5 名前:忍法帖導入議論中@自治スレ[sage] 投稿日:2011/10/26(水) 23:32:44.76 ID:rGIqLMtN0
うちの女神さまは、よく転ぶ。
人間時代もしょっちゅうつまづいたりぶつかったりしていたが、こっちに来てから、さらにドジに拍車がかかったんじゃないかと思う。
朝起きてきては寝ぼけてドアにぶつかり、着替えて出かけると階段で一度はすべり、よそ見をしながら歩くと必ず服か髪の毛を
どこかしらにひっかけ、お風呂場でもしょっちゅう足をすべらせ、一日一回はたんすの角に足の小指をぶつけている。
本人曰く、
「仕方ないの! この衣装スカート長くてひっかけそうになるし、ヒールも高いし、髪の毛も絡まりそうになるし、とにかく仕方ないの!」
だそうだが、そもそも人間時代の姿をしているときでもよくすっころんだりすべったりしているので、説得力はまるでない。
お迎えの時は不思議とドジをやらずにカリスマたっぷりならしいが、まど界ではしょっちゅうすっころんでいるので、導かれてきた
魔法少女たちはそのギャップに一様に戸惑っているという。
一度など、女神姿であたしと散歩しているときにエリーたちと行き会い、そっちに気を取られたまどかは足元の石に気づかないまま
つまずいて、エリーたちの目の前で頭から思いっきり転んでしまった。
たっぷり10秒はその場の空気が固まっていたと思う。ちなみにまどかはパンツが丸見えになっていた。
いち早く我に返ったあたしは目顔でエリーたちを立ち去らせ、何事もなかったかのようにまどかを助け起こしてやったものの、まどかは
今にも泣きそうな顔で懸命に涙をこらえながら震えていた。そして立ち上がって無言で歩きだしたと思うと、家に帰るなり自室にこもって
半日は出てこなかった。
普通の魔法少女や魔女と違い、まどかは空中を自在に飛び回ることができるのに、転びそうになる自分の体をとっさに支えることは
できないというのは、どういう理屈なんだろうか。
まあそれはともかく、まどかは驚くほど神様らしくない。いまだにコーヒーは飲めないし、怖い映画はあたしと一緒でないと見られない。
もちろんその日の夜はトイレにもひとりでは行けない。座右の銘は『一日一膳』だし、雷の音が鳴るとすぐにあたしのところに飛び込んで
きてぶるぶる震えている。すぐ泣くし、言葉に詰まって何か言いかけては結局何も言えなくて黙り込む癖も直っていない。寝ぼけて、
あたしのことを『ママ』と呼んだこともある。もしかして、まどかは女神さまなどにはなっていなくて、いまだにただの人間の女の子のまま
なんじゃないかという気すらしてくる。
しかし、それは裏を返せばそんな弱虫で泣き虫の普通の女の子が、普通の女の子にとっては到底重すぎる決意をして、女神さまに
なったということでもある。
自分の命を、家族や大切な人たちとの絆を、生きてきたときの全てをなげうって、全ての魔法少女の最後に寄り添う……。
なんて高潔で、残酷で、悲愴な決意だろう。
そして、それをさせてしまったのは……あたしだ。
もちろん、まどかはそんなことはおくびにも出さない。それに、あたしのためだけにまどかは契約したんだなんて自惚れるつもりもない。
だけど、あたしが魔法少女になり、戦い、傷つき、最後には魔女になってしまった様を、まどかは誰よりも近くで目の当たりにしていた。
そして、あたしを含めた全ての魔法少女を救うために、まどかは願い事を決めた……。
それならば、あたしには何ができるんだろう。
あたしは恭介のためと言いつつ、自分のために願い事を使った。まどかは、そんなあたしのためにも祈ってくれた。そんなまどかに、
あたしは何を返せるんだろう。
「あっつーい!!!」
そんなことを考え続けていたあたしの耳に、まどかの悲鳴が飛び込んできた。反射的に立ち上がりつつ、
「今日の夕飯は私が作るね! 大丈夫、きっと大丈夫!」
となぜか自信満々だったまどかの顔を思い出した。この分だと、今日はまともな夕飯は期待しない方がいいだろうか。
「まったく、まどかは相変わらずなんだから……」
一人ごちながらキッチンに入ってみると、まどかが涙目になりながら自分の指をふーふーしているところだった。どうやら揚げ物の油が
はねたらしい。
「あっ、さやかちゃ~ん……」
まどかがあたしを子犬のような目で見上げる。そうだ。まどかは変わらない。きっといつまでもまどかはまどかのままでいてくれる。
だから、あたしもこれまで通りでいいんだ。誰よりも大切な親友として、ずっとまどかに寄り添っていく。それがあたしがまどかにできる
唯一の恩返しなんだろうと思う。
「あーあー。よしよし泣かないの。ほら、指貸しなさい。なめたげるから」
そう言ってあたしはまどかの手を取り、指先を口に含んで>>1乙
最終更新:2011年11月13日 00:27