13-809

809 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/11/15(火) 13:13:44.67 ID:6uCkwpso0 [2/5]
 空気が動いた。まどかはそう感じた。
 となりに座っているはずのさやかが、突然まどかに顔を寄せてきた。それに押された空
気がまどかの肌を撫でたのだ。

 驚いたまどかがさやかに向き直ると、青く澄んだ目が、鼻先にあった。

 さやかの手がゆっくりとまどかのほうに伸びてくる。視界の端にそれを捉えたまどかに、
とめどない不安とかすかな期待がむくりと頭をもたげる。

「さやかちゃん、ゲーム、の、続き……」
 歪な笑みを口元につくって、まどかはテレビに首を戻そうとした。が、さやかの手がそれ
をゆるさない。視線だけが滞りなく目的の方向に移動できたが、それはさやかから目を逸
らしたことに他ならなかった。

 さっきから一言も喋らないさやかのいらだちが空気を伝ってくる。そのさやかの顔を見
る勇気はまどかにはなく、ゲームオーバーになったプレイ画面から目をはずし、床に落と
した。

「まどか」
 温度の低い声で名前を呼ばれる。
 応えたくない一心で、まどかは逃げるように体を後ろに傾け、手をついた。コントローラ
ーが床に落ちる。

 これからなにをされるのか、まどかは知っている。こんなことは一度や二度ではなく、何
度も繰り返されてきたことだから。

「まどか――」
 また名前を呼ばれる。なにをどうしろとは、さやかは言わない。名前を言えば通じると思
っているのだろう。実際、そのとおりだ。それでもまどかは、それには応えないで、唇とぎ
ゅっと結んだ。

 いらだちはまどかにもある。さやかにそれがわからないはずはないのに、彼女はそれを
無視する。
 こういう時だけ、この気の置けない親友は信じられないほど身勝手になった。いつもの
ようにまどかのわがままを笑って聞いてくれる人ではなくなるのだ。
 まどかはそれがたまらなく嫌だった。
 さやかをそうした別人に変えてしまうキスというものが嫌いだった。

810 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/11/15(火) 13:14:51.41 ID:6uCkwpso0 [3/5]
>>809
 キスはさやかを豹変させる。
 さやかのことはもちろん好きだけれど、キスをされるのだけはどうしても好きになれなか
った。つねに嫌悪感や恐怖心が先立つのだ。そのキスはまどかがこれまで想像してきた
ものとは全然違って、優しく触れるようなものでもなければ、甘く舌を絡めあうようなもので
もなく、あえて言えば、まどかの体内にあるなにかをはげしく吸い上げ、奪ってゆくようだっ
た。

 まどかが欲しがるようなキスを、さやかは絶対にしてくれない。乱暴なキスに拒絶を示し
ても、してほしいキスを求めても、一度だって聞き入れられたことはない。

 それでもまどかは、懲りずにさやかの唇を拒み続ける。

 まどかの額に、嘆きの混じった溜息がかかった。
 まるで自分が悪いことをしたかのように思われてきて、まどかの胸がチクリと痛んだが、
次の瞬間には床についていた手をやにわに引っ張られ、まどかは仰向けに倒れるはめ
になった。
 今度の胸の痛みは本物である。息が詰まり、まどかは思わず固く閉じていた口を開い
てしまった。

 さやかの体が覆い被さってくる。

 視線がかち合った。

 ――ああ、この目がいけない。
 まどかはまたしても諦めた。どれほどあがいても、やはり自分はこの目からは逃げられ
ないのだろう、と。

 もうまどかは、目を逸らす気にも口を閉じる気にも、なれなかった。

 唇が重なる。
 全てを奪われてゆく。

 口づけひとつでまどかのあらゆるものを略奪するさやかも、そこから逃げる自分も、逃
げながらさやかを求める全身のうずきも、そのなにもかもが、まどかは嫌いだ。



横スクアクションとかFC版ワギャンくらいしかろくにやったことないし…

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最終更新:2011年11月30日 08:05
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