107 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/29(日) 19:06:31.07 ID:7OnLWgUd0
「さやかちゃんはいつも明るくて格好良くて、私のことを守ってくれて、強く引っ張ってくれてたよね。
だから私ね。さやかちゃんのこと、王子様みたいだなって思ってたんだ。
おかしいね、さやかちゃんは私なんかよりもずっとずっと可愛い女の子なのに。
……だから、お願いだから元に戻って。いつもみたいに私の隣で笑っていてよ。
ずっと、傍にいてよ……さやかちゃんっ」
こんな感じで、オクタさやかに語りかけるまどっちがいた世界もあるはずだ。
そうですよね、ほむらさん!
291 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/06/04(土) 13:21:35.66 ID:+6ZJge9J0 [1/5]
>>107は自分の書き込みなんだけど、それをSSにしてみた。
ちと長いかもしれんです。
「さやかちゃん!!」
変わり果ててしまった目の前の親友を前にして、悲痛な叫びをあげるまどか。
人魚の魔女。オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ。
身を削った献身は届かず、恋慕の想いをその胸に、今も思い出のみを回し続けている。
何故こんなことになってしまったのだろう。
何故自分はこんなことになってしまう前に、彼女を支えてやれなかったのだろう。
後悔の念ばかりがまどかを襲う。
「お願い、さやかちゃん!こんなこと、さやかちゃんだって望んでなかったはずだよ!」
必死の説得を続けるまどか。
だが、やはり届かない。
目の前にいる魔女はまどかを親友とはみなしてはいない。
ただ、演奏の邪魔をする、排除すべき対象でしかなくなってしまっている。
巨大な腕が、まどかへと伸びる。
「っ……ぁぐ!」
思わず身を竦ませてしまうが、あえて逃げなかった。
これですこしでもさやかに近づける。
元のさやかとは似ても似つかない、その巨大な体躯に掴みあげられてしまう。
そして、目線がさやかとあった。
痛い。
今にも握りつぶされてしまいそうなことではない。
変わり果ててしまった親友になんの力にもなってあげられないことが、なにより痛かった。
292 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/06/04(土) 13:23:48.56 ID:+6ZJge9J0 [2/5]
「……さやかちゃん。あのね」
まどかは――笑った。
苦痛に顔を歪ませながらも、必死に笑顔を搾り出した。
「さやかちゃんはいつも明るくて格好良くて、私のことを守ってくれて、強く引っ張ってくれてたよね」
まどかからあふれ出る、彼女への想い。
考えて口にしているわけではない。
ただただ、さやかへの愛しさから自然と言葉が紡がれる。
「覚えてるかな。小学校の低学年の時、私がクラスの男の子に大切してるリボンを取られて泣いてた時に、
さやかちゃんってば、その男の子にとび蹴りなんてしちゃってたよね。私、びっくりしちゃった。
それでその子と取っ組み合いのケンカになって、リボンを取り返してくれて。
『まどかを泣かせるやつは絶対に許さないからな!』って顔に傷を作った顔でそう啖呵して。
――格好良かったなぁ、あの時のさやかちゃん」
魔女は止まらない。
まどかの言葉に耳を傾けることはなく、彼女を握り締める力が増していく。
まどかの身体から耳障りの悪い音が響いたが、そんな痛みは知るものかとばかりに笑顔を作り続けた。
「だから私ね。さやかちゃんのこと、王子様みたいだなって思ってたんだ。
おかしいね、さやかちゃんは私なんかよりもずっとずっと可愛い女の子なのに」
293 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/06/04(土) 13:25:17.35 ID:+6ZJge9J0 [3/5]
言いながら、涙が零れ落ちた。
そうだ。いつも自分は守られてばかりで、迷惑ばかりかけてきた。
クラスの人気者でみんなに好かれているさやか。そんな彼女におんぶだっこの自分。
自己嫌悪がとまらない。いつでもさやかに与えられてばかりで、自分は何も返せていないじゃないか。
こんな有事の時にこそ、力になってあげなくちゃいけなかったのに。
結局自分は、どんくさくて取り得もなく、格好良くなくて素敵じゃなくて、人の役にたてない駄目な人間だと
思い知らされた。
「……だから、お願いだから元に戻って。今度は私が守るから。いっぱい守るから。
さやかちゃんが泣いてたら、泣き止むまで抱きしめてあげたい。
さやかちゃんが悲しんでたら、私も背負いたい。
さやかちゃんが苦しんでたら、私にも分けてほしい。
だから、だから……いつもみたいに私の隣で笑っていてよ。
ずっと、傍にいてよ……さやかちゃんっ」
感情の激流は留まるところを知らない。
家族を除けば、最も長く近いところで寄り添っていたさやかへの愛情が、幻影のコンサートホールに空しく
響き続けていた。
294 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/06/04(土) 13:26:47.16 ID:+6ZJge9J0 [4/5]
はたしてそれはさやかの心に届いたゆえだったのか、ただ単にコンサートの邪魔をする存在を排除しようとした
行動だったのか。
まどかを握りつぶさんとしていた手が離された。
当然ここはかなりの高所だった。そこから突如落下したまどかも無事ではすまなかった。
「ああっ!ぎっ……痛ああああああ!!!!はぎっ、ぐうううう!!!」
床に叩きつけられてのた打ち回るまどか。
手足の関節は歪な方向へと曲がり、身体中からとめどなく血があふれ出ている。
そんなまどかの視界に、魔女が大剣を振り下ろさんとしている光景が映った。
結局届かなかった。
さやかを元に戻せるなどといった、愛と勇気のストーリーは描かれずに終わってしまった。
まどかはぼろぼろの手を伸ばす。
慈悲深い女神のように、優しく包み込むように。
――もしくは、迷子になった寂しげな幼子のように。
「大好きだよ、さやかちゃん」
まどかは笑顔で、さやかを受けいれた。
最終更新:2011年08月15日 18:52