299 名前:1/2[] 投稿日:2011/10/18(火) 17:48:53.04 ID:uyQz7XEK0 [1/4]
まど界の可能性を考えつつ、まどさやの可能性を考えた小ネタ
女神の作った世界の住人は大まかに三つのカテゴリに分けられる。
一つ目は当然世界を造った女神さま。
二つ目は女神さまが連れてきた魔法少女達である。一口に魔法少女と言っても、地球を含めた宇宙の全ての星に存在するQB達と契約した魔法少女である。
その姿は地球人とほぼ変わらない星の人から地球の創作でいう亜人、獣人、魚人に人魚、金属生命体やらプラズマ生命体、果てにはQBの星のたまたま魔法少女の素質
があった連中まで、ここまで来ると人種のるつぼという形容さえ生温い。
更にそれが過去・未来・並行世界にまで及ぶのだから、女神さまの慈悲というか無節操ぶりは大したものである。
最後に三つ目のカテゴリは、魔女と呼ばれる存在……らしい。
魔女とは魔法少女の絶望から生まれ、魔法少女の祈りや特性を抽出した性質を持つ絶望をまき散らす存在……らしい。
断定を避けたのは、どこの誰に聞いても、私自身も元々の世界で魔女なんてものはつま先の先っちょほども見たことが無い。
この世界の魔女達にしても、変なのばっかりではあるが絶望をまき散らすなんて大げさな存在とは到底思えない連中しかいない。
それでも、実際に自分の魔女に会えば直感的に魔女の意味を納得せざるを得ない。全く、厳格な論理に基づいた真実の探究者としては厄介な存在である。
納得できない私が調べた限りでは、魔法少女をこちらに連れてくる際に、魔法少女と表裏一体といえる魔女もついてきてしまうのだという事はわかった、
わかったがこれだけでは何も分かっていないのと大差はない。真実の探究者たる私の調査にまだまだ終わりは見えないのである。
さて、少々自己紹介が遅れたが、斯くいう私自身も魔女である。その性質は『探究』、存在する限り私の探究心に終わりは有り得ない。
最近の私の探究対象はある二体の魔女だ。その二体の調査のために、今日も私は睡魔と闘いつつ早朝から出陣するのである。
お目当ての二体は特に労する事もなく、あっさりと見つかった。
一体は、仮面と鎧で上半身を隙間なく覆い隠し、下半身が魚という、人魚騎士とでもいうべき姿の魔女。
もう一体は小柄な少女の姿をした魔女。
一見は普通の少女にみえるが、彼女を中心に浮かぶ円形に広がる暗闇から伸びる手のような影が真っ黒な衣装のように彼女に巻きついていた。
その異様な姿と、他のどの魔女とも比べ物にならない存在感は、彼女が魔女であることを雄弁に語る。
ただ、くすんだ髪と幾分か幼い事を除けば、その姿は女神様に良く似ている気がした。
300 名前:1/2[] 投稿日:2011/10/18(火) 17:50:01.85 ID:uyQz7XEK0 [2/4]
人魚騎士が魚の下半身を動かして前に進み、少女姿の魔女は付かず離れずとてとてと付いていく。
調査を開始してから一週間程たったが、二体の間に会話や身振り手振りといったコミュニケーションは一切見られない。それども、当たり前のように二体は一緒にいる。
魔女の生態は個体ごとの差異が非常に大きく、普通に魔法少女達に混じって人間らしい日常生活を送るものもいれば、コミュニケーションをとる方法を持たず気ままに生きているものから、
自らの結界に閉じこもって殆ど外に出ない奴もいる。だが、どんな魔女にも共通しているのは基本的に魔女は自己中心的な存在であり、自分の好きなように生きているということだ。
この傾向は、集団生活をしようとしないタイプの魔女ほど強く、そのような魔女達は大体が一人で好きな事をやっている。
ただ、何事にも例外はあるようで、目の前の二体は典型的な自分の好きな事だけをやるタイプでありながら、いつも同じ所に同じ距離間でいるのだ。
他とは違う生態、それは私の探究心をくすぐるには十分すぎる……
ビタン!!
