今日は私の誕生日だった。
振り返ると胸の辺りがなんだか暖かくなる。
夕飯はパパが私の好きなクリームシチューを作ってくれた。
ママも今日は早く帰って来てくれて、パパと一緒にケーキを作ってくれたみたい。
よく考えるとママはここ2、3日疲れた顔で、遅くに帰って来ていた。きっと無理させてたんだろうな。ありがとう、本当に嬉しかったんだよ。
でも、少しだけモヤモヤする。
「私はきっとわがままで、嫌な子なんだろうな」
今日、いつもの待ち合わせ場所にさやかちゃんが来なかった。
少し待った後、仁美ちゃんと一緒にさやかちゃんのお家に伺ったら、おばさんが出てきた。
どうやら風邪をひいてしまったらしい。
「わざわざすまないねぇ。それと、まどかちゃんは今日お誕生日なんだって?おめでとう、これからもさやかと仲良くしてあげてね」
と言ってくれた。
放課後にお見舞いに行ってみたけれど、ただの風邪だし染してしまうのも悪いからと、丁寧に断られた。
「少し熱が高いらしいけど、さやかちゃん大丈夫かな……」
そして今、時間は23時半。いつもなら夢の中の時間。
こんなにも幸せで贅沢な私は、たった1日さやかちゃんに会えないだけで、なんだか気分が晴れなくて眠れないのだという。
ベッドの上で膝を抱えていると、コツン、窓が鳴った。
カーテンを開けて外を覗くと、時期はずれの分厚いコートを来たさやかちゃんが手を振っていた。
「え?」
私は急いでカーディガンに袖を通し、そこに走る。
「あはは、気付いてくれて良かった~!もう寝ちゃってるかなとも思ったんだよね」
顔を真っ赤にしたさやかちゃんは、白い息を吐きながら、事もなげにそう言う。
季節は秋、涼しさから寒さへと日々変わる時期だけど、それほどではない。かなりの高熱であることはすぐわかった。
「まだ、11時台だよね?間に合って良かった~。おめでとう、まどか」
もう、頭の中はぐちゃぐちゃだった。心配で、嬉しくて、苦しくて。会えなくて寂しいなんて思った自分も、会えて嬉しいなんて思っちゃう自分も憎くて。
涙が止まらなかった。
「ばか、さやかちゃんのばかぁ」
そして、とりあえず中に入ってもらうと、本当に辛かったらしく私のベッドで寝てもらった。
翌日、当然ながら互いの両親に私たちは叱られた。
いっぱい嬉しくて、いっぱい泣いて、その年の誕生日の事は忘れられない。
でもさやかちゃん、こんな無理はもう絶対にしちゃいやだよ。
最終更新:2011年10月11日 22:55