋の端までずざざざと逃げていく。
やってきたのはまどかなのに、なんでそんなに慌ててるんだ。
「まど、」
どうにも気まずくて呼びかけようとしたら、びくりと大袈裟に震えられてしまった。
そんなふうに反応されると、なんだか、あたしがいじめてるみたいだ。
「……怒ってないから」
ちょっぴり嘘だけど。いきなりあんなことしてなんなんだーとは思う。
けれど、こんな時のまどかは妙に臆病で、変な方向に思い詰めるのだ。
「ほら、まどか」
手招きして、怒ってないからこっちにおいでというポーズを取る。
すると安心したのか、おずおずとあたしの隣に座り直した。
「どうしたのよ」
「……ごめんね」
まどかはやっぱり俯いて、それだけをつぶやく。
そのまま黙りこむものだから、思いっきりデコピンしてやった。
「どうしたのかってば」
「……やっぱり怒ってる」
「怒ってないよ」
理由が分からないと怒りようもないし。話してくれないと、どうしようもない。
やっぱり黙りこむまどか。デコピンの構えをすると慌てて額を押さえた。
「言わないと、ダメ?」
「その方が怒るよ」
本気だぞ、と目で訴えてやると、うぐぅと唸った。
「あ、あの、ね」
「うん」
気まずそうに話し出したまどかに相槌を打つ。
大きな深呼吸に、緊張しているのがよく分かった。
「私、さやかちゃんのことが好きで、だから、つい……」
まどかの言葉はとてもとても小さなものだったけれど、はっきりと聞き取れて、しまった。
95 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/29(日) 02:30:31.36 ID:4h3ZE4060 [2/2]
「えっと、それは、月が綺麗ですね的な意味で?」
ものすごく遠回りな表現をしてしまったけれど、まどかは分かってくれたようで、うんと短く頷いた。
「え、その、ごめん。待って。ちょっとだけ待って」
まどかはあたしのことが好きで、それなのにあたしは恭介のことが好きで、
それなのに、恭介のことをのろけて、CD買うのに付き合わせたりして。
うわあああ、最低だあたし! ってそんなこと考えてる場合じゃなくて!
「本気、だよね。まどかがそんな冗談言うわけないし」
「……ごめんね、変なこと言って」
「ううん。あたしこそ、しつこく聞いてごめん」
それきり、今度は二人で黙りこんでしまう。
うぅ、聞いちゃった以上、あたしが返事するべきなんだろうけど。
今までまどかをそんな風に見たことすらなかったし。
確かに大好きなんだけど、それは友達とか妹とかに感じる好きでそういうのとは違う。
そう。まどかは妹みたいなものだから、あたしはお姉ちゃんっぽくさらーっと流して然るべきなのだ。
だからこうもドキドキしてぐだぐだと考えてしまうのも、たぶん間違いだ。
「あの、さやかちゃん」
「は、はは、はい!」
なんでもないよって振る舞おうと思ってたのに、唐突に声をかけられて緊張してるみたいになってしまった。
まどかはそんなあたしを見て、心底悲しそうに笑う。
「さっきの、冗談だったことにできないかな?」
「…………へ?」
「困らせてごめんね。私、今日何か変みたい」
「そんな」
「できれば、これからも今まで通りにしてくれると、嬉しいなって」
全部諦めたみたいな表情で、そんなことを言うまどか。
思考は相変わらず追いついてくれないままだけど、そんな顔をさせた自分が許せなかった。
「今まで通りなんて、できないよ」
何もかもなかったことにするなんて、できるわけないじゃないか。
告白をしたまどかの決意も、祈りも、無駄だったなんてことにさせたらダメだ。
「あたし、まどかは恋愛対象として見れないけど」
「う、うん」
つらそうなまどかの表情に胸が痛む。
それに負けないように、しっかりと聞こえるように、続けた。
「これから、がんばるから。それまで答えは待っててほしい」
「あ……うん!」
今度はぱあ、と明るくなる顔。やっぱりまどかは笑顔がいい。
恋愛感情は持っていなくても、今までもこれからもこの顔を守ってあげようと思ってたんだ。
――実は、あたしもベタ惚れしてるんじゃないかなー。
そんなことを思いつつ、あたし達は新しい関係を一歩踏み出した。
最終更新:2011年08月15日 18:49