集中していた思考が、何かが叩きつけられるような鈍い音で現実に引き戻される。視線を向ければ、人魚騎士の方が仮面を地面にめり込ませながら、仰向けになっていた。
いくら巨大に発達しようが陸上生活に適さない魚の下半身で強行軍したせいで、派手にこけたのだろう。
少女姿の魔女が影から手を伸ばし、その手を取って何事もなかったかのように人魚騎士は立ち上がる。そして、いったん静止した後に下半身から光を放つ。
数秒ほどで光は収まり、人魚騎士の下半身は鱗も尾びれもない人間の少女のものへと変わる。まあ、健康的で綺麗な御足は下半身に巻きつく、黒い影が伸びた衣装に覆われてしまうのだが。
この光景は三日に一回は繰り返されているそれで、特筆するべきでもないが、一応は記録しておこう。
いつもの準備を終えると、二体は再び歩き出した。
ちなみに人魚騎士の方は巨大な下半身を変化させたために、だいぶ小さくはなっているのだがそれでも横の魔女と比べれば、背丈が幾分か高い。
301 名前:1/2[] 投稿日:2011/10/18(火) 17:50:52.44 ID:uyQz7XEK0 [3/4]
目的地を定めているのかいないのか、それはわからないが二体は只々前へ前へと進んでいく。
見滝原という町を抜けて、諸外国から異性の町まで、連れてきた魔法少女達の記憶を基に構築されているこの世界は、少し離れるだけでなんとも混沌とした様相を示す。
次々と移り変わる風景に目もくれず、二体は只々直進あるのみだ。
ようやく立ち止まった場所は、どこかの国の街中、噴水がある広場だった。
恐らく、住人達の憩いの場なのであろう噴水の縁に人魚騎士が座り、続いてその隣に少女姿の魔女が座った。
人魚騎士が指揮者のように手を振ると、何処からともなく人魚騎士の使い魔が現れる。使い魔はその数をどんどんと増やしていき、ついには百体以上がその広場を埋める。
尚も手を振る人魚騎士に呼応して、使い魔達はそれぞれ楽器を手にする。全員が楽器を取りだすと、人魚騎士はピタリと指揮の手を止め、つられて使い魔達も整列する。
誰もが微動だにしない中、見計らったように人魚騎士が再び手を振りおろせば、使い魔達の大演奏が静寂を打ち壊す。
これが人魚騎士の魔女の性質だった。そこら中を歩き回り、手ごろな場所を見つければ使い魔を展開しての演奏会をする。
ジャンルはオーケストラだろう、音楽の知識はとんと足りない私からすれば、この演奏が上手いか下手かを論じるのは難しいが、感情を叩きつける様なこの音は好ましく感じている。
人魚騎士の間近で演奏を聴いている、少女姿の魔女がどんな気分でこの曲を聴いているのかは……正直分からない。彼女の表情の変化は非常に読み取りにくいのだ、只演奏中の彼女の顔は平時よりも嬉しそう……な気がするなんとなく。
曲調を曲目を変えながら飽きるでもなく、二人だけの(私も入れれば三人だが)演奏会は続いていく。
空が白み始め、日が沈み、夜も更けてきたころに、いつまでも続くかと思われた演奏は、クライマックスを過ぎて終末に向かうように静かに終わりを迎えた。
人魚騎士が指揮らしき手の振りを止めると、使い魔達はまたも何処かへと消えていき、全ての使い魔が消えた時人魚騎士は満足かのしたように隣の少女姿の魔女に寄りかかる。
すると、少女姿の魔女の影から伸びる手のような影が今までにない勢いで溢れ出で、二体を包み込むと繭のような黒い塊を形どった。
これは二体にとっての一日の終わりの合図であった。黒い繭の中がどうなっていて、中の二体が如何に過ごしているのかは今のところ知るすべがない。
ただ、分かっているのは朝になればあの繭がほどけ、二体が今日と同じ日常を繰り返すということだ。
名残惜しいが、本日の調査はここまで。今日のレポートはここまでで、いったん終わりである。
最終更新:2011年11月06日 21:25